第60話「リダンの嫌いな事」
グリフォンの情報を聞いたリダン達は、そのままアードに案内される形で村の出口までやってきた。
「ではよろしくお願いします」
アードはそう言いながら、リダンたちに深く頭を下げる。
「現地にはギルドから派遣した調査員が数名いますので、魔物に接触する前にまずそちらを探してください。先ほど渡した依頼書を見せれば、色々と教えてくれると思います」
「分かりました。ありがとうございます」
ギルドの職員からの助言に、イヴは丁寧に礼を述べる。
見送りの言葉を聞いたリダンは、それらに返事をすることなく彼らに背を向けて歩き出した。だが、すぐにその背中に声がかかる。
「なあリダン!俺も付いて行っちゃ駄目か?」
「何?」
リダンは振り返り、声の主でに対して睨みつけるような鋭い視線を送る。
「アース、いい加減にしなさい。迷惑になるだろう」
「村が危険かもしれないってのに何もせずにじっとしてるなんて、俺はできねぇよ!」
「だからと言ってお前の我儘が通るわけではない」
アードは声を上げたアースを厳しく叱りつける。
一方で、リダンは黙ったままアースの事をじっと見ていた。恐らくどうするのかを考えているのだろう。
それから少しして、リダンが口を開く。
「...付いて来たいなら勝手にするがいい。だが邪魔になるようならば置いていく」
「っ!マジかよリダン。サンキューな!」
アースは嬉しそうに飛び跳ねて喜んだあと、リダンに近づいてきて肩を軽く叩いた。オレからリダンの表情は見えないが、きっと嫌そうな顔をしていることだろう。
アースはすぐにリダンから離れると、再びアードの方を向いた。
「親父!俺は行くからな!」
「...好きにしなさい。だが迷惑はかけるなよ」
「分かってるって」
アードからの注意に対して、あまりわかってなさそうな態度でアースが元気に返事をする。
「リダン...。俺も付いて行っていいか?」
アースの件が一段落したタイミングで、今度は弟のラースが声を上げた。距離感が近いアースとは違い、ラースの態度は少しよそよそしい。
「好きにしろ」
「...ありがとう」
ラースはアースに対して小さな声で礼を言い、軽く頭を下げた。
「なんだよ、ラスも来るのか?」
「いいだろ別に。俺だって村の為に何かしたいって気持ちは同じだ。それにアスだけだと何かしでかしそうで心配だからな」
「何もしねぇよ。むしろ一人だと心配なのはラスのほうだろ。ラスは良く迷子になって一人で泣いてたじゃねぇか」
「そんなの昔の話だろ。それに、それを言うならアスの方だって...」
ラースのちょっとした一言から、二人の喧嘩が始まってしまった。放っておくとこのままヒートアップして行きそうだ。オレとしてはこのまま放っておくのも面白いと思うが、そういうわけにはいかないだろう。
「おい」
意外なことに、喧嘩している二人にリダンが声をかけた。そして二人を冷たく睨みつける。二人はリダンの形相に気が付くと喧嘩を止めて固まってしまった。
「次に同じようなことがあれば置いていく」
睨みつけられて固まっていた二人だったが、リダンのその言葉にはすぐに反応した。
「悪い悪い。それだけは勘弁してくれ」
「ごめん...」
アースの方はリダンに対して両手を合わせて軽く謝り、ラースのほうはリダンに睨まれたのが怖かったのか、しゅんとして小さくなっている。
リダンの冷たい視線によって少しの間場が静まり返ってしまったが、アースがすぐに声を上げた。
「よしっ。じゃあ親父、行ってくるぜ」
アースがアードの方を向いて大きく手を振る。
「二人とも気を付けて行ってきなさい。リダンさんも、バカな息子たちですがよろしくお願いします」
リダンは返事をすることなくアードに背を向ける。アースたちも挨拶を済ませるとすぐにリダンに追いついて来た。
リダンの隣にイヴ、後ろにアース、そしてそのアースの隣にラースという並びで歩き始める。
リダンの視界の隅に少しだけ移ったイヴの表情を見ると、何故かとても嬉しそうに笑っていた。
*
レクル村を出てしばらくは、ほとんど黙々と歩くだけで時間が過ぎて行った。
現在はアースが先頭に立ち道案内をしてくれている。レクル村から出てすぐのタイミングで「せっかくだから俺が案内してやるよ」と言ってアースが前に立った。
それからはアースがたまにラースに話しかけるくらいで、ほとんど会話もなくここまで来ている。
だがこの状況に我慢ができなくなったのか、アースが急に振り返ってリダンに話しかけてきた。
「なあリダン、さっきの話って本当なのか?」
リダンはアースの方を見ることなく、ぶっきらぼうに返事をする。
「何のことだ」
「エルトシャン様の遣いでここに来たって話だよ」
「エルトシャンからの情報でここに来たのは確かだが、エルトシャンの指示で動いているわけではない」
「なんだそうなのか。実は俺たちもエルトシャン様から知らせを貰ってレクル村に帰ってきてたんだぜ。故郷のピンチに居ても立っても居られなくてよ」
リダンはアースに対して返事をしなかったが、その代わりのようにイヴがアースに話しかけた。
「そうなんですね。故郷の為に何かしたいというそのお気持ちはとても良く分かります。私もそうでしたから」
「そう言えばさっき言ってたよな、故郷が魔物に困ってた時にリダンに助けて貰ったって」
「はい。リダン様は私の不躾なお願いを快く引き受けてくださって、そのお力ですぐに魔物を撃退してくださいました」
快く引き受けたという部分には大分誇張が入っている気がするが、それはイヴなりの気遣いのようなものだろう。
「リダンって厳つい顔してるけど、結構いい奴だよな」
「そうですね。私もリダン様はとてもお優しい方だと思います」
「...おい、人の事を勝手に分かったように語るな」
自分が褒められていることにむず痒くなったのか、あるいは単純に煩わしく思ったのかは分からないが、リダンが二人の話に口を挟んだ。
「すみません...」
イヴが申し訳なさそうな顔をして謝る。別に悪意があったわけでも、悪いことをしているわけでもないのだからそんなに真剣に謝る必要はないと思うが、誠実なことだ。
一方のアースの方は「なんだよ、別にいいだろー?」と文句を言っている。まあこっちが一般的な反応だろう。そんなアースに対して、アースの隣を歩くラースが「バカアス。そういう時は素直に謝っておけよ」とボソっと呟いていた。
(褒められて照れてるのか?)
(そんなわけないだろう。他人に俺の事を分かったように語られるのが嫌いなだけだ)
ちょっとからかってみたが、リダンからは大体想像通りの返答が返ってきた。以前にも同じようなことを言っていたから、リダンが他人から自分の事を推し測られるのが嫌いなことはわかっていた。まあオレがこう思っていること自体がそれに値するのだが、別に直接言わなければ関係ないだろう。
その後も何度かアースから話題が提供されながら道中を進み、数時間後にイーガル湖のすぐ近くまで辿り着いた。
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