第89話「第3王子と秘密の話」
エルトシャンとの話を終えて寮に戻ると、部屋の時計は20時過ぎを指していた。
放課後になってから約2時間。そろそろ一度ジークに連絡してみたほうがいいだろう。
今の時間にジークが一人でいる保証は何もないが、そんなことを気にしていてはいつまで経っても話ができない。
そもそも、ジークの周りの人間から反感を買うというのはあくまで可能性の話だし、そこまで考え過ぎる必要もない気がする。注意できるならしたほうがいいというくらいのものだ。
オレは手元のポータブルを操作してジークのポータブルを呼び出す。するとジークはすぐに応答してくれた。
『珍しいね。リダン君から僕に連絡をくれるだなんて』
「貴様に少し用があってな。今は一人か?」
『うん。さっき寮に帰ってきたところだよ』
どうやら連絡を取るタイミングは完璧だったようだ。
「ならば丁度いい。今から他言無用の話をしたいんだが、しばらく時間を貰えるか?」
『もちろん大丈夫だよ。どうやらとても大事な話みたいだね』
ジークはオレからの突然の申し出にも訝しむような様子を見せない。ポータブル越しだと相手の表情は見えないし感情も伝わってこないため本心は分からないが、オレとしては話を切り出しやすくて助かるところだ。
「今後に関わる重要な話だ。オレにとっても貴様にとってもな」
ジークという人物がオレの思っている通りの人間なのだとすれば、今回の話はジークにとっても悪い話ではないはずだ。
『そっか。じゃあ折角なら僕の部屋に来ないかい?そんなに大事な話なら直接したほうがいいと思うんだ』
「そうだな。では今から向かう」
オレはジークから部屋の場所を聞き出し、ポータブルを一度切ってから移動することにした。
同じ建物内のためそれほど時間もかからずにジークの部屋の前に到着する。扉をノックするとジークが爽やかな顔で出迎えてくれた。
とは言え爽やかなのは顔だけで、刺さってくる感情にはいつも通り強烈な棘がある。
「いらっしゃいリダン君」
そのままジークに部屋の中に招き入れられ、オレはまず部屋を見回した。ほぼ無いだろうが、ジークはリダンを酷く嫌っているため何か罠のようなものを仕掛けている可能性もあるからな。
ジークの部屋はとても綺麗で、普段から掃除や整理を行っているようだ。飾りなどはあまり多くはないが、殺風景というわけでもなく所々に少し高価そうな装飾品も見受けられる。
趣味趣向が分かるようなものは見える範囲にはないが、書物が多く置いてあることから、普段はそれらを読んでいるのかもしれない。
ジークは以前のテストで満点を取っていたし、時間がある時は部屋で勉強でもしているのだろう。
とりあえず、見たところ問題はないようだったのでオレはジークに促されるままに椅子に座った。
「飲み物を淹れるけど、リダン君は何か希望はある?」
「気遣いなら不要だぞ」
「そうはいかないよ、今のリダン君はお客様だからね。ちゃんとおもてなしをさせて貰わないと」
「律儀だな」
貴族の、いや王族のマナーなんてなにも分からないが、客をもてなさないのは失礼にあたるというのは何となく想像がつく。ジークはこのような場でもそれを怠けるつもりはないらしい。
「そうかな?普通のことだと思うけど」
「客と言ってもただのクラスメイトだろう。それに、今回はオレから持ちかけた話だ」
「それは関係ないよ。人を迎える時はどんな時でも、相手が誰であろうと失礼のないようにもてなすよう教えられてるしね」
「そんな教えを守らねばならんなど、面倒なことだな」
「かもね。とは言っても、今は割と肩の力を抜かせてもらってるよ。本来なら言葉遣いや立ち振る舞いにはもっと気を付けないといけないからね」
「ともかくオレに対して気遣いは不要だ」
「そうかい?でも、長い話になるなら飲み物はあったほうがいいだろうし、やっぱり何か淹れておくよ。いらないなら手を付けなくてもいいから」
ジークはそう言って飲み物を淹れにオレから離れて行った。
しばらくしてジークが戻ってきて、机の上に2つのカップとそれに合いそうな菓子が置かれる。
「サニタールか」
「よく分かったね。その通り、サニタールのハーブティーだよ」
サニタールは体内のマナの巡りを促進する成分を有しており、日常的に摂取することで、微量だがマナ含有量が増えたという実験結果もある。
「実はレナス先生から貰ったんだ。これを飲んでいればマナ含有量が増えるかもしれないってね」
レナスはオレが研究を手伝っている相手の一人だ。学園でマナ含有量の研究をしており、ジークは自身のマナ含有量を増やすために、学園に入学する少し前から色々と相談しているらしい。
「結構味にも自信があるから、さっきはああいったけど良ければリダン君も飲んでみてほしい」
ジークはオレにサニタールのハーブティーを勧めてくる。そう言われて断る理由もないため飲むのは問題ないが、念のため何か危険な物が入っていないかだけ確認する。
数秒観察したところ少しだけ気になる点があったが、特に危険や害があるわけではなかったため、オレはカップを手に取った。
「美味いな」
オレは味の良し悪しについてはあまり分からないが、飲める味ではあったためとりあえず無難にそう答える。
「そっか、ありがとう。口に合ったみたいでよかったよ」
ジークは少なくとも表面上では嬉しそうに笑い、自身もハーブティーを一口飲んだ。
ジークは口に合って良かったと言ったが、正直飲食物の味についてオレにはこだわりはないし、好みなんかも自分自身よく分からない。
今まで特別美味いと感じたものと言えば、リグレクト家で食べた料理くらいだが、あの時は施設を出たばかりで色々なものが比較的新鮮に映っていたから特にそう感じただけで、また食べたいほど気に入っているかと言われればそうでもない気がする。少なくとも、あの味を今は大して思い出せない。
そう言えば、何かの小説では食というのも人間の感情を大きく揺さぶるファクターとして描かれていた。実際、過去にはこの大陸で食を巡った争いが起きたこともあるらしいが、オレからしたらにわかには信じがたいことだ。
まあ、飲食物に強い情熱やこだわりを持つ人間がいたら、じっくり観察するのも悪くないかもしれない。それが感情を知るピースになってくれる可能性もある。
「さて、それじゃあリダン君の話を聞かせてくれるかい?」
オレが飲食物について考え事をしているのをよそに、一息ついたタイミングでジークが用件を話すように促してくる。
オレはジークの目をしっかりと見据え、話を切り出すことにした。
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