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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第4章「侯爵令嬢編」
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第67話「レイの仮説」

 今オレは寮を出て図書館へと向かっている。図書館に向かう理由は2つ。

 1つはレイアに会うため。昨日の帝国での出来事で、レイアに確認しておきたいことができた。ポータブルで連絡してもいいのだが、折角図書館に向かう用事があるため直接会うことにする。

 2つ目は魔物について調べたいことがあるからだ。正確には、人魔戦争のことも絡めて世間での魔物に対する認識を知りたい。今後の計画に魔物を利用する可能性が高い以上、より精度の高い情報を仕入れておく必要がある。

 エルトシャンが魔物に関する情報を意図的に隠している節があるため、大した情報は手に入らないかもしれないが、それはそれで情報になるから問題ない。

 数分で図書館へと到着し、まずはいつもの席にレイアがいるかどうかを確認する。

 ありがたいことに、レイアは今日もいつもの席に座って本を読んでいた。まだ早い時間だからもしかしたらいないかもと思っていたが、どうやらあの本好き少女の朝は早いようだ。

 レイアは読書に集中していてオレにはまだ気が付いていない。オレは先にもう1つの用事を済ませようと思い、歴史書のコーナーに向かう。

 しばらく適当に歩きながら目的の本を探していると、良さそうな本を二冊見つけた。

 一冊は『これを見れば人魔戦争のすべてが分かる!マナの悪魔ヴィルス・エリアルードが行った非道の全て』。

 もう一冊は『魔物図鑑』というシンプルなタイトルの物。

 両方とも今オレが欲している情報が載っていそうなタイトルだ。目次だけ軽く確認してからこの二冊を持ってレイアの下へと向かった。

 オレがレイアの近くまで行くと、足音か何かで気が付いたのかレイアがこちらを向いた。レイアはオレの方を見ると、いつものように軽くはにかみながら小さく手を振る。


「おはようございます、レイさん。こんなに早い時間に来られるのは珍しいですね」


「ああ、おはようレイア。レイアはいつもこんな早くから図書館にいるのか?」


「そうですね。休みの日は大抵このくらいの時間には来ていると思います」


 軽く挨拶を済ませると、オレはいつも通りレイアの傍に座る。そして持ってきた二冊を机の上に置いた。


「今日はお勉強ですか?」


 レイアはオレが置いた本を見て問いかけてくる。


「勉強ってわけじゃないんだが、ちょっと調べたいことがあるんだ」


「調べ物ならわたしもお手伝いしましょうか?」


「いや、大丈夫だ。それほど大したことじゃない。ありがとな」


「お手伝いが必要になったらいつでも言ってくださいね」


 レイアはオレの方を見ながら小さく微笑む。丁度いい流れだからこのタイミングで確認したいことを聞くことにするか。


「じゃあ、代わりといっては何だけど1つレイアに聞いてもいいか?」


「もちろんです。わたしに答えられるかは分かりませんが、何でも聞いてください」


「助かる。レイアはリダンの『悪魔の子』の噂は知ってるか?」


「リダンさんの噂...、ですか?聞いたことはありますけど、詳しくは知りませんね」


 レイアは少し首をかしげながらオレに答える。


「それを知っている範囲でいいから教えてほしい」


「あの...、良いんですか?リダンさんがお気を悪くするんじゃあ...?」


「リダンの事なら気にしなくて大丈夫だ」


 オレがそう言い切ると、リダンが突っかかってきた。


(別に構わんが、レイが言うことではないだろう)


(一々確認するのも面倒だしいいじゃないか。それとも、リダンはオレに気を遣ってほしいのか?)


(あり得んな。レイに気を遣われるなど気味が悪い)


 オレからの冗談交じりの問いかけをリダンははっきりと否定する。

 レイアの方はオレが大丈夫だと言ってもまだリダンを気遣っているのか、困った顔をしていた。


「レイアがリダンに気を遣ってくれる気持ちは分かるけど、リダン本人も構わないって言ってるんだ。だから教えてほしい」


「...分かりました。レイさんがそう言うならお話します。...とは言っても、本当にほとんど知らないんです。この学園に入学するまではリダンさんのお名前くらいしか知りませんでしたから」


「レイアの住んでいた所にはリダンの噂はあまり広まってなかったのか?」


「どうでしょう...。わたしは体が弱くてあまり外には出られなかったので、それで噂が入ってこなかっただけかもしれません」


「なるほどな。ちなみに、さっきの口ぶりからして学園に入学してからリダンに関して何か聞いたのか?」


「クラスメイトの皆さんから、シュトラール・ブルーに物凄く強くて怖い人がいるというお話を聞きました。リダンさんが犯罪組織と繋がっているだとか、人の弱みを握ってお金をせしめているだとか、そんなお話です」


 この内容は初耳だな。施設で渡された資料にはそんなことは書いてなかったはずだ。施設の人間がこの話を知らなかったのか、あるいはこの話がガセなのか。オレの憶測ではガセっぽいが、それを確信できるような根拠はない。

 まあどちらにしろ本人に聞くのが一番手っ取り早いか。


(今の話って事実なのか?)


