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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第3章「王女編」
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第47話「4月特別演習、開幕」

「作戦はこんなところだね。もちろん、作戦通りに行かないこともあるだろうし、細かい所まで決められていない。けど、その辺りは僕が指揮官としてなんとかするから皆は安心して戦ってほしい」


 ジークはそう言って作戦会議を締める。その言葉に対してリダン以外の選手四人は頷いて答えた。

 ちなみに、ジークが指揮官になることは先日の話し合いの際に満場一致で決まったことだ。クラス内での人望は一番だし、指揮官としての能力も十分あるから適任だろう。


「時間になりましたので、生徒の皆さんは担任の指示に従って各自移動をお願いします」


 作戦会議が終わってから少しして、控室に備え付けられた魔道具からアナウンスが流れた。

 ミール主導の下、選手の五人はフィールドへ、指揮官のジークはモニター室へ、それ以外の生徒は観戦室へと移動する。

 リダンを含む選手五人はしばらくしてフィールドのある大部屋へと辿り着き、入口であるE10からそれぞれの開始地点へと移動していく。最初にA9のソフィーリアと別れ、次にA5のダルク、そしてその次にはC7のルフトと別れた。

 残ったナディアの開始地点はE4、リダンの開始地点はG6のため、もう少し進めばナディアとも別れることになる。


「ねぇ、リダン」


 ナディアとリダンの二人になったタイミングで、前を歩いていたナディアが振り返りリダンに声をかけてきた。


「何だ」


「...さっきの作戦、あなたはどう思っているの?」


「どう、と言われても何も答えられんな」


「私がミストとメリアとレオンハルトの三人を倒すって話よ。言わなくてもわかってるでしょ」


「それがどうした」


「だからっ!リダンは私とその三人ならどっちが勝つと思ってるのかって聞いてるの!」


 声を張り上げるナディアに対して、リダンは少し睨むように返答する。


「貴様、まさか怖気づいているのか?」


「そんなわけないでしょ!ただ少し気になっただけだから!」


「ふん、どうだかな」


 ナディアの表情にあまり余裕はなく、自信家のナディアらしからぬ雰囲気を纏っている。声を張り上げてそれを覆い隠そうとしているようだが、傍から見ればその様子は、普段のナディアからは考えられないほどに弱々しい。


「まあいい、俺から貴様に言えることは1つだけだ」


「...何よ」


「もしあの雑魚共に無様に負けるならば、貴様はその程度の人間だったということだ。そうなった場合、俺が貴様の面倒を見ることは二度とないだろうな」


「なっ!何勝手なこと言ってるのよ!」


「勝手だと?俺は元々、貴様が俺を楽しませられる可能性があるから面倒をみてやっただけだ。この俺が3週間も面倒を見てやったにも関わらず奴らに負けるような雑魚であれば、貴様にその価値はない」


「...仮に今日負けたとしても、価値がないかどうかなんてわからないじゃない...」


「それは俺が決めることだ」


「...」


 リダンが強く言葉を放ち、ナディアは目を伏せて黙ってしまう。リダンにすら恐れを抱かなかったナディアは、今、敗北を恐れている様子だ。リダンに負け、アイゼンに負けた段階で、今までナディアが自分を天才だと信じて築き上げてきた自信は、大きく揺らいでいる。

 そしてこの3週間のリダンの指導の中で、ナディアは自分の実力不足を痛いほどに理解した。だからこそ、今まで当たり前のように信じてきた自分の実力に不安を抱いている。普段から強気なナディアがこんなにも弱気になるほどに。

 そんなナディアの様子を知ってか知らずか、リダンは更に言葉を続ける。


「そもそも、貴様が勝てば何の問題もないだろう?この俺に勝つと言っておきながらあんな雑魚共に怖気づいている貴様には無理な話かもしれんがな」


「...」


 ナディアはまだ押し黙ったままだ。歩く足を止めたまま、ずっと目を伏せている。

 だがそれからしばらくして、覚悟を決めたようにナディアがリダンの方へ向いた。


「...。...いいわ、やってあげるわよ。ミストもメリアもレオンハルトも余裕で倒して、リダンが私を認めざるを得ないような素晴らしい勝利を飾ってあげる。なんならアイゼンだって倒してあげるから、しっかり見てなさいよね」


 ナディアはしっかりとリダンの目を見てそう宣言した。


「ふん、それでいい」


 そして、リダンは満足そうにナディアにそう言い放つ。さっきのリダンの厳しい言葉は、もしかしたらリダンなりのナディアへの激励だったのかもしれない。負ければ終わりという言葉も本心だったかもしれないが。


