第71話「怒れるクラスメイト」
ここから第4章後編になります。
三連休が終わり、今日から5月の授業が始まる。
リダンはいつも通り時間ギリギリに教室に入ると、静かに自分の席に座った。
それから少ししてチャイムが鳴り、ミールが教室に姿を見せる。
「みんなおはよー。三連休はしっかり楽しめたかな?」
ミールはゆっくり教室全体を見回し、一人一人の表情を見ている。
「さて、今日から5月の授業が始まるよ。まずは配る物があるからちょっと待ってね」
ミールは鞄から複数枚に綴じた紙を人数分取り出して配り始めた。そしてそれらが全員に行き届いたのを確認してから話を続ける。
「今配ったのは、今月の特別演習について書かれたものだよ。今月末に皆にやってもらう特別演習は『マナ資材採取訓練』。簡単に説明すると、学外に出て色々な物を採取する特別演習だね。採取してもらう物は、マナを多く含むものだったり、マナに強く反応するものみたいな、マナ科学の分野で良く使われる物が中心になってるんだ。特別演習では、自然の中で資材を手に入れる探索能力や、資材の目利きをするための知識が重要になってくるよ。最初のページに特別演習の概要が書いてあるから、まずはそれを見てもらえるかな?」
ミールに促され、リダンを含めた全員が手元の資料に目を落とす。
─5月特別演習(マナ資材採取訓練)概要─
・各クラス2~4人のグループを5つ作り、グループ別で採取活動を行う。
・学園側の用意した5つの採取エリアに各クラスから1グループずつ向かい、各エリア毎でグループの順位を決定する。1位のグループには3点、2位のグループには2点、3位のグループには1点が与えられ、5グループの合計点が一番高いクラスの勝ちとなる
・評価は採取した資材の質と量で行う。具体的な評価基準については別途資料を参照のこと。
・演習にはマナ資材に関する資料を持ち込むことができる。但し、持ち込める資料は各クラスで自作した物のみとする。
・ポータブル以外の魔道具の持ち込みは禁止とする。
・採取エリアの下見や細工、周囲の生態系を著しく破壊する行為は禁止とする。
・他グループへの意図的な妨害行為は禁止とする。
・不正が発覚した場合、その人物の所属するグループは失格となり0点となる。
ミールはしばらく時間を置き、全員が概要に目を通した頃に口を開いた。
「皆、特別演習の内容は理解できた?採取する資材の詳細や採取エリアについてはこの後説明するとして、それ以外で何か質問はある?」
ミールが教室を見回しながらそう問いかけると、ジークが手を挙げて立ち上がった。
「他グループへの妨害行為とは、どの程度のものが含まれるんですか?例えば、他グループが採取しようとしている資材を横取りすることは妨害行為になりますか?」
「いい質問だね、ジーク君。基本的に、今回は相手に直接危害を加えるような行為以外は妨害行為とはみなされないよ。ジーク君の言うような資材の横取りについてはケースバイケースだね。相手が手に取っている資材を力尽くで奪うような行為はダメだけど、誰かが狙っている資材を先回りして横取りするのはオッケーって感じかな」
「なるほど。分かりました、ありがとうございます」
「うん。他に質問のある人はいる?......ないみたいだから、次の説明に移るね」
その後は採取を行うエリアやマナ資材に関する話に移り、特別演習についての説明が終わる頃には昼休みになっていた。
*
「皆、ちょっと聞いてほしい。今から今月の特別演習について話し合う時間を少しだけ貰えないかな?今後の計画をある程度決めておいた方がいいと思うんだ」
昼休みになると、いつものようにジークが立ち上がってクラス全体にそう呼びかけた。
ジークからのこの提案を拒否するクラスメイトはいないようで、ジークの周りに人が集まり始める。
その一方で、リダンはジークを無視して教室の出口へと向かった。
「リダン君。少しでいいからリダン君も参加してくれないかな?」
「俺にはどうでもいいことだ。貴様らで勝手に決めればいい」
呼び止めてきたジークに対してリダンはそう言い放つ。先日のアース達との一件ではリダンが折れて相手に歩み寄ることもあったが、今回はそうもいかないようだ。
「おい、いい加減にしろよ」
オレが何か口を出そうかと考えていると、クラスメイトの一人、オスカー・プレイドが怒りをあらわにしてリダンに突っかかってきた。
オスカーとは直接会話したことはないが、傍目から見た感じだと頭に血が上りやすいタイプの熱血漢といった印象だ。
リダンに対して相当な不満が溜まっていたようで、結構な強さの感情が刺さってくる。
「何だ貴様は」
「毎回毎回輪を乱すようなことしやがって、勝手過ぎんだろお前。マジで何様のつもりだよ」
