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6 冒険者の街③

1000年もの間封印されていた元魔王ゴルディがギルドのなかで水晶をぶっ壊したり、ユーシアが貸せる胸がないとか言っている頃、メアリーとメジューナは二人で街の中を探索していたのであった。これはそんなお話。

ゴルディとユーシアがギルドに出かけてしまったので残された二人は街の散策に出かけるのであった。

「かかさまー?今日はどこ行くの〜?」

メジューナはメアリーに話しかけられうーんと言いながら上を見上げる。

「そうね~。メアリーはどこに行きたい?」

「う〜んとね…タルおばちゃんのところ!」

「すっかり気に入っちゃたみたいね。そしたら、今日も行ってみましょうか」

メアリーの小さな手を取り二人で宿屋から出る。

「あ、でも最初にとおじさんのところへ行ってからにしましょう」

昨日と一緒のところというのは質屋である。1000年前に使われていた通貨は使うことができないのはユーシアから聞いていたため、昨日は最初に通貨を交換してくれる場所を探したのだった。

「かかさま今日は怒らないでね?」

「今日は…大丈夫じゃないかしら?」

メアリーがそんな心配をするのは昨日その質屋と一悶着あったからなのだが…これは私は全く悪くないと思っている。

〜時間を戻すこと約一日〜

「そろそろ休憩をしたいのだけど、ジェムというものがなければお店に入ることもできませんし…困りましたわね」

「かかさまーお腹へった〜」

ゴルディと別れてからそこそこの時間二人で歩いているが一向に目的の場所を見つけることができていない。まだ幼いメアリーのことも考えるとそろそろ座って休める場所に行きたいのだが…見つけられないことには何も進展がないのである。

