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7 うらやまのどらごんさん①

1000年の封印から解き放たれた魔王ゴルディはユーシアと出会い、1000年後の世界がどのように変わっているのかを調査するべく妻メジューナと娘メアリーと共に人間の街に赴いたのであった(通称家族旅行)

ユーシアの依頼達成の報告のために訪れた冒険者ギルドのギルド長の好意で初日は街の宿屋で過ごすことができたが、交換条件として次の日も冒険者ギルドに呼ばれることとなり冒険者になることを進められたのであった。

模擬戦が終わってから数十分の時間がたちゴルディは再び応接室に座っていた。

隣にはユーシアが幸せそうにギルドから支給された甘味に舌鼓を打っている。

模擬戦の後、自分の攻撃がゴルディに腕一本で止められてしまったことにすっかりすねてしまったユーシアを見かねたギルド長は受付嬢に指示を出して近くのお店からユーシアの好物を取り寄せやっと落ち着いて今に至る。

「ゴルディさん!これ美味しい〜!ひとくち食べてみますか?」

口にクリームをつけながらこちらを向いてフォークに刺さった菓子をこちらに差し出してくる。どうやら見た目以上にふやけているときの精神年齢は低いらしい。

「いや、それはユーシアがもらったものなのだから我は遠慮しておこう」

「そっか〜。こんなに美味しいのに〜」

コンコンと扉をノックする音に振り向くとギルド長が扉を開けて入ってきた。

「そろそろおちついたかユーシア?」

ギルド長の言葉に対しフォークをくわえたままユーシアは振り返る。

「落ち着く?なんのこと?あ、これおとーさんが買ってきてくれたんでしょ?ありがとー」

そのすっとぼけた答えにギルド長は頭をポリポリとかき右手で額を覆う。

「お前なぁ…まぁ、落ち着いたのならそれでいい」

心中お察しするぞギルド長どの。

「とりあえず待たせて悪かったな。これがお前の冒険者ライセンスになる。受け取れ」

目の前に差し出されたのは手のひらに収まるほどのサイズの板だった。

「これは…?」

「そーれーはー!冒険者ライセンスっていって、冒険者であることのの証明になるものですよ〜。私も持ってますし…ってあれ?ゴルディさん今初めてもらったんですよね?」

ゴルディのライセンスを見て、ユーシアが眉をひそめる。

「ん?これがどうかしたのか?」

「冒険者ライセンスはその冒険者の階級によってライセンスの色が変わるんですよ!10級から7級までは銅色、6級から4級が銀色、3級から1級が金色になるんです!それで今ゴルディさんが渡されたのは銀色!普通なら10級から始まるので最初にもらうのは銅色のはずなのに…」

その言葉を聞いたギルド長は腕を組んで笑い始める。

「はっはっは!何事にも例外というものはつきものだからな。だいたいお前だってシルバーランクの冒険者だがその御前の攻撃を腕一本で止めちまうんだからブロンズなんかでとどまらせておくのはもったいないだろ」

「まぁ、たしかにそうなんだけどさ〜…なんかこう…もやもやするなぁ〜」

ユーシアは菓子を食べ終わって暇になったのか、フォークをくるくる回してソレを眺めながらそんなことをつぶやく。

「決定事項だからな。そんで、せっかく冒険者になったんだから依頼を受けてもらいたいんだがどうだ?」

カランカランと目の前に一枚の木の板が置かれる。

「これは?」

「依頼板っていうんですよ。それぞれのランクごとにランク分けがされてるんです!例えば私がゴルディさんに会ったときの依頼はシルバーランクに該当するんです」

ユーシアの説明を聞いて改めて目の前に置かれた依頼板を見る。


【調査依頼】

依頼内容:北東部に広がる山脈にある洞窟の奥に生息するといわれる龍が実在するかを確かめること。また、実在していた場合は脅威になるかどうかの判断。

報酬:20万ジェム


「ふむ、これはユーシアが我らの城に来た時と同じような調査依頼のようだな」

「あー!これって不気味がって誰もやろうとしなかった焦げ付き依頼じゃないですかー!そーやってまた面倒なのを私に押し付けようとするー!確かに報酬は良いんですけど…ほんとに龍が居たら私じゃ手に負えないよ〜」

バンッ!と机に両手を勢いよくついてユーシアは立ち上がる。

どうやらこれは依頼が発注されてから時間の経ってしまった依頼のようで、そういう物は焦げ付き依頼と呼ばれているようだ。

「何もお前一人にやってもらうわけじゃない。さすがに可愛い娘を一人でこんな危険な依頼に活かせるほど俺も鬼じゃない。ということで、ゴルディ君このじゃじゃ馬を頼んだ」

これは体よくユーシアの面倒を押し付けられたようだ。

「この洞窟というのはどこにあるのだ?」

「ちょうどゴルディさんたちの居たお城の裏のあたりにありますよ?知らなかったんですか?」

はて、そんなところに洞窟などあったであろうか?我も1000年も前のことゆえ記憶が曖昧な部分もあるが…そんなところ本当に龍が潜んでいるとなれば、確かに人類にとっては脅威になるだろ。

「わかった。引き受けよう」

「えぇ〜ほんとに受けるんですか〜龍ですよ龍。ドーラーゴーンー!怖くないんですか〜?」

怖いも何も我も1000年前には龍を使役していたのだ。全く問題はないはずだ。あやつは従順で可愛かったが…はて、あやつは今どこで何をしているのであろうな?

