第69話「腹黒少女の猛アタック」
図書館を出たオレはそのまま研究棟へと向かう。
研究棟に行くのは魔石を解析する道具を手に入れる為だ。無くてもそこそこの解析はできるが、精度を求めるならやはりそれなりの道具がいるからな。
魔道具の研究をしているミールの研究室には魔石を扱うための器具が色々と置いてあるため、今からそれを使う許可を貰いに行こうと思っている。
ミールの目を盗んで勝手に使ってもいいんだが、正式に許可をもらった方が自由が利くし、印象もいいだろう。
オレは研究棟の方向に歩きながら、ポータブルでミールに連絡を入れる。
「リダンだ」
『おはよーリダン君。どうしたの?もしかして、手伝いに来てくれるの?』
「悪いが今日は別件だ。今は研究室か?」
『うん。ついさっき研究室に来た所だよー』
「そうか。今から向かうが問題ないか?」
『もちろんだよ』
「では今から10分ほどでそちらに向かう。用件に関しては着いてから伝える」
『分かったよー。じゃあ待ってるね』
無事アポイントが取れたので、オレは少し早足で研究棟へと向かった。
予定通り約10分後にミールの研究室の前に到着し、オレはそのまま研究室の扉をノックした。中から静かに足音が聞こえてきて、向こう側から扉が開かれる。
「待ってたよーリダン君。ささ、入って入って」
開いた扉から顔を覗かせたミールは、いつも通り少しマイペースな様子でオレを中に招き入れた。
そのままミールの作業机の近くにある椅子に座るよう促されたため、オレはそれに従う。
「それで、今日はどうしたの?」
「貴様に頼みがある」
「リダン君から頼み事なんて珍しいねー。何々?立場上聞けないこともあるけど、とりあえずなんでも言ってみて?」
「マナ分析器を1つ貸してもらいたい」
マナ分析器とは、物質を構成するマナを調べるために使う道具だ。生物や大気中に流れるマナを調べることはできないが、マナの研究をする上では重宝される。
ここに置いてあるものと型は違うが、施設にいた頃も似たようなものを良く目にしていた。
「それくらいなら全然いいよー。そこにいくつか置いてあるから好きなの持って行っちゃって。リダン君には研究を手伝ってもらって凄く助かってるし、なんなら1つあげようか?」
「ではそうさせてもらう」
オレはミールの言葉に甘えて、ミールが指さした先にあるマナ分析器を1つ貰っていく。
思っていたよりもあっさりと手に入ってしまった。正直、理由くらいは聞かれると思って準備していたが、どうやら無用の心配だったようだ。
もしかしたら、オレが思っているよりもミールはリダンの事を信用してくれているのかもしれない。そうだとしたら研究の協力をしている甲斐があったな。
「そうだリダン君、折角来たんだし、もしこの後時間があるなら帰る前にちょっと話を聞いてくれないかな?実は新しい魔道具のいいアイディアを思いついたから、リダン君にも意見を貰いたいんだよね」
「悪いがこの後は予定が入っている。明後日あたりに時間を作ってやるから、話はその時にしてくれ」
「そっかー。じゃあ明後日、よろしくね。私もそれまでにもう少し考えをまとめておくよ」
「ああ。では今日は帰らせてもらう」
オレはミールの研究室を後にし、寮の自室に戻ってから魔石を解析するための準備を始めた。
オレが魔石を解析するための準備に集中していると、不意に部屋の扉が叩かれた。時計を見ると、いつの間にかその針は12時45分を指している。少し早いが、恐らくエリスが来たのだろう。
オレは作業を中断し、机の上の物をエリスに見られないように軽く片付けてから玄関へと向かった。
「やっほーリダン君。迎えに来たよ」
扉を開けると、エリスが元気に右手を上げながら笑顔を向けてくる。そして強烈な負の感情がオレに襲い掛かってきた。
相変わらず内面と外面が全く一致していない。正直な話、天啓が無ければ目の前で笑っているエリスが自分を嫌っている事などオレには気付けないだろう。
溢れ出る嫌悪感を一切感じさせないその能力は見事なものだ。
「もう出かける準備はできてる?」
「ああ」
「そっかぁ残念。準備が出来てなかったら、待ってる間リダン君の部屋を見せて貰おうと思ってたのに」
「...だから少し早く来たのか。言っておくが部屋には入れんぞ」
「えーっ?ちょっとくらいならいいじゃん。減るものじゃないしさ」
「駄目だ」
部屋の中を覗き見ようとするエリスを無視してオレは扉を閉める。さっきまで出していた魔石の解析道具も含めて、現状は見られて特段困る物は何も置いてないが、わざわざエリスに見せる必要もない。
「ちぇー。...まあいっか、部屋は次来たときに見せてもらおっと」
「次など無いと思うがな」
「相変わらずリダン君はつれないなぁ」
「いいからさっさと行くぞ」
オレが歩き始めると、エリスがすぐに追いかけてくる。そして隣に並ぶと、俺の腕に自らの腕を絡ませてきた。
「おい」
「いいじゃん、デートなんだから」
「そこまで許した覚えはない。とっとと離れろ」
オレは少し強引にエリスの腕を振りほどく。
「そんなに嫌そうにされると、流石のあたしもちょっと傷ついちゃうかも...」
エリスの顔を見ると、まるで本当に傷ついているかのように悲しそうな表情をしていた。
本当に恐ろしい奴だ。もしもオレの感情が正常で、リダンの天啓が無かったとしたら、オレはきっと盛大な勘違いをしていたことだろう。
「そんな顔をしても無駄だ。貴様はこの程度で傷つくような奴ではないだろう」
「あ、バレちゃった?」
エリスは表情をコロッと変え、悪戯っぽく笑う。
「当然だ。もし貴様がこの程度で傷つくような奴なら、何度もオレに声をかけてなど来ないだろう」
「あはは、確かにそうだねー」
エリスはそう言って笑いながら、改めてオレの隣を歩く。
「...」
隣を歩くエリスが突然、オレの顔を覗き込むようにじっと見てきた。
「何だ」
「んー?今日は優しいリダン君だなー、と思って」
エリスは上目遣いで甘えるようにそう言う。
「...別に普段と変わらんだろう」
「そんなことないよ。リダン君って日によって怖かったり優しかったりするけど、今日は今までで一番優しい」
やはりエリスはオレとリダンの違いに気付き始めている。このままほとんど無策の状態でエリスと接するのは危険かもしれない。
オレとエリスが寮を出るのと同じタイミングで、向かい側から一人の男子生徒が寮に入っていく。エリスはその男子生徒を見つけると声を上げた。
「あ、エリック君!」
エリスはその男子生徒に笑顔で手を振る。エリックと呼ばれた男はエリスに気が付くと軽く手を上げた。男はオレの方にも軽く会釈をしてそのまま去って行く。
エリックという名前には少し覚えがあるな。確か、そんな名前の生徒がクラス対抗模擬戦に出ていた気がする。
「さっきのエリック君はキスキルレッドの子だよ」
偶然かオレの思考を読み取ったのかは分からないが、エリスが先ほどすれ違ったエリックについて説明してくれた。顔には出してなかったと思うからたぶん偶然だと思うが。
「そうか」
エリックの素性が分かった所で大して言及することもないためオレは適当に返事をする。
それから図書館に着くまでは、エリスからの執拗な質問攻めに適当に答える時間が続いた。
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