第97話「腹黒少女への疑い」
6月7日。現在の時刻は18時過ぎ。
オレは今、学園の正門を出たところにエリスと二人で立っている。先日約束した通り、一緒に街の魔道具屋に向かうためだ。
「今から向かう魔道具屋とはどこにあるんだ?」
「ここからすぐ近くに一つと、街の東と西の方に一つずつだったかな」
「3ヵ所もまわるのか」
「うん。できれば色々見てから選びたいなって思って。ダメ?」
「いや構わんぞ。それでどこから向かうつもりだ?」
「とりあえず、一番近いところからかなー。こっちだよ」
エリスは店がある方向を指さしながら、オレの少し前を歩き出す。てっきり、今日も以前のように腕を絡ませたりして距離を詰めてくるかと思っていたが、今日はそういう事をするつもりはないらしい。
「今日はどんな魔道具を買うつもりなんだ?」
雑談がてら、一応今日の目的を確認しておく。
「んーっとね、何かあった時に身を守れる魔道具が欲しいんだよねー。ほら、この前ミール先生が言ってたけど、最近物騒な事件が多いらしいし」
どうやら、先日ショッピングモールで会った時にエリスが護身用の魔道具を見ていたのは見間違いではなかったようだ。
「もしもの時の備えを持っておこうということか。随分と用心深いんだな」
「そうかな?ああいう話を聞いたら、多少は危機感を持つのが普通じゃない?」
「少なくともオレは全く気にしていないが」
「そりゃ、リダン君くらい強い人は気にしないだろうねー。けど、普通の子は事件があったって聞いたら多少は怖くなるものだと思うよ。もしも自分が巻き込まれたらどうしようってさ」
「そういうものなのか。...ならば、今日はわざわざ街に出ずに学園内のショッピングモールで魔道具を探した方がよかったんじゃないか?この街でも不穏な噂はあっただろう」
「まぁ全く危機感を持たないわけにはいかないけど、気にしすぎても仕方ないしねー。それに、リダン君が一緒なら何かあっても大丈夫かなって」
エリスはこちらの目を見ながらそう言う。
今の発言が本心からの言葉なのだとしたら、どうやらエリスが今日リダンを誘ってきたのは、単にリダンと出かけたかったというだけではなく、ボディーガードが欲しかったという理由もあったようだ。
それからしばらくして最初の魔道具屋にたどり着き、エリスと一緒に店の中に入る。店の中は古風な雰囲気に装飾されており、中々風情がある感じだった。
「身を守るための魔道具が欲しいと言っていたが、具体的にどういった奴が欲しいんだ?」
「実はあんまり詳しくないから良く分からないんだよねぇ。どういうのがあるの?」
「一口に護身用の魔道具と言っても、用途別にいくつか種類がある。ざっくりと分けるなら、相手から逃げるための物、自分の身を守るための物、相手を迎撃するための物の三種類だな」
「んーじゃあ、逃げるための魔道具と、自分の身を守るための魔道具が欲しいかなー」
「分かった」
オレはエリスの要望に合う魔道具が置いてある場所を探し、そこに案内する。
「ちなみに、マナの扱いは得意な方か?」
「マナの扱いは全然自信ないかなぁ。やっぱり、ある程度はできないと魔道具も使えなかったりする?」
「使えないものもあるが、マナ操作が苦手な奴でも使える物もあるからそれを選べば問題はない」
「そうなんだぁ。良かったー」
「それに、多少ならオレが使い方を教えてやってもいい」
「え!?ホント?」
「ああ。当然扱いの難しい物の方が性能はいいからな。どうせならできるだけ効果のあるものを買った方がいいだろう」
特定の機能に特化している魔道具は基本的に同じマナの操作で扱えるため、教えるのに大した手間はかからない。その少し手間でエリスとの関係を構築できるのであれば見返りとしては十分だろう。
まあ、これまでエリスからの感情が軟化したことはほとんどないため、もしかしたらこの程度ではあまり意味はないかもしれないが。
「じゃあ、折角だしちょっと難しいのを買っちゃおうかなー。その方がリダン君に教えてもらえてお得だし」
エリスはそう言って、上機嫌な様子で魔道具を見て回りだした。
オレはそれについて行って、エリスが興味を持った魔道具について説明する。
そしてそれから数十分ほどかけて、目ぼしいものには全て目を通し終える。だが、エリスは結局何も買わずにその店を出た。
「何も買わなくてよかったのか?」
