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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第4章「侯爵令嬢編」
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第70話「腹黒少女は情報通」

 図書館に着くと、丁度一人の女子生徒が出てくるタイミングだった。


「あ、エリスちゃん」


 その女子生徒はエリスの知り合いだったようで、エリスの名前を呼んで手を振りながらこちらに近づいてくる。そしてエリスの隣にいるオレに気が付くと、一瞥して中々に強烈な感情を浴びせてきた。


「イリーヌちゃん!こんな所で会えるなんて奇遇だねー。図書館に用事だったの?」


 イリーヌという名前も少し覚えがある。

 目の前にいるイリーヌと呼ばれた女子生徒の耳がロイヤ族特有の形をしていることから、多分トリスカーナイエローの生徒だろう。名前に覚えがあるのも、恐らくエリックと同様にクラス対抗模擬戦で名前を見たからだ。


「うん。部屋で勉強してたんだけど、ちょっとわかんない所があって参考書を借りに来たんだ」


「相変わらずイリーヌちゃんは真面目で偉いねー。あたしとは大違いだ」


「そんなことないよ。...ところでエリスちゃんは何してるの?」


「あたし?あたしはねー...、見ての通りデートだよっ」


 エリスはまたしてもオレの腕に自分の腕を絡めてきた。


「違う」


 オレは即座にエリスの腕を振りほどく。ふとイリーヌの方を見ると、オレとエリスの顔を見比べながらあり得ないとでも言いたげな顔をしていた。


「...エリスちゃん、ちょっといい?」


「何?...えっ、ちょ、ちょっとイリーヌちゃん。そんな引っ張らないで!」


 エリスはイリーヌに連れられて少し遠くの方へと行ってしまった。遠くて会話の内容は分からないが、イリーヌはエリスにこそこそと何かを伝えている。

 イリーヌが刺してきた感情や反応から素直に推測するなら、あんな男は止めておけという忠告でもしているのだろうか。

 まあ確かに、本気でリダンを異性として狙っている女がいるのだとしたらオレも同じことを思うかもしれない。実際に忠告はしないだろうが。


(おいレイ、今何か無礼なことを考えているな)


 心の中でリダンを弄っていたことがバレていた。たぶん天啓で何か伝わったのだろう。

 しばらくしてイリーヌがどこかに行き、エリスが戻ってきた。


「待たせちゃってごめんね」


「構わん。さっさと行くぞ」


 それにしても、エリスの交友関係は想像以上に広いな。シュトラール・ブルーの中だけでなく、他クラスの人間とも親交があるとは少し驚いた。

 正直、エリスを初めて見た時はその言動から多かれ少なかれ敵を作りそうな奴だと感じていた。だが先ほどの様子を見るに、持ち前の積極性から来る外面の人懐っこさや明るさが案外周りに受け入れられているようだ。

 以前に人と仲良くなるのは得意だと言っていたが、自分でそう言うだけのことはある。

 オレとエリスは図書館の受付を抜けて、そのまま中へと進む。

 昼過ぎのピーク時だからか、図書館の中は朝よりも賑わっていた。賑わっているといっても、朝と比較したらというだけでそれ程人数がいるわけでもないし、そもそも大声での会話は禁止されているため、図書館内が騒がしいと言うわけではないが。

 軽く図書館内を見回すと、少し気になる人物がいたためオレはそこに視線を向ける。

 学園内をうろついていると、たまに学園の生徒ではない子供を見かけることがある。見かける子供の年齢層は大体11~14歳くらいで、周囲に保護者もいない。

 初めて見かけた時はあまり気に留めていなかったが、何度か見かけるうちに、何故学外の人間が出入りしているのかが少しだけ気になり始めた。

 ジークやダルクが以前にそうだったように、学外の人間でも誰かを訪ねに来るなどの用事で学園内に入ることはあるだろうが、そういう様子でもない。流石に子供だから学園の職員とかではないだろうしな。

 以前リダンに何か知っているか聞いてみても、何も知らないと返ってきた。


「リダン君、何見てるの?」


 オレが何かを見ていることに気付いたエリスがそう質問してくる。丁度いいから、情報網の広そうなエリスに聞いてみよう。


「貴様はあの子供を知っているか?」


「あの子?...うーん、見覚えは無いけど、たぶん学園を出たところにあるアストラム院の子じゃないかな?」


「アストラム院?」


「あれ?リダン君は知らないんだ?アストラム院はエルトシャン様が管理してる施設で、身寄りの無い子とか、色々と事情のある子を預かって育ててるんだって。勉強なんかも色々と教えてるみたいで、レスト領に住んでる一部の子供たちの学校代わりにもなってるみたいだよ」


