第64話「リダンと双子と侯爵令嬢」
レクル村に戻ってきたリダン達は、まずギルドに顔を出すことになった。一緒に戻ってきたギルド職員ができればそうして欲しいと頼んできたからだ。
ギルドに到着すると、リダンの後ろを歩いていたアースが口を開く。
「リダン、俺たちは親父に報告してくるぜ」
「ああ」
「リダンたちはこの後どうするんだ?」
「報酬を受け取り次第学園に戻る」
「学園にもさっきみたいにゲートで帰るのか?」
「そのつもりだ」
「ならさ、戻る時は俺たちも一緒にいいか?こんな田舎だとマナカーも出てないし、学園に戻るの結構大変なんだよ」
「貴様らの都合に合わせるつもりはないぞ」
「分かってるって。親父に報告したらすぐここに戻ってくるからさ、それならいいだろ?」
「...ならば好きにしろ」
「流石リダン、話が分かる奴で助かるぜ」
アースは元気に笑い、リダンの肩を軽く叩く。
「さっさと行け。言っておくが、戻るのが遅ければ当然置いていく」
「それはやべぇな。じゃ、ダッシュで行ってくるぜ」
そう言ってアースはリダンに背を向けて走り出す。だが、すぐに振り返ってこちらに戻ってきた。
「そうだリダン。その指につけてる奴ポータブルだよな?登録しとこうぜ」
アースはリダンからの了承を待たずにリダンのポータブルにマナを流す。対するリダンは、返事こそしなかったが嫌そうな態度をすることなく、無言のままアースのポータブルにマナを流した。
「俺も頼む...」
アースに続いて、ラースもリダンに向けてポータブルを差し出す。リダンはそのままラースともポータブルの登録を済ませた。
「それじゃ今度こそ行ってくるぜ」
アースは再びリダンに背を向けて走り出した。ラースもそのすぐ後ろに続いている。
「アス、流石の図々しさだったな」
「うっさいラス、だったらお前だけ歩いて帰るか?」
「嫌だ。帝都まで歩いてからマナカーに乗ってたら丸一日近くかかるだろ。それに出費も結構痛い」
「だったらさっさと行ってすぐ戻るぞ。たぶん戻るのが遅れたらリダンは本気で置いていくつもりだ。目がマジだったからな」
二人は小言を言い合いながら走り去っていく。数秒が経つ頃には二人は声が聞こえないほど遠くに行ってしまった。
その後リダンはすぐにギルドに入り報告を済ませる。だが、諸々の手続きの為に少し時間をくれと言われ、ギルド内でしばらく待つことになった。
リダンがギルドに置いてある椅子に適当に腰掛け、イヴがその近くの椅子に座る。そのまま静かな時間が流れるかに思えたが、イヴがリダンの方を向いて口を開いた。
「リダン様。改めて、お疲れさまでした。今回も素晴らしいご活躍でしたね」
イヴはリダンに労いの言葉を贈る。リダンはそれに対して大した反応はしなかった。
リダンから返事が無いことを察したイヴは、そのまま言葉を続ける。
「リダン様、1つお聞きしてもよろしいですか?」
「何だ」
「リダン様は、何故今回の依頼を受けようと思われたのですか?」
「新種の魔物に興味があったからだ」
「リダン様らしいですね...。」
イヴは微笑みながらそう言うが、少し納得していない様子だ。
「リダン様...。依頼を受けられた理由、本当にそれだけですか?」
「何が言いたい」
「いえ...。リダン様を見ていると、他にも理由があるように見えましたので...」
「そんなものはない」
イウの考えをリダンはきっぱりと否定する。オレから見てもイヴの考えは見当違いだ。リダンがここに来たのはグリフォンを倒すため、ただそれだけだ。
だが、イヴがそう思ったということは何か理由があるのだろう。上手く言葉にできないものだとしても、イヴはオレやリダン本人すら自覚していない何かをリダンから感じとっているのかもしれない。
あるいは昨日オレと話す中で、オレの持つ思惑を何か感じ取ったのかもな。
「そうですか...。すみません、おかしなことを聞いてしまって」
イヴは少し残念そうな顔を見せる。不満とまではいかないが、やはり納得できていない様子だ。
それからはしばらく沈黙が続き、二人の間に少し気まずい空気が流れる。まあそれはいつもの事かもしれないが。
そんな気まずい空気の中、リダンのポータブルが光り出した。リダンはすぐに応答する。
『おっ、繋がった。リダン、聞こえてるか?』
