第54話「レイの企み」
4月の特別演習、クラス対抗模擬戦が行われた日から一夜明け、今日は4月最後の週末だ。今週末はいつもの週末とは違い、アストラム学園の学生には3連休が与えられた。何でも、特別演習を頑張った学生達へのちょっとしたご褒美ということらしい。
オレとしては、この3連休は結構ありがたい。オレの目的を遂行するためにやるべきことは山のようにあるから、自由な時間が増えるのは助かるところだ。
まだ具体的な計画は立てていないが、目的遂行のためにオレがやるべきことは大まかに4つある。
1つ目は、身近な人間からのリダンへの評価を上げること。これは目的達成に直接つながる最も重要な要素だ。今までのように受動的に周囲と関わっていくのではなく、これからは積極的に行動を起こし、こちらから周囲に関わりに行く必要がある。
2つ目は、世間からのリダンへの評判を変えること。リダンに対する悪感情の多くは、『悪魔の子』の噂から来ている。この噂を多少なりとも払拭していくことで周囲の人間のリダンへの見方も変わっていくはずだ。
3つ目は、リダンからの信頼を得ること。オレが好き勝手に動くために一番の障害になるのは恐らくリダンだ。今でもオレの行動は結構許容して貰っているが、リダンから見て不審な行動が多くなれば妨害される恐れがある。それに、信頼を得られれば今以上に自由に動けるようになり、取れる手段も多くなるだろう。
そして最後に4つ目は、リダンの意識を変えること。オレがいくら奔走したところで、リダン本人が周りからの感情を疎ましく思い、嫌われるような態度を取り続けてしまっては目的の達成は極めて困難になる。
ただ、これはオレがどうにか出来るものではないため、ナディアのような周りの人間の力を借りる必要があるだろう。オレが何か言ったところでリダンには届かないだろうからな。
以上の4つがこれからオレのやるべきことだ。とは言え、リダン本人に関連することは一朝一夕にはいかないため、とりあえずは身近な人間からの評価や世間からの評判を上げていくのが優先になる。
やり方としては、イヴやナディアとの一件が参考になるだろうか。手っ取り早く他人からの評価を得るためには、二人にやったように相手の抱える問題を解決したり頼みを聞いてあげるのが良さそうだ。
このやり方に問題があるとすれば、周囲の人間の抱えている悩みや問題が分からないことだな。イヴやナディアの場合が少し特殊だっただけで、他の同級生たちはリダンに対して悩みを打ち明けたり、頼み事をしたりはしないだろう。
オレにそれらを引き出せるようなコミュニケーション能力でもあれば少しは話が違ったかもしれないが、この前まで施設の人間以外と話したことのないオレには当然そんな能力はない。
イヴやナディアに情報を貰うという手もあるが、見たところナディアはあまり交友が広い訳ではなさそうだし、イヴも他人のそんな情報を簡単に話してくれるとは思えない。
であれば、こちらで問題を作り自分で解決するというのはどうだろうか。
例えば、学園に大量の魔物をけしかけ、それをリダンが退治するという形にすれば学園の関係者や同級生から感謝され、少なからず信頼を得ることができるだろう。
一部の人間にはリダンに対する恐怖心を与えてしまうかもしれないが、それくらいは許容できるデメリットだ。
ただ、この作戦を実行する場合リダンがどう出るのかが分からない。魔物をけしかけるにしろ何にしろ、リダンにばれないように問題を起こすことは不可能だ。オレのその行動が許容されなかった場合、リダンの出方次第では最悪な方向に進むことも考えられる。
悪くないアイディアだったが、リスクを考えるとこの案は一旦保留にするべきだろう。
そう考え、また別の案を考えようとしたところでポータブルが光り出した。ポータブルの画面に表示された名前を確認し、オレは応答する。
『やあ、おはようリダン君。朝早くにすまないね。今は大丈夫かな?』
「問題ない。用件は何だ?」
通話の相手はエルトシャン・レイド。この大陸で一番影響力のある人間であり、この学園のトップにいる男だ。
『実は、帝国で新種の魔物が確認されたんだ。リダン君は魔物の情報を欲してるみたいだったから、研究に協力して貰ってるお礼も兼ねて伝えておこうと思ってね』
色々あって覚えていなかったが、以前にエルトシャンから呼び出された時にそんな話もしていた。それにしても、このタイミングで魔物の情報が入ってくるなんて、渡りに船とはまさにこのことだな。
この状況を利用すれば、世間からのリダンへの評判を上げることも可能だろう。単純にその魔物を退治してもいいし、周囲の人間を襲うように刺激して被害を大きくしてから解決するのもいい。
