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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第4章「侯爵令嬢編」
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第56話「レイとギルド」

 学園の出入口にある門をくぐりしばらく歩くと、学園都市アストラムの町並みが目に入る。初めて来た時も思ったが、学園がある以外は極めて普通の都市だ。

 強いて特筆すべきことがあるとするならば、元々レスト領の主都だっただけあって結構栄えている。少なくともブラックヘローの屋敷があった町よりは人通りは多いだろう。


 エルトシャンはギルドに寄れと言っていたが、オレはこの都市の地図も持ってなければ散策したこともないため、当然ギルドの場所など知らない。

 ギルドはそこそこ目立つ建物だろうし、そこまで大きな都市ではないため歩き回っていればいずれは辿り着きそうだがそれは面倒だ。


(なあ、ギルドってのがどこにあるのか知ってるか?)


(知らん。俺もここのギルドには行った事がないからな)


(まあだよな)


 一応リダンに聞いてみたが、やはり知らないらしい。仕方がないから次はイヴに聞いてみることにする。


「この都市のギルドがどこにあるのか知っているか?」


「ギルドでしたらこの都市の南西の方にあったと思います」


「良く知っているな」


「アストラムには家の用事で何度か来たことがありますので。良ければご案内致しましょうか?」


「では頼む」


「分かりました」


 イヴは微笑みながら頷くと、ギルドがあるであろう方向に向けてオレの少し前を歩き始めた。


「ギルドには何の御用ですか?」


「これからオレが討伐に向かう魔物に関して依頼が出ているらしい」


「そうなんですね。ちなみに、それはどこでお聞きになられたのですか?」


「情報源はエルトシャンだ」


「エルトシャン様ですか。リダン様はエルトシャン様に頼りにされているのですね」


「別にそういうわけではない」


「そうでしょうか。少なくとも、エルトシャン様ほどのお方が信頼できない相手にそのようなお話をすることはないと思います」


「まあ実力面では信頼されているのかもしれんな」


 正直エルトシャンは、リダンの事を使いにくいが性能の高い駒というくらいにしか思っていないと思う。エルトシャンから信頼されるほどの付き合いはないし、実績も残していない。

 仮に本気でエルトシャンがリダンの事を信頼しているというのであれば、それはきっと何か裏があるからだろう。

 オレから見たエルトシャンへの評価も似たようなものだ。オレはエルトシャンの事は少し警戒が必要だが使い道の多い駒くらいにしか思っていない。

 エルトシャンとの関係は、利害の一致の上に成り立った協力関係。お互いの実力や能力が都合がいいから利用し合っているだけに過ぎない。


 しばらく歩いてギルドまでたどり着き、イヴについていく形で中まで入る。

 ギルドは公共の施設にしては結構小さく、大きさとしては民家2つ分といったところだ。入ってから真っすぐ進んだ所に受付のような場所があった為とりあえずそこに向かう。


「帝国で発見された新種の魔物に関する依頼があると聞いたのだが」


「はい、ございますよ。もしかして、リダン・ブラックヘロー様ですか?」


「ああ」


 オレがリダンだと分かった瞬間、受付の人間から恐怖の感情が少し突き刺さる。だが、受付の人間は感じた恐怖をほとんど顔に出さずに対応を続けた。見た目は20代の女性で若手の新人のような印象だが、実は結構なベテランなのかもしれない。


「エルトシャン様からお話は伺っております」


 受付の人間はそう言うと、資料を取り出してオレに見せながらこれまでの調査で分かった情報を話してくれた。その情報を聞く限り、やはり魔物の正体はグリフォンで間違いなさそうだ。


「以上が現在わかっている情報になります。こちらの資料は持ち出して頂いて構いません。何かご質問はございますか?」


「新種の魔物とやらが持っている魔石はオレが持ち帰っていいのか?」


「はい、問題ありません。ご自分で使われるのも、ギルドに納品してくださるのも自由です。仮にギルドに納品されるのであれば、魔石の性能に見合った報酬をお支払い致します」


「了解した」


「他にご質問はございますか?」


「...そうだな。今回の依頼に関する内容ではないが、ギルドの依頼は他には何があるんだ?」


「そうですね、今回のような魔物の討伐依頼や、人探しの依頼、仕事の求人募集などもありますよ。現在ある依頼はそちらの掲示板に記載されてますのでご興味があるようでしたらご確認ください。依頼を受けたい場合には受付に伝えてくだされば詳細をお伝え致します」


