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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第5章「協力者編」
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第88話「英雄の隠し事」

 エルトシャンとの通話を終えたオレは、まずイヴに連絡を取り事情を説明した。

 イヴはリダンから連絡がきたことに少し驚き、不思議に思っている様子だったが、話の内容を聞くとすぐに納得していた。

 イヴはまだ寮には帰っていなかったようで、一度集まってから向かうと余計な手間がかかるためエルトシャンの屋敷の前で落ち合う約束をして通話を切った。

 それから寮の自室を出て一人でエルトシャンの屋敷に行くと、既にイヴが屋敷の門の前で待っていた。

 イヴもこちらに気が付いたようで、礼儀正しく頭を下げる。


「待たせたな」


「いえ、私も先ほど着いたばかりですから」


「元々近くにいたのか?」


「はい。今日は授業が終わってから、友人とすぐそこのショッピングモールに行っていたんです」


「そうか。邪魔をして悪かったな」


 今まではこういう気を遣うような発言はしてこなかったからか、イヴは一瞬だけ意外そうな顔をしたが、すぐにこちらに微笑んだ。


「いえ、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」


 オレの社交辞令のようなセリフにもイヴは丁寧に返してくれる。貴族の令嬢としてこういう対応には慣れているのだろう。


「ところで、一緒にいた友人というのはシュトラールブルーの奴か?」


「そうですよ。ソフィーリア様です」


「ソフィーリア...。確か、クラス対抗戦に出ていた奴か」


 クラスメイトのソフィーリア・メイサル。4月の特別演習「クラス対抗模擬戦」の時に選手として選ばれていたためその際にジークから軽く紹介を受けたが、今まで直接話をしたことはなくどんな人物なのかはほとんど知らない。

 一応知っていることと言えば、マナ含有量が基準値の約15倍程度であることや、適正属性は光であること、それとリダンに直接突っかかってくるような性格ではないという事くらいだ。


「ソフィーリア様がどうかされたのですか?」


 オレが少し考えるような仕草をしたからか、イヴがそう問いかけてくる。


「いや、どんな奴だったかと思っただけだ」


「ふふっ、珍しいですね、リダン様がクラスメイトの方に興味を持たれるなんて」


「おかしいか?」


「いえ、そんなことはないですよ」


 イヴは嬉しそうにこちらを見ながらそう言う。

 これからクラスメイトとの関係を構築していくためにはクラスメイト一人一人の人間性を知っていくことも必要になってくる。だが、考え無しに接触していった所で煙たがられて逆に関係を悪化させかねないからどうにも難しい。

 以前にリダンとクラスメイトを繋ぐ架け橋としてイヴを使えないかと考えたことがあったが、今のイヴとの関係ならばそれに近いことは可能かもしれないな。

 今はエルトシャンを待たせているためこれ以上の追求はしないが、機会があればイヴにソフィーリアの事を聞いてみることにしよう。


「では行くぞ」


 オレの一言で歩き出し、イヴと並んでエルトシャンの屋敷へと入っていく。

 屋敷の敷地内に入ると、以前に招かれた時と同様に使用人がエルトシャンの下まで案内してくれることになった。

 屋敷内を歩いていると以前に来た時にも感じた違和感を足元の方から感じたが、それを無視して使用人について行く。この件も含めてエルトシャンには訝しい点がいくらか見受けられるが、今つついた所でエルトシャンとの関係に亀裂が入るだけで何も良い事はない。

 少ししてエルトシャンの待つ部屋の前にたどり着き、そのまま中に招かれる。


「よく来てくれたね。まずは二人とも座ってくれ」


「エルトシャン様、お招きいただきありがとうございます。失礼致します」


 イヴはエルトシャンに向かって丁寧に挨拶をしてから席に座る。いつものイヴらしい上品な佇まいだが、少しだけ緊張しているようにも見える。

 最近はオレにとってエルトシャンは割と身近な存在だったが、この大陸の人たちにとってはかなりの大物、なんなら偉人といってもいい人物らしいからな。多少緊張するのは当然か。

