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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第3章「王女編」
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第39話「レイの初めての友人」

「...な、何でしょうか」


 レイアは少し構えた様子で、オレの続きの言葉を待っている。


「貴様の言う心の色についてだが、オレの色が変わることに対してどう思っている?まさか、何の理由もなく変わっていると思っているわけではないだろう?」


「そうですね...。普通に考えたら、心を2つ持っている、ということでしょうか...」


 まあ、当然そういう結論になってもおかしくない。心が2つある、つまりは二重人格であることはレイアから見たら容易に想像がつく。


「つまり、貴様にはオレが二重人格のように見えている、ということか?」


「...はい、そうですね。黒い心を持ったリダンさんと透明な心を持ったリダンさんの二人がいるんじゃないかと思ってます」


 やはり、これ以上隠すのは無駄に怪しくなるだけだな。レイアにはある程度事情を話したほうがいいかもしれない。


「貴様の考えは正しい。確かにオレの中には2つの人格が存在する」


「...やっぱり、そうだったんですね」


「貴様には、このことは誰にも話さないでもらいたい。オレが二重人格だと分かれば雑魚共がうるさいのは目に見えているからな」


「...大丈夫です、誰にも言いません」


「ならばいい。聞きたいことは以上だ、邪魔をしたな」


 とりあえずはレイアに関してやるべきことはやった。レイアが誰にも話さないという確証はないが、今はこれくらいで十分だろう。見た感じ、人の秘密をべらべらと喋るタイプには見えないしな。


「あ、あの...」


 オレが去ろうとした所で、意外にもレイアが声をかけてきた。


「何だ」


「その...、今のリダンさんが、透明な心のリダンさんの素、なんですか?」


「何が言いたい」


「...すみません。ただ、心の色は違うのに、言葉や態度は黒いリダンさんと同じように見えるので、もしかしたら透明な心のリダンさんは、何か理由があって黒い心のリダンさんのふりをしているんじゃないかと思って...」


 このレイアという少女、なかなかに鋭いな。少し突拍子もないことを言っているようにも見えるが、天啓によって今まで色んな人間の心を見てきたからこその疑問なのかもしれない。


「だとしたら何だ?」


「いえ、その...」


 レイアはまた先を言い淀んでいる。オレはさっきと同じようにレイアの言葉を黙って待つ。


「...わたしは黒い心のリダンさんとは違う、透明な心のリダンさんがいることを知っています。だから...、わたしにはあなたの素の姿で接してくれませんか?」


「...」


 オレの素の姿で、か。レイアにはオレにとって大きな秘密を握られている。ならば、レイアとの交友を深く持つことはメリットも多い。どういうつもりでこの提案をしてきたのか分からないが、受けておいたほうが良い方向に進めそうだ。


「その、すみません...。やっぱり忘れてください...」


 オレが答えないでいると、不安になったレイアが目を伏せる。


「...いや悪い、少し驚いていただけだ」


「では...!」


「ああ、そうさせてもらう。これがオレの素だ」


「良かったです...。よろしくお願いします、透明なリダンさん」


「透明なリダン、だと呼びにくいだろ。今のオレはレイという名前だ。そう呼んでくれ」


「...レイさん、良い名前ですね」


「そうか?」


「...はい、わたしの大好きな小説の主人公と同じ名前です。素敵だと思います」


 小説の主人公の名前、そう聞いてオレはあることを思い出す。そういえば、オレが初めて先生から与えて貰って、何度も読み直した小説の主人公の名前もレイだった。あの時はリダンに名前を聞かれて適当に答えたつもりだったが、もしかしたら無意識に記憶に深く残っていた名前を言っていたのかもしれない。


