第42話「リダンと王族兄妹」
午後の魔法の演習が終わりミールが訓練場を出て行くと、自然とシュトラールブルーの生徒だけがそこに残る形になる。
入口付近に立っていたジークは訓練場全体を見回してクラスメイトの様子を軽く確認すると、全員に聞こえる程度の少し大きめの声を上げる。
「昼休みに話した通り、これから都合のつく人達で特別演習に向けた話し合いをしたいと思う。参加してくれる人は僕の周りに集まってほしい」
その呼びかけに対して、リダン以外のクラスメイト全員がジークの周りに集まる。昼休みの時点で不参加を表明していたナディアも一度はジークの下に向かい、何かを話している。
しばらくして話がついたのか、ジーク達から離れてナディアがリダンの方に向かってきた。
「お兄様に私とリダンの欠席を改めて伝えてきたわ」
「そうか」
何を話してきたのかは分からないが、もしかしたらリダンに対するフォローも多少はしてくれたのかもしれない。
「それにしても、あなた大分反感を買っているみたいよ?大丈夫なの?」
「雑魚共が何を思おうが俺には関係ないな」
「リダンならそう言うと思ったけど、本当にそれでいいの?これから1年間はクラスメイトとして過ごすわけだし、色々と困ることもあるんじゃないかしら」
「無いな。奴らが束になったところで俺の脅威になることはない」
「そういうことじゃなくって...、周りから嫌われて過ごすって辛いじゃない」
「雑魚共がどれだけ俺を嫌おうと、どうでもいいことだ」
「...そう」
リダンは周りにどう思われようと関係ないと言うが、これは半分が本音で半分が虚勢や強がりだとオレは思っている。悪魔の子と呼ばれるのを嫌がっていることからも周りの感情を全く気にしていないということはないだろう。周りの悪感情に慣れ過ぎてしまってどうでもよくなっている部分も少なからずあると思うが。
まあ、本当の所はリダン本人にしか分からない。オレ自身、リダンへの理解度がそれほど高いわけでもないしな。
「そもそも、貴様には関係ないことだろう」
「...関係あるわよ。リダンが嫌われてたら、近くにいる私にまで被害があるかもしれないじゃない」
「そんなものは知らん」
ナディアは自分に飛び火してくることを気にしてこの話をしたと言ったが、もしかしたらリダンを心配しての言葉だったのかもしれないな。
「はぁ、まあいいわ。それで、今日はなにをすればいいの?」
「基本的にはこの前と同じだ。マナの流れを意識しながら第1位魔法のアクアを発動し、マナを操作する精度を高める。とりあえず1度やってみろ」
「分かったわ」
ナディアは言われた通りにアクアを発動した。特訓の成果もあり、そこそこの出来だ。なんなら、一昨日最後に見た時よりも上達している。
「雑魚の割には悪くない」
「当たり前でしょ、私は天才なんだから。それに、昨日もメリアに付き合ってもらってしっかり練習したもの」
「あまり調子に乗らないことだな」
「分かってるわよ、まだまだ未熟なことくらい」
「ならばいい」
「それで?今日もひたすらにアクアを発動すればいいの?」
「そうだな...」
リダンは少しだけ悩んだ素振りをした後、すぐに闇の第1位魔法ダークネスを発動した。リダンの右側に闇属性の弾が出現する。
「これに向けてアクアを撃ってみろ」
ナディアは軽く返事をして、すぐさま生成していた水の弾をリダンの作った弾に向けて放つ。だが、勢いよくぶつかった水球は弾け飛び、そこには闇の弾だけが残った。闇の弾も、水球の衝突によって少し小さくなっている。
「この弾は、あの帝国の皇子が使うものと同程度の強度だ。俺の目算だから多少の違いはあるがな。とにかく、止まっている状態のこの弾を一撃で相殺できるレベルのアクアを発動することが直近の目標だ」
「なるほどね。余裕よ、すぐにやってあげるわ」
ナディアは自信満々な表情でリダンに答える。先ほど一方的に自分の魔法が弾かれたのを見たばかりのはずだが、すごい自信だ。単純にナディアの勝気な性格からか、あるいはこれまでの経験からか、どこからそんな自信が来るのだろうか。まあ確かに、ナディアの才能ならば割とすぐにできるようになるとは思うが。
それからは、リダンが闇の弾を生成してナディアがそれを攻撃するといった時間が続いた。
大体3時間ほどが経った頃、ナディアの疲れが見え始める。
「今日はこれで終わりだ」
「...分かったわ」