「そうなのか。それは割と知られている話なのか?」


「どうだろ?あたしは結構有名な話だと思ってたけど、リダン君は知らなかったみたいだし、案外そうでもないのかもね」


 少なくとも、オレはこの1ヵ月でそれらしい話は1度も聞かなかったな。まあ人と話す機会なんてほとんどなかったから当たり前かもしれないが。


「あいつらは学園を自由に出入りできるのか?」


「流石に自由ってわけじゃないと思うけど、学園と同じでエルトシャン様が管理してる施設の子供たちだから、色々と学園の施設も使えるみたいだよ。アストラム院にいる子の中には、将来的に学園に入学予定の子もいるらしいしね」


「詳しいな」


「ふふん、まぁねー。前にも言ったけど、あたしってこう見えて意外と色々知ってるんだよー?」


「そのようだな」


「あたし、リダン君の役に立った?」


「ああ」


 エリスはリダンの役に立てたことを本当に喜んでいるかのように笑っている。刺さってくる感情には何も変化はないが。

 それからは、参考になりそうな本を何冊か見繕ってから適当な席に座り、エリスから度々話を振られながらしばらく読書に勤しんだ。


 *


 エリスと図書館に来てから結構な時間が経ち、見繕った本を全て読み終わった頃には窓の外は暗くなっていた。

 オレは読み終わった本を元の場所に戻してからエリスと二人で図書館を出る。


「今日はリダン君と一緒に居られて楽しかったぁ!リダン君はどうだった?」


「まあまあだったな」


 エリスがどうこうというのはさておき、さっきまで読んでいた本には割と有益な情報も載っていたため、中々有意義な時間を過ごせたように思う。

 恐らく今朝借りた二冊と合わせれば、オレの知りたかった内容は結構な精度で入手できたことになるだろう。


「おっ、ていうことは次回のデートも期待していいってこと?」


「勝手な解釈をするな。オレが出した条件を忘れたのか?」


「ちゃんと覚えてるって。だからすぐじゃなくていいからっ、ね?」


「...貴様がこれからしばらくオレに付きまとわないと誓うなら考えてやる」


「誓う誓う!だから約束ね?」


「確約はせん」


「えーっ、リダン君のケチ」


「何とでも言っていろ」


 エリスは恨めしそうな表情を作ってこちらを見てくる。

 それから少し間があって、エリスのポータブルが光り始めた。


「ごめんリダン君、友達から連絡来ちゃった。ちょっと長くなるかもしれないから、先に帰ってていいよ」


「ではそうさせてもらう」


「じゃあまたねー、リダン君」


 エリスは笑顔で大きく手を振りながらオレから離れていった。

 オレは寮への帰り道を歩きながら、今日のエリスの行動を振り返る。

 エリスの思惑を少しでも測れたらと思い踏み込んでみたが、大した成果は得られなかった。

 エリスの行動からして何かしらの探りを入れてきているようにも感じるが、仮にそうだとしてもその奥にある目的がはっきりとしない。

 正直な所、今日エリスに関して分かった事と言えばエリスの交友関係が広そうだということくらいだ。


 今後もこんな状況が続くようであれば、真正面からエリスに向き合うことを諦めて、強引な手段を取ることも視野に入れた方がいいかもしれない。

 例えば、闇の第8位魔法に『エモスパンド』という、他人の精神に干渉できる魔法がある。これは、その人間が元々持っている考えや感情を少しだけ増幅させることができる魔法だ。大きな効果を持つ魔法ではないが、やり方次第ではエリスに対処するための武器になるはずだ。


 まどろっこしい事を考えずに殺してしまうのも1つの手段だろう。オレならば、証拠を残さずにエリス・ミューラーという存在を亡き者にすることなど造作もない。

 なんならエリスの精神だけを殺し、空っぽになった肉体を操ってエリス・ミューラーという人間が死んだことを周囲に気付かせない芸当だってできる。

 この方法を実行する場合、天啓で心を見ることができるレイアが邪魔になる可能性があるが、その時はレイアも一緒に消してしまえば問題はない。

 他にも色々な手段が考えられるが、かかる手間や安全性、確実性などを総合的に考えると、殺してしまうのが1番いい気がするな。

 もしエリスに対して正攻法で対処できないようであれば、この手段を取ることにしよう。

 オレがそう思考を巡らせていると、唐突に激しい頭痛がオレに襲い掛かってきた。それによって巡っていたオレの思考は一時停止する。


 ...まあ今すぐに結論を出す必要はない。殺す手段を第1候補として、他の手段もこれから色々と検討していけばいいだろう。


ここまでで4章中編は終わりになります。


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