第86話「腹黒少女は信用できない」
今日の授業が終わり放課後になると、オレはまず一人のクラスメイトに視線を向けた。
オレの視線の先にいるクラスメイト、ジーク・シュトラールは、放課後になったばかりにも関わらず既に何人かのクラスメイトに囲まれている。
ジークと少し話したいことがあったため今日一日ずっと様子を伺っていたが、ジークの周りには常に誰かがいて中々声をかけるタイミングが掴めなかった。
無理に割り込んでクラスメイト達から反感を買っても困るし、そもそもジークにしようとしている話は極力他の人物には聞かれたくない話なためこちらからは動き辛い。
こういう時に限って向こうからこちらに近づいてくることもなく、気付けばもう放課後だ。
今ジークの周りにいるのはルフト、カノン、オスカーの三人。この三人は特にリダンとの関係も険悪なため、安易に近づくのは躊躇われる。
しばらく様子を見てジークが一人になるのを待っていたが、すぐに解散するような雰囲気ではなかったためオレは諦めて教室を出ることにした。
「やっ、リダン君。一緒に帰らない?」
教室を出たところで、強烈な感情と共に横から声をかけられる。
声の方を向くと、そこにはクラスメイトのエリス・ミューラーがこちらに軽く手を上げて立っていた。
以前に必要以上に付きまとわない約束をしてからエリスからの接触は少なくなったが、それでもたまにこうして声をかけてくる。
「ついて来たいのなら勝手にしろ」
刺さってくる感情が痛いという以外には誘いを断る理由もないためオレはそう答える。
エリスの対処方法についてはあれから特に進展はない。というより、最近は大してエリスの事は考えていなかった。
以前は邪魔になりそうだったため排除することしか頭になかったが、今程度の接触が続くのであればしばらくの間はオレから何かする必要はない気がしてきたからだ。
「いいの!?やったねー」
エリスは少しこちらとの距離を縮めながら、はしゃぐようにそう言う。
内心を知らなければ本気で喜んでいるようにしか見えない。
ジークもそうだが、こうして内心を隠して表面上は全く嫌悪感を感じさせない振舞いができることは素直に称賛するところだ。
少なくともオレには絶対に真似できない芸当だからな。
「昨日は惜しかったねー。どこかで後1点取れれば私達のクラスの勝ちだったのに」
エリスはオレの横に並びながら、昨日の特別演習の話題を切り出してきた。
「そうだな。貴様ら雑魚共がもう少しマシだったなら結果は違っていたかもしれん」
リダンらしさを残しつつエリスの話に乗ることにする。
「うわっ、手厳しいなぁ」
「オレは事実を言っているだけだ」
「...ていうかもしかして、今のって唯一最下位だったあたし達のグループに対して言ってた?結果はふるわなかったけどこれでも一生懸命やったんだよ?」
エリスは少し大げさにリアクションを取りながらそう言う。そういうつもりは無かったが、オレの発言をエリスへの皮肉だと捉えたのかもしれない。
「別に特定の誰かに対して言ったわけではない。今のはあくまで客観的な意見を言っただけだ」
「だよね!良かったぁ」
エリスは胸に手を当て、心底安心したような様子を見せる。これも演技なのだろうが、本心からそう思っているようにしか見えない。
「前にも言ったが、オレはクラスの勝敗など興味はないからな」
実際にはクラスが勝った方が多少雰囲気も良くなるだろうからその方が都合がいいが、それはそれほど重要だとは思っていない。リダン本人もやはりそれほど興味はないだろう。
「確かにリダン君は前にそう言ってたけど、ちょっと心配になっちゃったよ。リダン君に嫌われるなんて絶対嫌だもん」
「以前から思っていたが、貴様はやけにオレにこだわるな」
エリスのこのような発言はいつものことだが、オレは後の可能性を考えて今日は拾い上げることにした。
「そりゃ、あたしにとってリダン君は特別だもん」
好意的な意味ではないがエリスがリダンに対して特別な感情を抱いていることは、刺さってくる感覚からして事実だろう。
「特別扱いされるほどの関係を築いた覚えはないが」
「最初に言ったけど、あたしは強い人が好き。だからリダン君はその強さだけであたしにとってはすごく特別なんだよ」