 エルトシャンの方もイヴがいるからか、いつもの軽めの雰囲気ではなく初めて見た時のような威厳のある振る舞いをしているようだ。


「イヴ君はリダン君から大体の要件は聞いているね?」


「はい。昨日の件で魔物についてのお話があると伺っています」


「その通り。リダン君からの報告では、イヴ君が魔物を操る人間に攫われて襲われたと聞いている。...まずは謝らせてほしい。私たちの監督不足でキミを危険な目に遭わせてしまいすまなかった」


 エルトシャンは座ったまま、イヴに向けて深く頭を下げた。


「いえ、顔をお上げになってください。昨日の件はエルトシャン様のせいではありません。それに、確かに恐ろしい目に遭いはしましたが、この通り私は無事です。リダン様に助けて頂きましたから」


 そう言いながら、イヴはリダンのほうにちらっと視線を向ける。その視線からは強い感情が感じられた。


「そう言ってもらえるとこちらとしては助かる。...さて、これから本題に入るわけだが、その前に一つだけ言っておきたい。先ほどリダン君には伝えたが、これから話す事は世間には秘密にしている内容だ。しかし昨日の一件があって、リダン君がその秘密について疑問を持ってしまったようだから、下手に邪推されないようキミたち二人には話しておいた方がいいと判断した。それを重々理解して、これから聞く内容を誰にも話さないと約束してほしい」


 エルトシャンは神妙な面持ちでそう切り出した。オレとイヴはそれに対して了承の返事をする。


「では本題に入ろうか。リダン君は昨日の件で、魔物の生態について疑問を持ったんだったね」


「そうだ」


「キミ達は、魔物はゲートから自然発生するものだと教えられているね?」


「ああ。だが昨日の件と貴様の様子からして、それは真実ではないようだな」


 オレはもちろん魔物の起源については知っているが、今はリダンとして知らない体で話を聞く。


「リダン君の推測通りだ。魔物がゲートから自然発生するという話は私が流した嘘の話だからね。魔物も、そしてそれが現れるゲートも、人為的に作られているものだ。そして、魔物を作っている者たちは作った魔物を操ってゲートから送り込んでいる」


「つまり、その魔物とゲートを作っているのが昨日見た女だと?」


 魔物について嘘の情報を流していたという部分も気になるが、今はそこには触れずに話を進めさせる。


「そう。だが、昨日リダン君が見た人物は恐らくその内の一人に過ぎない。魔物を作り、ゲートで各所に送り込んできている人物は複数人いると考えている」


「そいつらは何者なんだ?」


 オレの問いかけに、エルトシャンは少しだけ間を置いて返答する。


「...確証はないが、人魔戦争の際に仕留め損ねたヴィルス・エリアルード支持派の残党だろう。魔物を作る技術を持っている集団など、その者たち以外に考えられないからね」


「そいつらがどこにいるか、検討はついていないのか?」


「残念ながら、具体的な場所は全く分かっていない。ただ、人魔戦争が終わった時に彼らは大陸の外へと逃げて行ったから、恐らくこの大陸にはいないだろう」


 今のエルトシャンの話を聞いて、オレの中で一つの推測が立った。


「リダン君の疑問はこれで解消できたかな?」


「追加で聞きたいことがある。なぜ貴様はこの情報を隠し、偽の情報を流している?」


「それは...。皆に安心して暮らしてもらうためだ。今でもヴィルス派の残党が魔物を使って攻撃を仕掛けてきていると知れば、今のように穏やかには暮らせないだろう。また人魔戦争の時のように恐怖に包まれた日々送ることになるかもしれない。人魔戦争の傷を掘り返すようなことはしたくないんだ」


