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3 始まりとすべてがひっくり返った世界③

魔王の城に突然現れたユーシアという勇者の生き写しのような姿をした人物。

魔王であったゴルディはユーシアを街へ運ぶ代わりにこの時代の情報を得ることとなったのであった。

バンっ!と音を立てて扉を開き、そこに居た者たちに呼びかける。

「予定通り本日我らはこの城を出発する!合わせて、これより我のことを魔王と呼ぶのを禁ずる。魔王という名は封印されたあの時間空間に置いてきた!これより皆我が名ゴルディと呼ぶように!」

唐突な提案ではあったが、その場に居た物は皆答える。

「は!ゴルディ様!」

この順能力はゴルディと彼らが千年という長い期間を共にしてきたからくるものであるのだろう。

「メジューナ、メアリー!準備は整っておるな。案内役を用意した。すぐに行けるであろうな?」

「当然です貴方様」

「いけるよ〜」

娘からの微笑ましい返事に頬がゆるむのがわかる。

「では、皆の者!城のことは頼んだぞ!」

「は!ゴルディ様!」

城に残る者たちに見送られて城の正面入口に向けて歩き始める。

数を制限されたが、持っていくことを許された側近(3人分)の人形を大事そうに抱えるメアリーとその様子を見ながら歩くメジューナと二人の荷物を自然と持つゴルディ。

その様子を見守る城に残る者たちは思う。

「ゴルディ様が荷物持つんだ…」

「ユーシアよ!出発だ。ともに参れ」

「おー早かったね!ちょっと待ってね。たくさんお茶を頂いちゃったからお手洗い借りるね〜」

そう言ってユーシアはそそくさと部屋を出ていく。

「あの方が先程貴方様が言っていた案内係の方ですか?ですが、あの姿は…」

メジューナもユーシアの姿にすぐに気がついたらしい。

「お前も気がついたか。だが、あの者からは全く敵意を感じなかった」

「ですが、それはそういった演技をしていた可能性も…」

ああ、そうか、そうであったな。なぜ我が今生きているのかをそなたはあの勇者の一瞬の気の迷いと思っていたのだったな。

「実のところ、あの時戦った勇者もはじめこそ敵意を感じていたが、あやつは途中から戦いを楽しむことしか考えていなかったような者であった。最後に我自身が止めをさせと言ったのに対してあやつはなんと言ったと思う?」

「さぁ?なんとおっしゃられたのですか?」

「嫌だ」

「え?」

「あやつは嫌だと言ったのだ。ここまで戦えたのは初めてでそんなお前を倒したくないと言ったのだよ」

事実を伝えたまでなのだが、メジューナは目を点にして驚いている。

「あの者からはその見た目もあるが、そのときの勇者のような雰囲気を感じたのだ。おそらく大丈夫であろう」

「あなた様がそういうのであれば、大丈夫でしょう」

「ととさまとかかさまなんのお話しているの?」

我らが話をしている内容が気になりメアリーが聞いてくる。

「あの者はどのようなものなのかという話をしていたのだよ」

「おーまたせしましたー!さ、行きましょう初心者冒険者の街ウェダリアへ!」

ウェダリア…聞いたことのない街の名前だな。この城に一番近かったのはたしか暗黒都市と呼ばれていたヴァロールだったと思ったが、あの街はなくなってしまったのか。あの暗い感じは嫌いではなかったから残念ではあるな。

皆が馬車に乗り込もうとしている時に、後ろから気配を感じた。

「にゃはは〜!ま…ゴルデさまぁ〜」

「何だミケか。どうしたというのだ?」

「あー!ミケちゃーん!」

見送りに来てくれたミケに対してメアリーはニコニコと手を振る。それに笑顔で答えるミケ。

「全員で馬車に乗るのはいいんだけどにゃ…誰が運転するんにゃ?」

考えておらんかった…

「ミケたちも皆さんと一緒に行けないのは寂しいですが、全員で行くと城も手薄ににゃってしまいますからにゃ、その人形で我慢するにゃ。だから…」

がしゃんと金属同士がぶつかる音が聞こえる。

「馬車を操るものと護衛役は必要だろう?ならば私の出番じゃろ?」

護衛の必要はないと思うのだが、馬車を操ることができるジェイダルが居るのは心強いな。

「ふむ…では頼むぞジェイダル」

「えーじぇいだる〜?ミケはー?アンヌはー?ファティマはー?」

メアリーよそれ本人を前に言うことではないぞ?あやつとて泣くぞ?

