第96話「腹黒少女との遭遇」
ミールの研究室を後にしたオレは、寮に帰る前にショッピングモールへと向かうことにした。シュトラールブルーにいる裏切り者の正体を探るため、とある魔道具を作る道具を買っておこうと考えたためだ。
10分ほどでショッピングモールへとたどり着き、そのまま中に入って目的の物を探す。
その途中、オレはとある人物を発見して足を止めた。
今、オレの視界の先にはクラスメイトのエリス・ミューラーが立っている。現在エリスの周囲には誰もおらず、見た限りだと一人でここに来ているようだ。
向こうは真剣な様子で何かを見ていて、まだこちらの存在には気が付いていない様子。裏切り者候補の一人であるエリスには近いうちに接触を図ろうかと思っていたため、オレは止めた足をそのままエリスの方へと向けた。
オレはゆっくりとエリスの背後に近づく。すると、オレから声をかける前にエリスがこちらを振り向いた。足音はできるだけ出さないようにしたつもりだったが、何か気配でも感じたのだろうか。
「リダン君?」
背後にいる人物が意外だったのか、オレの存在に気が付いたエリスがあっけにとられたように小さくそう呟く。
「...偶然だね。こんな場所で会うなんて」
「そうだな。ここで貴様に会うとは思っていなかった」
今オレたちがいるのは、ショッピングモール内の魔道具関連の物が売っているコーナーだ。研究に使う道具なんかも置いてあるためオレはたまにここに来るのだが、少なくとも今までこの場所でエリスを見かけたことはなかった。
「ここにいるということは、何か魔道具でも買いに来たのか?随分と真剣な様子だったが」
オレはそう言いながら、先ほどまでエリスが見ていた辺りに視線を持っていく。
どうやらそこは護身用の魔道具が置いてあるコーナーのようだった。今日の朝礼で物騒な話をしていたから危機感を覚えて持っておこうと思ったのだろうか。
「...え?...えーっと、そんなところ...かな?」
エリスはオレの問いに対して曖昧な態度を返す。
先ほどからエリスの様子がおかしい気がする。普段のエリスならばリダンを見つけるや否や近づいてきて、積極的に距離を詰めようとしてくるはず。
だが今はこちらから近づいてきたにも関わらず、ばつが悪そうにしているというかどうにも反応が鈍い。
それに、オレの気のせいでなければ刺さってくる感情がいつもよりも小さいように感じる。今もエリスからはそこそこ強烈な負の感情が突き刺さってくるが、それでも普段のものと比べると向けてくる感情が弱い。
「どんなものを探しているんだ?魔道具の事ならば多少は話を聞くこともできるが」
エリスに違和感を感じたオレは、探りを入れるために少し踏み込んで話を振ってみることにした。普段のエリスならば間違いなく食い付いてくる内容だ。
「...。...えっ?リダン君が?」
オレの提案に対してエリスは少し遅れて鈍い反応をする。
「そう言っている」
「...。...今は大丈夫かな。また困ったらお願いするね」
エリスは少し黙って考えた後、いつもよりも小さい声でそう答えた。まさか断ってくるとは思わなかったな。
エリスからはいつものような覇気が全然感じられない。何か気落ちすることでもあったのか、単に具合が悪いのか、あるいは別の要因か。
理由については見当が付かないが、やはりエリスの様子がおかしいのは間違いない。
ならばどうするか。一応、今感じている違和感を捨て、ここで話を打ち切るという選択肢は存在する。もしエリスがこのままの状態でいてくれるのであれば、今後リダンに付きまとってくることは少なくなるだろう。それに、下手に首を突っ込んでしまうと面倒事に巻き込まれる可能性も考えられるし、ここで引いておくというのは決して悪い選択ではない。
だが、これはエリス・ミューラーという人間を知る良い機会だとも考えられる。もしかしたら現状最悪なエリスとの関係を好転させる転機になるかもしれないし、そこまで上手くはいかなくてもエリスという厄介な存在を解決できるかもしれない。
それに、もしエリスがオレの探しているシュトラールブルーの裏切り者だったならば、何かしら手がかりが得られる可能性もある。
オレは色々と思考した結果、結局エリスにもう一歩踏み込む選択をすることに決めた。
「貴様、何かあったのか?」
「へ...?」
エリスはオレからの質問が意外だったのか、きょとんとした顔で少しうわずった声を出した。
「どうしてそう思ったの?」
「明らかに様子がおかしいだろう」
「おかしい...?あたしが?」
エリスが呆けた顔で自分の顔を指しながらそう聞いてくる。
「ああ。さっきからずっと反応が鈍いし、半分上の空といった感じだ。それに、普段は騒がしく絡んでくる貴様が今日はやけに静かすぎる。不気味なほどにな」
「...。あっ...。そう...かもね」
