第40話「身勝手なリダンとレイの予感」
ここから第3章後編になります。
学園に来て初めての休日が終わり、月曜日の朝がやってきた。
リダンはいつも通り、時間ギリギリに教室に入り自分の席に座る。
しばらく待ってチャイムが鳴ると、教室の前方の扉が開いた。
「おはよー、みんな揃ってるね。週末はちゃんと休めたかな?」
ミールは教室に入ると同時にクラス全体に声をかけ、教室を軽く見回す。
「うん、みんな元気そうだね。早速だけど、今日の予定を説明するためにこれを配るね」
そういってミールは鞄から紙を取り出して配り始めた。全員に行き渡ったのを確認してからミールが言葉を続ける。
「それには今月のみんなの授業の時間割が書かれてるよ。とりあえず今日の日付のところを見てね」
クラスメイトたちはミールの言う通りに配られた時間割表に目を落とす。
「今日は、午前中は先週受けて貰ったテストの返却とその復習をして、午後からは訓練場に行って魔法の演習をする予定だよ。明日以降の予定もそこに書いてあるから、各自確認しておいてね」
リダンの手元にある紙を見てみると、今月分の授業の予定がびっしりと書いてあった。基本的には午前中に座学の授業、午後に魔法の演習になっているな。
「さて、じゃあそこに書いてある通り、これからテストの返却をしていくよ。名前を呼ばれた人は前まで取りに来てね」
ミールは次々とクラスメイトの名前を呼び、テストの結果を渡していく。すぐにリダンの番が来て、テストの結果を受け取った。受け取った用紙の一番上には、点数と順位と学園からの総評が書かれている。
リダンの点数は600点満点中537点、順位はクラス内で5位、学年では13位だ。ちなみに、教科別の結果は、基礎学力のテストが100点、歴史のテストが92点、地理・文化のテストが45点、マナのテストが300点だった。
「今回のテスト、学年での1位はジーク君で600点、2位はキスキルレッドのアイゼン君で592点、3位はトリスカーナイエローのメリアちゃんで580点だったよ。ちなみにクラス内の順位では、2位がイヴちゃん、3位がルフト君だね」
ジークが600点という話を聞いて、クラス内から感嘆の声が上がる。正直オレも少し関心した。
そこまで高難易度のテストではなかったとはいえ、求められる知識はそれなりに幅広いものだったし、マナのテストに関しては、才能のないジークからしたら理解するのに苦労した内容も多かったはずだ。
にも関わらず、1つのミスもせずに600点満点を取ったというのは素直に評価できることだろう。少なくとも、現状のオレにはできないことだからな。
「いやーすごいねジーク君、全部満点なんてそうそう取れるものじゃないよ」
「ありがとうございます。今後も慢心せず頑張りたいと思います」
ジークは満点を取ったことを自慢するような様子はない。だが喜んでいないわけではないようで、後ろ姿からでも少し誇らしげな様子が伺えた。
オレから見ると、刺さってくる感情のせいでいまいち何を考えているのか分からないような奴だが、満点を取ったことは素直に嬉しいようだ。
「さて、この後は早速、今回のテストで間違いが多かった問題や、特に重要な問題について解説していくよ」
そう言って、ミールはいくつかのテスト問題について解説を始めた。
*
授業が始まってからしばらく経った頃、12時を知らせるチャイムが学園に鳴り響いた。
「じゃあ今日のテストの解説はここまで。午後からは魔法の演習をやるから、13時にはみんな訓練場に集合してね」
ミールが授業を終了し教室を出て行くと、一瞬の静寂が訪れる。
だがすぐに中央の列の一番前に座っているジークが立ち上がり、クラス全体に向けて声をかけた。
「みんな、今日の放課後に月末の特別演習に向けた話し合いをしたいと思ってるんだけど、どうかな?」
クラスメイトのほとんどは、ジークと同様に話し合いの時間を持つべきだと考えていたのか、クラス内からちらほらと賛成意見が出てくる。
次第にジークの周りに人が集まり、今日の放課後の予定について話し始めた
(リダンはどうするんだ?今日の放課後はあの王女との約束があるだろ)
(決まっている。クラスのことなど俺にはどうでもいいからな)
(そうか、できるだけ穏便にやってくれよ。先週あの王女と衝突した時のようなことは勘弁してほしい)
(どうするかは俺の勝手だろう。レイに所有権がある時は大体黙認してやるが、同じように俺に所有権がある時には口を出すな)
(わかったよ)
リダンがジークのほうに向かい、3mくらいの距離になったタイミングでジークがこちらに気付き、リダンから声をかける。