「ギルド長殿がわざわざ持ってきたのだから、我らにできん依頼ではないのであろう?」

「そのとおりだ」

「いーや!絶対ギリギリの依頼だよ!!」

2人で言っていることが全く違うのだが、ギリギリということは不可能ではないということなのであろう。

「では、今日のことを妻と娘に伝えるため依頼の出立は明日でいいであろうか?」

「別にそれほど緊急性の高い依頼ではないから問題ない」

「では、ユーシアよ明朝に街の入口に集合で良いか」

「えー…わかりました~」

でろーんと溶けるように机でだらけているが返事はちゃんとするユーシアを置いて応接室を後にする。

一人冒険者ギルドから歩いて帰っている途中で前から歩いてくるメアリーとメジューナを見つけた。

「あ、ととさま!」

てててっとゴルディの姿を見つけて駆け寄る娘をゴルディは抱え上げ腕の上に乗せる。

「今日は一日どうだったメアリー」

「タルおばちゃんのところであまーいお菓子を食べたの!えっとね…なんだっけ?すおーと?すかーと?」

「スイートポテトというものらしいですわ。とても美味でした」

2人の表情を見るに随分と美味な物と出会ったようだ。

「そーいえばととさまはごはんあんまり食べないよね?」

不思議そうに見つめてくる娘の頭を撫でてやる。

「我はそもそも食事を必要としないのだ。たまに食べることはあるが、栄養の補給を目的としているわけではないのだ」

「ととさまお腹減らないの?」

「そうだな。お前くらいのときは減っていたと思うが、それももう随分と昔のことゆえ、腹が減るという感覚ももうよくわからなくなっているな。お前もいずれそうなるかもしれんな」

ゴルディの言葉に首をかしげるメアリーをみて再び頭を撫でるゴルディ。

「宿に戻ったら今日の話と明日の話をしようではないか」

「ええ」

ゴルディはメジューナと手をつなぎ宿へと足を向けた。

収入としてはまだメジューナが質屋で交換してきた分しかない状況下ではあるが、持ってきた物をうまく換金してくれているようで数日分は困らないだけは手元に用意することができていた。

「では、今日ギルドに呼ばれた要件だが、どうやらギルド長に気に入られたらしく冒険者として活動をしないかという勧誘を受けたのだ」

「そうでしたか。それでどうされるのですか?」

部屋に用意されていた茶を入れる準備をしながらメジューナはゴルディの話を聞く。

「我としてはこの1000年後の世界で我らの同胞と一緒に豊かに暮らしていくためにはいい機会だと感じたゆえこの話を受けることにした」

「それでは、ユーシアと同じように冒険者として活動をしていくのですね」

カチャンと音を立てて目の前に置かれた茶をすすり少し間を置いてからゴルディは再び話し始める。

「早速ではあるが、明日すぐに最初の依頼を受けることになった」

「ととさま明日も忙しいの?」

「すまないなメアリー。今回の依頼を受けたら少し余裕もできるであろうから、そしたら一緒に出かけることとしよう」

「わかったー!」

ゴルディは膝の上で両手を上げ嬉しそうな表情をする娘の頭を撫でながら話を続ける。

「今回の依頼なのだが…少し気になることがあってな…お前の記憶も確認したいのだ」

「いかがされたのですか?」

「我らが封印される前。つまり、1000年前の人類と我らの戦いの中で我は多くの魔獣や獣の類いを従えていたと記憶しておるのだが、その中に確か龍が1匹居たと思ったのだが」

メジューナは手にしていたカップを置きゴルディの疑問に答える。

「そういえば、そんな者も居ましたね。自分は人化の術が使えないのでだったり、自分は体がでかいのでなどと言いながらいつも城の外で待機していましたわ」

「やはりそうであったか。確かに場内で姿を見たことがなかったと思ったが、そういった理由であったか」

「急に彼のことを話をされてどうされたのですか?」

「明日我が向かう依頼の内容が龍の調査というものでな。もしかするととも思ったが、1000年も昔の話であるからな。そのそもあやつが行きているかどうかすら怪しい。杞憂である」