「まあ、そう言われて悪い気はしないな」


 そう返してやると、レイアはなんだか嬉しそうにはにかんだ。


「ちなみに、オレは何と呼べばいい?」


 レイアの名前は知っているが、一応は呼び名を聞いておく。オレ達は今日が初対面だし、その方が自然だろう。


「あ...。すみません、自己紹介がまだでしたね。わたしはキスキル帝国メルタニス侯爵家長女のレイア・メルタニスと言います。良ければレイアと呼んでください」


「ああ、よろしくな、レイア」


「はい...、よろしくお願いします」


 オレが右手を差し出し、レイアがそれをとる。握手をした右手に少しだけレイアの体温が感じられた。思えば、人に触れるのは随分と久しぶりな気がするな。

 レイアとの自己紹介も終わり、二人の間に少しだけ沈黙が訪れる。折角だし、少し気になっていることを聞いてみるか。


「そういえば、さっき言ってた小説ってどういう小説なんだ?」


「『レイの大冒険』という作品です...。名前の通り、主人公のレイという少年が世界中を冒険するお話ですね...」


 やはり、オレが読んだ小説と同じ名前だ。


「その小説ならオレも読んだことあるぞ」


「本当ですかっ」


 レイアが少し身を乗り出して、声を大きくして聞いてくる。周りの人間に聞こえるほどの大声ではなかったが、元々声の小さいレイアからしたらかなりの大声だった。


「ああ、まあもう10年近くも前だけどな」


「そうなんですね。わたしも初めてこの本を読んだのはそれくらいの頃でした」


 そう言いながらレイアは持っていた鞄から1冊の本を取り出した。その本の表紙にはレイの大冒険と書かれている。何度も読み返しているからか、本は結構ボロボロだ。


「ああこれだ、懐かしいな。にしても、今持っているとは思わなかったな」


「いつも持ち歩いているんです」


「よほど気に入ってるんだな」


「気に入ってる...。そうですね、この本と同じくらい面白い本もたくさん読んできましたが、わたしにとってこの本は特別なんだと思います」


「ちなみに、差し支えなければ理由を聞いてもいいか?」


「もちろんです。わたし、小さい頃は体が弱くて、ずっと寝たきりの生活をしていたんです。そんな時に、父が与えてくれたのがこの本でした。幼い頃のわたしは、この本を読んで外の世界の広さに胸を膨らませていたことをよく覚えています」


「そうなのか。オレも初めてこの本を読んだ時は同じように外の世界に少しだけ憧れたな」


「レイさんもですか?何だか嬉しいです」


 レイアは陰りの無い笑顔をオレに向ける。俯きがちで暗い表情の印象が強かったが、笑うと中々愛嬌があるな。


「ちなみに、どこか好きなシーンはあるか?」


「そうですね...」



 それから、オレとレイアはレイの大冒険の内容について語り合った。話はどんどん弾んでいき、気付いた時には図書館の閉まる22時になろうとしていた。


「もうこんな時間か」


「ほんとですね。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいます」


「そうだな」


「この本について、こんなにも楽しくお話が出来るなんて、本当に夢のような時間でした」


「そんなに大袈裟なことか?」


「はい。わたしは元々、人とお話するのがあまり得意ではありませんし、何よりこの本のことを知っている方に、これまで一人も会ったことがありませんでしたから」


「この本って珍しい物だったのか?」


「そうみたいですね。父は知り合いの方から譲り受けたみたいです」


「そうだったのか」


 先生はこの本をどこで手に入れたのだろうか。まあ、考えても分かるわけがないし、どうでもいいことか。


「そろそろ帰るか」


「そうですね。寮までご一緒してもよろしいですか?」


「もちろんだ」


 オレとレイアは一緒に図書館から出て、帰路に着く。


「そういえば、なんでオレに素で話してほしいなんて提案をしたんだ?人付き合いが苦手なら、あの提案はかなり勇気が必要だっただろ」


「それは、その...」


 レイアはオレの問いに口ごもってしまう。何か言いにくいようなことなのだろうか。別にオレとしても絶対に聞きだす必要のあることではないし、ここで無理に言わせてレイアからの印象が悪くなる方がデメリットが大きいか。


「言いたくないなら無理に言わなくてもいいぞ」


「いえ、言いたくないというわけではないんです。ただ、少し恥ずかしくて...」


 レイアはしばらくもじもじとして黙ったままだったが、気持ちの整理がついたのか、再び口を開く。


「一昨日から毎日図書館でお見かけしたので、本が好きなのかなと思いまして。それで、その...、お友達になれないかな、と思ったんです」


「友達か...」


 友人という存在がどんなものなのかオレは知らない。施設にいた頃はそんなものが出来るはずもないし、リダンの中に入ってからもそれは同じだ。唯一そういう存在としてあり得るのはリダンだが、リダンは友人とは違う気がする。