ポータブルの向こうから聞こえてきたのは先ほどポータブルの登録をしたアースの声だ。
「聞こえている。用件はなんだ」
『リダンは今日の晩飯何食べるか決めてるか?』
「決めてはないが、そんな事を聞くために連絡を寄越したのか?他に用がないならば切るぞ」
『いや待てって!今親父に魔物を倒したこと話したらさ、礼をしたいからリダンたちを晩飯に招けないかって言ってんだよ。だからどうかと思ってさ』
「行かん」
『即答かよ!まあ無理にとは言わねぇけど。ちなみに、一応理由を聞いてもいいか?』
「他人と食事の席を共にするのは気が進まん。そもそも、俺は俺のためにあの魔物を狩っただけだ。礼は必要ない」
『まあ嫌ならしゃーねぇな。分かった、親父には断られたって言っとく』
「ああ」
『じゃあこれからダッシュでそっちに戻るぜ。置いていかないでくれよ』
それだけ言ってアースは通話を切った。
その後、リダンはギルドから報酬を受け取り、アース達が戻ってくるのを待ってからゲートを開いてアストラムへと帰ることになった。
*
ゲートを通ってアストラムの近くまで出た時には、時刻は既に19時を回っていた。
「やっぱすげーな。レクル村からアストラムの距離でもこんな一瞬で移動できるなんて便利過ぎだろ!」
アースはイーガル湖からレクル村まで移動したときにも似たような反応をしていた。
オレにとってゲートは昔から使っている馴染みのものだからあまり理解できないが、今までゲートによる移動を知らなかったアース達からしたら確かに画期的に見えるだろう。
「リダン...」
はしゃいでいるアースを横目に、ラースがリダンに声をかけてきた。
「父さんが、リダンに礼を伝えておいてくれって言ってた...。俺もリダンに感謝してる...。リダンのおかげで村に被害が出る前に解決できた...」
ラースはリダンに対して軽く頭を下げる。
そんなラースを見て、はしゃいでいたアースも真剣な表情でリダンの方を向いた。
「俺からも礼を言わせてくれ。あの魔物はきっと俺たちの手に負える奴じゃなかった。もしリダンが来てくれなかったら、たぶん今も村の皆は怯えて暮らしてたと思う。だからサンキューな、リダン」
口調は少し軽めだが、アースが本気でリダンに感謝していることが伝わってくる。
「それにしてもホントに凄かったよな。悔しいけど、一生かかってもリダンには勝てる気がしねぇ。アイゼンを初めて見た時も似たようなことを思ったけど、リダンは更に別格だよな。少しくらいその強さを分けて欲しいぜ」
「確かに、マナの量以上に圧倒的な差がある気がするな。魔法だけじゃなくて剣の扱いも凄かった」
「だよな。あれってどこで習ったんだ?やっぱリダンは貴族だし、代々受け継がれてきた流派とかだったりするのか?」
「そんなものはない。あれは我流だ」
「マジかよヤベェな!あれ?でもお前の兄貴も似たような剣技を使ってたよな?確かルフトだっけか」
「ただの偶然だろう。それに、あんな雑魚の剣技と一緒にするな」
「そうなのか?ていうか、ルフトの剣技も十分強かったけどな。俺もラスも前哨戦ではあいつに負けちまったから、いつかリベンジしたいぜ」
アースのその言葉にラースも頷いている。
「そうだリダン、今度暇な時でいいから稽古つけてくれよ。俺、もっと強くなりたいんだ。強くなれば今回みたいなことがあっても村を守れるしな」
「断る。俺にメリットがない」
アースからの突然の提案をリダンは即断った。確かに、ナディアと違ってアースの面倒を見たところでリダンからしたらメリットはないだろう。オレにとってはあるから断らないで欲しかったが。
だが、アースは断られても諦める様子はない。思いつきの提案に見えたが、案外そうではなかったのかもしれない。
「そんなこと言わずに頼むって!」
「リダン、俺からも頼む...」
アースに続くようにラースもリダンに頼み込む。どうやらラースもアースと同じ考えを持っていたようだ。
「貴様らのクラスの皇子に頼めばいいだろう」
「アイゼンには前に断られちまったんだよ。忙しいからって」
まるでリダンが暇に見えたから頼んだかのような失礼な言い草だが、リダンは特に気にしている様子はない。
むしろ二人が必死に頼み込んだことで、リダンは意外にも揺らいでいるようだ。
(どうせナディアの訓練もあるんだ。そのついでに面倒を見てやったらどうだ?)
