1 始まりとすべてがひっくり返った世界①
その昔、魔王と呼ばれる者が居た。
そして、その魔王と呼ばれる者を屠るために異世界から召喚された勇者と呼ばれるものが居た。
勇者と魔王の戦いのその後に魔王ってどうなるんだろうから始まるこのお話。
※魔族は長寿です。
さ、ダルダルなこの世界をお楽しみ下さーい♪
ここはエルドーン王国北にそびえる人が寄り付かない城。通称魔王城。
ここに住まうのは魔王と呼ばれる魔人族の長だ。
人間族から忌み嫌われ、敵対し続けてきた魔王が住む城に珍しく、訪問者が訪れていた。
残念ながら友好的な訪問者ではないのだが…
「極滅の炎!」
「神聖絶対領域!!」
ゴゥという音とともに業火が訪問者に向けて放たれるが、それをいとも簡単にはねのける結界を作り出す。
「さすがは勇者というべきかな」
城主は冷ややかな笑みを浮かべながらその様子を見る。
「この程度ならば、この城の前に居たドラゴンと大差はないぞ!」
魔王の前に訪れた訪問者は異世界から召喚された勇者だ。
多種多様な毛髪の色と光彩の色を持つこの世界の人々に比べれば非常におとなしい色合いの黒髪に茶色の光彩を持つ彼は魔王の側近たちを次々に打倒しついに魔王本人の前に現れたのであった。
「我も存分に力を振るうことができる相手と出会えて嬉しいぞ!」
魔王と呼ばれる者は常識では考えられないほどの魔力を込めてその右腕を振るう。
その右腕を勇者の持つ聖剣エクスカリヴァーンが受け止める。
二人の死闘は数日に及んだが、決着の時は来たのであった。
ガスっと音を立てて魔王と呼ばれる者が膝を地につける。
「はぁ…はぁ…魔の王と呼ばれた我も勇者に手も足も出ず…か」
魔王と呼ばれた者の眼前には聖剣を構え続ける勇者と呼ばれる者の姿があった。
「そんなことはない。私とここまで戦える相手は初めてだった。楽しかったよ」
楽しかった…か。
我の全力を持ってしても彼を楽しませることしかできなかったということか…
「もう気が済んだであろう?さぁ、終わりにしようではないか」
「嫌だ!」
「はぁ?」
思ってもみない返事に気の抜けた声が出てしまった。
「今…なんと?」
「嫌だと言った!お前は俺とここまで戦える数少ない存在だ。だからお前に止めを刺すことことなどできない!やりたくもない!」
知るかそんなこと!
我は勇者と呼ばれるお前と戦い、その戦いに破れた。
それだけのことだが、それは大きな意味のあることだ。
敵に情けをかけられるようなことは王と呼ばれる者にとっては屈辱以外の何事でもない。
「我に生き恥を晒せと?」
「いや、そうじゃない。お前にも家族というものが居るのであろう?俺はこの世界に来てからは家族と離れ一人戦い続けてきた。だからこそ、その幸せを奪うことなどできない」
かなわない…な
「お前のことは俺が討滅したと世界には伝えておく、だから、ゆっくりといつか解ける封印内でゆっくりと過ごすがいい。遮断結界!」
どこまでも優しい者なのだな…これがこの者との最後の別れになるのならば、魔の王としてふさわしい別れの言葉を送るとしよう。
「これで終わったと思うなよ勇者!いずれ我が復活するときには必ずお前を討滅してくれよう!」
我が言葉に対して奴は微笑んだように見えた。
勇者と呼ばれた者によって作られた結界により城そのものが封印され異空間に包み込まれた。
優しさは時に残酷だということを彼は知らないのかもしれないな。
「誰かおらぬか!」
我の言葉に扉の外からヨロヨロと現れる。
全員満身創痍か…ならばすることは一つだ…
「息のあるものの手当を急げ!これより誰一人として死なせてはならぬぞ!」
「は!魔王様のお心のままに!」
我の声に答えた兵士は再びヨロヨロと外にあるき出す。
これで良い。もうこの封印が解けるまでは戦うことなどないのだから。
深手を負った体を起こし、奥の部屋に歩いていく。
「すまない…我の負けだ」
そこには立派な角を頭に生やした女性が一人。
「そうね…あなたが勝てないのならばそれは宿命よ。今はあなたを生かしてくれた彼の優しさに感謝いたしましょう」
そう言いながら体を支えてくれる妻のメジューナはそっと我の体を寝具に横たわらせてくれる。
「あやつ自分とここまで戦える者は居ないからと我を生かしたのだぞ…ふふっ!ふはははは!なんとも面白い存在よな勇者とは」
笑うと傷が痛むのがわかる。だが、これは笑わなければやっていられないのだ。
「伝承によれば、かの勇者が召喚される前の世界は殺生を好まぬ世界だったそうで、そういったところから自分の認めた存在を手に掛けるというのができなかったのではないでしょうか?その理由に…」
メジューナが後ろを振り向くと勇者と戦ったはずの側近たちの姿があった。
「彼らも同じような理由で勇者に生かされたと聞きました。あなたの士気にも関わると思い黙っていたのですが…」