(そんなわけないだろう)


(まあだろうな)


(分かっているなら聞くな)


 リダンから小言を言われたが、オレはそれをスルーしてレイアに次の質問をする。


「レイアがリダンを怖がってるのはその噂を聞いたからなのか?」


「え...?わたしはリダンさんを怖がってなんて...」


「隠さなくてもいいぞ。見てれば分かる。それにリダンも気にしてないからな」


 本当は天啓によって分かってるだけだが、もちろんそんなことは言わない。

 またリダンから小言が飛んでくるかと思ったが、今回は何も言って来なかった。言っても不毛だと思ったのかもしれない。


「えっと...。はい...。確かに...、リダンさんは少し怖いです...」


 レイアは言い淀んでいたが、小さな声で素直に肯定した。少しと言っているが、以前に刺さってきた感情からしてそれは嘘だろう。


「それで、やっぱり噂が原因なのか?」


「いえ...。噂自体はどれも抽象的なものばかりだったのであまり信じてはいません」


「そうなのか?じゃあ何でリダンを怖がってるんだ?」


「その...。前哨戦でリダンさんが戦っている姿を見て少し怖いと思ってしまったんです...」


「ああ、確かにリダンの戦う姿はレイアには刺激が強いかもな」


「はい...」


 オレがそう言うと、レイアは弱々しく頷く。

 争いごとが苦手なレイアから見れば、戦闘狂のリダンは恐ろしく映るだろう。


「言いづらいことを無理やり言わせる形になって悪かった。おかげで知りたいことを確認できたよ。ありがとな、レイア」


「いえ...。レイさんのお役に立てたなら良かったです」


 レイアのおかげでオレの中にあった1つの仮説が更に現実味を帯びた。


(レイ、今度は何が目的だ?)


 オレの行動を不審に思ったのか、リダンがそう問いかけてくる。


(レイアに今言った通り、少し確認したいことがあったんだ)


(その確認したかった事とは俺の忌々しい噂の事か?そんなものを確認したところで何になる)


(何にもならないかもしれないな)


(ふざけてるのか?)


(いや、そういうつもりじゃないんだ。オレが個人的に気になったから聞いてみただけで、本当に大して意味はない)


(言っておくが、俺の噂を掘り下げたところで面白いものなど何もないぞ)


 リダンはそう言うが、オレは必ずしもそうとは思わない。

 オレの考えている仮説。それは、帝国にはリダンの噂があまり浸透していないのでは、というものだ。

 オレはグリフォンの一件でレクル村に行った際、1つ気付いたことがある。それは、レクル村の人間が刺してくる感情は比較的小さいということだ。

 この1ヵ月間で接してきたほとんどの者は、目の前の人間がリダン・ブラックヘローであることを知ると強い嫌悪感を抱いていた。実際、リダンが名乗った瞬間に強烈な恐怖心を刺してきた人間も少なくない。

 それに対して、レクル村のギルドの人間やアース達は、目の前の人間をリダンだと認識しても大して恐怖心を持っている様子はなかった。昨日オレが何度か感じた違和感の正体はこれだ。恐らく、レクル村の人間達はリダンに関する噂をあまり詳しく知らないのだろう。

 オレはそれに気付いた時にこの仮説を立てた。

 今レイアに色々と質問したのはそれを確かめるためだ。オレの仮説通り、帝国出身のレイアはリダンの噂をあまり知らなかった。レイアの話を聞く限りでは、キスキルレッドの人間達もリダンの噂を大して知らないように思える。

 もちろん、帝国の人間全てがそうというわけではないだろう。事実、昨日イーガル湖で会ったギルド職員の内二人はリダンに強い恐怖を抱いていたし、アイゼンもリダンの事を学園に入学する前から知っているようだった。

 だがオレの仮説がある程度正しくて、帝国の人間がリダンの噂をあまり知らないのだとすれば、今後何かしらに使えるかもしれない。

 今レイアから聞いた情報が何かの役に立つのか、あるいはリダンに言ったように何にもならない情報になるのかは、今後のオレのやり方次第だろう。

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