10.川とドラゴン
朝ごはんも食べて元気いっぱい。二日酔いなんて嘘のよう。
大体キュアのおかげなのは気にしてはいけない。
今日は何しようかな。
昨日テントもタープも張って、基本的な拠点は出来てしまった。
つまり急いでやることはない。
ジャム?ごめんちょっと昨日で飽きた。
テントで寝てればキャンプと言い張れる気がしなくもないけど、残念ながらこの若いピチピチボディは睡眠をそこまで過剰に必要としない。
女神様を楽しませてご褒美を貰うためにも、何かしらそれっぽいことはしておきたい。暇だし。
動画サイトでも見れれば、丸パ……参考にして色々出来るんだけど……あぁ文明よ。
そうだ、とりあえずランタンの充電をしておこう。
日当たりの良さそうな広場の真ん中にテーブルを置いて、その上にランタンをいくつか出して並べていく。
これで放っておけば夜も安心。頼むぜ文明。
ランタンを並べていると、近くを流れる川が目に入った。
結構大きめの川。
魚とか釣れるのかな……
イワナ…ヤマメ…イワシ…イワシ?
魚釣って焚き火で焼いたりなんかしたらだいぶそれっぽいんじゃないの。釣り方なんか知らないけど。
ただ、この森に来てから鳥はおろか虫すら見てないから魚も居ないかも。ちょっと寂しい。
あんまり魚のことばっか考えて、釣るものも無いのに釣り竿が出せるようになっても困るから思考を打ち切る。
よし。川に沿って上流を目指してみよう。
散策だ散策。それっぽいでしょ。
マッピングのスキルがあるから別に川に沿ったりしなくても好きに行って帰ってこれるんだけど、こういうのは気分だ。
大概の物はというか現状あるモノはほぼ全部俺が出せるので、準備らしい準備もない。
出せないのは石を組んだ竈と薪くらいだ。
薪無くなってきたから歩きながら拾ってこよう。
一応目印代わりにステッキを拠点近くの河原に突き立ててから出発。
◇◇◇
異世界の川。
パッと見は前世の川と変わらない。
河原の石が大きめだからテント張ったらお尻が痛そうだな〜ってくらい。
ただ、よく見るとたまに普通の石に混ざって変な石が落ちてる。
半透明でちょっと光ってる。ただの石ってより宝石?
もしかして採取のスキルが効いてるんだろうか。
赤とか青とか色々種類があって、なんというかゲームで属性強化が出来ます!って感じ。
黄色ははたして光か電気か。
前人未到の森の中だからこんなにぽろぽろ落ちてるのか異世界の川はこういうものなのかわからないけど、凄い異世界情緒。
キレイなので見かけたら拾っていく。童心に帰る。
そういえば生成してないものをアイテムボックスに入れたの初めてじゃない?普通に入った。
おっいい感じに平らな石。よっし4回跳ねた。
◇
石と、たまに薪用のそれなりのサイズの枝を拾いつつ川のほとりを歩いていると、森の方にリンゴのなる木を発見。
今の俺でも手が届く範囲にリンゴがポツポツとついてる木が4,5本。
リンゴ…だと思う。ヘタの近くがやたら黄色いけど概ねリンゴ。
採取のスキル的にも美味しく食べれる感じのイメージを感じるので、あんまり黄色が大きく無い奴を何個か持って帰ることにする。
一個だけ完全に真っ黄色のがあったので、それもアイテムボックスに入れた。
ここは覚えておこう。マッピングって言うくらいなんだから頑張ってくれ。
川に戻ってちょっと休憩。
川で軽くリンゴを洗って、大きめの石に腰掛ける。
リンゴを一口。
「☆!???」
声にならない声が出た。超すっっっっぱかった。
くそう。黄色いのはレモン要素だったらしい。そんなの予想できるか。
梅干しみたいな顔をしながら水を取り出して飲んだ。
搾ったらいい感じにレモン汁代わりに出来そう。
美味しく食べられるってそういうことかよ。
ただ現状搾る手段がない。手?無理無理。
しかしリンゴって季節いつだっけ。いやこれはレモンなのか?
