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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第4章「侯爵令嬢編」
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第81話「リダンVSネル」

「貴様はもっと後ろの方まで下がっていろ」


 リダンはイヴにそう指示を出した後、そのままネルの方へと突っ込んでいく。

 まずは右手に持つ長剣で素早くネルを斬り付け、続けて左、そしてまた右と、息つく暇もない連撃を浴びせる。

 前哨戦の際、『未来視』の天啓を持つアイゼンですら防ぎきれなかった攻撃をネルが防ぎきれるわけもなく、直撃こそしないものの少しずつ削られていく。


「想像以上の速さね。流石に1対1だと持ちそうにないわ」


 確実に追い込まれているネルだが、まだ余裕が感じられる。ネルがリダンの攻撃の僅かな隙を見てグリフォンたちに命令を送ると、ネルの少し後方で待機していたグリフォンの片方が動き出して、リダンの右側からその鋭い爪を振り下ろしてきた。

 リダンはそれをマナ障壁を展開して防ぎ、まだまだネルへの攻撃を続ける。


「っ!これでも止まらないのね。少し見くびってたわ」


 グリフォンに横やりを入れられても攻撃を止めないリダンに対して、ネルが初めて動揺の色を見せた。致命傷を貰っていないとは言え、このままリダンの攻撃が止まらなければネルは削り潰されるしかないだろう。


「じゃあ、これならどうかしら?」


 ネルはまた僅かな隙を見て命令を送ると、今度は2体のグリフォンがリダンの左右両側から爪を振り下ろす。

 だが今度の攻撃もリダンはマナ障壁を展開して防ぎ、ネルへの攻撃を止めない。

 リダンは更に、ネルへの攻撃を続けながら闇の第5位魔法『ダークバインド』を発動し、紫色の鞭のようなものを発生させて攻撃してきた2体のグリフォンの前脚を絡めとった。


「無駄だ。貴様ら雑魚が何をしようと俺の相手ではない」


「そうみたいね。確かに3対1でも坊やには勝てそうにないわ」


「大人しく降伏するのなら苦しい思いをせずに済むぞ」


「何を勘違いしているのかしら?確かに3対1でも坊やには勝てそうにないけれど、この状況で勝てないとは言ってないわよ?」


 ネルはそう言って不敵に笑うと、再びグリフォン達に命令を送った。

 グリフォン達はリダンのダークバインドを引きちぎってそのままイヴの方へと向かう。


「チっ!」


「ほら、早く助けに行かないとあのお嬢ちゃんが死んじゃうわよ」


 リダンはネルへの攻撃を中断し、イヴの下へと加速する。


「そう簡単には向かわせないわよ」


 そんなリダンの後方から、ネルの攻撃が飛んでくる。ネルの手元から伸びたそれは、瞬く間にリダンの目の前まで迫る。

 ネルが手に持っている武器は蛇腹剣。剣の刃の部分がワイヤーによって繋がれ、剣が鞭のように変化しながら襲い掛かってくる攻撃性能の高い武器だ。

 リダンはネルの攻撃を一瞬だけ振り向いて長剣でいなし、そのままイヴの下へと再び加速する。

 グリフォンよりも速く、すぐさまイヴの下へと辿り着いたリダンはイヴを抱きかかえてグリフォン達から距離を取った。


「リダン様...!」


「貴様、走れるか?」


「はい...!大丈夫です...!」


 イヴは足にも怪我を負っているため走るのは中々つらいと思うが、そんなことを感じさせない態度でイヴは強く返事をする。

 リダンはイヴを抱きかかえたまま、ここに来た時の道の入口まで行き、そこでイヴを降ろした。


「この向こうにゲートがある。そこまで走れ。そしてゲートに辿り着いたらポータブルで連絡を寄越せ」


「リダン様は...?逃げるならリダン様も一緒に...!」


「俺が貴様を抱えてゲートまで逃げられても、こいつらが追って来ていてはゲートを閉じている間に追いつかれる。ならばこの一本道でこいつらを足止めしている内に貴様一人で逃げた方がいい。だから貴様は先に行け」


