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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第5章「協力者編」
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第87話「魔族と魔物」

 エリスと別れて寮の自室に戻ったオレは、まずベッドに腰を下ろした。

 今日はジークと話をする前提で色々と考えていたため、実はこの後の予定が全く決まっていない。

 今からポータブルでジークに連絡を取ってもいいが、さっきまでの教室での様子を考えるとまだ早い気がする。

 他のクラスメイトと話している所をリダンが邪魔しても、ジーク本人はあまり嫌な顔はしないとは思う。だがやはり、ジークと話していたクラスメイトから余計な反感を買う可能性は否定できない。

 できればジークが一人になるであろう、もう少し遅い時間帯に連絡したい。大体今から1時間から2時間後くらいが丁度いいだろう。


 であればそれまでの時間をどう過ごすか。

 こうして暇な時間ができるのは久々かもしれない。施設で良く暇を持て余していた頃を思い出すな。

 施設にいた頃は色々なことをさせられたが、基本的には一人でベッドの上で過ごす時間が多かった。

 あの頃は身体的な意味でも施設の束縛的な意味でも体を自由に動かせなかったため、暇な時間には先生が与えてくれた本を読むか、適当に周囲のマナを操作して遊ぶくらいしかやることがなかった。

 あまり感情が動かないオレですら、何もやることがなさすぎて退屈を感じていたものだ。

 とは言え、体を自由に動かせる今でも特に積極的にやりたい事というのは浮かんでこない。

 今オレの頭の中にある選択肢は、図書館にいって読書でもするか、誰かの研究室に顔を出して研究の手伝いをするかというくらいだ。

 オレは少しの間悩んで、結局図書館に向かうことに決めた。最近は少し多忙だったため小説を読む機会も少なかったし、折角友人になったレイアともご無沙汰だったからな。

 そう思い、オレが部屋を出ようと立ち上がろうとしたタイミングでポータブルが光り出す。

 相手の名前を確認すると、そこにはエルトシャン・レイドの文字。オレはすぐに応答し、ベッドに座り直した。


『やあリダン君。今時間は大丈夫かい?』


「ああ。用件は昨日のことか?」


 昨日のネルとの一件は、学園側に対してはモック山に魔物が発生した事しか伝えていない。昨日は治療が終わった後は、今回の件を絶対に口外しないようにとだけ釘を刺されてそのまま寮へと返された。リダンとイヴの怪我のこともあり、気を遣ってくれたのだろう。

 その際、詳しい話は後日改めて聞かせてもらうとも言われたため、このタイミングでエルトシャンから連絡があった時点で、大方の用件は予想がついていた。


『その通りだよ。報告を聞くに、昨日の一件はただの魔物の襲撃ではなかったんだろう?』


「まあそうだな。そちらでもある程度の察しはついているのか?」


『いくつか予想は立つけど、具体的に当たりを付けているわけではないよ。キミとイヴ・リグレクト君が結構な傷を負っていたと報告があったから、キミほどの人物が苦戦を強いられるなんてただ事じゃないと思っただけさ』