「ぐぅ…容赦がないですなメアリー様。…ぐずん」

武を極めた者でも子供からの容赦のない言葉は刺さるものがあるのだな。

ガシャンガシャンと音を立てながら御者の位置に座ったジェイダルは金属のはずなのに少し小さくなっていたように感じた。

「それでは出発ですぞ!」

ヒヒーンと馬が嘶き馬車が動き始める。

「あーえっと、ジェイダルさんでしたっけ?案内係のユーシアです。私達が目指している街までは一旦この未知をそのまま道なりに行ってくれれば大丈夫です。途中で大きな風車が見えてきたら右にの道に行ってください。それだけで到着するので」

なんだそれほど複雑な道ではないではないか。ちょっと拍子抜けなのである。

「それでは、先程話したこの世界の情報を教えてもらおうか」

「この世界の情報って言われても何から話せばいいのかわかんないんだよね。何から話せばいいものなの?」

そうかこちらからの問があまりに大雑把出会ったためユーシアを困らせてしまったのだな。

「そうであったか。すまない。では、ユーシアの生業としている冒険者とは何なのだ?」

我らの知るかの時代に冒険者なるものは居なかった。あの時は魔族と人間で争いはしていたが、それぞれの種族の兵士をそれぞれ出し合い戦う戦争に近い物だった。それに終止符を打ったのが異世界から召喚された勇者であった。勇者は一人で我らが兵士たちを100人、1000人と屠っていくあの光景は息を飲んだものだ。

「えー!?冒険者を知らないんですか!へー僕らの世界では結構一般的な仕事ですよ?」

たしかにユーシアも若く見えることからそれほど敷居の高い仕事ではないことはわかっていたが、それほど一般的な仕事であったか。

「冒険者は、冒険者ギルドと呼ばれる仕事を斡旋してくれる組織に加盟して、そこに集まる依頼をこなしていくんです。依頼内容は多岐に渡っていて、捜し物や今回のような調査だったり討伐依頼なんてのもあります」

なんともとらえどころのない仕事であるな。

「冒険者とは言ってますけど、冒険をすることなんて殆ど無いのでなんでも屋ってやつですね」

ふむ。その例えはわかりやすいものであるな。

「ところで先程討伐と言っておったが、どのような物を討伐するのだ?魔獣か?魔族か?」

人間の敵と言えば魔族や魔獣である。それが我ら魔族の中でも常識である。

「まじゅう?まぞく?聞いたこともないですね?僕らが相手をするのは聖獣と呼ばれる勇者の力を宿したと言われている獣たちです」

聖獣だと?確かにあの時勇者に力を貸し勇者と一緒に戦うために勇者を召喚した神々から祝福を受けた種族のことをそのように読んでいたが、彼らは勇者の意思によってしか動かんはずだが…時代が変わりそこまで変化をしたのであろうか。

「それは我らの知っている聖獣とは随分と違うようだな」

「そうですね。私達が知っている聖獣たちは普段は温厚で勇者が命じた時のみその力を見せるものしたが」

メジューナとも意見が合ったところからしても、魔族の認識としてはこれで正しいようだ。

「そちらの世界にも勇者が居たのですね?」

「居たぞ。なんとも変わったやつだったと聞いたことがあるな。その勇者は人のために生き、人のために戦ったと伝え聞いておる」

「僕らの世界の勇者とは随分と違うのですね…」

そう言って目を伏せるユーシア。

勇者とは人間の世界が危機に陥った時に召喚される人間のために戦うための者であるはずなのだが、この時代の勇者は随分と違うようだな。

ところで妙に静かだと思って右を見ると大きな音の発生源であるはずの娘はアンヌの人形を大事そうに抱えながらスヤスヤと眠っていたのであった。子供には退屈な話であったか。

