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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第1章「プロローグ」
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第7話「嫌われ者と怯える者達」

 時刻は午前10時。リダン達はリグレクトの屋敷がある町の正門にいた。そこにいるのはリダン、イヴ、ジャック、そしてアリアという女の四人。

 ジャックはこの前のアスタの森で面識があるが、アリアという女は初対面だ。昨日のディクトの話だと、リグレクトの騎士団でジャックが副団長、アリアが団長をしている実力者らしい。

 ちなみにここに来るまでに、イヴがいることに関してひと悶着あったが、ジャックとアリアは押し切られる形で同行を許可した。


「ではまずはドミア渓谷へと向かいましょう。ここから一番近いですし、魔物の発見報告も一番少ないため比較的安全なはずです。3時間ほどで到着する予定です」


 アリアという女はそう言い、オレ達を先導する。それにジャック、イヴ、リダンの順番でついていく。5分ほど歩いたところでイヴが口を開く。


「アリア団長は前回のドミア渓谷の調査に参加していたんですよね?様子はどうでした?」


「常時よりは魔物の数は多かったですが、それ以外に異変は感じられませんでした。強力な魔物も確認できませんでしたし」


「そうですか。それはよかったです」


「イヴ様。油断はなさらないようにしてください。一昨日のように不測の事態というのはいつでも起こりうります」


「確かにそうですね。すみません、気を付けます」


「大丈夫ですよ、イヴ様。私は、そこの男と違ってイヴ様を完璧に守って見せますから」


「おいアリア、確かに先日は失態を見せたが私だってイヴ様は命がけで守ってみせる」


「それが口だけじゃなければいいけどね」


「まあまあ、私は二人とも頼りにしていますよ」


 ジャックとアリアの会話がヒートアップしそうなところでイヴが口を挟む。聞いている限りだとこの二人はライバルのような関係なんだろうか。そういう存在がいたことがないから良くわからないな。

 そう思っているとイヴはこちらをちらりと見てすぐに視線を戻す。お前のことも頼りにしていると言いたいのだろう。

 ちなみにリダンはそんな出来事をとてもつまらなそうに見ていた。


 約3時間後、目的地に近づいてきた。確かにこの辺りに近づくにつれて魔物との遭遇率が上がっている気がする。この辺りは崖になっている場所が多いこともあって、飛んでいる鳥型の魔物や壁を這うことのできるトカゲのような魔物が多い。

 今のところ、近づいてきた魔物は全てアリアとジャックが処理している。二人とも団長と副団長というだけあって実力者というのは本当のようだ。

 ジャックは先日、熊型の魔物相手に苦戦していたことからあまり期待していなかったが、思っていたよりはかなりやる。まあ、熊型は魔物の中ではそこそこの強さだし、それが5体ともなれば苦戦するのも無理はないか。あれを簡単にせん滅できてしまうリダンが異常なのだ。


 更にしばらく進むこと20分、禍々しい裂け目のようなものが視界に映る、ゲートだ。


「あれがこの場所に出現したゲートです。前回の調査では、最短で10分間隔、最長で2時間間隔で魔物が出現していることを確認しています。出現する平均時間は約30分です」


「どいていろ。俺が直接ゲートを調べる」


 アリアがそう説明すると、リダンがすぐに前に出た。そしてゲートに手をかざし、自身の体内のマナとゲート周辺のマナを操作する。だが、それをアリアが止めようとした。


「待ってください。ゲートには不用意な接触を避けるのが鉄則です。不用意に刺激すればゲートに巻き込まれてしまう可能性があります」


「それは貴様ら弱者の中での鉄則だろう。俺には関係ない。安心しろ、ゲートについては昨日完璧に理解した」


 そう言ってリダンはアリアの静止を無視してマナの操作を継続する。ジャックとアリアは納得していないようだったが、そこでイヴが二人を説得した。


「レイ様を信じましょう。彼の力は本物です」


 リダンがマナの操作を始めてから5分くらい経った頃、ゲートに変化が生じる。ゲート周辺のマナの流れが乱れ始め、ゲートが収縮し始めた。それから数十秒かけてゲートは収縮していき、最終的には最初から何もなかったかのようにゲートは消滅し、周辺の景色に馴染んでいった。


