第75話「リダンと連合国」
5月に入って2週間が経過した。
この2週間、リダンは相変わらずナディアやアース達の訓練に明け暮れていたが、オレのほうは色々と忙しい日々を送っていた。
何しろ、特別演習の準備に魔石の解析、研究の手伝いにエルトシャンからの依頼の遂行とやるべきことが多かった。
それに加えてエリスやジークを始めとしたクラスメイト達との関係にも気を遣わないといけないため、中々気が休まる暇がない。全て自分から進んで抱え込んだ事のため文句はないが、最近はずっと時間に追われる日々だった。
だがそんな日々ももう少しで一段落して、近いうちに一息つけるだろう。
魔石の解析はもうほとんど完了したし、特別演習の準備もそろそろ終わりが近い。研究の手伝いやエルトシャンからの依頼は今後も定期的に続くだろうが、それはそこまでの負担ではない。
ちなみに、魔石の解析に関しては割と興味深い事が分かった。
結果から言えば、リグレクト領やイーガル湖に居たグリフォンやケルベロスは、オレの知っているそれらの作り方とほとんど同じ方法で作られていた。つまるところ、あの魔物達を作ったのはあの施設の人間である可能性が高い。
正直、この結果は想定の範囲内だった。リグレクト領でケルベロスを見た段階から、オレは施設の人間が関わっている可能性をある程度考慮していた。だが、この結果のおかげでただの推測がほぼ確信に変わった。
そして、ケルベロスやグリフォンを送ってきた人物が施設の誰なのかもある程度は想像がついている。
その人物の名はネル・ローリエ。オレの知る範囲ではあるが、あの施設で魔物の研究をしている人間の中で一番権威のある人物だ。
オレが件の人物がネルだと思ったのは、イーガル湖で見かけたグリフォンに感じたとある違和感からだ。その違和感とは、グリフォンがとっていた異常な行動。
通常、魔物には1つの場所に留まるような習性はない。にも関わらずグリフォンがあんな行動を取っていたという事は、そういう風に命令されていたからだろう。
そして、グリフォンのようなネームドの魔物にあのレベルでの躾ができる人間は、オレの知る限りではネルくらいしかいない。
ケルベロスの件やグリフォンの件はリダンとは関係のない所で起こっていたが、もしネルがリダンに興味や違和感を持って直接仕掛けてくることになれば、少し面倒な展開だ。
とは言え、もしもの話を膨らませても仕方が無いし、この体ではあまり対策を立てても仕方がないため、心に留めておく程度しかできない。
まあ施設の人間へと対処としては、オレを狙ったものにしろリダンを狙ったものにしろ、返り討ちにしてしまえばいいと、今は結構楽観的に考えている。
リスクヘッジは重要だが、慎重になり過ぎて目的が疎かになっては意味がないからな。力で強引に解決できるものは、素直にそうしてしまうのも1つの手だ。
それにそもそものオレの推測が間違っていて、施設の人間が関わっていない可能性もわずかだが残っているしな。
特別演習に関してはあれから何度か話し合いが行われ、グループ分けに続いて各グループが担当する採取エリアについても無事決定した。
その後は分担して採取資材に関する資料を作ることになり、今日も午後からクラスメイト全員で教室に集まってその作業をすることになっている。
ちなみにその時間は近くまで迫っており、オレは今出かける準備をしている最中だ。
そんなタイミングで、指にはめてあるポータブルが光り出した。オレは相手の名前を確認し、すぐに応答する。
『リダン君、今少しいいかい?』
ポータブルからはエルトシャンの声が聞こえてくる。
「問題ない。また何か依頼か?」
『いいや、今日は別件だよ。実は、先週約束した模擬戦の日程について相談があってね。申し訳ないんだけど、来月に延期させてくれないかな?』
「それは構わんが、何かあったのか?」
『連合国の方でちょっと事件があって、しばらくはその対応に追われることになりそうなんだ』
「ふむ...連合国で事件か。オレの力は必要か?」
『ありがとう。でも今回は気持ちだけ受け取らせてもらうよ』
エルトシャンが直々に動く必要のある案件ということは結構な厄介事だと予想できるため、貸しを作るために協力を申し出たが、あっさりと断られてしまった。
やはり、エルトシャンからすればまだリダンの事は信用できないのかもしれない。
『ああ...一応言っておくけど、リダン君を信用していないわけではないよ。寧ろ、僕としてはリダン君の力を借りたいと思っているんだ。けど連合国の事件にリダン君が関わると、色々とこじれる可能性があると思ってね』
まるでオレの考えている事を読んだかのように、エルトシャンは申し出を断った理由を説明してくれた。
エルトシャンの懸念は理解できる。トリスカーナイエローの人間達から刺さってくる感情から察するに、連合国の人間はリダンを嫌っている奴が多いようだからな。
「連合国の奴らはそれほどオレを嫌っているのか?」
良い機会なので、情報収集も兼ねて連合国でのリダンの評判を聞いてみることにした。
『そうだね...。残念だけど、たぶんリダン君を理不尽に敵対視する人が一番多いのは連合国だと思う。連合国は人魔戦争で大きな被害を受けた人達を中心に作った国だからね。500年が経った今でもヴィルス・エリアルードへの恨み節のような教育が根付いている地域が多くあって、リダン君の噂からヴィルスとキミを同一視するような人達も一定数存在するんだ』
「愚かなことだな」
『そうかもしれないね...』
オレが連合国の人間を侮蔑するような発言をすると、エルトシャンは小さくそれを肯定した。
それから少しばかりの沈黙が訪れる。
「...まあいい、とりあえず貴様の事情は把握した。模擬戦の日程に関してはまた後日連絡をくれ」
『...ありがとう。それと、近いうちに別件でまた何か頼むと思うから、そっちもよろしく頼むよ』
「ああ、任せておけ」
エルトシャンとの通話を切り、オレはすぐに寮の部屋を出た。
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