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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第4章「侯爵令嬢編」
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第65話「レイの提案」

ここから4章中編になります。

 レクル村から帰ってきた翌日、オレは割と早い時間に目を覚ました。部屋の時計は7時前を示している。

 今日は三連休の最終日だ。明日から授業が始まると週末まで自由に使える時間が減ってしまうため、今日の内に色々とやるべきことを済ませておきたい。

 オレは手早く出かける準備を済ませると、まずはポータブルにマナを流してとある人物に連絡を入れる。人に連絡するには少し早い時間かもしれないが、まあいいだろう。今のオレはリダン・ブラックヘローだしな。

 数秒ほどで呼び出しのコールが鳴り止み、相手の声が聞こえてきた。


『やあリダン君。キミから連絡をくれるとは思ってなかったよ』


ポータブルから聞こえてきた声はエルトシャン・レイドのものだ。


「貴様の言っていた依頼を完了したからな」


『そのようだね。リダン君に任せて良かったよ。本当に助かった』


 どうやらエルトシャンは既にグリフォンが討伐された知らせを聞いていたらしい。グリフォンを倒し、ギルドに報告したのは昨日の夕方だったが、中々情報が早いな。

 エルトシャンの部下かギルドの人間に速い移動手段を持った奴がいるのか、あるいはオレの知らない連絡手段があるのか。意外と、ただ単に夜中の間ずっとマナカーを飛ばしていただけかもしれないが。


『もしかして、その報告のためにわざわざ連絡してくれたのかい?』


「どちらかと言うとそっちはついでだ。本題は別にある。貴様に頼みがあってな」


『頼み?リダン君が僕に?』


 エルトシャンはオレの発言を聞き返してくる。まあ、リダンが誰かに頼み事をするなんてあまりイメージに無いしな。


「そう言っている」


『ああ、すまないね。少し意外だったから驚いてしまった。それで、その頼みというのは?』


「オレが貴様の下についたという情報を流してほしい」


(レイ、何のつもりだ)


 オレのこの提案に対して最初に反応したのはエルトシャンではなくリダンだった。


(大丈夫だ、悪いようにはしない。後からちゃんと説明するから今は黙って聞いていてくれないか?)


(...。...事と次第によっては容赦はしないぞ)


 リダンは納得はしていないようだったが、案外簡単に引き下がってくれた。

 続いて、エルトシャンがオレの提案に対して返答する。


『それは、見せかけだけ僕の下につくという事かい?』


「貴様が望むのであれば実際に貴様の下で動いてやってもいい。全面的な協力は無理だがな」


『なるほど...。それは僕にとっても悪い話じゃないね。キミの力を借りられるというのは魅力的だ』


「ならば聞き入れるということか?」


『そうだね...。その前に、キミがこの提案をした意図を知りたい。キミは僕の名前を利用して何をしようとしているのかな?』


 エルトシャンはオレがこの話をした目的をある程度推察しているようだ。同時に、オレがエルトシャンの名前を利用して良からぬことをしようとしてるのではないかと警戒している。具体的なことは分かっていないと思うが、流石だな。


「貴様はオレの噂を知っているな?」


『悪魔の子の噂だね?』


「ああ。この噂のせいで雑魚共はオレに忌々しい感情をぶつけてくる。恐怖、怒り、妬み、憎悪など、大量の負の感情をぶつけられることは不愉快極まりない。オレという人間が気に入らないのならばそれでもいいだろう。オレの言動が多くの敵を作っていることは自覚している。だが、この噂が原因で理不尽に害悪扱いされるのは我慢ならん」


『つまり、キミは僕にその噂払拭してほしいということかい?』


「そこまでは期待していない。ただ、貴様の名前があれば多少はこの状況も緩和するだろうと思っただけだ」


 リダンの体に入ってから1ヵ月。この1ヵ月でこの大陸におけるエルトシャンの影響力は十分に理解した。誰もがエルトシャンに対しては敬意を払っているし、先日のアードとの一件のようにエルトシャンの名前を出すだけで状況が好転することもある。

 それだけ便利なモノが手の届く場所にあるのなら利用しない手はない。


『確かに、自分で言うのもなんだけどボクの名前にはそれだけの影響力があるだろうね。...。ひとまず、キミの考えは理解できたよ。キミの頼みを聞き入れよう。キミが僕の下で動いていると広めていくよ』


「よろしく頼む」


『それにしても、リダン君がそんなことを考えているとは思わなかったな』


「何か含みのある言い方だな」


『ああいや、悪い意味ではないんだ。むしろキミの人柄が見えたようで好感を持ったよ。これからも持ちつ持たれつ、上手くやっていけそうだ』


「そうだな。貴様が有用である限りは存分に利用してやる」


『僕もこれからは積極的にキミを頼らせてもらうよ。以前にお願いしていた研究の協力も引き続き期待しているからね』


「ああ。用件は以上だ。ではな」


 エルトシャンとの通話を終え、ポータブルが光を失う。


(オレの思惑は理解したか?)


(...ああ。だが面倒事を増やしてくれたな)


(そこは心配しなくていい。エルトシャンから何か指示が来たらオレが動く。まあ、場合によってはリダンに動いてもらうこともあるかもしれないけどな)


(ならば文句はない。嫌悪感を向けてくる雑魚共の事は俺も煩わしいと思っていたからな。その苦痛が軽減されるなら歓迎するところだ)


(そう思ってるなら他人への態度を見直したらどうだ?オレの言った通り、リダンの言動が敵を作ってることは分かってるんだろ?)


(そうだな...)


 ただの軽口のつもりだったが、意外にもリダンは真正面からオレの言葉を受け止めた。


(レイの言うことが一理あるのは理解しているが、無理だ。やはり調子に乗った雑魚共に舐められるのが一番むかつくからな。それに、俺がどうしようと無条件に嫌悪感を向けてくる奴らは一定数存在する)


 確かに、身近な人間に限ってもルフトやジーク、エリスなど、リダンに対して原因の分からない嫌悪感を向けてくる奴はいる。しかもこの三人の向けてくる感情は非常に強烈だから質が悪い。もしかしたらオレの知らない過去の出来事が尾を引いているのかもしれないが、流石にあの感情の強さは異常だ。

 それと、トリスカーナ連合国の人間の多くはリダンを強く嫌っているようだしな。

 エルトシャンの力でどれほどそれが改善されるのかは分からないが、その辺りの人間達と上手く付き合っていくのは簡単ではないだろう。


(まあリダンの気持ちも分かるけどな。いつもいつも負の感情をぶつけられて、しかもそれが天啓によって痛みとして伝わってきたら、流石に嫌気が差すってもんだ)


(分かったような事を言うな。と言いたい所だが、レイもこの1ヵ月は同じ感覚を味わっているんだったな)


(これはオレとリダン以外には絶対共感できないことだろうな)


(そうだな)


 そう同意したリダンは珍しく少し笑っているような気がした。


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