「い、今何をしたんだ」


 思わずといった風にそう呟いたのはジャック。だが口にはしなかったが、アリアやイヴも同じように唖然としていた。

 まあ、ゲートを操作できるほどのマナを持った人間は本当に稀らしいから無理もない。これは施設の資料で知った情報だからどこまで本当かは確認のしようがないが、あの施設は魔法やマナに関してはかなり高位なことをしていたみたいだからそこそこ信用できる情報だろう。


「オレ自身のマナを利用して、ゲート周辺のマナを操作し、ゲートを消滅させた」


 リダンは当たり前のように淡々と答える。まあ理論としてはそうなのだが、それが簡単なものであれば、闇属性の適正を持つものであれば昨日の本を読むだけで誰でもゲートを操作できるようになってしまう。

 昨日1日でそれを習得したリダンはやはり天才というやつなのだろう。


「貴様ら、いつまでそうしているつもりだ?これでこの場所の問題は解決でいいのか?」


 三人はいまだ唖然としていたが、リダンのその言葉に反応するために少しだけ冷静になった。


「はい。とても驚きましたが、これでこの場所の魔物の異常発生は解決するはずです、ありがとうございます、レイ様」


「そうですね。あとはこの辺りに残った魔物たちを討伐すれば大丈夫でしょう」


 イヴとアリアがそう言い、その後は周囲の魔物を探し討伐することになった。


 それから1時間ほどで周辺をあらかた探し尽くし、ほとんどの魔物を討伐し終えた。その中でイヴが戦う場面もあったが、昨日言っていた通り魔法に関してはなかなかの実力を持っていた。

 そろそろ引き上げようかと思った時、渓谷の深い場所から野太い雄叫びが聞こえた。その声を聞いてジャックとアリアは警戒度を1段階あげ、周囲を見回す。そしてすぐにその声の主を見つける。


「なんだあれは、見たことのない魔物だな」


「明らかに危険な雰囲気がする。今仕掛けるべきではないな。一度戻って報告し、改めて討伐隊を編成するべきだろう」


 そこにいたのは犬型の魔物。だが、ただの犬型ではなかった。全長は5mほどあり、更に頭は3つもある。あれは確かネームドの魔物で名前はケルベロスだったか。

 魔物は基本的に名前どころか種族名すら持たないが、ある程度の強さを持つ魔物には名前や種族名が与えられ、ネームドと呼ばれる。あれは、犬のマナを改造して3体の犬を合体させた魔物だ。

 ネームドの強さは他の魔物とはくらべものにならないほどで、アリアとジャックが撤退の判断をしたのは極めて正しいと言えるだろう。だが、正しい判断をしたからといって全てが上手くいくとは限らない。

 不幸なことに、ケルベロスはこちらに気付いていたようで、こちらが距離を取ろうとしたタイミングで真ん中の頭の口から炎の弾を吐き出し攻撃してきた。


「なっ!」


 イヴとアリアとジャックはかろうじてそれを避けるが、避けた先にあった岩が木っ端微塵になったのをみて顔が青ざめる。


「すぐに撤退します。先導するので付いてきてください。レイ様はしんがりをお願いします」


 アリアはすぐに状況を正しく判断し、指示を出す。イヴとジャックは立ち上がり、すぐにアリアの後を追う。そうしている間にもケルベロスはこちらに近づいてくる。


「っ!」


 だが、イヴは立ち上がってすぐに膝を折った。どうやら、先ほどの攻撃が足を掠っていたみたいだ。足首のあたりから光る粒子が漏れ出ている。


「イヴ様!私が運びます。乗ってください」


 そういってジャックがイヴに背を貸そうとする。だがそれでは問題は解決しないだろう。


「だめです!私をおぶったまま逃げ切れる相手ではないでしょう。あなたたちだけでも逃げてください。これは勝手についてきた私の責任です」


 それは正しい判断だろう。実際にケルベロスはものすごい速度でこちらとの距離を詰めている。高低差があるためすぐに追いつかれることはないだろうが中途半端な速度では逃げ切れないだろう。


「「イヴ様を置いて逃げることなど私たちにはできません!!」」


 ジャックとアリアがそう叫ぶ。だが、イヴは折れることはなかった。


「気にせず逃げてください。私はその辺りに隠れます。もしかしたらそれで助かるかもしれません」


「しかし!」


 ジャックがまだ食い下がる。そこでアリアがリダンのほうを向き声をかけた。


「レイ様のゲートで逃げることはできませんか?」


「無理だな。さっき見せたように、ゲートの操作には時間がかかる。ゲートを作る前に追いつかれるだろう。仮にゲートを開くのが間に合ったとしても、閉じるのにも同様に時間がかかるから、閉じるまでに追いつかれるだろう」


