第92話「裏切り者候補」
特別演習後に与えられた三連休の二日目。
今日からシュトラールブルーの裏切り者の正体を探っていく。
一昨日のジークとの話でキスキルレッドの人間と関係を持っているクラスメイトの情報を手に入れ、その中で裏切り者として疑わしい人物が数人浮上した。その人物はエリス・ミューラー、ダルク・トリオンロード、ソフィーリア・メイサルの三人。
この三人はアイゼンとの関わりがあるらしい。ジークから話を聞くまですっかり忘れていたが、前哨戦の後の懇親会の際、確かにアイゼンの周囲でこの三人を見かけた。
裏切り者がアイゼン本人に直接情報を流している保障はないため他の人物が裏切り者である可能性もあるが、ひとまずこの三人を有力候補と考えていいだろう。
今後の計画としては、まずジークから聞いた情報の精度を上げていくつもりだ。そのためにはキスキルレッドの内情を入手したい。
キスキルレッドの生徒の中でオレが直接接触できるのはレイア、アース、ラースの三人だが、今回の目的から考えるとレイアが適任だろう。情報量としてはアースやラースの方が期待できそうだが、あの二人はアイゼンとは割と近い関係性のようだし、下手な話をするとアイゼン本人、ひいては裏切り者にも話が行きかねないからな。
そう考えたオレは、ひとまず今日はレイアに会って話を聞くことに決めて寮の自室から出た。
図書館へ行くと、レイアはいつもの席に座って一人静かに本を読んでいた。
オレが近づくとレイアもこちらに気付き、はにかみながら小さく手を振ってくれる。
「おはようございます、レイさん」
「おはようレイア」
挨拶を交わしながらオレはレイアの傍の席に腰を下ろす。
この場所は図書館の隅の方で、大きな声で話さなければ周りに会話を聞かれる心配もないため都合が良い。
「今日はどうされたんですか?」
「ちょっとレイアに聞きたいことがあってな」
「わたしにですか?何でしょう?」
読書中にも関わらずレイアは快く要件を聞いてくれるようなのでオレは遠慮なく本題に入ることにする。
「ちょっと変な質問なんだが、キスキルレッドの教室でシュトラールブルーの生徒を見かけたことはあるか?」
「ありますよ。たまに見かけます」
「何人くらい見かけるんだ?」
「わたしの記憶にあるのは三人ですね」
「それって誰だか分かるか?」
「一人はエリスさんですが、残りの二人は...すみません、お名前がわからないです」
キスキルレッドに顔を出しているシュトラールブルーの生徒が三人いてその内一人がエリス。この情報はジークから聞いた情報と合致する。
都合良く考えるならばレイアが名前を知らない残りの二人はダルクとソフィーリアという事になるが、まだ断定はできない。ジークの話では、この三人以外にもキスキルレッドの生徒と関係を持っている奴自体はいるらしいからな。
「名前が分からない二人の特徴とかって分かるか?」
「一人は女性で、髪がクリーム色で肩くらいの長さだったと思います。それと、女性にしては背が少し高かった気がします。もう一人は男性で、髪が明るい紫色で、背はリダンさんと同じくらいだったと思います。性格は遠くから見ただけなのでなんとも言えませんが、女性の方は控え目な印象で、男性の方は活発な印象でした」
女の方の特徴はソフィーリアと合致するが、男の方はどうやらダルクではなさそうだ。ダルクの髪色は暗めの紫色だからそこだけは少し合致しているが、それ以外の点が違う。身長はリダンよりも低いし、性格に関しても活発というよりは大人しい性格だ。
男の方の人物は恐らくネス・グリッドというクラスメイトだろう。性格についてはよく知らないが、外見の特徴に関しては一致しているし、ジークからの情報でもネスがキスキルレッドの生徒と関わりを持っているという話があった。
「その三人はキスキルレッドの教室に何をしに来てるかは分かるか?」
「さぁ...?流石にそこまでは...」
「キスキルレッドの教室に行ってるってことは誰かに会うために行ってると思うんだが、その三人が誰と良く話しているかとか分からないか?」
「そうですね...。エリスさんじゃないほうの女性の方はアイゼンさんに会いに来ているようです。男性の方はカミラさんという方やニーナさんという方、カトリーヌさんという方とお話している姿をお見かけしたことがあります。エリスさんに関しては色んな方とお話している姿を見かけますね」
「エリスや男のほうはアイゼンとは話していないのか?」
「エリスさんはアイゼンさんともお話しているようですが、男性のほうはアイゼンさんとお話しているところを見たことはないですね」
「なるほどな...」
とりあえず、最低限確認したかったことは確認できた。ジークの情報通り、エリスやソフィーリアがアイゼンと関わりを持っていることを聞けたのは大きいな。
「ありがとうレイア、参考になった。急に質問攻めにして悪かったな」
「いえ、これくらいの事ならいつでも言ってください」
普通ならばオレが突然こんなことを聞いてきた理由が気になると思うが、レイアは特に気にしている様子はない。
気を遣っているのか本当に気になっていないのかは分からないが、正直なところ理由を聞かれないのは助かる。
「今日はもう行ってしまうんですか?」
オレが席を立とうとしたからか、レイアが少し寂しそうな顔でそう聞いてくる。
話を聞いたらすぐに去る予定だったが、そんなレイアを見てオレは予定を変更することにした。
「いや、今日はここでしばらくゆっくりしていこうと思う。最近は本を読む機会もなかったしな」
先月は色々と忙しかったため、この場所に来たのは大体2週間ぶりだ。
久しぶりに顔を見せたと思ったら自分の要件だけ済ませてさっさと去るというのは、レイアからしたらあまり気分が良いものではないかもしれない。
交友関係が少ないオレにとって、こうして割と気兼ねなく話ができる相手というのは希少だ。今回のようなケースを考えて、レイアとの関係はできるだけ良好なものにしておいたほうが都合が良い。
それにレイアとこの場所で本を読む時間は、オレが多少は楽しいと思える貴重な時間だからな。先月は忙しくてその時間をあまり取れなかったから、今日はこの時間を満喫することにしよう。
「本当ですか!?嬉しいです」
レイアはそう言って小さく笑顔を作った。
「折角だし、レイアのオススメを見繕ってもらえないか?」
「もちろん良いですよ。どういったものをご所望ですか?」
「そうだな...。主人公が影で暗躍するような、いわゆるスパイ物の作品で面白いものは無いか?」
特に読みたいジャンルが思い浮かばなかったため、現状になぞらえたものを選択することにした。
スパイといえば裏切り。今の状況にはピッタリだろう。こういった作品を読むことで、多少は裏切り者の心情が理解できるかもしれない。
「なるほど。では、少し待っていていただけますか?」
「もしかして探してきてくれるのか?」
「はい。大体の場所は分かってますから」
「なら一緒に行こう。その方が手間も少ないだろ」
「そうですね。では行きましょうか」
オレとレイアは一緒に席を立ち、目的の本を探しに向かう。
その後は勧められたスパイ物の小説を数冊読んで感想を話し合い、図書館が閉館する時間までレイアと共に過ごした。
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