とりあえずは、計画を詰めるために詳細を聞く必要があるな。
「そうか。その魔物とはどんな奴だ?」
『鷲のような頭に獅子のような胴体を持っている魔物だね。背中には翼が生えていて空を飛ぶこともできるらしい。発見されたのは帝国にあるイーガル湖という大きな湖の周辺で、その近くにある村の住民が発見したそうだよ。その習性についてはまだ調査中だね』
鷲のような頭に獅子のような胴体とくれば、オレの知識で思い当たる魔物は1体だけだ。その名前はグリフォンと言い、以前にリグレクト領で遭遇したケルベロスと同様ネームドの魔物だ。見た目の通り鷲と獅子を融合した魔物で、凶暴さで言えばケルベロスと同じくらいだろうか。
「現状での被害はどの程度だ?」
『まだ実害は特に出ていないよ。報告によると、その魔物はイーガル湖の周辺から動く気配はないらしい。一応、近くの村の住民には警戒態勢を取ってもらっているけどね』
「なるほどな」
被害が出ていないというのはオレにとっては都合が悪い。グリフォンの危険さが伝わらなければ、仮に退治したとしても大して感謝されない恐れがある。やはり、こちらから刺激して被害を出させる方向に持っていくのが良さそうだ。
とは言え、リダンのせいで被害が出たと思われては本末転倒な為、ばれないように細心の注意を払う必要はあるが。
まあ、具体的な作戦は今ここで考えるより、現地に行ってから考えるのがいいだろう。
今はとりあえず、リダンがどうするつもりなのかも確認する必要があるな。
(だそうだが、どうする?)
(当然やりに行く)
(ナディアへの指導はいいのか?)
(...。1日くらいなら問題ないだろう。あいつは多少文句を言うかもしれんがな)
(分かった。なら今日は帝国に向かうことにする)
(別に今日向かう必要はないだろう)
(オレも新種の魔物とやらに少し興味があるからな。今日の内にこの目で見てみたい)
(まあ好きにしろ)
本当はオレに体の所有権がある時に相手をしたかったが、リダンがそういうのであれば仕方ない。まあ、今日中に仕掛けを済ませてしまえば特に問題もないだろう。
『それで、どうかな?討伐に向かう気はあるかい?』
「ああ、その新種の魔物とやらはオレが潰しておいてやろう。情報提供感謝する」
『こちらこそありがとう。...そうだ、討伐に向かうなら、ここを出る前にギルドに寄って欲しい』
ギルド、とはエルトシャンが各地の治安維持の為に運営している組織で、民間の依頼などを募っているんだったか。以前にリダンから軽く聞いただけで、オレは当然ギルドに行ったことは無いから良くは知らないが。
「何故だ?」
『今回の件はギルドにも依頼として登録されているんだ。だから、ギルドを通せばその依頼の報酬を受け取れるし、より詳細な情報を聞くこともできると思う』
「了解した。話は以上か?」
『別件だけど、話はもう1つあるよ。以前に僕とキミで戦う約束をしたのを覚えているかな?』
「ああ。時が来たらこちらから連絡すると言っていたはずだ」
『そうだね。もちろんリダン君の都合に合わせるつもりだけど、僕から1つ提案させてもらってもいいかな?』
「言ってみろ」
『実は、授業の実習の一環として戦えないかなと思っているんだ。自分で言うのもなんだけど、僕とキミの戦いはハイレベルな戦いになるだろうから、それを見れば色んな人にとっていい刺激になると思うんだ』
「つまり、オレと貴様の戦いを見世物にするということか?」
『有り体に言えばそうなるね』
オレとしてはこの提案は悪くないものだが、リダンにとってはあまり歓迎するものではないかもしれないな。
(どうする?リダン)
(俺は構わない)
(意外だな。リダンはこういうのは嫌がると思ったんだが)
(歓迎するものではないがな。雑魚共に見られるくらい大した問題ではない)
(まあリダンがそういうなら承諾していいよな?)
(ああ)
リダンからの承諾も得られたため、オレはエルトシャンに対して返答する。
「その提案、受けてやろう」
『そっか、良かったよ。ちなみに、時期についてはまだ決まってないのかな?』
(どうなんだ?)
(こうなった以上、俺としてはいつでも問題ない)
(じゃあこっちで適当に決めていいか?)
(構わない)
「いくつか候補日を伝えるから貴様がその中から決めろ」
オレは5月の日付で、リダンに所有権があるであろう日を指定する。
『じゃあその通りに調整しておくよ』
「今度こそ話は終わりか?」
『そうだね。魔物の件も含めてよろしく頼むよ』
「ああ」
オレはエルトシャンとの通話を切り、出かける支度を始めた。
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