ふいっと目を背けるメジューナ。
「そんなことはないメジューナ。我のことを思ってのことなのであろう?お前の言う通りこやつらが生きていると知れば、同じように戦えていたかは我にもわからん。そうか…お前たち生きていたのだな」
「魔王様…」
「魔王様…申し訳ございません…」
側近たちは口々に我のこと呼ぶ。
「もう反省はせずともよい。これからはこれからのことを考えよう。我らは想像以上の痛手をあの勇者一人に負わされた。幸い城そのものを封印結界に包んでくれたからな土地はある。ここからが我らの底力だとやつに見せつけてやろうではないか!」
「「「はい!!!」」」
この会話がもう懐かしく思えるほどの時間が経った。
あれから我ら魔族は復興のため、怪我をしたものは怪我を直し、食糧事情や居住区域など様々な面での課題を解決するために日々奮闘し続けた。
今思えば、あやつは我らのために城ごと封印を施したのかもしれんな…
〜数十日後〜
ここは魔王と呼ばれた者と勇者と呼ばれた者が戦いを繰り広げた部屋。
「皆の者、心して聞くように」
魔王と呼ばれたものは家臣たちを集めて口を開いた。
「此度は我の力及ばず我ら魔人は勇者の力により封印される事となった…」
彼の言葉に皆顔をうつむかせる。
少しの間があり、魔王と呼ばれたものは再び口を開く。
「しかし!我らは生きている!」
唐突な言葉に皆顔をあげる。
「我らはかの勇者に気に入られ、何故か生きる事となった。ならば、この封印空間の中で精一杯楽しんでやろうではないか!奴はきっとこの中で我らが苦しむことを期待してこの結界を張ったのだ。ならば、その逆を行こうではないか!この封印空間で思いっきり生を楽しみ、生き生きと暮らしていく。これがやつに対する最大限の反抗であると我は思うのだが、どうだ?」
この言葉に皆困惑をしているようだったが、次第に目に光を取り戻した。
「「「「おおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
大きな雄叫びが場内を包む。
「幸い我々は封印される事により荒事に巻き込まれる心配はない。まずは復興に力を入れ、我らの力を取り戻すところからはじめようではないか!さぁ、皆の者!これから忙しくなるぞ!精一杯楽しく我々らしさを出して生きてゆくぞ!」
「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
その雄叫びが答えだった。
こうして魔王城復興計画は始まったのであった。
〜数年後〜
「ま、魔王様〜!」
あのときの部屋に騒々しく兵士の一人が入ってくる。
「何だ騒々しい。どうしたというのだ?」
兵士は切らせた息を整えてから報告をする。
「報告いたします。我々の悲願である研究がついに実を結びました!」
ガタンと魔王と呼ばれたものは椅子から音を立てて立ち上がる。
「そ、それはまことか!!」
「はい!ついに完成いたしました!!野菜が実りました!!」
その言葉に魔王と呼ばれたものは両手で顔を覆う。
「あぁ、ついに…ついに…じゃがいもと豆だけの生活から開放されるのだな!!」
「はい!魔王様!」
魔王と呼ばれたものはその言葉を聞き届けると、大きな声で告げるのであった。
「今宵は宴だ!場内に住むものをすべて招待し、大いに楽しもうではないか!!」
「はい!!!」
新生魔王城はここ数年食糧難に陥っていた。
いや、食糧難と言うのは少し違うのかもしれない。城に残っていたものが食べるものはあったのだが、種類が乏しかったのだ。よって魔王令により、食物の品種改良を行っていた。身をつけるが、食べられるようなものではなかった魔王城に生えていた食物を品種改良し、食べられる野菜にまでしたのであった。
これは、じゃがいもと豆だけの生活をしていた彼らにとって革命が起きたと言っても過言ではないものだった。
そうしてその日は【祝!食用野菜開発記念日!】として後に祝日になるまで語り継がれるのであった。
〜それから数百年後〜
「なぁ、メジューナよ」
魔王と呼ばれていたものは自室で妻と話していた。
「封印されてからというものどれくらいの月日が経ったのであろうな?」
「そうですね…数百年とまとめたほうが私達にとって心が穏やかでいられるのではないかと思いますわ」
数百年…か。
長かったような短かったようなよくわからないほどの時間が過ぎていったと思ったが、それほどの時間が経っていたのか。
「あれから我らも十分に満足できるだけの食料を確保し、十分すぎるほどに城も改築した。これから我は何をすれば良いのであろうな」
その者は迷っていた。
迷っていたというか…ぶっちゃけ何をすればいいのかわからなくなっていた。
目下の問題であった食糧問題はあの食用野菜開発記念日からどんどんと改善し、封印が解けた場合のことも考え、城の設備も一新した。
