第49話「リダンと王子と皇子」
ナディア対ミスト、メリア、レオンハルトの戦いの場になるであろうB3へと行くために、リダンがB4に向かっていると、リダンの指にはめてあるポータブルが光りだした。
ポータブルの画面を見てみると、そこにはジーク・シュトラールの文字が表示されている。
だが、リダンはそれを無視して歩き続けた。
(出ないのか?)
(用件は大方わかっている。あの帝国の皇子の相手、あるいはあの女の援護だろうな)
(まあそうだろうな。けど、出るくらいはいいんじゃないか?)
(俺はあの王子のことが気に食わん)
(まあ確かに、あの張り付いた笑顔の裏にあれだけの負の感情を持ってるわけだし、どんなどす黒い考えを持ってるのかわかったもんじゃないけどな。けど、流石に無視するほどじゃないんじゃないか?)
(...)
オレの言葉にリダンが黙る。最近わかってきたが、こういう時のリダンは大抵の場合、感情と実利の間で揺れている状態だ。基本的には押せばいける。
(あの王子はクラスの中心人物なわけだし、下手に亀裂を作ると面倒な敵を増やすことになるぞ。それに、今後もナディアと関わっていく可能性がある以上、あの王子自身ともある程度は関係を築いておく必要があるんじゃないか?)
(...)
リダンはまだ黙っている。ここは少し様子をみようと思い、しばらく待っていると、リダンが結論を出した。
(...。...言っておくが、貴様の考えに感化されたわけではないぞ)
少しだけ不満げな様子で、リダンは自身の指にはめたポータブルにマナを流す。するとすぐに、ポータブルからジークの声が聞こえてきた。
『リダン君、応じてくれてありがとう』
「何の用だ」
『戦況はわかっているよね?』
「ああ」
『正直、かなり絶望的な状況だよ。残りの四人を全員倒して、ディアとリダン君には二人共生き残ってもらわないといけない。だから、リダン君には自由にしてもらっていいって約束だったけど、キミの力をクラスの為に貸してくれないかな?』
「俺は俺の好きなようにやると言ったはずだ。そんなものの為に力を貸すつもりはない」
『そこをなんとかお願いできないかな。クラスの為じゃなくても、せめてディアの為に』
「あの女の為だと?」
『リダン君は最近ディアと仲良くしてくれてるよね。ディアは今、B3でミストさん、メリアさん、レオンハルト君の三人を相手に必死に戦ってくれている。リダン君にはその援護に行ってほしい』
「そんな頼みを聞いてやるつもりはない。そもそも、クラスの為だとかあの女の為だとか、随分と立派なことだな。そんな建前は捨てて本心を言ったらどうだ?」
『建前?僕は本気で言っているよ』
「どうだかな」
リダンはジークに対して嫌味を吐き捨てた。リダンの言わんとしていることは何となく理解できる。ジークがリダンの手を借りたいのはクラスの為でもナディアの為でもなく自分の為。リダンはそう言いたいのだろう。
確かに、ジークは成績について気にしている節があるからな。クラスの中で一番負けたくないと思っているのはジークなのかもしれない。
『...どうしても、協力してくれる気はないのかい?』
ジークはリダンの失礼な物言いにも表面上は怒りを出すことなく、縋るように協力の要請を続ける。そんなジークの言葉を聞いて、オレはリダンに1つ提案してみることにした。
(なあリダン、ここで軽く恩を売っておいてもいいんじゃないか?)
(あの女を助けに行けというつもりか?)
(そうじゃない。この王子に免じて帝国の皇子の足止めくらいはしてやる、そんな流れに持っていけばいい。どの道あの皇子の相手はするつもりだったんだろ?このままだと、あの王女の戦いに手を出すだろうからな。それはリダンが望む展開じゃない)
(...)