「ですが...!」


「貴様が居ると邪魔だ」


 イヴは一瞬まだ食い下がろうとしたが、状況は冷静に見えているようで、その言葉は飲み込んだ。


「分かりました...」


 イヴはリダンの手をおまじないのように強く包み込む。そして、リダンに背を向けて走り出した。

 その瞬間、リダンの背後からイヴに向けてネルの蛇腹剣が襲い掛かる。リダンはそれを庇うように間に立って長剣で攻撃をはじいたが、右腕に少しだけかすり傷を負った。


「リダン様...!」


 走り出したイヴが振り返ってリダンを心配する。


「大丈夫だ。早く行け」


「逃がさないわよ」


 ネルは好機とばかりにリダンへ攻撃を畳みかける。更に、グリフォン達も追いついてきてその攻撃に参加し始めた。

 今度はリダンが防戦一方だ。リダンはイヴの下へと行かせないためにこの場で攻撃を受け続けるしかない。ネルは最初からこの状況を狙っていたのだろう。


「さっさと行け!」


「...リダン様...!絶対に無事でいてください...!」


 イヴはリダンを心配している様子だったが、自分が足枷になっていることを理解しているため、強く走り出した。足に怪我を負っている為少し不格好な走り方だが、全力でゲートに向かっていく。


「守るモノがある人間は弱いわね、坊や」


 イヴを守るためにその場から動けないリダンに対してネルがそう言い放つ。リダンの体には少しずつ傷が増えていく。流石のリダンでも、この状態では長くは持たないだろう。


「そうだな...」


 リダンは噛みしめるようにそう呟いた。

 リダンは今までずっと一人で戦ってきた。そしてその圧倒的な強さでどんな相手にも負けなかったはずだ。

 だが、リダンは初めて守るモノを得てしまった。守るモノというのはすなわち弱点だ。それを守ろうとすればするほど、弱点をさらけ出すことになる。

 この戦いでその事に気付き、リダンは今、色々な感情を抱いているのだろう。もしかしたら、オレにそそのかされてイヴを助けに来たのは間違いだったと、そう思っているかもしれない。


「...確かにあの女がいなければ、今のように貴様に苦戦を強いられることもなかった。だが、あの女がいなければ得られなかったものもあった。こんな状況でも、俺はここにあいつを助けに来た事は後悔していない」


