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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第5章「協力者編」
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第84話「ゼルの疑惑」

ここから第5章『協力者編』開幕です。

 5月末、とある研究施設の一室に、ネル・ローリエがゼル・ブラッドコールを呼び出していた。


「話とはなんだ、ネル」


「リダン・ブラックヘローの事よ。さっき、あの坊やに会ってきたの」


「その傷はその時のものか?」


 ネルの体には、リダンにつけられたであろう傷がいくつか見受けられたため、ゼルはまずその点について言及した。


「そうよ。想像以上の強さだったわ。間違っても1対1の状況で戦いたくはないわね」


「そうか。...それで、何か成果はあったのか?」


「ゼルの役に立つかは分からないけれど、色々と収穫はあったわよ。聞きたい?」


「...ああ。聞かせてくれ」


 それから1時間ほどかけて、ネルは今回の出来事をゼルに伝えた。


「...ってことになって、ゲートを開いてここまで逃げて来たってわけ。どう?役に立ちそう?」


「情報が有益かそうでないか以前に、2つ言いたいことがある」


「何かしら?」


「まず1つ。やり方が少々強引すぎる。エルトシャンに目を付けられたらどうするつもりだ」


「少し強引だったのは認めるけれど、そんなに気にすることかしら?このくらいの事であのエルトシャンが動くとは思えないわ。これで動くのなら、以前から私達が魔物を送っている事に対してもっと反応があってもいいはずよ」


「確かにそうだが、その保証はどこにもないだろう。少しは慎重に動いたらどうだ?」


「...分かったわ。次からは気を付けるから、お説教はやめて頂戴」


 ゼルの話が長くなりそうだと判断したネルは、表面上だけ反省の色を見せて話を打ち切った。


「それから2つ目。今の話だと姿を見られた人間を逃がしたように聞こえたが、どうするつもりだ?」


「どうするつもりもないわ。逃がしちゃったんだから仕方がないじゃない」


「何故そんなにも平然としていられる」


「そんなに焦ることかしら?姿を見られてそのまま返したのは私のミスだけれど、見られたのは『この姿』な訳だし大きな問題にもならないでしょう」


「単純に貴様の『その姿』を見られただけならば大した問題ではない。だが、貴様が魔物を操っている所を知られている事が問題だ。理由は分からんが、あの大陸では魔物は自然発生するものだと認識されているはずだからな。情報が広まって下手に騒ぎにでもなれば、あの大陸での活動がやりづらくなる」


「それは大丈夫なんじゃない?あの坊やもお嬢ちゃんも、何も考えずに人に言いふらすタイプには見えなかったもの。言うにしても、エルトシャンか学園の教師の誰かか親くらいなものじゃないかしら。数人には知られることになるでしょうけど、私達としては元々隠すつもりがある話でもないわけだし問題ないんじゃない?そもそもエルトシャンは私達が魔物を送り込んでいることは知っているはずよね」


「先ほどの話もそうだったが、ネル、貴様は楽観的過ぎる。確かに貴様の言い分にも一理あるが、例え少数でも事実が広まることで私達に不利益が生じるのは間違いない。元々私達が狙ったものではないにしても、魔物が自然発生されると思われていた方が私達に都合がいいのは確かだからな」


「そういうあなたは少し慎重すぎるんじゃない?どうせ大した問題になんてならないわよ。それに仮に何かが起こったとしても、私が気にすることじゃないわね。それはそれで面白そうだし」