リダンは少しだけ黙っていたが、すぐに答えを出した。
(...ふん、レイにしては悪くない考えだ)
(お褒めに預かり光栄だ)
(褒めたつもりはない。あまり調子に乗るな)
そうして、リダンは再びポータブルの向こうで返答を待っているジークに向かって言葉を放つ。
「...そうだな。憐れな貴様に免じて、あの帝国の皇子と軽く遊ぶくらいならばしてやってもいい」
『本当かい!?』
「ああ。だからもういいだろう」
『ありがとう、リダン君!』
ジークは喜びの声を上げ、リダンに礼を言う。ただ、ジークは少し勘違いをしている気がする。今のリダンの言い方だと、アイゼンを倒してやると言っているようにも聞こえるからな。
最終的にはそうなるのかもしれないが、リダンはあくまで現状では足止めをするだけだ。もし勘違いをしているのなら、後で余計に恨まれるかもしれないな。
リダンはジークとの通信を切り、再びB4へと進む。アイゼンのマナはB4とB5の境界の辺りから感じられる。お互いにこのまま進んでいけば、B4で相対することになるだろう。
それから数分が経ち、リダンはアイゼンよりも少し早くB4の中心部付近に到達した。アイゼンは方向を変えることなくこちらに向かって来ている。
そしてしばらくして、リダンの瞳がアイゼンの姿を捉えた。アイゼンもリダンがいることはわかっていたようで、こちらを見ている。
「おや。こんにちは、リダン君」
アイゼンは先日と同様に微笑みながら丁寧な挨拶をする。だが、その微笑みの奥には少しの敵意と大きな悔しさが感じられた。この場所でリダンに捕まった時点でアイゼンの負けは確定したようなものだからな。
対するリダンは特に動くこともなくアイゼンの方を見つめている。
「一応お聞きしますが、何故こんなところで一人で立っておられるのですか?」
「貴様を待っていた」
「それは私と戦うつもり、ということでよろしいでしょうか」
「勘違いするな、少し遊んでやるだけだ。貴様にはこの先の戦いが終わるまでここにいてもらう必要があるからな」
「それは困りましたね。私はまだ君と争うつもりはないのですが」
「この先に向かわないというのであれば手は出さないでおいてやる」
アイゼンはリダンの言葉に対してしばらく考える素振りを見せ、また口を開いた。
「...そうですか。ならばしばらくここでゆっくりすることにしましょう。ここで強引にリダン君と戦ったところで勝ち目は薄いですからね」
そう言ってアイゼンは近くの木の根元に腰を下ろす。
それから二人の間には数分間の沈黙が流れたが、突然アイゼンがその沈黙を破った。
「それにしても、リダン君は随分とナディア王女に肩入れしているんですね」
「何を言っている」
「ここでこうしているのもナディア王女の為なんですよね?」
「...訳が分からんな」
リダンはアイゼンに図星を突かれ、少しだけ返しが弱い。
アイゼンはどこからかリダンとナディアの関係に関する情報を仕入れていたようだ。まあ、自分から言うことはないが、特にひた隠しにしていたことでもないため、どこからか噂でも聞いたのだろう。
この情報を持っていたアイゼンは、さっき何かを考えていた際にリダンの考えをある程度察したのかもしれない。だからこそ、特に抵抗することもなくこの場所での足止めを受け入れたのだろう。
今こうしてその話題を口にしたのは、自分の考えが合っているか確かめるためか、あるいはリダンの弱点を何かしら探るためといったところか。
「そうでしょうか。前哨戦の後からリダン君がナディア王女に指導していたという話は聞いていますよ」
「それは事実だが、俺があの女に肩入れしているわけではない。そもそも、あの女の面倒を見ているのは俺自身の為だ」
「そうですか。では、何故ここで私を待っていたのですか?」
「貴様に言う必要はない。もう黙れ」
リダンはそう言ってアイゼンのいる方向とは完全に別方向に体を向ける。
「...もう少し話を聞いてみたかったのですが、仕方ないですね」
リダンの態度を対話を拒否する証として受け取ったアイゼンは、リダンが後ろを向いているのをいいことに奇襲を仕掛けてくることも、それから話しかけてくることもなかった。
それから数十分の時間が経過し、リダンとアイゼンの間に流れる沈黙をフィールド全体に響くアナウンスが破った。
「B3にてトリスカーナイエローのレオンハルト・コーデックが負傷したため脱落とする。そして、致命傷を与えたナディア・シュトラールの所属するシュトラールブルーに1点が入る」
どうやら、ナディアが相手を一人落としたらしい。それからまた数分して次のアナウンスが流れる。
「B3にてトリスカーナイエローのミスト・アーケディアが負傷したため脱落とする。そして、致命傷を与えたナディア・シュトラールの所属するシュトラールブルーに2点目が入る」
そして更にその数分後、ナディアの勝敗を知らせるアナウンスがリダンの下へと届いた。
「B3にてトリスカーナイエローのメリア・モノクロームが負傷したため脱落とする。そして、致命傷を与えたナディア・シュトラールの所属するシュトラールブルーに3点目が入る」
その知らせを聞いたリダンは少しだけ喜んでいるようにも見えた。
対抗戦の初期配置です。良ければ本文を読む際にご活用ください。
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A B C D E F G H I J
1
2 イリー ミスト
3 ラース
4 メリア ナディ
5 ダルク エリッ
6 レオン リダン
7 アース ルフト
8 アイゼ ティグ
9 ソフィ カトリ
10
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