11.斧と薪
ドラゴンとの死闘を乗り越え、ちょっと落ち着きを取り戻してきた。
まだ思い返すと膀胱が緩む気がする。
ピュアとドレスアップの恩恵に預かりつつどうにか立ち上がる。
ちょっと足がプルプルしてる。どこ行った俺のエクスカリバー。
しかし……ようやくファンタジーをちゃんと実感した気がする。
魔法だスキルだは体感してたけど、あくまで自分が主体だったからなぁ。
自分じゃない何かが持ってる知らないパワーっていうのが……
いやぁ怖い。まあ今後そうそう会うことはないだろう。ないよね?
ちょっと怖いことはあったけど、引き続き散策を続けることにする。
テントはちょっと心配だけど、張るの簡単だし。吹っ飛んでてもなんとかなるだろう。
あてにならない腹時計によると、今はお昼ちょっと前くらい。
景色のいい場所見つけて、そこでお昼ごはん食べて帰ろう。
再び河原を歩き出す。
あんなのが通った割には平和。変化なし。
そういえば鳥が騒いで飛び立つとかそういうのも無かったなあ。
やはりトカゲ鍋しか選択肢がないらしい。んな無茶な。
エクスカリバー3号を発見。ちょっと怖かったのを誤魔化すのに振り回しながら進む。
チートスキル的に言うなら剣術スキルが生えたりしてもいいんじゃないでしょうか。
生えたら逆に戦う流れになりそうだ。やめとこう。
だんだん傾斜がキツくなってきた。どうやらこの川は遠くに見える山に続いているらしい。
山はめっちゃ高い。雲突き抜けてなおそびえ立ってる感じ。流石にてっぺん目指すとかは出来なさそう。
◇
だんだん河原の幅が狭くなってきて森の中に突入したあたりで、滝にぶつかった。
だいぶ切り立った崖になってて、ザパーッって水がそのまま落ちてる。
水が落ちたところは小さめの湖みたいになってる。
近づくと水しぶきで寒い。
絶景かな。高さがわからん。さっきクソデカ山を見てたせいで縮尺の感覚がバグってる。
うーん前世の家が10階建てのマンションだったから…こんくらいの角度で見上げて……多分それの倍くらいで〜……60mくらい?
いやーでけえ。山よりも近いからちゃんと大きさを感じる。そして水の音がうるせえ。
でもこのくらいなら前世でも全然ありそうな感じで少し落ち着く。
今日ファンタジー要素多すぎたからなあ。
もう進めないし景色もいいのでここでお昼ごはんを食べることに決定。
最初はシンプルにおにぎりしようかと思ったけど、朝食べたし、滝のしぶきのせいで寒いのでカップ麺にすることにした。
椅子もバーナーもなんもかんもしまわずに置いてきたので色々生成。
何か新しいものが開放された。
待ってね先にお湯沸かす準備するからね。
よし準備完了。
んで確認すると開放されていたのは斧。オーノー!
待ってボケてる場合じゃない。
神はこのか弱い体でドラゴンと戦えとおっしゃるのでしょうか。
生成してみたら違った。普通に手斧だった。バトルアックスじゃなかった。
よく薪を割ってる奴。結構ゴツい。
これで多少大きい木でもバラせるようになったな。
確かめたらご丁寧にグローブと薪割り台も一緒に開放されてたので、大きめの薪を細かくしていくためのものなんだろうけど、細い木なら切れるだろう。
ただ、今の俺には魔法で切り倒しちゃったと思しき木くらいしかない。
あれを分解するにはこの斧は小さい気がする。
そんなこんなしてるうちにお湯が沸いた。
カップ麺は一昨日食べたはずなのに、色々あったからかすごい久々に感じる。
未だに3分は測れないけど。そうだ醤油たらしちゃお。
◇◇◇
ごちそうさまでした。
スープはまた飲みきれなかった。
諸々片付けて帰る。
滝さんまたいつか。
暑くなったらこっちに避暑地作ってもいいかも。うるさいかな。
帰りは川の反対側通って帰ろうかと思ったけど、よく考えたら拠点の近くで川を渡る手段が無いので断念。
大人しく元来た道を戻る。
エクスカリバー3号はさっき斧の試し切りに使われたので失われた。ちなみに斧の切れ味はめっちゃ良かった。
同じ道なので何かあることもなく。
行きは主に石を拾ってたけど、帰り道は薪になりそうな木を探しながら歩く。
斧があるから多少長くても細ければ大丈夫になったな。細長ーいの探そう。
◇◇◇
帰り際、拠点の辺りから川の下流に少し行ったところに流木が溜まってるのを発見した。
今度見に行こう。
何時間かかけて無事帰宅。帰宅?帰拠点。
目印のステッキは無事倒れてた。
ドラゴンの風で飛んでったりしてないか心配だったテントとタープは無事だった。
ランタンが一個だけ倒れてたけど、これは普通の風で倒れただけな気もする。
はぁ。疲れた。
単純に結構な時間歩いたし、恐怖のイベントもあってヘトヘト。
テントに入ってコットに倒れ込んだ。
うぅ固い……お布団が出るのはいつになるやら……
キャンプでコットは快適なんだろうけど、ずっと暮らしていくと思うと寝返りを打てないのはキツぃ……
◇◇◇
「ハッ……!」
ガバッと起き上がる。今何時!?
