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第9話 第三部隊日誌

 ✕月✕日――第四階層A7キャンプ(79頁)


 あいかわらず、時間感覚は消失中。

 月日からキャンプポイントでの記録回数の表記を進言するものの、却下。


 上の階層に比べ、魔物の数は減ったような印象を受ける。

 しかし一体ごとの強さは増しているため油断は禁物。


 加えて印象的なのは、魔物の種別や個体に関係なく、猛り狂ったように攻撃を仕掛けてくるものが多いことだ。同じ種族の魔物でも、上階と下階では明らかに凶暴性が違う。

 《狂乱》の名は伊達ではないということか。

 この迷宮に存在すると思われる主に、「魔王」の名が冠せられたのも頷ける。


 迷宮の底に近づきつつあるせいか、当部隊もかなり精神的な疲弊がみられる。体力的には回復兵のおかげでなんとかなってはいるが、全体的な士気は減少傾向にある。空気も薄く、ここにきてお互いへの不満や現状への不安が際立ちつつある。

 また、術師たちの戦い方についても意見が分かれている。個人的には術師たちにあまりMPを消費させたくはないのだが、前衛を務める剣兵たちはそうでもないようだ。

 また、イアンが執拗に《キュア》を迫って神官兵のミレーと言い争いをするため、鎮静・暴動阻止目的で《スリープ》を使用。また術師に余計な負担を強いてしまった。《キュア》は毒や麻痺の治療の為に用いられるものだ。精神不安を取り除くものではない。隊長からも何度も説明しているが、理解が得られない。もはや隊長の注意は怒号に近いものになっている。

 気持ちはわかるが、いつからイアンはあれほど追い詰められてしまったのか。

 余計な体力の消費や怪我は避けたい。場合によっては撤退も視野に入れないといけないかもしれない。


 どこかから視線を感じる。これが迷宮か。







 ✕月✕日――第五階層B6キャンプ(85頁)


 第二部隊の足取りが途絶えて二週間。

 第五階層A5地点にて第二部隊を発見。部隊は一人を除いて既に壊滅状態にあった。生き残っていた一人は錯乱状態にあり、何度も宥めた末に大まかな話を聞くことに成功。

 かねてより可能性が取り沙汰された未知の魔物、及び《狂乱の魔王》との邂逅は、これにより否定される。


 原因は結局のところ、部隊内部のいざこざによるものだ。

 聞き取りの際にも個人的感情が多く含まれ、しばし苦労を強いられたが、大筋として迷宮の踏破方針を巡る対立のようだ。主に隊長派と副隊長派にわかれ、部隊内が分裂。それ以外にもお互いに抱いていた感情が爆発した結果、副隊長派によるクーデターのような格好になたらしい。

 話し合いは殺し合いにまで発展し、このような惨事を招いてしまったようだ。


 部隊内では、主に迷宮という戦地ではコミュニケーションが重要視されることは再三言われてきたはずだ。私たちは冒険者ではない。きちんと訓練を受けた兵士である。公国に仕える誇り高き兵士だ。有象無象の群れとは違う。くそったれめ。

 こんなことになってしまったのは残念の一言に尽きる。

 奴らはもういちどあの世で訓練兵からやり直すといい。死んでも直らないかもしれないがな。


 もういちど言うが、我々は兵士である。

 役立たずどもめ。







 ✕月✕日――第五階層(92頁)


 神官兵のネオとミレーが降格処分を受ける。

 あいつら、俺たちに隠れて一発やってやがった。迷宮だぞ。何を考えてんのかさっぱりわからねぇ。

 迷宮だからこそ興奮するってか。

 ネオはミレーのほうから誘ってきたというし、そのミレーはまったく悪びれてない。それどころか、隊長を誘ってビンタを食らっていた。それでも笑っていたのはたいした悪女だ。

 神官兵だからといって、貞淑とは限らないってことだ。


 隊長も隊長だ。愚民が。

 お前が役に立たないからこんなことになる。







 ✕月✕日――追記(102頁)


(ほとんどが自己中心的な罵倒で埋め尽くされ、ぐしゃぐしゃで読めない)


 あいつらは……。

 俺は……。

 元からこうだっただろうか……。


 ……冒険者どもに起きた内部崩壊という混乱を、俺達は無視して良かったのだろうか。それとも、この深い迷宮という場のなせる業なのか。


 ……(これ以降の数行が黒く塗りつぶされ、罵倒が続く)


 何かが見ている気がする。







 不明(112頁)


 くそったれどもめ!!

 あいつらのせいだ。






 (120頁)


 全部あいつらのせいだ。

 ミレーとネオのくそったれどもが。


 何があったかなんて言いたくもないが、ひとまず持ってこれた報告書に全部ぶちこんでやる。

 現在地なんて知ったこっちゃない。荷物はみんなバラバラだし、地図もない。


 あいつら、キャンプ地で他の奴らに《スリープ》をかけて、自分たちはのんきに乳繰り合ってやがった。奴らは獣か何かか!? 気が付いたら全裸で繋がったまま食われてたのは笑いそうだった。笑い所じゃなかったがな。魔物の襲撃でこっちは大混乱になってるのに、あいつらそれでも腰を振ってやがったんだ。イカレてる。やっぱりみんなクソみたいな奴だった。バカはバカでしかなかった。どうしようもねぇ。

 そもそも《スリープ》をかけられた隊長も使えねぇ。なんで俺と一緒に逃げてきたんだ。バカか。

 まともなのは俺だけだ。






(132頁)


 隊長を処分した。

 これで俺がこの部隊のリーダーだ。







(152頁)


 いつからだ。いつから俺は……


(この先は血で汚れていて、読めない)

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