 それからリダンとナディアは別れ、それぞれの開始地点へと移動した。

 数分が経ち、リダンは自身の開始地点であるG6へと到着する。それから更に数分が経過し、フィールド内に変化が訪れた。


「全員の準備が整いましたので、これより4月特別演習、クラス対抗模擬戦を開始致します。10カウントの後に鐘が鳴りますので、それを合図に選手の皆さんは行動を開始してください」


 魔道具によってフィールド全体にアナウンスが響き渡る。そしてその数秒後、アナウンスの通りにカウントダウンが始まった。次第にカウントされる数字が小さくなり、ゼロになったタイミングで試合開始を告げる鐘が鳴る。

 そして前哨戦の時と同様に、リダンの体の周りにマナ障壁が展開された。選手の戦闘不能は、このマナ障壁へのダメージで判定されるらしい。

 今頃、フィールド各地では選手達が一斉に移動を開始しているだろう。

 さっきジーク主導で決められた作戦で、それぞれのメンバーに重要な役割が与えられた。左側でスタートするルフト、ダルク、ソフィーリアの三人は元々予定していた左下での迎撃戦を捨て、捨て身で得点を取りに行く作戦だ。

 まずソフィーリアはアイゼンから近い上にフィールドの隅でスタートするため、位置的に生き残ることはほぼ不可能だと判断し、出来るだけアイゼンの気を引き時間を稼ぐ。

 次にルフトだ。ソフィーリアと同じくアイゼンの近くからスタートするが、近くには比較的浮いている位置にキスキルレッドのエリック・ルフェーブがいるため、捨て身でそちらを落とし1点を取る手筈になっている。

 エリックという人間の実力は分からないが、前哨戦には出ていなかった人間だし、普通に考えれば1対1ならばルフトが勝つだろう。だが、そこにアイゼンが介入してくればルフトにはほぼ勝ち目がない。ルフトが1点取れるかどうかは、ソフィーリアがどれだけアイゼンを足止めできるかにかかっていると言っていい。

 ダルクは、同じく浮き位置にいるラース・ドメインを仕留める役割だ。A3からスタートするラースの周辺にはダルク以外に誰もいないため、こちらから仕掛ければ、ダルクとラースの1対1に持ち込める可能性が高い。どちらが勝つかはわからないが、ここは数少ない点を取れるチャンスだ。

 1つ懸念事項があるとすれば、ダルクからみてラースの反対側にアースがいることだろう。もしもラースとの戦いが長引いたり、ラースが全力で逃げた場合には、ダルクは二人からの挟み撃ちを食らう恐れがある。

 そして、最後にナディア。ナディアに与えられた役割は、とにかく3点以上を取ること。

 この戦い、ルール上最低でも6点以上を取らなければ絶対に勝利はない。ジークが考えた作戦は最大で7点を取れる作戦だ。その内訳は、ルフトが1点、ダルクが1点、ナディアが3点、そしてなんだかんだで生き残るであろうリダンがアイゼンを倒す1点と生存点の1点で2点。この合計で7点だ。

 そしてナディアが3点を取る上で、最も点にしやすい位置にいるのが、さっき話に出たミスト、メリア、レオンハルトの三人だ。

 向こうからしたら、強力な駒であるナディアに仕掛けるのは得点の効率として悪いため、ナディアとの戦いを避ける可能性もあるが、3点を取る必要があるナディアは仕掛けるしかない。

 一応はその三人を掻い潜り、他の浮き位置であるC2のイリーヌ・ゴーティエやD8のティグレ・カプラン、E9のカトリーヌ・ロベールを狙う手もあるが、強引にそっちに行こうとすれば、流石に向こうも阻止するように動いて来るだろうし、そもそもナディアが到着するまでその選手達が生き残っている保障はない。

 つまり、結局はこの戦いにシュトラールブルーが勝つためにはナディアがあの三人に勝つのが最も最善であるということだ。


 試合開始から15分程が経過し、リダンは開始地点のG6と斜めに隣接しているF5に到着する。比較的ゆっくりしているリダンがこの移動量ならば、高速で移動している他の選手同士はそろそろ戦いが始まっていてもおかしくない時間だ。


 そんなことを思っていると、丁度フィールドにアナウンスが響き渡った。

対抗戦の初期配置です。良ければ本文を読む際にご活用ください。

※下記の表はスマートフォン版には対応しておりません。スマートフォン版でご覧の方はおかしな表示になっていると思いますが、ご了承ください(パソコン版でも環境によっては正しく表示されていない場合があると思います)。


    A   B   C   D   E   F   G   H   I   J

 1

 2         イリー     ミスト

 3 ラース

 4             メリア ナディ

 5 ダルク     エリッ      

 6                 レオン     リダン

 7 アース     ルフト

 8     アイゼ     ティグ

 9 ソフィ             カトリ

10



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