第37話「レイと担任教師」
昨日、というか今日だが、リダンに頼んで午前7時まで起きていてもらった関係上、オレが今日目覚めたのは12時を回った頃だった。生活習慣を変えたからか、まだほのかに眠気がある。
「さて、今日はどうするかな」
(それは俺に聞いているのか?)
(まあ半分はそうだな。ただの独り言だが、リダンから反応があってもそれはそれでありだなって思ってた)
(前から言っているが、レイに所有権がある時は勝手にしろ。もちろん、俺の命令に全て従うというのであればそれでもいいがな)
(そうだな、じゃあ勝手にさせてもらう。とりあえず、これから研究棟で適当に面白そうな研究でも探して、その後は図書館に行くか。あのレイアとかいう女の件もあるしな)
リダンからの返事はなかったが、恐らく了解したということだろう。
10分ほどで研究棟にたどり着き、この前と同じように案内板の前まで移動する。やはり、そこそこに興味を引くものはあるが、これといったものは特にないな。
特別行きたい場所も見つからないし、ミールの研究室にでも行ってみるか。あの教師はリダンへの態度としては比較的友好的だし、色々と都合もつけやすいだろう。担任と関係を築いておけば今後何かの役に立つかもしれないしな。
さて、無駄足を避けるために行くならば先に話をつけておきたいところだが、それはリダンらしくない気がする。実際の所はどうあれ、リダンは人の都合など気にしない人物として認識されているだろう。
案内板でミールの研究室の場所を確認して、無駄足を覚悟でそこへ向かう。数分で研究室の前までたどり着き、閉じている扉をノックした。
「はーい」
「リダンだ。少し用がある」
「えっ?リダン君?今開けるからちょっと待っててねー」
中からミールの声が聞こえ、足音が少しずつこちらに近づいてくる。しばらくして部屋の中から扉が開かれた。
「わざわざ研究室まで来てどうしたの?用事があるならポータブルで連絡してくれてもいいのに」
「オレはエルトシャンから何かしらの研究に協力するように頼まれている。だから今日は貴様の研究について聞きに来た」
「え、本当?だったら嬉しいなー。入って入って」
部屋の中に入ると、ミールに似た人物がもう一人居た。部屋の中にいたのはミールの妹であるミスト・アーケディアだ。どうやら、この前に引き続き、姉の研究室に来ていたらしい。ミストの手には弁当があり、その近くの机にも食べかけの弁当が置いてある。どうやら二人で食事中だったようだ。まあ今は13時前。丁度そんな時間だな、オレは起きたばかりのため空腹は感じないが。
「ごめんねー。今はミストとお昼ご飯を食べてるところだったんだ。すぐに食べ終わるからちょっとだけ待っててもらえるかな?食べながらでもいいなら今から色々話しちゃうけど」
「いや、待たせてもらう。アポイントを取らなかったのはこちらだ」
なんとなく急に訪れてしまったことへの気まずさというか申し訳なさを少しだけ感じ、リダンらしからぬ礼節のある態度を取ってしまった。まあ、それでもまだ大分失礼だが。
「それにしても、リダン君が来てくれるなんて本当に驚いたよー。一昨日はやんわりと断られた感じだったから」
「エルトシャンとの取引があるからな。それがなければオレだってこんなところには来ない」
「まあ何であれ嬉しいよー」
「ナディアはあんたのこと悪い奴じゃないって言ってたけどさ、あんたって結構失礼よね。一応は教師である姉さんに容赦なくため口だし。ま、あたしも別に礼儀正しい方じゃないから人の事言えないかもだけど」
ミストがオレとミールの会話に口を挟む。姉に対して失礼な態度を取られていることに怒ったのかと思ったが、感情からしてそうではないらしい。単純に思ったことを口にしただけだろう。まあ、自分で言っておいてなんだが、確かに失礼な態度だ。だがここで引くわけにはいかない。
「雑魚に対して気を遣う意味がないからな」