「強者が好き...か。これまで、オレのこの力を利用しようと近づいてきた奴らは少なくない。貴様もそんな奴らの一人というわけか」
リダンの過去は知らないが、今までの言動からしてそういった事がよくあったのは推測できる。
「えーっ、心外だなー。そんなわけないじゃん!リダン君、あたしの事そんな風に思ってたの?」
エリスは少しだけ怒ったような言い方で、オレに詰め寄るようにそう言う。
本当に心外だと怒っているのか、これが振りだけなのかは不明だ。オレの推測では後者だが、断定はできない。
「貴様の普段の言動を見る限りでは何かを企んでいるようには見えんが、そう言った奴らは外面を取り繕うのだけは達者だからな。貴様がそうでないという根拠はない」
『感情感覚受信』の天啓で伝わってくる感情からして、エリスが何かを企んでリダンに接触していることは確かだ。まあ、それが何なのかは今のところ分からないが。
「確かにそういう人もいるのかもしれないけど、あたしはそうじゃないって。あたしは、ただ純粋にリダン君が好きなだけだよ?」
エリスはそう言って一歩大きく前に踏み出してからこちらを振り返り、笑顔でこちらの目をのぞき込む。
「どうだかな」
「もーっ、リダン君は疑り深いなぁ」
エリスは少し呆れたように、じっとりとした視線をこちらに向けてくる。
「オレから言わせれば、他人を簡単に信用するほうがどうかしていると思うがな」
「それってなんだか悲しくない?リダン君だって仲良くしてる人はいるよね?ナディアちゃんとかイヴちゃんとか。キスキルレッドのアース君やラース君とも良く訓練場で一緒にいるみたいだし。あ、後、レイアちゃんとも結構仲がいいみたいだよね。その子達の事も信用してないの?」
エリスの言葉にオレは少しだけ驚いた。二日に一度訓練を共にしているナディア達はさておき、レイアとの関係を知られているとは思わなかったな。
特に隠しているわけではないし図書館やその帰り道では一緒に居ることが多いため、どこかでそれを見られていたのだとしたら知られていても不思議ではないのだが、流石の情報網だと少し関心する。
「簡単には信用しないというだけだ。そいつらにはある程度の信頼は置いている」
実際にリダンがどう思っているのかは知らないが、少なくとも全く信頼していなければわざわざ面倒を見るような事はしないだろう。
程度の差はあるが、あの四人はリダンにも好意的な感情を多く向けてくれるからな。
レイアについてはリダンがどう思っているのか知らないが、そこにわざわざ触れる必要もない。
「そうなんだね。...リダン君にそう思われるなんて、羨ましいなぁ」
エリスはしんみりとした様子で独り言のように小さくそう呟く。
少しの静寂が生まれたので、オレはエリスに一つ問いかけることにした。
「逆に一つ聞きたい。貴様は多くの奴らと交流を持っているようだが、その全員を簡単に信用できるものなのか?」
「んー、そう改まって聞かれると少し難しいなぁ。もちろん、基本的にはみんな信じられるけど、やっぱり色んな人がいるから無条件に全員を信じてるかって言われたら、正直違うのかも」
エリスは人差し指を顎の辺りにあて、首を少し傾げながらそう答える。
「つまり、貴様にだって簡単には信用できない奴もいるのだろう?オレにとってはそういう人間が多いというだけだ」
「あたしもリダン君にとってはその一人って事?」
「そうだな」
「うわぁ...。面と向かってそう言われると流石にショックだなぁ。...ねぇリダン君、キミから信頼してもらうにはどうしたらいいのかな?」
「直球だな」
「だって、もうその方が早いかなって。教えてくれたら頑張ってそうするからさ」
「オレに付きまとうのをやめたら多少は印象も良くなるかもな」
「それは嫌!ていうかちゃっかり拒絶しないでよ!...それ以外で何かない?」
「無いな」
少なくとも、エリスの向けてくる感情が変化しない限りはリダンがエリスを信用することはないだろう。だが、そんな事は言えるわけも無いし言う意味もない。
「そんな事言わずに教えてよー」
エリスが上目遣いで距離を詰めてくる。
それから寮に着くまでの間、いつも通りのエリスからの猛攻撃が続いた。
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