「別に苦戦をしたわけではないがな」


 特に大した意味はないが、リダンならば苦戦したことなど認めないだろうと思い、否定してみる。


『そうなのかい?...とすると、キミが受けた傷はイヴ君を庇った時のものということかな?』


 流石というべきか、エルトシャンはオレの適当な言葉にも意味を見出して事実を推測してきた。


「そんなところだ」


『へぇ...。やっぱり僕はキミを少し誤解していたのかな。先月から、キミの好ましい一面が見れて嬉しいよ』


 エルトシャンの言葉が本心かは分からないが、エルトシャンから好印象を持たれることは悪い事じゃない。


『さて、そろそろ本題に入ろうか。昨日の一件の詳細を教えてくれるかい?』


 エルトシャンにそう促され、オレは昨日の一件について一部分を隠して事細かに説明した。

 モック山の山頂でゲートが開き、大量の魔物が出現したこと。

 その魔物の相手をするためにリダンがイヴから離れていたタイミングで、イヴが何者かによってゲートの中に連れ込まれたこと。

 イヴを追ってゲートの中に入ると、見知らぬ洞窟に繋がっていたこと。

 イヴをゲートに連れ込んだ犯人は人間だったこと。その人間は魔物を操っている様子だったこと。

 イヴの救出には成功したが、イヴを撤退させるために傷を負ったこと。

 魔物を囮にされてその人間を逃がしてしまったこと。

 オレが全てを説明し終えると、一呼吸置いてからエルトシャンが話し始める。


『なるほど、大体分かったよ。リダン君、そのイヴ君を連れ去った人物は確かに魔物を操っていたんだね?』


「少なくともオレにはそうとしか思えなかったな」


『その人物の事は何かわからないかな?名前や目的、見た目の特徴でもなんでも構わないから分かることがあったら教えて欲しい』


 名前はネル・ローリエ。目的はリダンの力か、あるいはオレへの探りを入れに来たという所だろう。だが、そんなことはリダンが知り得る情報ではないため当然伝えない。


「名前や目的は分からんが、外見はオレと同じくらいの背丈で赤髪の女だったな」


『赤髪...。それに、リダン君と同じくらいの背丈ということは結構な長身だね』


 ポータブル越しのためエルトシャンの姿は見えないが、何かを考えながら話していることが伝わってくる。


『その人物は、普通の人間の姿をしていたのかい?』


「普通の人間の姿とは、どういうことだ」


『例えば背中から翼が生えていたり、頭から角が生えていたりといった、普通の人間と違う異形の姿をしていなかったかを知りたいんだ』


「つまり、オレの見た相手が魔族ではないかと疑っているということか?」


『まあそういうことだね』


 魔族とは、人魔戦争の際にヴィルスが生み出した種族の一種だったな。人間にはない角や翼などがある異形の姿を持つ者を総じてそう呼ぶらしい。

 人魔戦争の際にヴィルスによって生み出された種族という点ではロイヤ族、フィル族、アニマ族と同じだが、魔族はその人間離れした姿から、人魔戦争中はもちろん終わった後も迫害されることが多かったため、現在この大陸で暮らしている魔族の数はかなり少ないそうだ。

 オレも実物を見たことはなく、この体に入ってから得た程度の知識しかないため詳しくは知らないが。


「断言はできないが、オレが見た奴は魔族ではなかったと思う。見た限りでは翼や角のようなモノは見当たらなかったし、隠している様子もなかったからな」


 なにより、ネルが魔族であるならばオレがそれを知らないのはおかしい。施設にいた頃からオレはネルの事を知っているが、ネルの体は普通の人間の体だったはずだ。


「貴様の口ぶりからして、思い当たる奴でもいたのか?」


『そうなんだけどね。どうやら僕の勘違いだったようだよ。僕の思っていた人物は、頭から二本の角が生えていて背中からは羽が生えているはずだから』


「そのようだな。他に聞きたいことはあるか?」


『聞きたいことは十分分かったよ。ありがとう、リダン君』


「そうか。ならば今度はこちらからいくつか聞きたいことがある」


『何かな?僕に答えられることならなんでも答えるよ』


「オレが貴様に聞きたいのは魔物の生態についてだ。今回のように、人間が魔物を操るというのはよくあることなのか?そもそも、魔物はゲートから自然発生してくるものだと聞いているが、魔物はどうやって生まれているのか貴様は知っているか?」


 昨日の一件からリダンがこの辺りの事に疑問を持つのは不自然ではないだろう。

 魔物については、エルトシャンが何かしらの情報統制をしている可能性が高い。昨日、口外しないように釘を刺されたのも、この辺りの事情を外に漏らしたくなかったからだと思っている。

 今回はそれを聞き出すいい機会なので、探れるだけ探っておきたい。


『魔物の生態について...か』


 ポータブル越しだが、エルトシャンの雰囲気が少しだけ変わった気がする。


『今回の事で変に邪推されても困るし、リダン君には話しておいたほうがいいかもしれないね...』


 エルトシャンはそう小さく呟くと、しばらく沈黙した。


『...リダン君、この後話すことは決して誰にも話さないと約束してくれるかい?』


 そして次に口を開くと、神妙な声でそう問いかけてきた。


「ああ。もとより話す相手もいない」


『なら、この後僕の屋敷に来られるかい?こういう話はできれば直接したい』


「ああ。分かった」


『それと、できればイヴ君にも声をかけてもらえるかな?彼女もキミと同じような疑念を持っているかもしれないからね。折角だから一緒に話しておこうと思う。もちろん、彼女が望むならだけど。どうかな?』


「オレは構わんぞ」


『ありがとう。じゃあ待っているよ』


 そうしてエルトシャンとの通話を終え、ポータブルは光を失った。


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