「俺はその話し合いとやらに参加するつもりはない。貴様らで勝手にやっていろ」
リダンのその一言に、クラスメイトがこちらを向く。そして複数の負の感情がこちらに刺さってきた。
「...リダン君。どうしてもダメかい?」
「クラスが勝とうが負けようが俺にはどうでもいいことだからな。前回同様、貴様らで勝手に決めるがいい。もちろん、俺が不要だと判断したならば外して構わない」
「...そっか、残念だけど無理に参加させることはできないね。じゃあせめて、話し合いで決まった内容だけでも後から聞いてもらえないかな?」
「...ふん。それくらいならばいいだろう」
お互いの妥協点を見つけたところで、リダンとジークの話は終了した。だが、残念ながらそれで終わることはなく、不満を持った第三者が会話に入ってくる。
「リダン、ちょっと勝手すぎるわよ?お兄様が困ってるじゃない」
「貴様も俺に文句があるのか?」
「別に文句ってほどじゃないわ。ただ、もう少し譲歩してもいいんじゃないかって言ってるの」
「なぜ俺がその話し合いとやらで無駄な時間を過ごさなければならない。そもそも、貴様も話し合いに参加している時間などないだろう。まさか、今日の訓練をやめて無駄な話し合いに参加するつもりか?」
「それは...」
リダンの返しに対して、ナディアが言葉を詰まらせる。ここ最近の出来事で、自分の実力不足が身に染みてわかっているからこそ、話し合いをしている時間が無駄だというリダンの言葉を真っ向から否定できない。
「ディア、無理に参加してもらう必要はないよ。ディアも、他にやるべきことがあるならそっちを優先してくれて大丈夫だから」
「お兄様...」
ジークはリダンとナディアの事情をある程度把握しているからか、すかさずフォローに入る。
「ありがとうございます、お兄様。私も欠席させてください。今の私は強くなるためにやらなければならないことがありますので」
「わかったよ。他にも、事情があって参加できない人がいたら遠慮なく話してほしい」
ジークがクラスメイトにそう問いかけるが、それ以上話し合いを欠席する人間はいなかった。
「ちなみに、リダン君とディアの訓練はどこでやるんだい?話し合いも同じ場所で出来れば、多少はお互いに状況を把握できると思うんだ」
「私たちのクラスの訓練場です」
「わかった。じゃあ、今日の放課後は訓練場で特別演習についての話し合いをしよう。反対の人はいるかな?」
当然反対意見が出ることは無く、この場の話し合いは終わって解散となった。
だが、クラスメイトからリダンへの不満は間違いなく高まってきている。その証拠に、入学当初よりもクラスメイトから刺さってくる感情は痛い。
ジークのおかげでその不満が表面化することは避けられているが、どこかで解決しなければいずれ爆発して大問題に発展しかねないな。
解散後、リダンは黙って教室を出る。だが、すかさず追いかけてくる人物がいた。
付き合いは短いがその人物の感情が強烈過ぎて、近くにいるだけでその存在を感知できてしまう。
「おーいリダン君、どこ行くのー?」
リダンを追いかけてきたのは、クラスメイトの抱える爆弾が可愛く見えるレベルの危険人物、エリス・ミューラーだ。
「貴様には関係ない。ついて来るな」
「えーいいじゃん。この前は連れてってくれたんだし」
「この前はこの前だ。そもそも、あの時も貴様が勝手について来ただけだろう。さっさと去れ、貴様と居ると気分が悪くなる」
「なんか今日のリダン君機嫌悪い?何かあったの?もしかして、さっき少し揉めたのを気にしてる?」
「単純に貴様の存在が煩わしいだけだ」
ここまで話して、この間のリダンとは少し様子が違うことに気付いたのか、エリスは一歩引いた。
「うーん、じゃあ今日は諦めるよ。じゃあまたね、リダン君」
エリスはそう言ってこちらに手を振り、小走りで教室に戻っていった。当然、リダンはエリスの言葉には何も返さない。
最近のリダンはナディアやイヴに対しての対応が少し丸くなったが、煩わしく思っている人間に対しては本当に容赦がない。
出会ったばかりの頃のナディアや、今去っていったエリス、そしてジークなど、大きな敵意を持っている相手にはかなり尖った対応をする。さっきのクラスメイトからの感情といい、どこかで大事になる予感がするな。
正直、余計な敵を作らないように少し口出ししたいところだが、さっき口出しするなと言われたばかりなので今は自重しておくしかないか。
それからリダンは図書館に行き、昼休みを一人で過ごした。
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