第76話「採取訓練の資料作り」
オレが時間ギリギリに教室に着くと、既に他のクラスメイトは全員揃っていた。クラスメイト達は雑談に興じながら資料作りをしている。
その中の一人、複数のクラスメイトと一緒に作業をしていたジークが、オレが教室に入ってきたのを見て近づいて来た。
「やあ、リダン君。今日も来てくれてありがとう」
「ああ」
「今日の分はこれだよ」
ジークはそう言って、一冊の本を渡してくる。今から資料を作るマナ資材についての教材だ。資料作りの際には、毎回ジークからこうして教材が渡される。
「『クリアル草』か」
「『モック山』で良く取れるみたいだし、結構複雑な特性を持っているマナ資材らしいから、これはリダン君が適任だと思ったんだ。お願いできるかな?」
クリアル草は魔道具の作成等で良く使われるマナ資材だ。通常の状態では無色透明な見た目以外には特筆するような特性が無いように見えるが、各属性のマナを流すことによってその見た目や特性を変えるという不思議な性質を持つ。その特性から扱いが非常に難しいマナ資材の1つだ。無色透明な見た目や各属性のマナが混じり気なく浸透していく様子から『無色草』という呼び名もある。
ちなみにモック山というのは、リダンとイヴのグループが担当することになった採取エリアだ。
5つの採取エリアの中で、採取が大変そうなマナ資材が一番多いエリアという事で、ジークからの強い推しによってリダン達が担当することになった。
「問題ない。今日はこれだけか?」
「うん、今のところはそれだけだよ。けど、他の人の作業が遅れていたら、そっちのフォローをお願いするかもしれない」
「そうか。了解した」
「助かるよ」
ジークとの会話を終え、オレは自分の席に移動して作業を始める。
まずは内容の確認からだ。今から資料を作るクリアル草については良く知っているが、用意してもらった教材の方も一応確認しておく。
数十分後、ざっくりとだが一通り目を通し終えた。多少の抜けはあるようだが、オレの知識と教材の内容に齟齬は見られなかったため、そのまま資料作りを進めて問題はなさそうだ。
それからしばらく黙々と作業を進めていると、一人のクラスメイトが声をかけてきた。
「やあリダン君。調子はどうだい?」
声をかけてきたのはダルク・トリオンロード。オレと同じくマナの研究をしているクラスメイトだ。天啓の研究をしているカロス・アクセルの研究室と、マナ含有量の研究をしているレナス・ドーベルの研究室の2つの場所で共に研究をしている。
その為か、クラスメイトの中ではナディア、イヴに次いで友好的だと言っていい。
オレにとっても、同じ趣味を共有しているため割と話しやすい相手だ。
「何か用か?」
「いや、特に用ってわけじゃないんだけどね。資料作りの調子はどうかなって、ちょっと様子を見に来たんだ」
「問題なく進めている」
「みたいだね」
ダルクはオレの作っている資料を興味深そうに眺めている。
「それにしても、リダン君の作る資料は分かりやすいね。この前ジーク君にリダン君の作った資料を見せてもらってびっくりしたよ」
「ただ知っている事を書いているだけだ。貴様も同じような物が作れるだろう」
ダルクは研究熱心なため、その知識量も多い。流石に施設でずっと暮らしてきたオレと比べたら雲泥の差だが、この程度の物ならばダルクでも作れるはずだ。
「確かに似たような物なら作れるけど、ここまでのレベルの物はボクには作れないよ。ほら、ここに書いてあることだってボクの知らない内容だ。たぶんだけど、この教材にも載ってなかった内容なんじゃないかな?」
ダルクはオレの作っていた資料を指差しながらそう言う。ダルクの言う通り、その箇所に書いている内容はジークから受け取った教材には載っていなかったものだ。
自分の知らない内容が載っていたらそれが正しいのかどうか疑問を持つのが自然だと思うが、ダルクは疑っている様子はない。マナの知識に関してはオレの事を信用してくれているのだろう。あるいは、知らない内容と言っていたが、本当はどこかで少しだけ聞いたことがあるような内容だったのかもしれない。
