第77話「マナ資材採取訓練」
忙しなく時間が過ぎて行き、あっという間に月末がやってきた。今日は5月の特別演習、『マナ資材採取訓練』の当日だ。今日の体の所有権はリダンにある。
既に別グループのクラスメイト達とは別れた後で、リダンは今担当の採取エリアである『モック山』に向かうマナカーの中で窓から外を見ながら黙って座っている。
このマナカーに居るのは運転手や学園の職員を除けばリダンを含めて七人。シュトラールブルーからリダンとイヴの二人、キスキルレッドから二人、トリスカーナイエローから三人が乗っている。
グループの人数は2~4人の為、1つの採取エリアに向かう人数は最少で6人、最大で12人なる。それを踏まえると、この人数はかなり少ない。
モック山は他の採取エリアと比べると少し過酷なエリアな為、戦力を投入することを敬遠されたのかもしれないな。まあ人数が少ないのは偶然かもしれないし、敬遠されたのだとしても理由は別にあるのかもしれないが。
ただ、他クラスのグループを見る限りだと敬遠された可能性は高いように思える。
キスキルレッドは人数の少なさもさることながら、そのメンバーも今までの前哨戦やクラス対抗戦には出ていなかった者たちだ。
トリスカーナイエローに関しても、ミスト、メリア、レオンハルトといったリーダー格の人間は見当たらない。
両クラス共、オレが知らないだけでマナ資材に精通したメンバーである可能性は否定できないが、現状の情報だけで考えれば、この2つのグループは捨てグループであるように見える。少なくとも、キスキルレッドのグループはその可能性が極めて高そうだ。
しばらくして目的地へと辿り着き、引率の職員から外に出るように促される。
「ここがモック山だ。君たちには今からここで採取活動をしてもらう。伝えていた通り評価は集めてきたマナ資材の量と質によって判定する。また、制限時間は8時間だ。制限時間内にこの場所に戻って来れなかった場合には評価点が減点される為、注意するように。分かっていると思うが、ポータブル以外の魔道具の持ち込み、著しく生態系を破壊する行為、他グループへの妨害行為は禁止だ。それと、特別明記してはいなかったが、法に触れるような行為も当然禁止だからな。不正行為等が発覚した場合はグループの得点が0点になる。不正行為を行った者だけでなく、グループ全体、ひいてはクラス全体の責任になることを心得て、絶対に不正は働かないように」
引率の職員の男は簡単なルールの説明と注意事項について話し始めた。今まで見たことのない職員だが、話し方や雰囲気からして厳格な性格に見える。単純に職務を全うしようとしているだけかもしれないが。
「訓練を開始する前に、全員このポータブルを登録しておいてくれ。一応、何ヵ所かに職員が待機しているが、自然の中では何が起こるか分からんからな。万が一、訓練中に怪我などの不測の事態が発生した場合には近くにいる職員か、私にポータブルで連絡するように」
そう言って、男は順番にポータブルの登録を済ませていく。リダンも特に拒否することなくポータブルの登録を行った。
それから少しして、開始の時間が訪れる。
「ではこれより、5月特別演習、マナ資材採取訓練を開始する。各グループ、行動を開始してくれ」
その合図からすぐに、リダン達以外の2グループはスタート地点から離れて行く。スタート地点からの道は、ざっくりと3つに分かれていたが、2つのグループは同じ道を進んでいった。特にそっちの道が特別良い道だとは感じられないが、あの2グループには何かが見えていたのかもしれない。
あるいは、キスキルレッドのグループはトリスカーナイエローのグループについて行っているような動きにも見えた為、もしかしたらそういう作戦なのかもしれない。
直接手を出すことは禁止されているが、相手が狙っている物を先取りするのはルール上問題ないらしいからな。
「私たちも行きましょうか。リダン様」
「ああ、そうだな」
イヴの一声を合図に、リダン達も移動を開始する。
(ちょっと待ってくれ、リダン)
オレはそんなリダン達に待ったをかけた。
(何だ)
(すぐそこに結構質の良さそうな『クリアル草』がある。確かクリアル草は配点が高かったからな。取っておいた方がいい)
オレにそう言われ、リダンは周囲を観察する。
オレ以外は誰も気づいていなかったようだが、スタート地点から見える位置にクリアル草がいくつか生息している。クリアル草はマナを流していない状態ではほとんど無色透明で、マナもほとんど放っていないため、実物をあまり見たことのない人間では気が付かないのも無理はないが。