「ですが、もしかすれば彼にもう一度出会えるかもしれませんよ」

確かにその可能性はあるわけではあるが…

「ととさま、かかさま?その龍ってとっても大きいの?」

にゅっと2人の会話を聞いていただけかと思っていたメアリーが話に入ってくる。

「ああ、大きいぞ!そうだな…翼を広げれば城の入り口にある広場があやつ1匹で埋め尽くされてしまうほどの大きさだ」

「そうですね…翼を閉じていつも隅の方に居ましたけど、結局広場の半分ほどは彼に占領されてましたわね」

2人の話を聞いてメアリーは城の中にあった本の中だけの話だった龍という存在に目を輝かせる。

「他にはどんなふうな人?人じゃないからなんていえばいいのかな?」

「なんでも大丈夫ですよ。そうですね…彼は見た目は怖いのですがとっても怖がりでしたね。一時期同じ場所で作戦を共にしていたネクロマンシーが召喚した骸骨兵士たちにとても驚いていましたし」

「あれほど漆黒の体を持っているのにも関わらず実は暗闇が苦手という話も聞いたことがあるな。体はでかいが心は子供のような者であった。我はそのあべこべさが気に入ったのだ」

「メアリーも怖いのきらーい。骸骨は怖いから一緒にいたくなーい」

そう言うとギュッと抱きかかえていたアンヌを模した人形を強く抱きしめる。

「もうそういった者たちの力を借りることも今後はなかろう。安心するが良い」

「ほんとに?」

心配そうに見つめてくるメアリーの頭を再びなでる。

「話は変わるのだが…ジェイダルは今どこにおるのだ?街に入って別れてから一度も見ておらぬが」

「確かにあの後から私達もジェイダルの姿は見ておりませんね」

はて?という空気がゴルディとメジューナの間に流れたその時

「呼ばれましたかな?」

窓の外から急にジェイダルの声が響き膝の上に居たメアリーがびくんっと跳ねる。

「いついかなる時もゴルディ様たちをお守りするためジェイダルは近くで身を潜めながら皆さまを見守って降りました」

「そうでしたか。ありがとうございます…ところで今までどこに?」

「ここ数日はこの宿の屋根の上で心地よい夜風を感じておりました」

つまりこれまでは宿などには泊まらずに街の中で野宿に近い状態で過ごしていたということになる。

「お前にはしっかり休めと言っていたはずだが、どうしてそうなっているのだ?」

「申し訳ございませんゴルディ様。このジェイダル、その命令に従うべくこの街にある宿屋という宿屋を回ってみたのですが…鎧の甲を外せぬものは泊めることができないと追い返されてしまったのです。防犯上の理由と言われてしまいなすすべもなくこうやって夜風を楽しんでいたわけです」

甲を脱げと言われても中身がないジェイダルは甲をとっても宿に泊まることはできず、取らなくとも泊まれない状態に陥ってしまっていたのだった。

「1000年前であれば甲など外さずとも人の街で宿に泊まることができたのですが、時代の流れですかな。ジェイダルは気にしておりませんのでゴルディ様たちもお気になさらないでください」

本人は気にしないでくれと言っているが…

「お主…雨のときはどうするのだ?」

彼の体は鎧そのものであるがゆえ、雨の日の戦闘のときにはその身(?)を案じ参加をさせていなかったのだが、今は状況が違う。

「そうなればこのジェイダル馬と一緒に馬小屋に泊まりましょうぞ」

その言葉にゴルディは頭を抱える。

「これは人選を間違えてしまったかもしれないな…ある意味ミケのほうが帽子をかぶればそのままこの街に溶け込めたかもしれん」

「それはそうですね…では、次からは街に来るときはミケに同行してもらいましょう」

「ご、ゴルディ様!?せっかくいただけたお仕事なんですからすぐにお役御免になるのはちょっと…」

「そう身構えるでない。お主の存在は我らにとっても貴重なのだ。何事も適材適所だ。次回からは我らが不在のときに城の警備の要として働いてもらうつもりであるからな」

「ゴルディ様…ありがたき幸せでございます」

「うむ。そういうわけで明日一度城には戻るゆえ、明日から城の警備をよろしく頼む」

「え…あ、もう少しこの生活でもジェイダルは満足なのですが、明日から…でございますか?」

「決定事項である。ジェイダルも明日に備えて休むように」

その日、ジェイダルは一人屋根の上で膝を抱えながら月が沈むのを静かに眺めていたという。

7話めでした!ありがとうございます!

新章開幕的な感じですかね?

ゴルディが受ける初めての依頼だったので『生き抜く』の方みたいにカッコつけた名前にしようかなと考えていたんですけど、こっちの作品の基本的な考え方はいろんなことを逆にしてみるなので、カッコつけない方向にしてみました。どうでしょうかこのゆるーいかんじ。龍の調査に行くなんて殺伐とした依頼を受ける話とは思えませんよね笑

そんなわけで、ここから何話分かこのドラゴンの話が続く予定ですのでよろしくおねがいします。

やっぱりドラゴン出すの好きすぎるだけな気がするけど…ま、いっか。

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