「そんな...。」


 活路を見つけたと思ったアリアが肩を落とす。だが、リダンは更に言葉を続けた。


「そもそも、そんなことをする必要はない。この状況を打開する方法は簡単だろう」


「何か考えがあるのですか?」


 イヴがそう問う。その瞳には期待と不安と恐怖が入り混じっている。頼むからその感情を向けないでくれ。痛みと暖かさが同時に襲ってきて気味が悪い。


「あいつを潰せばそれで解決だろう」


「なっ!どうみてもあいつの強さは異常だ!そんなのは打開策ではない、ただの自殺行為だ」


「そう思うのなら貴様らはそこで見ていればいい。そもそも、どうして俺があいつ程度の存在から逃げなければならない」


 そう言い放ってリダンはケルベロスのほうへと向かっていく。その背中にイヴが声をかける。


「レイ様...。無茶はしないでくださいね」


「貴様ら足手まといの弱者たちは自分の心配でもしていろ」


 そういって今度こそリダンはケルベロスがいる場所へと降りて行った。


(意外だな。お前が自分から人助けをするなんて)


(人助けなわけがないだろう。虫唾が走るようなことをいうな。俺があの魔物に興味があっただけだ)


 それも本当だろうが、オレはあの三人のために動いたという理由もある気がしていた。この共同生活が始まってからまだあまり経っていないが、こいつの感情がなんとなく伝わってくる感覚があるのだ。

 もしかしたら、知らないうちにオレの感情も少しだけリダンに伝わっているかもしれない。


 リダンがケルベロスの前に立つと、ケルベロスはリダンに対して先ほど放った火球を繰り出した。リダンはそれを具現化した長剣で切り伏せると、アスタの森でやったように『ダークバインド』を発動する。

 地面から紫色の鞭のようなものが出てきてケルベロスの体を絡めとり、ケルベロスは身動きを封じられるが、1秒にも満たない時間でその拘束を引きちぎり、接近していたリダンに左側の頭が嚙みつこうとする。リダンはそれを後ろに下がって避け紫色の弾を生成して発射した。

 闇属性の第1位魔法、『ダークネス』だ。基本中の基本の魔法だが、マナを弾にして打ち出す魔法のため、持っているマナの量が威力に直結する。リダンほどのマナを持っていればその威力は相当なものになる。ケルベロスは至近距離から放たれたそれを避けることができず、真ん中の頭がそれに直撃する。そのダメージで怯んだところをすかさず一閃し、リダンは真ん中の首を両断する。首の断面から光る粒子が飛び出る。

 悶えるケルベロスに対してリダンは更に追撃し左の頭を攻撃しようとするが、ケルベロスは直撃する前に暴れ出し、それを回避する。リダンは1度距離を取り、もう1度ダークネスを左の頭に打ち込む。だが、今度は距離があったからか首を振ることで避けられてしまう。

 そうこうしているうちに、ケルベロスの真ん中の頭があった辺りにマナが集まっていた。真ん中の頭が再生しようとしている。

 人間相手でも魔物相手でもそうだが、相手を確実に絶命させるためには相手のマナ供給機関かマナ伝達機関を破壊する必要がある。マナ供給機関とは、体にマナを送り出す場所、伝達機関とはそのマナを操作するための場所だ。人間ならば心臓と脳がそれにあたる。

 逆にそれらさえ守ることができれば、それ以外のダメージは時間をかけることで回復できる。魔物の場合は魔石が供給機関と伝達機関の両方を担っている。これを破壊しない限り相手を殺すことは難しい。まあ、体内のマナを全て失うと結局死ぬから、他の部位を攻撃し続けることも戦略の1つだが。

 ちなみに魔石は非常に不安定な存在で、少しでも傷ついてしまえばたちまちその効力を失ってしまう。

 真ん中の頭を復活させようとしていることを察知したリダンはケルベロスに対して新しい魔法を放つ。その直後、ケルベロスの全身の動きが鈍くなった。

 今リダンが放ったのは闇の第3位魔法『パラライズ』だ。これに当たった相手は体内のマナの循環が悪くなる。地味だがかなり強力な魔法だ。

 リダンは動きが鈍くなったケルベロスに対して高速で距離を詰め、左の首を両断した。暴れるケルベロスの爪による攻撃を冷静によけ、リダンはダークバインドを発動し、ケルベロスを再び拘束する。