「勇者が随分と違うとはどのように違うのですか?勇者とは人の味方なのではないのですか?勇者とは人を救い、人を導き、人と共にあるものではないのですか?」

我と同じ疑問を持っていたようでメジューナは我らの頭に浮かんでいた疑問を投げかける。

「あはは!()()()()()()()()()()()()なんて考えたことあったけど、そっちの世界の勇者とは()()()()だよ」

はじめは笑いこそしたが、そう言ったユーシアの目からは光が失われていた。

()()()()()()()()()

これまではまだ幼さの残るように見えていたユーシアだったが、この言葉を発した時にはそのような雰囲気は一切なく、ただ勇者そのものを憎んでいるように声を落とした。その様子に我らは声を発することができなかった。

「この国、いや、この世界にいる勇者はすべて犯罪者だよ。人を欺き、人を陥れ、人で遊び、人を殺す。そういうのを平気でやってしまうのが勇者…というか、はるか昔に居た勇者の子孫たちだよ」

はるか昔に居た勇者とはあの者のことであろうか…そういえば勇者勇者と呼んではいたが名前を知らなかったな。

「お二人の言う通り、はるか昔に居たと呼ばれる勇者はその力でこの世界を救ったとされている。でも、その後の話は私も嫌いなんだ。人を救った英雄がある時突然彼を召喚したとされる国の人々を皆殺しにしたんだ。その時勇者が言ったのは「約束が違う!ならば俺は人類の敵となろう!」なんだってさ。それからは悪逆非道の数々が語り継がれているよ」

もし、仮にもあの勇者がこの話に出てくる者だとするならば、我らの知っている者とは随分と違うように感じるが、もしかすると彼をそこまで追いこむようなことがあったやもしれん。

人の生は短い。長くとも100年という時しか生きることができないと聞いているが、その短き生の中でかの者はどのような体験をしたのであろうか…

「そして、更にはその子孫たちが大暴れ。全く呆れちゃうよね。それでその暴れまわる勇者たちと聖獣たちと戦うために集まった数人の腕自慢たちが最初のパーティーを組んで勇者や聖獣たちを倒していったんだ。それが冒険者の始まりだって聞いたよ」

ふむ…長い時が経ったとはいえ、ここまで世界のあり方が変わってしまっているとは思いもしなかった。

「はい。この話はここまで!ねーねー!僕も聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

これまでの暗い表情とは打って変わって元の明るい表情に戻るユーシア。

「我らが答えられることならば何でも聞いてくれ」

「そしたら最初に二人の名前を聞いてもいいかな?さっきその子はあの猫耳の人がメアリーって呼んでたのと外の鎧の人はジェイダルって呼ばれてたから知ってるんだけど、二人の名前は知らないなって思ってさ」

そうか、まだ我らは名乗ってすらいなかったか…申し訳ないことをしたな。

「我はゴルディ。そして隣に居るのが妻のメジューナだ。申し遅れすまない」

「そんなことないって!ゴルディさんにメジューナさんね。改めて街までよろしくね!」

そう言うとユーシアは我らの手を握って上下にブンブンと振り始めた。これがこの時代の人間の挨拶なのであろうか…覚えておくとしよう。

「それで、違う世界に来たって言ってたけど、この世界に来る前はゴルディさんたちは何をしていたの?なんかあの城の王様と王妃様っぽい感じだけど…あ、もしかして今までこんな話し方で失礼でしたか…?」

ふむ…勇者と戦い破れた人間の危機を作った張本人ですと答えるわけにもいかんからな…どうしたものか…

「そんなことはないぞ。これまで通りで良い」

それを聞いて、ユーシアはまた表情を明るくする。

「そうだな…なんと言ったものか。我らがやっていたことはなかなか理解を得ることが難しいことでな…」

「そんなことないですって。勇者みたいに世界中で悪事をしているとかじゃなければ別に驚きはしませんよ」

いや…主にやっていたことはそれなのだ…むしろ、勇者よりも先にやっていた先駆者である。そして、おそらくそのはるか昔に召喚されたという勇者を召喚する原因を作ったのも我らなのだが…さて、なんと言って切り抜けようか…

「あなた様。ここは1つ研究者と言ってみるのはいかがでしょうか?」

困っている我を見かねてメジューナが小さく耳打ちをしてくれる。

はて、研究者とな?