つまり、やることがなくなったのであった。
「あなた様が言ったのではないですか生き生きと生きていくことが勇者に対する一番の反抗であると」
いや、そうなのだが…数百年も色々とやっていたらやりたことも尽きるわけであって…
「そうは言ってもなぁ…こうして数百年の間この話し方というのも飽きてきたところだからなぁ…」
「あなた様…素が出てますわ」
「もうこれでいいんじゃないかと思い始めてる。取り繕ったところで別に誰も何も思わんだろ。それに我という一人称も正直時代遅れな気がしてきて仕方がないのだ」
「それはそのままでお願いします」
メジューナから急に強い言葉が入る。
「そ、そうか?だが、我というのもあまり…」
「いいえ、あなた様はそれが一番似合っております。そのままでお願いします」
「いや、しかし…」
「いいえ、だめです。そのままで」
そして、いつの間にかメジューナに押し切られるのであった。
「ごほんっ!それに、やらなくてはいけないことなど思いついたその時にやればいいのです。今はこれまで働き続けてきたのですからゆっくりとお休みになればよいかと…」
そうしてゆっくりとメジューナは魔王と呼ばれたものに添い遂げる。
そうして数年後…
魔王城に新たな生命が生まれたのであった。
その日は【祝!姫生誕祭】として祝日になった。
それからまた数年の時間が経過した。
「ととさまーー!」
大きな声に導かれ、後ろを振り返ると可愛らしい娘の姿があった。
「どうしたメアリー?今は勉強の時間だと思うのだが?」
なんとなく理由はわかるがあえて問を立てる。
「もーべんきょうやー!」
やはり・・・か。
「今日は頑張ると言っていたではないか」
「でもやなのー!」
そう言われてもな…
「そうは言ってもやることなどないぞ?」
「えー!やーだーやーだー!」
「そうは言われてもなぁ…ここには城の周りまでしか何もないz…」
バツンという音が場内に響き渡る。
「なに?」
一番初めに反応したのは以外にも娘だった。
「そうだな…何かが起きたようだな。大丈夫だ。何が起きても父様がついているからな」
私の言葉に娘は笑顔で頷く。
「ま、魔王様〜!」
ほら来た。
「け、けっか、けっか」
息を切らして走ってきた兵士は慌てた様子で現状を報告する。
「どうしたというのだ?落ち着いて報告せい」
「結界がなくなりました!!」
「え!?ほんとに!!」
「それはまことか!」
笑顔の娘に対して怪訝な顔をするのは魔王と呼ばれたもの。
「今すぐに側近たちを集めろ!今後の対応についての会議を行う!」
「かしこまりました!すぐに伝令を送ります!」
私の指示を聞きすぐに行動に移し移動する兵士と離れない娘。
「ととさまー?お外行けるようになるの?」
キラキラした目に圧力を感じるのはなぜだろうか…
「そうだな…できるだけ外に出ることができることが計らおではないか」
「やったー!べんきょうとおさらばー!」
純粋な笑顔を浮かべてくれるが、ここは父として、魔王として一言。
「もし、外に出れるとしても勉強はしてもらうからな」
「えー…でも、外に出られるなら、勉強をしてもいいよ」
幼子とは単純なことである。
〜それから数時間後〜
「では、以上で会議を終了とする。今回の会議で決まったことを我らの今後の行動の最優先事項とする!」
「ははぁ!」
全員がそうは言ったものの…
今回の会議での決定事項はというのが、封印から数百年の時間の経った世界を見るために外の世界に赴くのは最高戦力とするというものだった。
最高戦力すなわち、この魔王城最高戦力である魔王と、元NO.2である側近最強と歌われた元幹部であった王妃とかわいい一人娘を城に残していくわけにも行かないので娘の三人での魔王城外探索であった。
会議に参加した全員の脳裏に一つの言葉が思い浮かんだが、皆それを飲み込んだ。
『ただの家族旅行じゃねーか!!!!!!!!』
1話目読んでいただきありがとうございました〜♪
書きたいことはまだまだあるので暇な時読んでね!
これ書き上げるまでなんだかんだ数日かかってるんですけど、全部酔っ払ってるのが良くないと思ってます。誤字脱字は許してください。変換の時は結構気をつけているつもりなんですけど、なにせ酔っ払っているので…(笑)
僕も新生活が始まって、1ヶ月経つんですけどその間に1.3リットルのウィスキーが消えました驚きです。
生き抜くの方はエル君のやりたいことをやる(流されている気もするが)のがメインなんですけど、この物語は主題として、全部ひっくり返ったらどうなるんだろう?という自分の想像力の限界に挑んで行きたいと思いまーす。
自分まだ結婚とか子供とか全く無縁の存在なんですけど、子供居る話とか無茶振りだと思っているんですよね〜頑張れ僕!