リダンはすぐにオレが示したクリアル草を発見し、その方向へと足を向けた。オレの助言があったとは言え、この速さで見つけるとは流石はリダンだな。
もしかしたら、オレがミールの研究室で何度か扱っているためそれを覚えていたのかもしれない。あるいは、リダンの持ち前の観察眼とマナを感じる感性で見つけたのだろう。
「どちらに行かれるのですか?リダン様」
急に進路を変更したリダンを不思議に思ったイヴが声をかけてくる。
「ついて来い」
リダンは理由も言わず、ただそれだけを言い放つ。イヴはそんなリダンに既に慣れてしまったのか、それ以上は何も聞かずに黙ってリダンについて来た。
クリアル草の近くまで来ると、イヴにもそれが分かったようで驚きの声を上げる。
「よくあんな遠くからここにクリアル草があることが分かりましたね、リダン様」
「...ただの勘だ」
オレが見つけたとは言えないため、リダンは少しだけ言葉を濁した。まあ、勘だと言ってしまえばそれ以上の追求は無いからな。
(別にもっとでかい顔をしても良かったんだぞ)
(俺は他人の手柄を自分の手柄だと言い張るようなそんな恥知らずな真似はしない)
(そうか?今のオレはリダンなんだし、オレの手柄はリダンの手柄みたいなもんだろ。そもそも、リダンがそうしなくても周りはそう認識するしな)
(雑魚共がどうとかではなく、これは俺のプライドの問題だ。レイから見て俺がそんな見栄を張るような小物に見えていたとは心外だな)
(悪い悪い、ちょっとからかっただけだ。気を悪くしないでくれ)
(...ふん)
あまり本気で怒ってはいないようだが、少しだけリダンの機嫌を損ねてしまった。所有権が無い時は基本的に暇なため、たまにこうしてリダンをからかって遊んでいるが、あまりやり過ぎはよくないな。
クリアル草を回収し終えたリダンとイヴは、改めてスタート地点から移動する。リダンとイヴが選んだ道は、山頂へと真っすぐに進む道だ。山頂付近には配点の高いマナ資材が多く生息しているはずだとオレがそのルートを推したら素直に聞き入れてくれた。
リダンとイヴは少し傾斜がきつい道を進んでいく。
「あっ、あれは『サニタール』ではないですか?」
イヴがある方向を指差しながらそう声を上げる。イヴが指差した方向にあるのは確かにサニタールというマナ資材だ。リダン達が気付かなければまた教えようと思っていたが、その必要はなかったな。
サニタールはハーブの一種で、薬品や食用品として主に使用される。摂取することで体内のマナの巡りを促進する成分を有しているからだ。
「みたいだな」
「私、取ってきますね」
イヴはそう言って発見したサニタールの方へ少しだけ駆け足で向かう。リダンも黙ってイヴのすぐ後ろを追った。
「確か、摘んだらすぐにマナを流して、自然に発酵してしまうのを防ぐんでしたよね?」
イヴはサニタールを摘む前に、片手に資料を持って内容を確認している。サニタールの資料を作ったのはリダン、もといオレの為、自分の覚えた内容が合っているのかをリダンに聞いてきた。
「ああ」
リダンもその内容は覚えていたのか、イウに小さく返事をした。
しばらくしてイヴがサニタールの採取を終え、後ろで立っていたリダンの近くに戻ってくる。
(たまには褒めてやったらどうだ?)
さっき少し反省したにも関わらず、オレはまたリダンをからかう。まあ今回は単にオレの暇つぶしというわけではなくて他の目的もある。暇つぶしということも否定はしないが。
(何だ急に)
(まあ飴と鞭っていうかさ、訓練の時はリダンは厳しくしてるし、こういう時は優しくしてもいいんじゃないか?)
別に今はイヴを指導しているわけではないが、ずっと厳しくて冷たい態度だとイヴもリダンの近くにいることに嫌気が差すかもしれない。
(からかうのもいい加減にしろ、レイ。最近は多少の事は許してやってたが、流石に調子に乗り過ぎだ)
(今回はからかってないぞ。今のは真面目な話だ)
これは半分は嘘だが、それはいいだろう。オレが真面目かどうかなんてリダンにはわからないからな。
(...これもまた、レイが良く言っている今後の為というやつか?)
(まあそうだな)
リダンは少しだけ考え込んだ後、その口を開いた。
「...よくやった」
不愛想な上、まるで上司が部下を褒めるかのような、この場には相応しくない言い方だと思ったが、イヴの嬉しそうな表情を見るにそれはそこまで問題ではなかったようだ。
「はい。ありがとうございます。リダン様が作ってくださったこの資料のおかげです」
イヴはあくまでもリダンを立てて発言する。
それからも、リダンとイヴはマナ資材を採取しながら山頂へと向かった。
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