探しても見つからないなら人に聞くしかないと決心し、反対側から歩いてくる女性に話しかける。

「あの、すみません。私達ここに初めてきたんですけど少しお店を探していまして…」

「あら、そうなの?いいわよどこに行きたいのかしら?」

ちょうど話しかけた女性は親切な人だったらしくついていた。

「この国で使わているジェムというものを使っていると聞いたのですが、他の物と交換してくれるようなお店はありませんか?」

「ああ、それならこの通りを進んで奥の方にあるお店がそういうのをやっていると思うわ。ところで何を交換するつもりなの?」

「これなんですけど…」

メジューナは袋から自分たちの国で使っていた通貨を取り出す。

「初めて見るものね〜…これはあなた達のところで使っていたものなの?」

「そうです。大丈夫そうでしょうか?」

「初めて見る物だから私にはわからないわね。見たところ高価そうな物だからきっと大丈夫よ」

メジューナの予想通り貴金属であれば交換には問題ない可能性が高そうだ。

「それと、もう一つ。この子と一緒に少しお休みができるようなお店があればと思っているのですが、どこかありますか?」

「丁度いいところを知っているわよ!ちょっと買い出しに来た帰りなんだけど、私お店をやっているのよ。お嬢ちゃん何か食べたいものある?用意しておくわよ」

「わーい!メアリーね甘い物食べたい!」

「こら、メアリー!まだどんなお店かも聞いていないのに」

「大丈夫よ。私のお店は喫茶店だからちょっとしたご飯から甘いものまで何でもあるわよ。じゃあ、来てくれるの待っているわね。私のお店はそこの看板のところよ」

指で刺された方を見るとコップの書かれた看板が見える。

「ありがとうございました。では、後ほど」

「メアリーちゃん待ってるからね〜」

「はーい!おばちゃんまたね~」

親切なおばさまと別れ案内された店を目指して歩く。

「あの方のお話だとここだと思うのですが…」

「ほんとにここなの〜?」

案内されたとおりの店のハズなのだが…眼前にあるのは正直に言ってただの荒屋である。

申し訳ない程度に看板が立てかけてあるから人が居ないということはなさそうだが、ここに入るのはなかなかに勇気がいる佇まいである。

勇気を出して扉に手をかけ扉を開ける。

扉の奥にはカウンターとけもくじゃらの男性が座っていた。

「いらっしゃい。なにか用かい?」

男性は低い声で出迎えてくれる。

「あの、私達ここに来るのは初めてでお金を持っていないんです。私達の国で使われていた物と交換していただけないかと思いまして」

「なんだい。そういうことか。あんたたちの見た目からしたら俺の店なんて用がなさそうに見えたからな。それで、あんたらの国で使っていたっていうのはどれだい?」

初めからすべてを交換してしまっては入用になった時に困ってしまうかもしれないので3枚だけ手に取りカウンターに乗せる。

「ほぉ?初めて見るな。あんたたちどこから来たんだ?」

「それは…遠いところからですかね」

「そうかい。言いたかないならそれでいい。そうだな…5万ジェムってところか」

そう言うと男は赤い結晶のようなものを5つカウンターの上に置いた。

「あー…あんたらジェムを見るのも初めてって顔だな。赤いのが1万ジェムで…」

そう言うと違う種類の結晶を机の上に並べていく。

「こっちから黄色いのが1000ジェム。青が100ジェム。それで緑色が10ジェムだ」

それ以上の種類がないということは1ジェム単位の物は存在しない可能性があり、基本的に10ジェム刻みでの料金設定となるのであろう。

「ちなみに、果物1つでいくら位になるんでしょうか?」

「そーさなー。物にもよるが、大体は数百ジェムってところだろ。見たところこの金貨はかなりの値打ちものだと思ったからな。金額に不満でもあるのか?」

「ええ、その基準からすればその金貨は1枚10万ジェム以上の価値のあるものなのです。ですから少し少ないように思えるのですが」

「そんなことを言われてもなぁ…国が違えば通貨も違う。基準も変わっちまうからな」

それはこの男の言うとおりではあるのだが…

「それはそのとおりです。ですが、今あなたの持っている物を通過としてではなく芸術品として見るのであればもう少し頑張っていただけるのではないですか?」

「芸術品って言われてもなぁ」

「考えてみてもください。ここに来る途中に会った御婦人もあなたもこれを見るのは初めてとおっしゃいましたよね?ならばこの国にあるその金貨はその3枚だけかもしれません。そうであるならば、この金貨は希少価値の高い物になります。更に、金にそれだけの装飾を施しているとなればもう少し金額を上げていただいても良いのではないでしょうか」

「うーむ。確かに金にこれだけの装飾をしていると考えてみても、そもそも金であることを考えるともう少し上げるのは問題はなさそうだな…それじゃ、7万ジェムで」

メジューナは首を振り答える。

「15万」

「そりゃきついぜねーちゃん。10万が限界だ」

「では、14」

大人二人が口を開くたびにメアリーは声を発した方を向く。

その結、数分間メアリーは首を横に振り続けることになった。

「わかった…13万でどうだ」

「ありがとうございます。では、また必要になったら来ますので」

「珍しいもん持ってきてくれて粘らねぇんだったらまた来てくんな」

ひらひらと手を振る男を背に荒屋から出たのであった。

〜そして時間は元に戻る〜

「いらっしゃ…あんた今日も来たのか」

「ええ、ちょっと主人からも金が必要になるかもしれないと言われていまして」

「13万もありゃそんなにすぐに困ることもなさそうだけどな。それで、今日は何持ってきたんだ?昨日と同じもんだったら値段下げるぜ」

「あら、そうですか…では、今日はこちらを…」

パラパラとカウンターの上に豆を置く。

「なんだいこりゃ…豆?」

「この近くに最近現れた城があることはご存知ですか?」

「ああ、最近はその噂で持ちっきりだからな。それがどうしたんだ?」

「これはあのお城に生えていた植物から採取してきたものです」

その言葉に男は目を丸くした。

「そりゃほんとうか?あんたも物好きだな。見たところ初めて見る種類だがどんな植物だったんだ?」

「大きな蔦が生え城の壁に自生していました。城に居たものに聞いたところ癖もなく食用として用いていたものとのことです」

嘘は言っていない。実際この豆があの城での主食を担っていたのだ。

「大きな蔦か…珍しいもんだな。その蔦からはいくつもこれが取れるのか?」

「ええ、これくらいは簡単に…」

ズンっと音を立てるほど袋いっぱいに入った豆をカウンターに置く。

「これは…一体何本から取ってきたんだ?」

「1本ですが?」

その言葉に男はまた目を丸くする。

「一本からこんなにとれんのか!それならこの豆はいくら食べてもなくならんな。よし、これは今後も俺のところにだけ持ってきな。そしたらちょっと色をつけてやる。そうだなこの量なら5000ジェムってところでどうだ?」