「我らは生き残るため、場内にある植物を食べられる作物に、そのために必要な魔術はあなた様が考案したのではないですか」

確かに、そうなのだが…あれは必要があったからであって…魔力量も我は城の他の者に比べて格段に多く実験できる回数が多かっただけなのだが…まぁ、そういうのも悪くはないか。

「我らはあの城にこもり研究を重ねていたのだ」

「へー!研究ですか!すごい!なんの研究ですか?」

目をキラキラさせてこっちを見るでない!!

「魔術である」

「まじゅちゅ…まじゅつ?ってなんですか?」

あぁ、そうであった。人間には魔力を有する者は少なく、魔法という魔術の劣化版のようなモノを使う者も少なからず居たと聞いているが、あまり馴染みのない言葉であったか。

「他の地域では魔法と呼ばれたりしていたと聞いているな」

「あ!魔法ですか!それなら私も使えますよ!」

その言葉を聞き、驚く我らと外の馬が嘶いたことから察するにジェイダルも驚いたのであろう。

「見ててくださいね〜【光よ!(ライト)】」

二重に聞こえる声を謎の声を発したユーシアの指の先に小さな光の玉が浮かぶ。その光は強すぎず弱すぎず、馬車の中を照らすのに丁度いい光の強さだった。

「私ができるのは初級の魔法の生活魔法ってやつだけなんですけどね。研究をしていたってことはゴルディさんはボーって火を出したり、ドバーって水を出したり、バリバリーって稲妻を出したりできるんですか!」

ふむ、できないと言えば嘘にはなるが、ここで自慢げに話すのも良くないだろう。

「我ができるのもそれほど派手なものではない。おそらく今使った物とは全くの別種になるであろうから参考にはならんと思うぞ」

我の話を食い気味で聞いていたユーシアだったが、参考にならないと聞いてすぐに元の位置に戻った。

「えー残念!せっかく私も派手な魔法が使えるようになったと思ったんだけどな〜」

そう言って馬車の窓の外を見る。

「あ、ジェイダルさん!あの風車ですよ!あの風車を右に行ったらすぐに目的の街につきます!」

話をしている間にどうやら目的の街の近くまで来ていたようだった。

「礼を言うぞユーシア。右も左もわからなかったこの世界のことがようやく少しわかってきたようだ」

「いえいえ、こちらこそ送っていただいてありがとうございます。あ、そうだ!ついでに冒険者ギルドに寄っていきませんか?報告する時に一緒に居てくれたほうが話が早いと思うので!」

「わかった。そうさせてもらおう」

馬車は分かれ道を右に進むとすぐに街のようなものが見えてきたのであった。

3話目もありがとうございました〜!

ここまでで、第一節って言えばいいんでしょうかね?とりあえず一段落です。

いや〜書きたいこと書いてたらいつもより長くなっちゃいました(テヘペロ)

この作品を書き始めるきっかけとなった思いつきとしては、勇者が敵になったらどんな世界があるんだろう?という変な疑問でした。

魔王を討伐して、その後何かがあって人類の敵となった勇者という存在。それに対していろんな欲を失って幸せに暮らしたいだけの元魔王。さてさて、これを組み合わせるとどんな化学変化が生まれるんでしょうか?楽しみですね〜。

今の所はまだ書けていませんが、ユーシアがなぜあれほど勇者という存在を憎んでいるように見えたのかも書くことができたらなぁ〜と思ってます。あと、書いてて楽しい(読んでいて楽しいかは知らんけど)魔法解説パートもやりたい!ああいう感じの文章打ってるときのタイピング速度めちゃ早いんすよ(笑)。


そんなわけで、毎度恒例のやたら長いあとがきですがここらへんで今回は終了にしたいと思います。

あ、今回の話はお酒抜きで書き上げました。ちょっとテンション的に酔ってるとうまく書けなそうだったので酒を抜きました。このあとちょっと飲みます。

ではでは、次回冒〜険者の街〜でお会いしましょう♪まったねー!

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