 オレの予想に反して、リダンは少しずつ増していく痛みに耐えながら強くそう言い切った。

 まさか、リダンの口からそんな言葉が聞けるとは思わなかったな。この成果だけでも、この状況に意味はあったと言うものだ。

 それからしばらく、リダンはネルからの攻撃に耐え続けた。

 そして、ついにリダンのポータブルが光り出す。リダンはすぐさまそれに応答した。


『リダン様!ご無事ですか!?ゲートの場所まで来ました。私はもう大丈夫です!』


「そうか...。ゲートを通っても油断はするなよ。できるだけ遠くに逃げろ」


 リダンはそれだけ言ってポータブルの通信を切る。


「残念。逃げられちゃったみたいね」


「そういう事だ。次はこちらの番だな」


「それはどうかしら?私もゲートが使えることは分かっているわよね?今からゲートであのお嬢ちゃんを追いかけちゃおうかしら」


「そんな暇は与えん。大体、それができるなら貴様は既にやっているだろう」


「あら、流石にハッタリは通じないみたいね」


「自分の状況を理解したならばさっさと構えろ。命乞いは聞かんぞ」


「あら怖い顔。でも、少し勘違いをしてないかしら?」


「何?」


 この状況になってもネルはまだ余裕の表情を崩さない。この状況をひっくり返す策でもあるのだろうか。


「確かにゲートであのお嬢ちゃんを追いかけることはできないけど、逃げるためのゲートなら作れるのよ」


 ネルはそう言ってリダンから距離をとり、グリフォンに命令を出した。

 2体のグリフォンがリダンとネルの間に壁を作り、リダンがネルに接近するのを阻む。


「この子達を失っちゃうからあまりしたくはなかったけど、仕方ないわね」


 リダンがグリフォンの相手をしている間にネルはゲートを構築する。


「邪魔だ。失せろ」


 リダンは壁になっているグリフォンに猛攻撃を仕掛ける。

 その甲斐あって、リダンは30秒程で2体のグリフォンを仕留めたが、その間にネルはゲートを完成させてしまった。


「例えゲートで逃げたところで、閉じる時間がなければ意味は無いだろう」


「あら、さっきの事を忘れたのかしら?坊やと違って10秒もあれば私はゲートを閉じられるのよ」


「それだけあれば十分だ。逃がしはしない」


「そう。なら追ってくればいいわ。ゲートの向こう側の安全は保障しないけどね」


 ネルにそう言われ、少し熱くなっていたリダンは冷静に状況を見つめ直した。リダンはネルを追う足を止める。


「いい子ね。それじゃあまた会いましょう。リダン・ブラックヘロー」


 ネルは余裕そうにリダンに背を向けてゲートに入っていく。だが、何かを思い出したかのように一度こちらを振り返り、強烈な一言を放っていった。


「あ、そうだ。『ディーエル』。もしそこにいるなら戻ってらっしゃい。ゼルがとても心配してるわよ」


 ネルは今度こそゲートを通って消えて行った。

 最後に面倒な置き土産をしてくれたな。リダンは一度ゼルやディーエルという名前を聞いている。それも、オレがこの体に入ってきてすぐのタイミングだ。

 一度は流れた話だが、こうなってしまっては再び疑念を持たれることは避けられないだろう。


(ディーエルにゼル...か。そう言えば、屋敷の前で声をかけてきた男もそんな名前を口にしていたな)


 やはりリダンはその名前が引っかかっている様子だ。ここは一旦話を逸らそう。一応、まだ危機が完全に去ったわけじゃないしな。


(気になるのは分かるが、それを考えるのは後にしたらどうだ?もしかしたら、そのゲートがイヴの所に繋がっていて、さっきのやつがまだイヴを狙っているかもしれないぞ)


(何っ!?)


 リダンが珍しく取り乱した反応を見せる。


(もしかして、その可能性を考えてなかったのか?)


(ああ...。すぐに戻るぞ)


 流石のリダンも、今の状況ではそこまで頭が回らなかったらしい。


(悪い。今のは嘘だ。さっきの奴が作ったゲートはイヴの所には繋がってない。それはオレが保証する)


 ゲートの感じからして、ネルが繋げたのはあの施設の近くだ。そもそも、ネルはあの状況ではイヴの近くにゲートを作ったりしないだろう。もしもリダンが追ってきた場合、今度こそ自分の逃げ場が無くなるからな。


(レイ...。この状況で何のつもりだ)


「けど、まだイヴが狙われている可能性があるのは確かだろ。さっきのゲートがイヴの所に繋がっていないのは保障するけど、ゲートの向こうでもう一度ゲートを作られたら流石に分からないからな」


(...確かにそうだな)


 リダンはオレの言ったことに一応の納得を見せ、急いでイヴの所へと向かう。

 まあ、今のは本当に単なる脅しではないが、ネルがイヴの所にゲートを開くのは難しいだろう。イヴもゲートを通ってから移動しているだろうし、イヴの所に遠距離からピンポイントにゲートを開くのは不可能だ。何しろ、オレでさえ何か座標を特定する目印でもなければできないからな。

 さっきモック山の山頂でネルがピンポイントでゲートを開けたのは、元々場所に当たりを付けていたのかあるいはあの周辺を見張っていたからだろう。

 それにしても、ネルの置き土産はどう対処するべきか。本当に面倒な事をしてくれたものだ。

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