気がつくと夕暮れちょっと手前くらいの時間。
多分2時間くらい寝てた。
危なかった。真っ暗になったら動けなくなるところだった。
とっととランタンを回収。充電の表示ランプは満タンになってた。
点灯を確認。よし、昨日の二の舞にはならない。
んー焚き火。
明かりの確保は出来たし、料理に使う訳でもないからわざわざ熾さなくてもいいんだけど……
ウッ何か今思念波みたいなものを感じた。
気持ちを塊にして投げつけられた感じ。なんて表現すればいいんだ。
何?焚き火が見たい?私が見たいから点けろ?何を送ってきてるんだ女神様。
これ神託的な機能じゃないの。そんなことに使っていいんか。
まあ女神様が言うんじゃしゃーないか。
焚き火は日課にしよう。ルーティーンルーティーン。俺も楽しいし。というか結構ガッツリ監視してますね女神様。
せっかく焚き火をするなら料理に使ってやりたいけど、網とか無いから危ないんだよなあ。
上からどうにか吊るせばいけるか?ロープじゃ燃えるか。
薪を取り出す。せっかくなので斧が要りそうなサイズのも出す。
グローブと薪割り台も用意して、日が暮れるまで薪割り。
太いのを分割するんじゃなくて長いのを短くしてるから、割るっていうか折るとか切るって感じだけど。
斧の切れ味がいいので簡単。良すぎてちょっと怖い。
ひょろ長い木の端から20センチくらいのところに斧を食い込ませて、そのまま軽く薪割り台にえい。
これで適度な薪の完成。
正しいのかは知らない。ちゃんと出来てるからセーフ。
スコンっていい音を立てて切れるから気分がいい。
楽しくて明らかに今日使い切れない量の薪を作ってしまった。
◇
辺りも暗くなってきたのでランタンを点灯。
焚き火も着火。3日目にもなると慣れてきた。
普通に下に火種を置いた方が簡単に火がつくことにも気づいた。
夕飯は缶詰セットそのまま。
オレンジジュースとサバ缶とおでん缶。
オレンジジュースはちょっと合わない気もするけど気にしない。ビールは飲めない。
てか朝はサラッと流したけどおでん缶って。
異世界でそんなん関係ないだろうけど、これ一般流通してるものなんだろうか…?
おでん缶を湯煎で温めながらサバ缶を開ける。
そのまま醤油かけて食べてもいいけど…ちょっと汁っぽいから味薄くなりそう。
汁捨てたい。どうしよ。空のペットボトルに入れとくか。このボトルは今後ゴミ箱とします。
こぼしてちょっと野に帰っていったけど、靴でガシガシして誤魔化した。
手にちょっとついたのでピュアもかけとく。
軽く醤油をかけてパクリ。うんウマい。小ねぎがあればもっとグッドだった。
お酒も欲しくなるしねぎと違ってお酒ならあるんだけど…
いや我慢だ我慢。何しでかすかわからない。
しかし絵面が美少女としてどうなんだこれ。
焚き火の横でサバ缶直接食べてるって。今更?それともニッチな需要が?
サバ缶を半分くらい食べたところでおでん缶を引き上げ……
箸だと滑っ…アッチぃお湯跳ねた!
箸だけじゃ上げられなくてわざわざスプーン出して上げた。なんか虚しい。
別のクッカーに開ければいいんだろうけど、せっかくなので缶のまま食べる。
あっつ、持てねえこれ。膝の間に挟んで開ける。
お、うずらの卵とか入ってるんだ。案外おいしい。やるじゃん缶詰のくせに。しかし食べづらい。
諦めないぞ俺は。意地でも缶のまま食べてやる。
はふぅ。ごちそうさまでした。
焚き火の揺らめく光と、LEDの文明的で安心できる光の中のご飯。
満足。




