第53話「レイとリダンに忍び寄る影」
今回のお話から第4章『侯爵令嬢編』になります。
リダン・ブラックヘローがアストラム学園に入学してからしばらく経ったある日、現在リダンの中でレイと名乗っている少年がいた研究施設の一室に、数人の白衣の人間たちが集まっていた。
白衣の人間の中の一人、ゼル・ブラッドコールが口を開く。
「では、報告を聞こうか。学園でリダン・ブラックヘローを探っている二人はどうなっている?」
「はい。両者とも、リダン・ブラックヘローに接触することには成功したようです。こちらが報告書になります」
ゼルは報告書を受け取り、その内容に目を通す。
「この報告書によると、偶然にもリダンに研究の協力をしてもらうことになったそうです。リダンはマナに関する理解が非常に深く、その点においてはディーエルを彷彿とさせる、と記載されています」
その話を聞いて、ゼルの手に少しだけ力が入る。
「しかし、研究に対する姿勢は割と積極的で、施設から逃げ出したディーエルの人物像とは異なっているようにも感じられる、とも記載されています」
「...ふむ」
ゼルは報告を聞いて、腕を組んで考える姿勢を見せる。しばらくその体勢のまま硬直した後、口を開いた。
「貴様らはどう見る?」
ゼルが問いかけ、白衣の人間の一人が恐る恐る手を上げる。
「私としては、マナの理解が深いからディーエルであると考えるのは早計ではないかと思います。噂に聞くリダン・ブラックヘローであればその程度はおかしくないかと。他の情報も加味すると、リダンの中にディーエルがいる可能性は低いと考えます」
「...そうか。もう一人の方の報告はどうだ?」
「そちらにはクラス内でのリダンの様子が記載されていました。リダンは大分自分勝手な行動をしている様子で、反感を買っているようです。当人はリダンとは数回話しただけのようで、今のところはこれといった印象はないと記載されていました」
「周囲から反感を買って目立つような行動はあまりエルらしくはないな...」
ゼルはそう言いながら資料へと目を落とす。
「この二人には引き続きリダン・ブラックヘローを探らせるとして、今後の方針として何か案がある者はいるか?」
「そうですね。では...」
白衣の人間の一人が意見を出し、それから話は進んでいった。
2時間ほどで議論が終わり解散になると、部屋にはゼル一人が残る形となった。ゼルは一人になった部屋で椅子に座り、目を閉じて考えを巡らせる。
それから数分が経過した頃、ゼルの下に一人の人間がやってきた。
「こんなところで何やってるの?」
「少し考え事だ」
ゼルは近づいて来た人間を見ることなく答える。ゼルに声をかけたのは、ネル・ローリエ。この施設で魔物の研究をしている女性だ。
「またディーエルの事を考えてるの?」
「ああ」
「あなた、最近はそればっかりね」
「今の私にとってはそれが最重要事項だからな」
「そう、でもあまり根を詰め過ぎないようにね。最近のあなた、少し顔色が悪いわよ」
「そうだな。ところで、何か用か?」
「またリダン君に可愛い子供たちと遊んでもらおうと思ってるの。一応ゼルには話しておこうと思ってね」
「それはいいが、アストラムに直接手を出すようなことはするなよ。エルトシャンを相手にするのは面倒だからな」
「そんなに警戒する必要あるかしら?あんな小心者なんて気にする必要ないと思うけど」
「確かに奴のやり方は小心者のそれだが、あの実力は脅威だ。私やお前でも1対1の勝負であれば分が悪いだろう。それに奴の周囲にも何人か実力者がいるからな」
「まあ安心していいわよ。エルトシャンに目を付けられるようなことはしないから」
「そうか。一応聞いておくが、今回はどうするつもりだ?」
「とりえあず今は、作った子を帝国に放ってデータを取ってる所ね」
「帝国ではリダンが来る保障はないのではないか?」
「今の子は試作の段階。本命は近いうちにリダン君に直接ぶつける予定よ。まあ、今回の子はあの大陸では新種のはずだから、リダン君が食いついて帝国まで来てくれたら嬉しいけどね」
「何かわかったら教えてくれ」
「ええ。ああそれと、さっき言った通り近いうちに仕掛ける予定だから、そっちの情報もこまめに共有してくれると助かるわ」
「分かった」
「それじゃあね」
そうしてネルは部屋を出て行き、ゼルは再び部屋に一人になった。そして、ゼルは天井を見上げて物思いに呟く。
「エル...」
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