「結構良さそうなのもあったけど、とりあえず他のお店も見てから決めよっかなって。ここは帰り道にもう一回寄れるしね」
「そうか。なら、次はどちらに行くつもりだ?」
「んー、どっちからでもいいけど、ここからなら東側のお店の方が少し近いし、そっちから行こっかな」
エリスはそう言って、次の店がある方向へと歩き出す。
今日は今のところ、エリスとの間の空気感は悪くない。オレがエリスを邪険にしなくなったこともあり、勘違いでなければ、割と自然で雰囲気の良い会話が続いている気がする。
この空気感であれば多少突拍子もない話題を持ち出しても問題ないだろうと思い、オレはこのタイミングで一つ質問を投げることにした。
「そういえば、貴様に一つ聞きたいことがあったんだが」
「あたしに聞きたいこと?何々?」
「貴様は随分色んな奴と関係を持っているようだが、キスキルレッドのアイゼンとも話す仲なのか?」
回りくどい話は抜きにして、オレは今回も単刀直入に攻める。
エリスが相手ということもあり今回は多少工夫を凝らした方がいいかもしれないとは思ったが、どうせオレには上手いことこの話題に誘導する能力は無いため諦めた。
「アイゼン君と?...どうしてそんなことが気になるの?」
「以前に、オレは強いから特別なんだと言っていただろう。ならばアイゼンはどうなんだと思ってな。奴も貴様から見れば十分な強者だと言えるだろう」
この話題を持ち出した理由を聞かれた際の言い訳は考えていたため、オレは迷いなくそれを答える。
「あぁ、そういうことかぁ」
エリスはオレの言葉に一応の納得をしてくれたようだ。
「それで、どうなんだ?」
「アイゼン君とは結構良く話すよ。リダン君ほどじゃないけど、強くてカッコイイしね」
「どういう話をしているんだ?」
「普通に他の友達と話す内容と変わんないよ?何が好きかとか、休みの日は何してるかとか、そんな感じ」
「それだけか?」
「んー、後は...悩み事を聞いてもらったこともあったかなぁ」
「悩み事か。ちなみにどんな悩みを相談したんだ?」
「それは秘密。リダン君にも絶対言えないよ」
エリスはそう言って右手の人差し指を口元に持っていく。悩みの内容というのが恥ずかしいものなのか、あるいは人には言えない何かやましいことなのか。その辺りは判断材料が少なくて分からない。
「...ていうか、さっきからずっと質問続きだけど、何かあるの?」
少し前のめりになりすぎてしまったからか、エリスはリダンが質問ばかりしてくることに疑問を持ってしまう。
「いや、実はアイゼンについて少し気になっていてな」
「へぇ?そうだったんだ。ライバル心とかそんな感じ?」
「そうではない」
「ふーん?じゃあどうして?...あ、もしかして、あたしがアイゼン君と仲がいいかもって思って妬いてくれたとか?」
エリスが悪戯っぽい表情でこちらを覗き込んで聞いてくる。
「それは絶対にありえんな」
「そんな強く否定しなくても良くない!?」
「貴様自身、本気で言っていないだろう」
「まあそうだけど、1パーセントくらいはあり得るかなって期待はしてるんだよ?」
「そんな期待など知らん」
「相変わらずリダン君はつれないなぁ」
オレがエリスの期待とやらをぶった切ると、エリスはそう小さく愚痴をこぼす。
「じゃあさ、結局何でリダン君はアイゼン君を気にしてるわけ?」
「それは...少し参考にできる部分があるかと思ってな」
この言葉は一応嘘ではない。リダンが周囲に馴染む策を考える上で、アイゼン・キスキルという存在は参考にできる部分が多いと思っている。
リダンほどではないが、アイゼンという男は周囲と比べて圧倒的な力を持ちながら多くの人間に慕われているようだからな。
「参考に?どういう事?」
「そこまで貴様に言うつもりはない」
オレは少し強めの語気でそう言い放つ。これ以上の追及は面倒な流れになる気がしたためだ。
適当な言葉を取り繕ってあしらっても良いのだが、この方が手っ取り早い。
エリスもこれ以上聞いても意味はないと悟ってくれたようで、この話題はここで流れることになる。
本当はエリスとアイゼンの関係についてもう少し探りを入れたかったところだが、こちらもやはりこれ以上聞いたところで意味はないだろうな。
まあ一応最低限必要な情報は聞くことができたため、ひとまずの目的は達成できたと言っていいだろう。
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