 そう言いながら受付の人間は掲示板のある方向に手のひらを向ける。確かに、そこにある掲示板にはぎっしりと色々なことが書いてあった。


「なるほどな。質問は以上だ、礼を言う」


 知りたい内容は聞けたので、オレは受付に背を向けて歩き出そうとする。だが、すぐに後ろから声がかかった。


「お待ちください」


「まだ何かあるのか?」


「エルトシャン様からこちらを預かっております」


 受付の人間はオレに向けて小さな袋を差し出す。


「何だこれは」


「帝国までの交通費になります。もし使わなかった場合や余った場合にも返却は不要だと聞いています」


「そうか。ありがたく受け取らせてもらおう」


 この辺りの気配りがしっかりしている所は流石だな。使わなかった場合というのは、闇の第10位魔法の『ゲート』で行く場合を想定してのことだろうか。エルトシャンはリグレクトの一件からリダンがゲートを使えることは知っているはずだからな。

 ちなみにリダンは帝国には行ったことが無いらしく、オレも当然行ったことが無いため行きではゲートは使えない。


「お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 受付の人間に見送られ、オレとイヴはそのままギルドを後にする。


「この後はどうされますか?」


「このまま帝国に向かう。確か、この都市の入口で移動用の魔道具をレンタルしていたはずだ」


 初めてここに来た時にちらっと見ただけだが、あれは構造からして『マナカー』という魔道具のはずだ。乗り物として使用するらしい。

 施設にはなかったのでここ最近知ったものだが、リダンの授業で知った話によるとノンストップで移動すれば大陸の端から端に移動するのに1ヵ月とかからない優れものだそうだ。リダンのマナの量であれば更にスピードも出せるだろう。

 当然乗ったことなどないが、オレが施設にいた頃に使っていた車椅子もマナで制御する乗り物だったため、まあ何とかなるだろう。


「マナカーのことですね。リダン様はマナカーの操縦も出来るんですか?」


「やったことは無いが、マナで制御するのであればどうにでもなるだろう」


「免許を持っておられるのではないんですか?」


「免許とは何だ?」


「免許とはマナカーを操縦するための資格です。免許を持たずにマナカーを操縦するのは禁止されています」


「そうなのか。知らなかったな」


 リダンの授業ではそんなことは言っていないかった。そもそも、リダンの身体能力とマナがあれば走った方が速い上に、行ったことのある場所ならゲートを使えるからマナカーに乗る機会はないと思っていたしな。今回もイヴの同行がなければ走って帝国まで行く予定だった。


「ふふっ。リダン様でもそんな風に抜けている時があるのですね」


 イヴは嬉しそうに笑っている。無知を晒してしまったが、意外にもイヴからの反応は悪くない。むしろ好印象を持たれている様子だ。

 そう言えば、昔読んだ小説でこんな事が書かれていたな。確か、完璧な人間よりも欠点のある人間のほうが可愛げあって親近感が湧くとかなんとか。ある小説ではそのことをギャップ萌えとか言っていた気がする。

 少し違うかもしれないが、今の状況はそれに近いのではないだろうか。

 これはオレにとっては新しい発見だ。周囲の人間から好印象を得るためにはわざとこういう面をプッシュしていくのもアリかもしれない。


(おい、レイの無知のせいで恥をかいただろう。どうしてくれる)


 珍しくリダンからオレに話しかけてきた。オレのせいで恥を晒したのがそんなに気に食わなかったのだろうか。


(仕方ないだろ。そもそも教えてくれなかったのはリダンだろ?)


(言い訳をするな。知らなかったのはレイの責任だろう)


(まあ確かにそうだけどな。相手はイヴなんだし別にいいじゃないか。イヴ本人が馬鹿にしてくることはないだろうし、他人に言いふらすようなタイプでもないだろ)


(そうかもしれんが。俺はそういう事を言っているのではない)


(分かったよ。今後はこういうことは無いようにする)


 リダンが言いたいのは、オレのせいでリダンが被害を被ることがあったら許さない、とそういうことだろう。元々そういう約束である程度の自由を許してもらっているわけだし、ここはリダンの忠告をしっかりと聞いておくことにしよう。


「ともかく、マナカーが使えないのであればどうする?何かいい案はあるか?」


 マナカーが使えないのであればオレには走っていく以外の手段は思いつかないが、イヴには少し過酷だろう。イヴを抱えて走る手もあるが、それは流石にイヴが嫌がりそうだ。


「レンタルして私たちで操縦するのは無理ですが、『マナカータクシー』という指定の場所まで連れて行って貰えるサービスもあるので、そちらを使えば問題ないと思いますよ」


「ではそうしよう」


 イヴの案を採用することにし、オレ達はマナカーのレンタル屋へと向かうことにした。


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