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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第4章「侯爵令嬢編」
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第57話「侯爵令嬢は悩んでいる」

 しばらく歩いてレンタル屋へと辿り着き、オレはそこにいた店員の男に話しかける。


「帝国のレクル村まで行きたいんだが、マナカータクシーは使えるか?」


 レクル村というのはグリフォンが確認されたイーガル湖の近くの村の名前だ。


「いらっしゃい、レクル村までだね。そっちのお嬢さんと二人かい?」


「ああ」


「金はあるのかい?」


「これで足りるか?」


 オレはエルトシャンからもらった金を袋ごと全て差し出す。帰りはゲートを使って帰れるため、行きで全て使ってしまっても問題ない。一応宿代くらいは残ったほうがいいが、元々持ってきていた金もあるし、最悪の場合でもゲートがあれば大体何とかなる。


「これの3割もあれば十分だよ」


 店員の男は袋の中身を確認して必要な分だけを取り出し、残りをオレに返した。


「今すぐ行くかい?」


「ああ、頼む」


「じゃあそっちに乗ってくれ。日付が変わる前には着くと思うよ」


 オレとイヴは言われた通りにマナカーに乗り込む。どうやら客の乗る場所は個室になっているようだ。


「それじゃあ出発するよ」


 店員の男はこちらに声をかけると、返事を待たずにマナカーを動かし始めた。

 マナカーの中は少しだけ揺れるが、乗り心地は結構悪くない。大体半日ほどはこの中で過ごすことになるが、これならば何の問題もないだろう。


「リダン様、こちらを」


 イヴは自分の鞄から小さな袋を出し、そこから金を取り出してオレに差し出す。恐らく自分の分の代金を支払うつもりだろう。


「必要ない。さっきの金はオレの物ではなくエルトシャンから貰った物だからな」


「そういうわけにはいきません。それはエルトシャン様から依頼を受けたリダン様の物ですから」


「だとしても貴様がそれを支払う必要はない」


「ですが...」


 オレが拒否してもイヴは引こうとはしない。ここでオレが強気な態度に出ればイヴも引いてくれるかもしれないが、そこまでする必要もないだろう。


「...分かった。そこまで言うならそれは受け取ってやる」


「はい、そうしてください」


 オレはイヴの手から金を受け取り、エルトシャンから貰った袋にそれを入れる。

 それからしばらくはお互いに会話をすることもなく、マナカーから見える景色を見ているだけの時間が続いた。


 1時間ほどが経過して外の景色にも飽きてきたオレは、イヴに声をかけることにした。実はイヴには前々から聞いてみたかったことがある。


「貴様に1つ聞きたいことがある」


「なんでしょうか?」


「貴様は普段からオレの事を気に掛けている様子だが、何故オレに構おうとする?」


 オレはイヴの行動の意図がいまいち読み切れていない。イヴから伝わってくる感情の多くは感謝や恐怖といったものだが、恐らくそれ以外にも何かある気がする。それを理解できれば、今よりもイヴとの距離を近づけることができるだろう。


「私はリダン様ともっと仲良くなりたいんです」


「それは以前にも聞いた。オレが知りたいのはその理由だ」


「仲良くしたい理由...ですか。そうですね...。私自身も良く分かっていませんが、リダン様と仲良くなりたい理由があるとすれば、それはきっと私のエゴや意地から来ているんだと思います」


「それだけでは理解できんな」


「...すみません、この感情は私の中でも上手く整理ができていないんです。それに、いくらリダン様でもこれ以上はお話できません。これは私自身の問題ですので」


「そうか。ならばいい」


 エゴや意地、か。要するに、イヴの中には他のモノを蔑ろにしてでも譲れない何かがあるのだろう。出来ればその感情を引き出したいところだが、イヴ自身もしっかりとそれを理解できていないのなら今はこれ以上踏み込んでも仕方ない。


「ですが、リダン様と仲良くなりたいというのは私の紛れもない本心ですよ」


「別にそれは疑っていない。貴様のようなお人好しが人を貶めるような嘘をつけるとは思えんからな」


「...リダン様には私がそのように見えるのですか?」


「ああ。実際そうだろう」


 イヴからは敵意や悪意のようなものは全くといっていいほど感じられない。『感情感覚受信』の天啓でも、オレ個人の感覚でも、イヴの感情にはそういった黒いものが見当たらない。


「そうですか...」


 オレの言葉に対して、イヴは複雑そうな顔をして相槌を打つ。

 それっきりイヴは黙り込んでしまったため、それから長い間、オレ達の間にはマナカーの揺れる音だけが流れた。


 *


 レンタル屋の店員の言っていた通り、帝国のレクル村には日付が変わる前に着くことができた。現在の時刻は23時過ぎだ。


「ありがとうございました」


「またどうぞ」


 イヴが店員に対して丁寧に頭を下げて礼を言い、オレ達は店員と別れる。


「もう遅い時間ですし、まずは今晩泊まる場所を探しましょうか」


「ああ」


 それから10分ほどレクル村の中を歩き、今晩泊まれそうな宿を発見した。

 二人で別々の部屋を取った後、オレは別れ際にイヴに話しかける。


「明日は調査員や村の人間から話を聞き、都合がつけばそのまま討伐に向かう」


「分かりました」


「それと、貴様の都合に合わせるつもりはない。ついて来たいなら勝手にしろ」


「はい、ご迷惑をおかけするつもりはありません」


「ではな」


「おやすみなさい、リダン様」


 イヴと別れ、自分に割り当てられた部屋に入って扉を閉める。


 さて、これからどうしたものか。

 当初の予定では、隠れてグリフォンに接触して村に被害を出させるように誘導つもりだった。だがよくよく考えてみれば、リダンの『悪魔の子』の噂を考えるとそれはリスクが高い。

 リダンがやったという証拠がなかったとしてもリダンが来たタイミングで被害が出たとあれば、その原因がリダンにあるとこじつけられてしまう可能性がある。

 であれば、今回は後々の事を考えて布石を打っておく程度に留めるべきだろう。目的を達成するためならばオレに出来る手段は全て取るつもりだが、やり直しは効かないためリスクは極力抑えていく。

 とりあえずオレが今やるべきことは、リダンが勝手な事をしないように注意しておくくらいか。


(リダン、一応言っておくが筋は通してくれよ。今回は一応依頼って形なんだからな)


(言われずともわかっている。レイは俺を何だと思っているんだ)


(制御の効かない凶暴な獣ってところか?)


(俺が獣で貴様が飼い主だとでもいうつもりか?調子に乗るなよ)


(そんなつもりはないって。ただの冗談だ)


(命が惜しいならそんなつまらない冗談は言わないことだな)


(分かったよ。まあとにかく明日は上手いことやってくれ)


(当然だ。俺も面倒ごとを増やしたくはないからな)


 リダンも好き勝手にやるつもりはないようでひとまず安心だ。明日は基本的にはリダンを見守ることしかできないが、オレに都合の良いように上手く立ち回ってくれることを期待しておこう。

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