「なるほどな...」


 エルトシャンの語った理由が真実なのかは分からないが、一応の納得はできる。

 恐らく、エルトシャンは今本人が言った理由から、人魔戦争が終結してすぐ徹底的に情報統制をしたのだろう。当時、人魔戦争を目の当たりにした者の中には魔物がゲートから自然発生するという事に疑問を持つ者もいたはずだ。だが、そういった意見を握りつぶし、強引に人々の記憶から人魔戦争を離れさせるようにした。


「イヴ君も、他に聞きたいことはないかな」


「はい、大丈夫です」


 イヴはここまで静かに話を聞いていたが、特に疑問点はなかったらしい。もしかしたらエルトシャンに遠慮しているだけの可能性もあるが。


「では話はこれで終わりだが、リダン君には少し話があるから残ってもらえるかな?」


 もう話は終わりだろうと思い席を立とうとしたオレだったが、エルトシャンがそれを引き留めた。


「それでは私はこれで失礼致します。エルトシャン様、お話を聞かせていただきありがとうございました」


 自分は退出するべきだろうと判断したイヴが席を立ちエルトシャンに深く頭を下げて礼を言う。そして、オレの方にも軽く挨拶をしてから部屋を出て行った。

 扉が閉まった後、エルトシャンが改めてオレの方を見る。


「彼女はキミをとても信頼しているようだね」


 イヴがいなくなると、エルトシャンはいつもの軽い雰囲気に戻った。


「話とはそんなことか?それならば帰らせてもらうぞ」


「もちろん、本題は別にあるよ。ただ単にキミにそういう存在ができたことが微笑ましいと思ったんだ。気に障ったなら謝るよ」


 エルトシャンはエルトシャンなりにリダンを気にかけてくれていたということだろうか。


「ふん...。さっさと本題に入れ」


「そうだね。話は二つあるんだけど、まずは軽い方から話そうか。以前から約束していた僕とキミの模擬戦の日程についてなんだけど、今月の中頃に少し時間が取れそうなんだ。まだ具体的な日程はわからないけど、そのあたりでどうかな?」


(別にいいよな?リダン)


(ああ)


「問題ない」


 オレは一応リダンに確認をとってから返答する。仮に所有権がオレにある日を指定されても、模擬戦の間だけリダンに所有権を与えれば問題はないだろう。


「ありがとう。具体的に決まったらまた連絡するよ。...それで、もう一つの話なんだけど、実はリダン君に内密の依頼をしたいんだ。さっき話した、魔物を送り込んできているヴィルス派の残党について調査してほしい」


「ヴィルス派の残党の調査だと?何故そんなことをオレに頼む。もっと適任がいるだろう」


 戦闘に関すること、あるいは闇属性の魔法が活かせることをリダンに頼むのは理解できるが、何かの調査にはリダンが適任とは言えないだろう。『悪魔の子』の噂もあってリダンには情報収取は向いていない。


「リダン君一人に任せるつもりはないよ。気に留めておいてもらって、何か手がかりになりそうなことがあれば教えてくれるだけでいいんだ。ヴィルス派の残党の話はごく一部の人たちしか知らないことだから、頼める相手は限られていてね」


「...なるほどなそういう事ならば頼まれてやろう」


「ありがとう。それじゃあよろしく頼むよ」


 今日聞いたエルトシャンの話から、一つ推測できることがある。恐らく、ヴィルス派の残党というのはオレがいた施設の人間達の事だろう。エルトシャンも言っていたが、魔物を作る技術を持っていてそれをゲートで送り込んできている集団が他にある可能性は低い。

 そう言えば、あの施設がヴィルス派の残党が作った場所だとするならば、何のためにあの施設を作ったのだろうか。生まれてからほとんどの時間を過ごしたにも関わらず、オレはあの場所についてほとんど何も知らないのかもしれない。

更新ペースが遅くなっており申し訳ありません。

現在更新中の第5章は7月末までには完結予定です。

今後の更新ペースは3ヵ月から4ヵ月に1章を予定しています。


話が面白いと思ってくれた方や続きが気になると思ってくれた方は、

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