「そうですね…ただの豆が5000ジェムになると考えれば納得はできますかね」

「何いってんだい。十分破格だろ。何より今後も俺のところによろしく頼むぜ」

男は豆の入った袋を掴むとじゃらっと黄色いジェムを5つ置いた。

「わかりました。また定期的に持ってきますね」

「おう。待ってるぜ」

「さて、メアリー。行きましょうか」

「はーい」

二人は再び手を繋いで店から出ていき、目的の店に向かう。

「タルおばちゃん来たよ〜!」

「あらメアリーちゃんにメジューナさんじゃないかい!今日も来てくれたのかい」

「ええ、お邪魔します。私は昨日いただいたコーヒーをメアリーは…」

「メアリーちゃんのは任せておくれよ。とびっきり美味しいもの作ってあげるから」

「はーい!」

二人で窓際の席につき通りの人通りを見ながら品が出てくるのを待つ。

「おまたせ。メジューナさんのコーヒーと…メアリーちゃんのはこれだよ」

コトンと机の上に出てきたのはつやつやとした光を放つ黄色い物体だった。

「タルおばちゃんこれなーに?」

「これはスイートポテトってやつだよ。ほら、ふたりともまずは一口食べてみな」

タルに促されるまま二人はフォークを手に取りスイートポテトに手をのばす。

それほど力を入れていないがスイートポテトは簡単に切れてしまう。

口に頬張ると強い甘みと香りが一気に広がる。

「これは…とても美味しいです」

「甘くておいし~!」

「そーだろ?私も好きなんだよ」

「これはどうやって作るものなんでしょうか?」

あまりの美味しさにメジューナは食べたものの作り方を毎回のようにタルに聞くのであった。

「これは、芋の中でもとびっきり甘い芋を使うんだ。熱を通した後に形がなくなるまで潰して形を整えたら牛の乳で作った油を薄く表面に塗って焼くんだよ。それだけでこんなに美味しいものができるんだ」

「それは簡単ですね。私にも作れそうです」

「かかさま作れるの?」

「作れないことは…ないと思うわ」

戦闘や城の経理など様々なことをそつなくこなしてきたメジューナだが、唯一と言っていほどの弱点が料理である。もともとは魔族の中でも貴族の生まれであった彼女は料理をしたことなどほとんどない。加えてゴルディの妻になってからはその必要が更になくなったことに加えて彼女の仕事量は膨大なものであったため料理を作るということから一歩また一歩と遠ざかっていったのであった。

つまり、知識はあるが実戦経験が全くない状態なのである。

「メジューナさんは見たところ良いところの生まれなんだろ?だったら誰かに頼めば良いんだよ。私みたいに好きでやってる人もいるんだからね」

そういう甘やかしが彼女を料理から更に遠ざけるのである。

「それもそうですね。きっとアンヌなら簡単に作れるでしょうし」

そう、この筋金入りのお嬢様をこういう風にしたさらなる原因はメアリーのお世話係をやっていたアンヌのせいでもある。

彼女はかなり家庭的な性格をしており、それもありメアリーの世話役をし始めた時に誰からも抵抗されることがなかったのである。

料理に洗濯、掃除、裁縫などなどメジューナがやってこなかったことを好きだからという理由だけで何でもやってしまうのがアンヌなのであった。

「それで、二人はいつまでウェダリアにいる予定なんだい?」

「それほど長く滞在する予定ではないのですが、何やら主人がこの街のギルド長に用事を頼まれるかもしれないt言っていたのでそれ次第になるかもしれませんね」

「あのギルド長に仕事を頼まれるってことは優秀な冒険者なんだろうね〜」

「ととさまぼうけんしゃじゃないよ?」

口の周りにスイートポテトをつけながらメアリーが話し始めるのでメジューナはそれを丁寧に取ってあげるのであった。

「冒険者じゃないのにギルド長に仕事を頼まれることなんてあるのかねぇ?そしたらメアリーちゃんのととさまはとっても強いってことかい?」

「んー…わかんない!かかさま〜ととさまって強いの?」

「ええ、とっても強いわよ?メアリーが生まれた頃にはもう戦い方なんて忘れちゃってたかもしれないけど、とっても強いしかっこいいのよ」

「ととさまつよーい!かっこいー!」

「なんだいなんだい?あついじゃないの」

タルに言われて自分のセリフに恥ずかしさを覚えるメジューナであった。

6話目も最後までお読みいただきありがとうございました。

ちょっと久しぶりの更新になっちゃいましたね。

前回の告知通り母と娘の方にフォーカスしたお話にしてみました。もともとの構想では金貨の交換で揉めるところまでしか考えていなかったんですけど、メアリーに美味しいもの食べてほしいなーと思ったところから今回の話の半分が決まりました。

美味しいものを食べてほしい→子供が好きな物→甘いものを出してくれるお店→ケーキ屋はなし…→メアリーが気に入ってくれるようなお店→メアリーが気に入る人を作ろう!

という流れでタルが誕生しました。親切で面倒見のいい料理好きのちょっとふくよかなおばちゃんです。自分が好きなものを作って自身を持って出すお店の料理って美味しいですよね。タルのお店はそんなイメージです。スイートポテトが出てきたのは今食べたくなってしまっているからです。食欲の秋…


さて、こんな調子で書いているとすぐに激長あとがきになるので自重しなければ…なんて思っている今日このごろです。次回は…ゴルディ初めての依頼とかですかねー?


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