第85話「イヴの変化」
5月の特別演習『マナ資材採取訓練』が終わり、それから一夜が明けた6月1日。
今回は先月とは違い、特別演習の翌日である今日も登校日となっている。その代わり、明日から土日を挟んだ三連休が与えられるらしい。
昨日はネルとの一件が終わった後、リダンとイヴはまず山頂に戻ってゲートを閉じ、その後学園の職員に連絡を取ってモック山を下山することになった。
そしてリダン達が山のふもとの辺りまで戻ると、まずは細かい事情は後回しにしてリダン達のグループ内の特別演習の結果が発表された。
リダン達モック山のグループは、シュトラールブルーが1位、トリスカーナイエローが2位、キスキルレッドが3位という結果。
リダン達のグループにはアクシデントがあったが、結果に影響が無かったからかその点については特に言及されなかった。
それからは来た時と同じようにマナカーに乗って学園へと戻り、全体での結果発表が行われた。
全体での結果は、キスキルレッドが11点で1位、シュトラールブルーが10点で2位、トリスカーナイエローが9点で3位。
シュトラールブルーの得点の内訳としては、1位のグループが1つ、2位のグループが3つ、3位のグループが1つで合計10点だ。
1位をとったのはもちろんリダン達のグループで、2位をとったのはダルクを中心としたグループとジークを中心としたグループとルフトを中心としたグループ、そして3位をとったのはナディアを中心としたグループだった。
ダルクのグループが1位をとれなかったのは少し意外だったが、他の場所は概ね順当な結果と言えるだろう。
今回の特別演習は、ネルの一件も含めてオレにとって悪くはないものだった。リダンがしっかりと1位をとりクラスに貢献したことで、先月のようなクラスメイトとの衝突は回避できるはずだ。
あわよくば、今回の結果で今までについてしまったマイナスの印象も少しくらいは回復してくれるとありがたい。
ネルのせいで多少面倒な問題を抱えてはしまったが、リダンの活躍にイヴとの関係構築、それにリダンの意識の変化と、昨日一日で多くのモノを得られた。
その問題に関してもあれから色々と考えてみて、現状ではそこまで重く考えなくて大丈夫だと判断した。例えリダンが何か言ってきたところで、オレがしらを切り通してしまえばリダンにはそれ以上探る術はない。
リダンには元から少なからず疑念は持たれていたわけだし、それが少しだけ大きくなっただけだ。
そもそも、このことについては大してできることがあるわけでもないからな。逆に、下手に何か言ったせいで疑念が深まる可能性すらある。
そんなことよりも、今はこれからの事について考えていきたい。
今のところ、オレの目的達成への道はゆっくりとだが順調に進んでいる。だが、このまま進めて行くだけでは達成までにかなりの時間がかかってしまうだろう。
エルトシャンとの契約やクラスへの貢献によって少しずつ地盤は固まってきた。そろそろ次の段階に進むための新しい一手がほしい。
まだ憶測の段階だが、一応その一手として使えそうなモノは1つ考えてある。今日の授業が終わった後、それを確かめるために行動を開始する予定だ。
*
いつもより少しだけ早く教室に着くと、入ってすぐにイヴと目が合った。イヴはこちらに気が付くと小さく微笑んで近づいてくる。
「おはようございます、リダン様。傷の具合は大丈夫ですか?」
「問題ない。貴様はどうだ?」
オレがそう聞くとイヴは少し驚き、そして嬉しそうな表情を見せた。
「お気遣い頂いてありがとうございます。私ももう平気です」
「そうか。ならばいい」
昨日、リダンとイヴは全体での結果発表が終わった後、別室にてネルから受けた傷の治療を受けた。その時点で傷はほとんど塞がっていたのだが、イヴはその後もずっと気にしていたのかもしれない。
「あの...リダン様。近々、リダン様のお時間を少しだけ頂けませんか?」
「構わんが、何の用だ」
「リダン様に昨日のお礼をしたいんです」
礼がしたい、とは意外と今までのイヴからは考えられない行動かもしれない。イヴは決して礼に欠くような人物ではないが、昨日以前のイヴはリダンを自分の都合に付き合わせるような事を自分から言うことはなかった。
これまで一歩引いたような位置からリダンを見ていたイヴが、積極的にこちらに踏み込んでくるようになったのは間違いなく良い変化だと言えるだろう。
(イヴはこう言ってるが、どうする?)
昨日イヴを助けたのはリダンな訳だし、オレが適当に答えるのは流石に野暮だと思いリダンに問いかける。
(礼など不要だと言っておけ)
一応聞いてみたのはいいが、リダンは想定通り過ぎる答えを返してきた。もしかすると今のリダンならイヴの厚意を素直に受け取る可能性もあると思ったが、昨日の一件だけではそこまでの心境の変化はないらしい。
こちらとしてはどちらでもいいため、オレはリダンの言う通りにイヴに返答する。
「何をする気かは知らんが礼など不要だ。言っておくが、昨日の件で貴様が何かを気にする必要はないぞ」
「義理や人情で言っているわけではありません。ただ、私がどうしてもリダン様にお礼をしたいだけなんです」
イヴは少し身を乗り出してそう言う。強情というほどでもないが、イヴからは簡単には曲がらなさそうな強い意志が伝わってくる。流石にここまで食い下がってくるのは驚いたな。
はっきりと拒否してしまえばイヴも引っ込むだろうが、曖昧な返事ではまだまだ食い下がってきそうだ。
「ならば、明日の訓練の後少しだけ付き合ってやる。それでいいだろう」
変に拒否するよりも受け入れたほうが話が早そうだったため、オレはリダンに断りを入れずにイヴにそう伝えた。
「ありがとうございます!では明日、約束ですよ」
イヴはそう言うと、大きく微笑んでからこちらに一礼した。
(おい、何を勝手に決めている)
(訓練の後なら特に支障もないだろ?普段は受けられないんだから、こういう時くらいは人の厚意は素直に受け取ったらどうだ?)
(...ふん。今に始まった事ではないが貴様の身勝手さには呆れたものだ)
リダンは文句を言っているが、怒っていたり機嫌を損ねている様子はない。リダン自身もイヴからの厚意を強く拒否したかったわけではないのだろう。
話が面白いと思ってくれた方や続きが気になると思ってくれた方は、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願い致します。
面白かったら星5つ、まあまあだと感じたら星3つ、つまらなかったら星1つなど、正直に感じた気持ちで気軽に評価してほしいです。
また、『ブックマークに追加』という黄色いボタンからブックマークをしていただけると、とても励みになりますので、良ければそちらもよろしくお願いします。
感想もお待ちしております。




