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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第4章「侯爵令嬢編」
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第59話「リダンの変化」

「まずは今回の依頼を出した経緯を説明します」


 アードは一度咳払いをしてから話を切り出した。アードの両隣には、叱られたせいか静かに縮こまっているアースとラースの姿がある。


「イーガル湖で新種の魔物が発見されたのは6日前の事です。この村に住んでいるとある青年が、見たこともない魔物をイーガル湖で見たと言って私の所に駆けこんできました。私がすぐに腕に自信のある者を数人引き連れてイーガル湖に調査に向かうと、全長10m以上もある凶暴そうな魔物がいました。その魔物は鷹のような頭に獅子のような胴体を持っており、その大きな翼と脚でイーガル湖の周辺を動き回っていました。その魔物を見た私は、すぐに村に帰ってこの事をギルドを通してエルトシャン様に相談しました。現在は帝都のギルドの方にも協力してもらってその魔物の調査をしています」


「それで、肝心の魔物については何かわかっているのか?」


 アードからの話を聞いたリダンが、そんなことはどうでもいいとでも言いたげな刺々しい態度で質問する。


「現状ではほとんど何も分かっていません。外見以外で分かっているのは、その翼と脚での移動はかなり速いということくらいです。恐らく、あの魔物が本気で追いかけてきたら並みの人間では逃げ切ることはできないでしょう」


「調査をされている方々は大丈夫なのですか?」


 今度はイヴが、心底心配そうな態度でアードに質問する。イヴらしい着眼点だ。


「私たちに気が付いていないのか、あるいは興味がないだけなのかは分かりませんが、襲い掛かってくる様子ありませんので、油断はできませんが今のところは大丈夫です。イーガル湖の周辺から動かないため村への被害もありません」


 それを聞いたイヴは、文字通り胸を撫で下ろすような動きを見せた。


「下手にこちらから刺激して余計な被害を出すわけにもいかないため、魔物の調査を始めてから今日で3日になりますが、ずっと魔物を観察しているだけの状況です」


「状況は理解した。説明が以上ならこれからすぐに狩りに向かう」


「今すぐにですか?さっきも言ったように、こちらとしては下手に刺激してしまって被害を出すようなことは避けたいので、どれほどの危険性があるのかを正確に把握してから仕掛けたいのですが」


「そんな面倒なやり方に付き合うつもりはない」


「そんな勝手な...」


 リダンの自分勝手な態度に、アードが困った様子を見せる。アードとリダンの両方が黙ったことで、少しの間静かな時間が流れた。

 この展開はあまり望むものではないため、オレは少しだけ口を挟むことに決める。


(さっきも言ったが、もう少し他人の気持ちに寄り添った言動をしたらどうだ?そんな風に敵を作るような事ばかりしてたら疲れるだろ)


(こいつらの調査を待つなど時間の無駄だ)


(まあリダンからしたらそうだろうな。けど、このアードという男の懸念していることが分からないわけじゃないだろ?)


(理屈としては理解できる。だが俺には関係のない話な上、そもそもこいつの懸念している事は無用な考えだ。俺が獲物を逃すはずもない)


(ならせめてそれを言ってやったらどうだ?被害を出さないと約束してやれば、納得はしないかもしれないが引き下がってくれるかもしれないぞ)


(...そうだな)


 どうやら今回も、オレの提案に文句を言いながらも受け入れてくれるようだ。リダンは以前よりも少しだけ素直にオレの意見を聞くようになった気がする。

 リダンはオレとの会話を終えると、場に訪れていた沈黙を破った。


「...貴様らの事情を汲んでやるつもりはないが、俺に一任するならば獲物を確実に仕留めることだけは約束してやる」


「確かに、被害が出ないのであれば私としては文句はありません。しかし...」


 やはりアードは簡単には納得できない様子だ。そんなアードを様子を見かねたのか、あるいは黙っていることが限界だったのか、静かにしていたアースが声を上げる。


「親父、俺はいいと思うぜ。リダンの強さは俺が保証する。なんたって、あのアイゼンに余裕で勝っちまうような奴だからな」


「あのアイゼン皇子に...?」


 アイゼンに余裕で勝つという言葉に、アードは驚きの表情を見せる。アイゼンの強さを知っている人間からしたら無理もないだろう。リダンが強すぎるだけで、アイゼンも十分に規格外の強さを持っているからな。

 それにしても、リダンですら入学前からアイゼンの事は知っていたみたいだし、アイゼンの強さはオレが思っているよりもずっと有名なのかもしれない。


「今の話は本当なのか?ラース」


「間違いないよ、父さん」


「なるほど...」


 ラースにも話を聞き、リダンの強さを理解したアードは少し考える素振りを見せた。もう少し押せば陥落しそうだ。

 ちなみにアードの横では、アースが「俺の話だけじゃ信用できないのかよ、親父!」と言って叫んでいる。

 アードはまだ答えを出せそうになかったが、悩んでいるアードに対してリダンの隣に座っているイヴがトドメの一声を叩き込んだ。


「住民の方々に被害が及ぶことを心配するアード様のお気持ちはとても分かります。ですが、リダン様にお任せすれば絶対に大丈夫だと思いますよ。私の故郷のリグレクト領が魔物に困っていた時も、リダン様は見事に解決してくださいましたから。エルトシャン様も、リダン様のお力を信頼しているから今回の件をリダン様にお話ししたんだと思います」


「エルトシャン様が?」


 アードはリダンがエルトシャンに信頼されているという部分に反応を示した。

 どうやら依頼を受けた人間が来ることは伝えられていたが、エルトシャンがよこした人間であることは伝わっていなかったらしい。


「リダンさんはエルトシャン様が遣わしてくれた方なんですよ」


リダンとイヴをここに連れてきたギルドの案内役の人間がアードに説明する。


「そうなんですか...。...分かりました。ではあなた方にお任せします」


「それでいい。では俺は行く。恐らく今日中には方が付くだろう」


「待ってください」


 席を立とうとしたリダンだったが、アードから引き留められる。


「そこまで有益な情報はないかもしれませんが、この3日間の調査で得た情報を伝えますのでそれだけでも聞いていってください」


 アードの言葉に対し、リダンは無言のまま動作だけで話すように促した。

 それからアードの話を聞いた後、リダンたちはグリフォンがいるというイーガル湖へと向かうことになった。

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