(さっきも言ったが俺にメリットがない)
(そうか?オレはそうは思わないけどな)
(ほう?言ってみろ)
(この二人も混ぜた方がナディアの成長に繋がるんじゃないか?ナディアが強くなればリダンにもメリットがあるだろ)
(確かにレイの言う通りになればそうだろうな。だが、こいつらがいた方がナディアが成長するという根拠はなんだ)
(特に根拠はない。ただナディアの性格上、ずっとリダンにボロカスに言われ続けるより、自分よりも格下の相手が周りにいた方が伸びそうだと思っただけだ)
(...なるほどな)
結構苦しい理由だと思ったが、案外リダンは納得してくれたらしい。
(だがレイの言う通りにするのは癪だな)
(そんなの今更じゃないか?)
(最近はずっと貴様に丸め込まれている気がするな。気に食わん)
(いいじゃないか。別にリダンが不利益を被ってるわけじゃないだろ?)
(まあそうだがな...)
リダンが少しでもオレの事を信用し始めているのであればいい傾向だ。ナディアの名前を出したからチョロくなってるだけな気がしなくもないが。
「...いいだろう。貴様らの面倒を見てやる」
「ホントかリダン!?」
「ただし条件がある」
「条件?」
「俺は今他の奴の面倒も見ている。貴様らはそのついでだ」
「それでもいいぜ。稽古つけてくれるってんなら贅沢は言わねぇ」
「俺もそれでいい...」
アース飛び跳ねながら喜んでいる。ラースも態度には出さないが喜んでいるように見える。
「そうだ、どうせならイヴも一緒にどうだ?」
「え?私も、ですか?」
突然アースから話を振られ、イヴは少し戸惑っている。そして困った様子でリダンの方を見た。
「俺は構わんぞ。一人増えたところで大して変わらん」
リダンがそう言うと、イヴは嬉しそうに笑った。
「リダン様がご迷惑でないのでしたら、お願いします」
そうしてイヴも訓練に参加することが決まった。
それからは四人で雑談をしながら学園へと戻る。とは言っても、7割くらいはアースが一人でしゃべっているようなものだったが。
「じゃあまたな、リダン、イヴ」
「じゃ...」
学園にたどり着くと、アースとラースは二人してさっさとどこかへ消えてしまった。学園の入口近くで、リダンとイヴの二人だけが取り残される。特に用もないため、二人ともそのまま寮へと帰ることになった。
それから数分後、二人は寮にたどり着く。そして別れ際にイヴがリダンに話しかけてきた。
「リダン様。今回は私の我儘を聞いてくださりありがとうございました」
「構わん。邪魔にならないのなら居ても居なくても大して変わらんからな」
「ふふっ、リダン様らしいお言葉ですね」
リダンのぶっきらぼうな言い様に対して、イヴは穏やかに笑う。
「リダン様、お別れの前に私ともポータブルの登録をして頂けますか?今後連絡をする機会もあるでしょうから」
「そうだな」
リダンとイヴはお互いのポータブルにマナを流し合う。
「ではお休みなさい、リダン様」
「ああ」
リダンと別れの挨拶を済ませると、イヴは寮の自分の部屋へと帰っていった。リダンもその後すぐに自分の部屋へと帰る。
今回の一件、想定外だったがかなり多くのモノを得ることができた。この調子であれば、オレの目的を果たせる時はそう遠くないかもしれないな。
4章前編はこれで終了になります。
最近更新が遅くなっており申し訳ありません。
これから2週間くらいは書くペースを上げて、1月の中旬くらいには4章を終わらせたいと思っています。今後ともよろしくお願い致します。
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