どっちにしても秋冬くらいなイメージがある。
やっぱり今秋なのかなぁ。過ごしやすいから春か秋だとは思うんだけど。
この世界に四季があるのかも定かではないけど、一応その内寒くなるって考えていたほうが良さそうだ。雪とか降るかもしれないし。
◇
リンゴがアレだったのでオレンジジュースを飲んで一息ついてから再び歩き出す。
エクスカリバー2号を見つけたので振り回しながら進む。石をベシベシ。草をペシペシ。
川の方もちょくちょく眺めてみては居るんだけど、魚影らしきものは見当たらない。
やっぱり動物の類は居ないのかなぁ。
でもリンゴは実をつけてたんだし、それを食べる鳥とかは居るかもしれんね。
そうじゃないと種を運んで貰えなくて実を作り損だ。
まだ俺が見かけてないだけで空飛ぶ奴らは入ってこれるのかも。
鶏鍋に鴨鍋……ジュルリ。
そんなことを考えながら空を見上げていたら、遠くに空飛ぶ影を発見。
おっ早速カモネギか?
銃なんて無いし……パチンコ……ポーラなら作れたなぁ。
あれなら石2つをロープで結ぶだけで簡単なのは出来るだろう。作っておけばよかった。
投げる練習もしてないからあっても当たんねえか。
鳥を落とす算段を立てているうちに影が近づいてきた。
えっ早くない?ヘリコプターか飛行機かって速度なんだけど。
近づくにつれて影の詳細がわかってきた。
黒くて鱗が有って、大きな牙と翼。まるで翼の生えたトカゲのような姿。
そう、それは紛うことなきドラゴンだった。
お、おぉ…ドラゴンだよドラゴン。
ドラゴンって食べられるのかな。ドラゴン鍋…?
本物のドラゴンが飛んでる姿をこんな正面から見れるなんて。さすが異世界。大迫力。
うん?正面?
「ヒュッ」
刹那、俺の上をとんでもないスピードでドラゴンが通り過ぎていった。
喉から変な音が出た。
車に轢かれかけたとかそんなんじゃ比になら無い圧を感じた。
轢かれて死んだ俺が言うんだから間違いない。
アレには絶対に逆らっちゃいけない、たぶん生物の本能みたいなものだ。
ドラゴンの存在感に圧倒されていたけど、遅れて恐怖が襲ってきた。
その場でへたり込んで動けなくなる。
じんわりと股のあたりから暖かいモノが広がる。こまめな水分補給が仇になった。
私を支えてくれるはずのエクスカリバー2号は風圧で飛んでいってしまったらしい。
河原にぺたんと座り込みながら懺悔。
鍋にしようなんて考えてごめんなさい。もう考えないので、頭の上は飛ばないでください。
こ、怖かったよぅ……
◇
今の俺は美少女なので、恐怖で腰が抜けてちょっと股から力が抜けても誰かが幸せになるのです。うん。誰がなんと言おうと。
3日で2回もだなんて。アホなことを考えていないと立ち直れない。
弱い奴は入れない森的なことを女神様言ってたけど、あんな強そうなのは入れるって大丈夫なんでしょうか。
主に俺の安全的な意味で。
下々の俺なんかには目もくれないから大丈夫だよってこと?怖すぎ。
そう考えたらあのドラゴンはドラゴン鍋を画策していた俺を脅しに来たわけじゃなくて、俺と同じようにただ川に沿って飛んでいただけなんだろう。
つまり俺は被害者だ。不可抗力だ。
仕方が無いことなので尊厳は失わない。そう、しょうがなかったのだ。
あ、テント吹っ飛んで無いかな。