エリスはオレの言葉を聞いてハッとしたような顔を見せる。そしてしばらくそのまま固まった後、自分の頬を両手で軽く叩いた。
するとその直後、エリス雰囲気ががらっと変わった。
「いやー、実はさっき嫌なことがあってさ。そのことで悩んでたからちょっとぼーっとしてたかも。あたしらしくなかったね」
先ほどまでの様子とは打って変わって、エリスはそう言いながら明るく笑う。もうそこにはおかしな点などない、いつも通りのエリスが立っていた。ほんの一瞬でここまでの切り替えができるとは、流石としか言いようがないな。
それにしても、さっきのエリスの様子を見るに、エリスは自分の状態がおかしいことを自覚していなかったのだろうか。
エリスの能力を考えると演技の可能性も否定はできないが、少なくともオレの目にはそうとしか見えなかった。
「リダン君、もしかして様子がおかしかったから心配してくれたの?」
「勘違いするな。貴様が静かなのが不気味で気になっただけだ」
「えーっ?そこは心配したって言ってくれても良くない?」
「貴様を心配するなど、死んでもあり得んな。なんなら、オレとしては貴様がずっと静かなままの方がありがたかった」
「リダン君は相変わらず辛辣だなぁ。...まあでも、少しでも気にしてくれたってだけでも嬉しいし、今はそれで満足しておこっと」
エリスはそう言って、言葉通りの満ち足りた表情を見せる。
「それで、悩んでいたという件についてはもういいのか?」
「うん、大丈夫だよ」
「本当か?」
「ホントホント。実際のところ、そんな大した悩みでもなかったから」
先ほどまでの様子からしてどう考えても大したことじゃないはずはないのだが、エリスはそれを隠すように発言する。どうやら、事情を話してくれるつもりはないらしい。
「そうか。ならばいい」
オレはここで追及をやめ、これ以上は踏み込むことを諦めた。
裏切り者の件で少し探りを入れたいという思惑もあったが、今から他の話題に移ることも難しそうだし今日のところはここで引き下がった方がいいだろう。
ここであったのは偶然なわけだし、今日無理やりに行動を起こす必要はない。裏切り者の件については日を改めて探りを入れればいい。
「...ねぇリダン君。さっきさ、魔道具のことで話を聞いてくれるって言ってたよね?さっきは断っちゃったけど、やっぱりちょっと相談に乗ってくれないかな?」
オレがそろそろこの場を離れようかと思っていると、意外なことにエリスの方から話を続けてきた。
いや、普段のエリスに戻ったことを考えれば意外でもなんでもないかもしれないが。
「構わんぞ」
オレとしては都合のいい話なため、その頼みを受け入れる。
「ホント!?ありがとう!」
エリスは無邪気に嬉しそうな様子を見せる。表面だけを見れば本気で喜んでいるようにしか見えない。
「じゃあさ、今度ちょっと付き合ってよ」
「今度?今から選ぶんじゃないのか?」
「折角リダン君が付き合ってくれるんだから、今だけで終わっちゃったらもったいないじゃん。街の方にも魔道具屋さんはあるみたいだし、そっちに一緒に行きたいなって」
「そんな場所まで付き合うとは言ってないぞ」
エリスがオレの言葉を都合よく解釈して話しているため、一応つっこみを入れておく。
オレは多少は話を聞くこともできるといっただけだ。それはこの場での魔道具選びに助言するくらいならしてもいいという意味で、街の方の魔道具屋まで付き合うとは一言も言っていない。
まあ、とはいっても今のは建前というかリダンとしての体裁を多少考えての言葉だ。本音を言えば、オレはエリスのこの提案は受けてもいいと思っている。
エリスがまだ引き下がってくるのなら、これ以上拒否するつもりはない。なんならオレも色々と準備ができるため、後日改めて付き合う方が都合のいい部分も多い。
「えぇー?そんなこと言わずに付き合ってよー。放課後を一日くれるだけでいいからさ」
エリスはこちらを覗き込み、あざとい仕草でこちらに頼み込んでくる。
オレはそれに対し、少しの間考える仕草を見せてから口を開いた。
「...。...まあオレも話を聞くとは言ってしまったからな。今回だけだ」
「やった!」
エリスはまた無邪気に喜んでいる。
「それじゃ、いつ行こっか?リダン君はいつがいい?」
「明後日ならば都合がつく。それでいいか?」
「もちろん!久しぶりのデート、楽しみだなー」
エリスは本当に楽しみでたまらないような様子で、明後日のことに思いを巡らせている。エリスの事だからそれは表面上だけで、内面では何か面倒なことを企んでいる可能性が高そうだが。
その後は当初の予定通り、魔道具作成の道具を買ってから寮へと帰った。もしかしたら寮に帰るまでの間しつこく付きまとってくるかと思っていたが、向こうは何か用事があったようで、エリスとはあの後すぐに解散になった。
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