 ここまでの戦いで体力を大きく消耗していたケルベロスはそれを断ち切ることができず、身動きを封じられてしまう。それを確認したリダンはすかさず最後に残った首を両断した。

 ケルベロスは既に虫の息だが、まだ生きている。あとは魔石を破壊するだけだが、リダンはケルベロスと戦うのは初めてみたいだし、魔石の位置を知らないだろう。まあシンプルに胸の辺りにあるのだが、リダンはどうするのか。

 リダンは拘束したままのケルベロスから1度距離を取りダークネスを発動した。だが、それは先ほどまでのただのダークネスではなく、リダンの前方に20個ほどの弾が出現した。リダンはそれを一発ずつ打ち込んでいく。ケルベロスには避けるような体力は当然残ってなく、全てをその身に受けていく。一発受ける度に体が抉られていき、5mもあった体はどんどん小さくなっていった。

 リダンが10発ほど発射したタイミングで魔石に当たったのか、ケルベロスは光る粒子となって消えて行った。そこには大きな赤色の魔石だけが残る。


 リダンは魔石を回収し、三人の元に戻る。そんなリダンを迎えたのは3つの強烈な刺すような痛みと、1つの暖かな包み込むような感覚だった。

 リダンはその感覚に少しだけ驚いたようだったが、すぐに元に戻り、何も言わずにゲートを展開する準備を始めた。


 5分ほど静寂が続いたあと、リダンの手元から禍々しい裂け目が現れる。


「このゲートは貴様らの屋敷がある町のすぐ近くに繋がっている。ある程度マナが濃い場所でなければゲートを開くことが出来ないから多少距離があるが問題なく帰れるだろう」


 リダンはそう言ってゲートに入るように促す。だが、三人は微動だにしなかった。動かないというよりは動けないという感じだ。


「おい、これ以上俺を煩わせるな。どうせこの状況ではこれ以上の調査は無理だろう。さっさと入れ」


 リダンが苛立ちを含ませながらそう言い放つと、イヴが立ち上がり1度リダンに向かって礼をすると、ゲートに向かって足を引きずりながらゆっくりと歩き出した。


「イヴ様!」


 ジャックとアリアがそんなイヴを引き留めようとするが、イヴが止まる様子はない。それを察した二人はイヴに肩を貸してゲートに入っていった。そしてリダンとゲートだけがその場の残る。

 リダンはその場から動こうとしない。オレはそんなリダンに声をかけることにした。


(さすがの手際だったな。改めて関心した)


(どうして貴様は『そう』なんだ?)


(どういうことだ?)


(いや、なんでもない。今のは忘れろ)


(なんだよ、まあいいけどさ。お前はこれからどうするんだ?町に戻るのか?)


(俺は予定通り他の場所の調査を続ける。アスタの森へはゲートで行けば問題ないし、キーラ洞窟の場所もなんとなくは聞いている。洞窟のほうはここから近いらしいしな)


(そうか。まあ今日の所有権はお前にある。好きにすればいい)


(所有権に関係なく、これは俺の体だ。貴様の意思は関係ない)


 そういうとリダンはゲートを閉じる準備をする。現在の時刻は15時。まあ、キーラ洞窟に行くのに迷ったりしなければ今日中に残り2つの場所も解決できるだろう。


 それからリダンはキーラ洞窟とアスタの森に行き、そこにあったゲートを閉じた。

 キーラ洞窟やアスタの森にも別個体のケルベロスがいたことや、キーラ洞窟に行く際に少しだけ迷ってしまったことから時間がかかってしまったが、なんとかその日のうちに全てを解決できた。

 だが、オレの中にはずっととある疑念が残っている。どうやら世の常識では魔物とは、マナの濃い場所に自然に発生したゲートから自然に出てくるものだと思われているようだが、それは違う。施設で知った情報によれば、ゲートは自然に発生したりはしないし、魔物は人為的に作らなければ生まれることはない。

 つまり今回の一件、誰かがなんらかの意図をもってこの3つの場所にゲートを開き、魔物を送り込んでいたということだ。

 とは言っても、それ以上のことはわからないしオレもそこまで興味はないためこのことを誰かに言うつもりはない。それでまた問題が起こるならばその時はその時だ。オレには関係がない。


 全ての場所のゲートを閉じたリダンはそのまま24時過ぎに屋敷に戻り、さすがに疲れたのか泥のように眠った。

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