「昔から貴様のそういう所とは相容れんな」


「私もそう思うわ。...まあいいじゃない。こんな話つまらないじゃなくて本題に入りましょ」


「そうだな。これ以上は時間の無駄のようだ」


 ゼルとネルの付き合いはかなり長く、最初からネルがこの程度で考えを改める人間でないことはゼルも重々知っているため、少し呆れたような態度で話を打ち切った。


「...では2点ほど聞かせてくれ。まず1点目。リダン・ブラックヘローがゲートで追いかけてきたと言っていたのは本当か?」


「やっぱりゼルもそこが引っかかるのね。私もその点については気になってたの。実際にゲートを見たわけじゃないけれど、状況的には間違いないと思うわ」


「一応確認するが、貴様の作ったゲートを通って追ってきたという可能性はないだろうな?」


「それは無いわよ。あのお嬢ちゃんを攫ってすぐにゲートを閉じたもの。そもそもゲートを閉じてなかったら、あの坊やがすぐに追いかけて来てたはずよ」


「それもそうだな。...その攫った少女が何か座標を特定できるものを持っていた可能性はないか?」


「100%ないとは言い切れないけれど、まず持ってなかったと思うわ。ちゃんと攫った後に確認したもの。あの坊やがゲートを使えることは前の事で分かってたからね」


「ふむ...」


 そこまで聞いて、ゼルは腕を組んで考え込むような姿勢をとった。


「何か思い当たることがあるって顔ね。黙ってないで私にも教えてくれない?」


「いや、大したことではない。エルならばそういう芸当も可能かもしれないと考えていただけだ。どうやったかは分からんがな」


「ディーエルが?それは流石に話が飛躍しすぎじゃないかしら。確かにあの子は優秀だったけれど、流石に私達が理解できない技術を持っているとは思えないわ。ゼル、あなたディーエルの事を考えすぎて少しおかしくなっているんじゃない?」


「それは...。いや...そうかもしれんな」


 ゼルは反射的に反論しようとしたが、咄嗟に口をつぐんだ。続く言葉が、ネルの知らないディーエルの秘密に関することだったからだ。

 ネルには知る余地もないが、その秘密を踏まえればゼルの発想もあながち飛躍しているとは言えない。


「ともかく、リダン・ブラックヘローはどこに行ったのかも分からない貴様とその少女をゲートを使って追いかけてきたということでいいんだな?そしてその方法は貴様にもわかっていないと」


「そうね」


「そうか、ならばいい。...では次に2点目だ。貴様が攫った少女をリダン・ブラックヘローが庇ったという事だが、その少女とは何者だ?」


「名前は知らないわ。いくら聞いても教えてくれなかったんだもの。けど、あの坊やがある程度気を許している相手なのは確かなんじゃない?帝国に放った子の所にも一緒に来ていたみたいだし」


「貴様が仕掛けたのは学園が行っている特別演習とやらの最中だったな?」


「そうよ」


「ならばそいつは学園の生徒か。奴らからの報告によると、リダン・ブラックヘローと交流のある女子生徒はナディア・シュトラール、イヴ・リグレクト、エリス・ミューラーの三人くらいなものだったな」


 奴らとは、ゼルが学園でリダンについて探らせている二人の事だ。ゼルの下には定期的に二人からの報告が届いている。


「ねえゼル、あの坊やと一緒にいたお嬢ちゃんを特定してどうするつもり?」


「可能であれば奴らにその少女を探らせる。他人を庇うなど、話に聞いているリダン・ブラックヘローらしからぬ行動だからな。そこからエルに繋がる何かが見つかるかもしれん」


「悪いけど、あのお嬢ちゃんに手を出すのは止めてもらえないかしら?」


「何故だ?」


「あの子、馬鹿みたいにあの坊やを信じ切ってる様子だったから憎らしくなっちゃって。だから、私自身の手で壊しちゃいたいのよね」


「何年経っても貴様は変わらんな」


「誉め言葉として受け取っておくわ」


「言っても無駄だろうから止めはせんが、さっき言ったことは忘れるなよ」


 ゼルは軽く威圧するようにネルを睨み、釘を刺した。


「分かってるわよ。やる時は慎重にするわ。それに、今回で子供達も少なくなっちゃったしすぐに仕掛けるつもりはないわ」


「ならばいい」


「まあさっきはああ言ったけれど、軽く探りを入れるくらいならしてもいいわよ。私もあのお嬢ちゃんと坊やの情報は欲しいしね」


「分かった。情報は共有しよう」


「ありがとう。気になった点は以上かしら?」


「ああ。情報提供感謝する」


「役に立ったなら良かったわ」


「では私はもう行かせてもらう。新たにやることができたからな」


 ゼルがそう言って立ち去ろうとすると、ネルがその背中を引き留めた。


「ちょっと待って頂戴。少し話は変わるけれど、『ルナ』の話はゼルも聞いてる?」


「ルナか。そう言えば最近見ていないな」


「知らなかったのね。あなた、最近はディーエルの事しか頭になかったみたいだし無理もないのかしら」


「ルナがどうかしたのか?」


「あの子、最近また連合国で何かしたらしいわよ。そっちも注意したほうがいいんじゃない?」


「あれは貴様以上に耳を貸さんだろう。ここにいる連中は私達も含めて全員頭のネジが1本か2本は外れた奴らばかりだが、あれはその中でも特にイカれた奴だからな。それに何か言おうにも奴がアレを使っているのであれば探すのも手間だ」


「少し不公平な気もするけど、まあ確かにそうね」


「話はそれだけか?」


「ええ。知らないなら念のため教えておいた方がいいと思って」


「そうだな。一応そちらについても何か分かったら教えてくれ」


「分かったわ」


 そうして今度こそゼルは席を立ち、その場を後にした。

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