「それに構成も綺麗だよね。まるで先生達が書いた物みたいだ。リダン君はこういう物の書き方を習ったことがあるのかい?もしかして、いつか論文を出すために勉強してたりするのかな?」
「いや、習ったことは無いし論文を出す予定もない」
「へぇ、じゃあシンプルにセンスがいいってことなのかな?」
「さあな。オレはただ他人のやり方を真似ているだけだ。こういった資料を読む機会は多かったからな」
施設にいた頃も含めてオレはこういう資料を作った経験はない。ただ、施設にいた頃は実験の為に研究資料を読まされることが多かったため、今はそれを参考に資料を作っている。
ダルクの言うようにオレの作る資料の構成が綺麗なのだとしたら、それは施設の人間達が優秀だったということなのだろう。
「そうなんだね。だとしても、やっぱりリダン君は凄いよ。ボクもカロス先生やレナス先生の論文を真似して書いているんだけど、リダン君のように上手くはできないからね」
そう言いながら、ダルクは自分の作った資料を見せてくる。確かにダルクが自分で言うように、少しだけ粗さが見えるな。だが専門の人間が作った物と比べれば見劣りするという程度で、年齢を考えれば十分なクオリティだろう。
「確かに不足している部分はあるが、雑魚の割にはよくできているな」
オレは素直に感じたことを口にする。リダンの口から誉め言葉が出てきたことが意外だったのか、ダルクは少しだけ驚いた表情を見せた。
「そうかな?」
「少なくとも、これならばあの王子は満足するだろう」
「確かに、ジーク君はとても褒めてくれたよ。でも、ボクは将来マナの研究者になるつもりだからね。このレベルで満足したら駄目だ」
ダルクは真剣な表情でそう言う。その表情からは、ダルクがマナの研究にかける情熱が感じられる。その情熱をオレは少しばかり羨ましく思う。
「そうか。まあ雑魚なりにせいぜい努力するがいい」
「それはリダン君なりの激励なのかな?」
「好きに受け取れ」
「そっか。ありがとうリダン君」
オレの言葉をそのまま激励として受け取ったのか、ダルクはオレに礼を言った。
「あ、そうだ。最近リダン君が来てくれないってカロス先生がぼやいていたから、近いうちに顔を出してあげてくれないかな?」
そういえば、ここ2週間くらいはカロスの研究室には行ってなかったな。カロスのしている天啓の研究は、天啓というテーマの不透明さから中々成果が無くやる内容も定まっていないため、オレの中での優先順位が下がってしまって足が遠のいていた。
「分かった。そうしよう」
「良かった。もしかしたらカロス先生のだらしなさに嫌気がさして、見限られたのかと思ったよ」
「しばらく行ってなかったのは単純に時間がなかっただけだ。奴は確かにろくでもないが、オレにとってそれは大した問題ではない」
「リダン君はあまりそういう事は気にしないんだね」
「どういう意味だ?」
「人の品性とか性格とか趣味とかそういうのにあまり興味なさそうだねって」
「否定はしない」
少なくともオレはそう言ったことは気にしない。そんな事よりも、その人間の立場や能力のほうが重要だからだ。
理由は違うかもしれないが、リダン本人も大方そう言った感性だろう。
「そっか。よく考えたら、そう言う人じゃないと最初からカロス先生の研究室に所属しようなんて思わないよね」
ダルクは少し笑いながらそう言う。発言からして、ダルクもあまり人の品性とか性格とかそう言ったものは気にしない質なのかもしれない。
「まあそういうことだから、また研究室に来てくれると嬉しいな。じゃあまた、リダン君」
ダルクは軽くこちらに手を上げて去って行った。
それからは黙々と作業を進め、2時間ほどでクリアル草についての資料を完成させた。
ちなみに他の作業が遅れていたため、結局他のマナ資材についても資料を作ることになりその後も作業は続いた。
もし面白いと思って頂けたなら、『ブックマークに追加』という黄色いボタンからブックマークをしてもらえると、とても励みになります。良ければよろしくお願いします。