 レイアから伝わる感情はいつの間にか温かいものへと変わっている。オレへの否定的な感情はなく、かすかな好意が感じられ、傍に置いておくには心地良い存在だ。こういう存在を友人と言うのだろうか。


「...すみません、わたしと友達なんて、ご迷惑、でしたか...?」


「いや、そうじゃない。オレも今日は結構楽しかったし、レイアとは仲良くしたいと思ってる。ただ、話した通りオレは特殊な存在だからな。こうしてオレが素の姿でいられるのは二人きりでいるときだけだ。それでもいいなら、友達として仲良くしてほしい」


「はい、もちろんですっ」


 レイアは普段の暗めな表情からは想像できないくらいに朗らかに笑った。


「そうだ、今度面白い小説を教えてくれ」


「喜んで。わたしもお勧めしたい作品がたくさんあります」


 オレとレイアはそのまま色々な本について話しながら寮に帰る。そして数分で寮までたどり着き、別れの時間がやってきた。


「もう寮まで着いてしまいました」


「ああ、続きはまた今度だな」


「そうですね。名残惜しいですが、続きは次にお会いできた時の楽しみとしてとっておくことにします」


「じゃあまたな」


「あ、待ってください。良ければ、連絡先を交換しませんか?」


 そういって、レイアはポータブルをオレに向けて差し出してくる。


(リダン、いいか?)


(好きにしろ)


 オレはレイアの提案に応じ、自らのポータブルをレイアに向けた。お互いにマナを流し合い、ポータブルの登録が完了する。


「ふふ、これでいつでもお話できますね」


「ああ。だけど、オレと話せるのは2日に1度だぞ。1日ごとにリダンの人格と変わるからな」


「そうでしたね。ですが、それでも嬉しいです」


 オレ達は実質今日が初対面なのに、レイアは本当に親しい友人と話すかのように嬉しそうに笑っている。レイアにとって、あの本の話が出来たというのがそれほど特別なことだったのだろうか。


「それじゃあ、今度こそお別れですね。おやすみなさい、レイさん」


「ああ」


 レイアと別れ、そのまま自室へと向かう。

 自室に帰ってきたオレは、そのまま寝る支度を済ませ、ベッドに横になった。そのまま眠ろうとするが、今日は起きたのが遅かったせいか中々眠りにつけない。

 更にその状況に追い打ちをかけるようにして空腹感まで襲ってきた。そういえば、今日は起きてから何も食べてなかったな。

 眠れないものは仕方ないので、眠気がくるまでリダンと話でもするか。


(なあリダン、友人ってどんな存在なんだろうな)


(知らん。少なくとも俺にとっては不要な存在だ)


(そうだよな。正直、オレも必要だと感じたことはない)


(その割には随分とはしゃいでいたようだがな)


(結構楽しかったのは事実だな)


(まあいい。俺の手を煩わせない限り、あの女と馴れ合うのはレイの自由だ)


(ああ、しばらくはそうさせてもらう)


 リダンとの会話はほんの数秒で終わってしまった。当然、まだ眠くない。

 オレはそれから、横になったまま30分ほど友人について考えていたが、一向に眠気が襲ってくる気配はなかった。

 自然と眠りにつくことを諦めたオレは、マナを操作して魔法を発動する。今発動したのは闇の第3位魔法『スリープ』。この魔法は、対象の生物を任意の時間だけ眠らせることができる魔法だ。

 相手を眠らせられるというのは戦いにおいて一見最強だが、この魔法には致命的な欠点がある。それは、抵抗している相手には一切効果がないということだ。

 つまり、日常生活においてはそこそこ便利な魔法だが、戦闘においては全く役に立たない。まあ、リダンくらいのマナがあれば基準値くらいしかマナのない相手には効果があるかもしれないが。

 魔法を発動して数秒して、スリープの効果がきいてきたオレは心地良い眠気と共に意識を失った。

第3章中編はこれで終わりになります。次回、第3章後編の更新は1ヵ月以内の予定です。


それとちょっと余談なんですが、先週投稿した際に久しぶりにブックマークをしてくださった方がいて、現在モチベーションが高まっています。この作品を読んで面白いと思ってくださる方が少しでもいらっしゃることを大変感謝し、嬉しく思っております。


もし面白いと思って頂けたなら、『ブックマークに追加』という黄色いボタンからブックマークをしてもらえると、とても励みになります。良ければよろしくお願いします。


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