「そんな事知った事か。貴様こそ雑魚らしく身の程を弁えたらどうだ」
「なんだとテメェ!強いからって調子に乗ってんじゃねぇよ!」
オスカーはこちらに近づいてきてリダンの胸倉に掴みかかる。
リダンはすぐさまオスカーの手を振りほどき、鋭く睨みつけた。
「やる気ならば相手になるぞ。身の程を教えてやる」
「いいぜ、やってやるよ!」
リダンの鋭い眼光によってオスカーからの恐怖の感情が少し強まったが、オスカーはそれでも引く様子はない。流石に力の差は分かっているだろうに恐怖心に怯む様子を見せないとは、見上げた根性だ。
「オスカー君!落ち着いて!」
「何で止めんだよジーク!ジークだってこいつの勝手さには同じような事思ってんだろ!?」
ヒートアップする二人の間に入ってジークが仲裁しようとするが、オスカーの怒りは収まらない。
「確かに、クラスの全員が一丸となって協力できるのが一番理想的だよ。でも、それは強制するものじゃない。リダン君にはリダン君の事情があるんだから」
「ジークは優しいからそう言えるのかもしれないけどよ、俺はもう我慢できねぇ!この前の対抗戦だってこいつが手を抜いたから負けたんじゃねぇか!」
「それは違うよオスカー君。対抗戦ではリダン君はしっかり活躍してくれたじゃないか。確かにリダン君の動き次第では勝てていたかもしれないけど、リダン君のせいで負けたわけじゃないよ」
「それは...そうかもしれないけどよ...」
「そもそも、リダン君に対抗戦に出るようにお願いしたのは僕だ。対抗戦に負けた原因があるとすれば、それは僕の作戦が悪かったんだよ」
「ジーク...」
ジークに諭され、オスカーの怒りは勢いを無くしていく。
普段の言動についてはともかく、ジークの言う通り対抗戦に関してリダンを責めるのは少しお門違いというものだ。
ジークの言う通り、リダンを選手として起用したのはクラスメイト達だからな。リダンは最初から、不要なら自分を外していいと言っていた。
オスカーもそれを頭の隅では理解しているからこそ、ジークの言葉に反論できなかったのだろう。
とは言え、オスカーの言い分も理解はできる。
リダンが手を抜かなければシュトラールブルーが勝っていたのは事実だし、自分が真面目に取り組んでいるものを他の人間が適当にやっていれば腹も立つだろう。
元はと言えば、リダンが募らせた1ヵ月分の不満の蓄積がこのオスカーの怒りを生んでいるわけだしな。
それに、オスカーが今言った不満は多かれ少なかれほとんどのクラスメイトが持っているものだろう。決して無視できるものではない。
オスカーの熱はジークのおかげで収まったが、教室内には気まずい空気が流れたままだ。
そろそろフォローを入れた方がいいかもしれない。
(なあリダン、たまには話し合いに参加してやったらどうだ?)
(あり得んな。何故俺がそんな無駄な時間を過ごさなければならん。大体、俺が参加したところで大して意味はないだろう)
(そうか?意外と参加してみたら有意義かもしれないぞ。それに、この前も言ったけど無駄に敵をつくると後々面倒だろ)
(...ならばレイ、貴様が上手くやっておけ)
(オレが?まさかこいつらへの対応を全部オレに丸投げするつもりか?)
(ああ。レイにとっては雑魚共との無駄な話し合いも有意義な時間なのだろう?)
(...まあ別にいいけどな。その代わり、後から文句を言うなよ?)
クラスメイトへの対応はいずれやる予定だったから、オレとしては特に不都合はない。
(それは貴様次第だな)
(...まあ悪いようにはならないようにする。とりあえず、明日の放課後なら時間がつくれるとでもジークに言っておいてくれ。向こうの都合がつかないようなら別日でも構わない)
オレがリダンにそう伝えると、丁度いいタイミングでジークが口を開いた。
「リダン君。今言った通り僕は参加を強制するつもりはないよ。だけどやっぱり、都合がつく時だけでもいいからクラスに協力して貰えないかな?」
「...明日の放課後に少しだけ時間を作ってやる。それで満足か?」
「本当かい!?」
「ああ。今のように雑魚に噛みつかれるのも面倒だからな」
リダンはオスカーの方を見てそう言い捨てる。どうやら、リダンもさっきの事に少し苛ついていたようだ。
今の一言のせいでオスカーからの怒りの感情が強くなったから余計な事は言わないで欲しかったが。
「ありがとうリダン君。じゃあ明日、よろしく頼むよ」
リダンはジークに軽く返事をして、クラスメイトからの鋭い視線を背中に受けながら教室を後にした。
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