リダンが今日の訓練の終わりを告げると、ナディアは素直にそれを受け入れた。とはいえ、その顔には少しだけ悔しさが滲み出ている。あれから100発以上は試したが、リダンの作る闇の弾を一撃で相殺することが出来なかったからだろう。
この3日間でナディアの腕は間違いなく上がっているが、まだまだリダンはおろかアイゼンのレベルにすら全然届いていない。
訓練を終えリダンが周りを見回すと、訓練場にはクラスメイトは三人しか残っていなかった。もう時刻は21時を回っているし、今日の話し合いはもう終わったのだろう。
ちなみに、残っていたクラスメイトはジーク、ルフト、カノンの三人だ。ジークは静かにこちらの様子を伺っており、ルフトとカノンは先日と同様に訓練をしている。
ナディアも同様に訓練場内を見回すと、ジークを見つけ、リダンに一言告げてからそちらに向かっていった。
リダンは三人を気にする様子もなく、そのまま訓練場を後にしようとする。だが、去ろうとしたその背中に、ジークから声がかかった。
「リダン君、待ってほしい。出来れば今日の話し合いの内容を二人に共有したいんだけど、いいかな?」
「...勝手にしろ」
リダンは足を止めずにジークに返答する。それを聞いたジークは、駆け足でリダンに追いつき、隣に並んだ。ナディアもジークについてきて、その横に並ぶ。リダンは結構な速さで歩いているため、二人はついてくるのが少し大変そうだ。
「まずは選手についてだけど、前哨戦のメンバーだったリダン君、ディア、ルフト君はそのまま継続、そして残りの二人の内一人はダルク君に決まったよ」
まあ妥当なところだな。クラス内で強い人間を選んでいけば、その人選になるだろう。
「残りの一人はまだ決まってないけど、恐らくイヴさん、カノンさん、ソフィーリアさんの誰かになると思う」
(一応聞くけど、ソフィーリアって誰か分かるか?)
(知らん。雑魚の事などいちいち覚えていない)
(だよな。リダンが人の名前を覚えてるはずもないか)
(レイも覚えていないなら人の事は言えないだろう)
(まあそうだけどな)
一応、最初の自己紹介でそんな感じの名前の人間がいたことは朧気に覚えている。物覚えは割といい方だと自分では思っているんだが、あの自己紹介の時はリダンが何かやらかさないかと別のことを考えていたのもあって、後半の人物に関してはあまり覚えていない。まあ、単純にあまり興味がなかったから覚えようとしていなかったのもあるが。
オレが知らないクラスメイトの事を考えているのをよそに、ジークは言葉を続ける。
「それと作戦についても少し話をしたんだけど、リダン君とディアは特別演習の詳細はもう把握してるかな?」
詳細というのは、先週の金曜日にテストの前に配られた資料のことだろう。配られた直後に軽く目を通しただけだが、ミールが口頭で説明していた以外にも細かいルールが記載されているようだった。
「知らんな」
「私もまだ読んでません」
「そっか。良ければそれも合わせて説明しようと思うけど、いいかな?少し長くなるけど」
「もちろんです」
「...」
ジークの問いかけに対してナディアはすぐに返答したが、リダンは黙っている。話が長くなればジークと一緒にいる時間も長くなるから、それを嫌ってのことかもしれない。
「...長くなるとはどの程度だ?」
「たぶん、15分くらいになるかな。帰り道の間には終わらないかもしれないね」
今のままの速度で歩けば、寮まではあと2、3分といったところだ。話を最後まで聞くなら、寮の玄関辺りで話すか、あるいは誰かの部屋で、ということになるだろう。
「ならばその話は今度にしてもらう。特別演習の詳細についてはこちらで確認しておく」
「分かったよ。それじゃあ、寮に着くまでの間だけでも簡単に説明するね」
リダンが黙っていると、ジークはそれを了承と判断したのか、演習と内容と今日の話し合いの内容について簡単に説明を始めた。
それから数分で寮にたどり着き、ジークやナディアと別れる。ナディアはジークの話をこのまま聞くつもりのようで、二人は寮の玄関にある椅子の方に向かっていった。
リダンは部屋に着くと、先日貰った特別演習の詳細が書かれた資料を取り出す。
(ちゃんと読むつもりなんだな)
(後で雑魚共に何か言われるのも面倒だからな)
30分ほどかけて資料を読み、その後は特になにかすることもなく眠りについた。
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