第45話「レイとアイゼン」
午前中から始まったフィールドの下見は20時過ぎまでかかり、先ほど解散となった。
解散したクラスメイト達は、ショッピングモールだったり寮だったり、各々の好きな方へと向かっていったが、オレと同じように図書館に向かう生徒はいない。
解散してからしばらくしてクラスメイトが周りにいなくなり、一人で歩いていると、人影と魔道具の光が見えた。
すでに日が落ちており、遠目では暗くて誰か分からないが、オレはその人物の持つマナから知っている人物であることを認識する。とは言っても、特に用もないし普段から話す相手ではないため何かするわけではないが。
次第にその人物との距離が近くなり、その姿がはっきりと目に映る。そこにいたのはキスキル帝国の第1皇子、アイゼン・キスキル。どうやらポータブルで誰かと話しているようだ。
「...い、報告...た。...また...ください」
何を話しているのかはあまり聞こえなかったが、その一言を最後にアイゼンはポータブルでの会話を終わらせた。そしてすぐにオレに視線を向ける。どうやらオレが近づいていることには気が付いていたようだ。
「こんばんは、リダン君。奇遇ですね」
「ああ」
アイゼンはオレに微笑みかけ、貴族らしい丁寧な挨拶をする。こういう礼儀作法はオレには全くわからないが、アイゼンの纏う雰囲気だけで高貴な者であることが伝わってくる。
クラスメイトのジークも王族らしい雰囲気があるが、アイゼンのものはジークとはまた違う雰囲気だ。上に立つ者が持つ威圧感とでも言えば良いだろうか。
「これからどちらに向かわれるんですか?」
「...図書館だ」
流石に無視するわけにもいかない為、端的に素っ気なく質問に答える。
「そうですか。ところで、クラス対抗戦の準備は順調ですか?」
オレがどこに向かうのかはさほど興味もなかったようで、アイゼンは軽く相槌を打つと、すぐに話題をクラス対抗戦に変える。
「知らんな、オレはそんなものに興味はない。オレはオレのやりたいようにやるだけだ」
「それは少し寂しいですね。こちらは君に勝つために色々と策を講じているというのに」
アイゼンからは明確は敵意が感じ取れる。とは言っても、ジークやエリス、ルフトから伝わってくるような嫌悪感からくる敵意ではなく、あくまで倒すべき相手としての敵意のようだ。そのため、そこまで痛むような感情は刺さってはこない。
アイゼンと何か話すつもりはなかったが、折角だから少し踏み込んでみるか。リダンならばやらないような行動だが、このくらいは問題ないだろう。
「さっきの連絡も、その為のものか?」
「そのようなものです。興味を持って頂けましたか?」
「いや、貴様ら雑魚がいくら知恵を絞ろうとオレはそれを叩き潰すだけだ」
「そうですか。では、3日後を楽しみにしておいてください」
「貴様と対面することがあれば、直接叩き潰してやろう」
「そうですね。そのようなことがあれば、全力でお相手をお願いします」
アイゼンはそう言って再びオレに微笑みかける。だがその微笑みは決して穏やかなものではなく、宣戦布告のようなものだったかもしれない。
(リダンからも何か言っておくか?)
(必要ない)
(そうか)
リダンからも何もないようなので、アイゼンとはそのまま別れ、オレは図書館へと向かう。
*
図書館に着いたオレは、まず部屋の隅にある読書スペースに向かう。その場所にいた先客は、オレがいることに気が付くと、軽くはにかんでこちらに小さく手を振ってくれた。
「こんばんは、レイさん」
「ああ、今日もまだいたんだな、レイア」
「はい。レイさんが来られるかもしれませんし」
「もしかして、待ってたのか?」
「いえ、普段からここに来る日は閉館ギリギリまでいます。でも、レイさんが来てくれたら嬉しいな、とは思ってました」
「そうか」
確かに、レイアは基本的にいつ来てもここにいるな。もちろん、クラスの事情やレイア個人の事情もあるだろうから毎日いるわけではないが、オレがここに来た時には大体ここにいる。
今日も特に約束をしていたわけではなかったが、当たり前のようにこの場所に座っていた。
オレはレイアの傍に座り、鞄から一冊の本を取り出す。
「この前オススメしてもらったやつ、読んだぞ」
「どうでしたか?」
「結構面白かったな。天才だった主人公が挫折して、そこから成りあがっていく流れはシンプルだが中々楽しめた」
「そうですよね。オススメして良かったです」
それからオレとレイアは、その小説についてしばらく語り合った。既に遅い時間だったこともあり、すぐに閉館の時間がやってくる。
「今日はここまでだな。そろそろ帰るか」
「そうですね」
オレが席を立ち図書館の出口へ向かうと、レイアもそれについて来る。図書館を出た辺りで、オレは1つ話題を振ってみることにした。
「そういえば、さっきレイアのクラスの皇子と会った」
「アイゼンさんに、ですか?」
「ああ、3日後のクラス対抗戦について少し話をした。リダンに勝つために色々やってるみたいだな」
「そうみたいですね。わたしはあまり詳しくは知りませんが」
「そうなのか?」
「はい。クラスでの話し合いの場には一応参加してますが、わたしは基本的に隅の方にいるだけなので」
「そうか」
「あの...気を付けてくださいね。魔法を使った戦いである以上、何があるかわかりませんし」
「まあその辺は大丈夫なんじゃないか?安全面に関しては学園側も十分注意してるみたいだし」
「...そうですね」
「何か引っかかることでもあるのか?」
「いえ、そういうわけではないんです。ただ、皆さんが怪我をしないか心配で」
「そうか。まあ大丈夫だろ。そもそも、心配してどうにかなるものでもないしな」
「...はい」
そういえば、レイアは争いごとがあまり好きじゃないんだったな。心配だと呟くレイアの表情は少しだけ暗い。
クラス対抗戦に関する話はここで終わり、話題は再び本に関するものに変わる。それから寮に着くまでは、明るく話すレイアと色々と語り合った。
本日の更新はここまでになります。続きは来週更新する予定です。
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