「うわ、普通はそこまではっきり言わないでしょ。妹のあたしが言うのもなんだけど、姉さんは結構優秀なのよ?昔ここの生徒だった時は最優秀者に選ばれたみたいだし」
「それは初耳だな。だが結局それは雑魚の中では優秀ということだろう?その程度ならばそこまで評価するような事でもない。現に貴様だって雑魚の中ではそこそこ優秀だと言えるだろう」
「念の為に聞くけど、それって遠回しに褒めてるわけじゃないわよね?」
「当然だ。多少やる程度で調子に乗らないことだ」
「相変わらず失礼な奴ね。...あーでも、なんとなくナディアの言ってたことが分かった気がするわ。口や態度は最悪だけどそんなに悪い人じゃないっていうのは案外的を射てるかもしれないわね」
「何を勝手に納得している」
「気にしないで、こっちの話だから」
こんなやり取りの中、あまり口を挟んでこないミールの様子を見ると、何故かニヤニヤしてオレ達を見ていた。
「姉さん、何をニヤニヤしているの?」
「別に何でもないよ。ただ、二人とも仲良くなれたみたいで良かったなーって」
その一言にはオレとミストがすかさず反応した。
「勘違いするな。オレは馴れ合いをするつもりはない。そもそも、貴様は何を見ていたんだ?どう見てもそんな雰囲気ではなかったと思うが」
「そうね。悪い人じゃないみたいだけど、気が合うかはまた別問題よ。あたしはリダンと仲良くできる気はしないわね」
「そうかなー?まあ私としては喧嘩せずにいてくれるならそれだけでいいんだけどね」
その一言と同時にミールは立ち上がり、弁当をゴミ箱に捨てる。いつの間にかミールは昼食を食べ終わっていたみたいだ。
「さて、お昼ご飯も食べ終わったし、気合入れてリダン君に研究室を紹介しちゃおっかな」
ミールは研究室の奥の方に移動して魔道具をいくつか持ってきた。
「まずはやっぱり魔道具の説明からだよね。今持ってきたのは、魔道具の中でも基本中の基本、各属性の魔法を使う為の魔法具だよ。こっちから、炎、水、風、地、光、闇の魔法を使える魔道具だね。ちなみに、どれがどの属性かは色を見ればわかるようになってるよ。炎なら赤、水なら青って感じだね」
ミールが持ってきたのは本当に一般的な魔道具だった。恐らく、世間一般で魔道具と言った時にはこれを思い浮かべる人間が多いだろう。ミールはそれぞれの魔道具を軽く起動させて見せてくれた。
「これは見たところ第3位の魔法までしか使えない雑魚魔道具のようだが、高位魔法が使えるものはないのか?」
「良くわかったね。炎、水、風、地は第6位まで使えるものがあるよ、数は少ないけどね。光と闇は残念だけど、第5位までの物しかないよ。しかも、それぞれ3つずつしかないんだ。適正属性と同じで、光と闇の魔石は数が少ないんだよね」
「なるほどな」
魔石を使った魔道具に関してはオレはあまり詳しくない。そういう物もあると知識としては知っている程度で、実物を見たことはほとんどないからだ。施設で扱っていた魔道具はほとんどが生物の心臓を利用した物だったからな。
更に言えば、オレは施設では魔道具作成よりも魔道具の試用を主にやっていたから、魔道具の性能には詳しいが、魔道具の作り方なんかはあまり知らない。もちろん、理論を知らなければ使えない魔道具も多いため、理屈は大体わかっているが。
「次はこれかなー。これは模擬戦なんかで良く使われる魔道具だね」
これは最近見たものだな。訓練場や闘技場に置いてあったマナ障壁を展開する魔道具だ。
「これは6属性の魔法じゃなくて、無属性魔法のマナ障壁を発動する魔道具だね。これ、今は訓練場とか闘技場に置いてあって、ある程度数も作れてるけど、当時は作るの大変だったんだよねー。この前も説明したけど、無属性の魔石を作るためには反対の属性の魔石同士を加工する必要があるんだけど、まずそれが難しくて。上手いこと加工してあげないとすぐに使えなくなるし、上手く加工できても、魔石の持ってたマナを測り間違えててどっちかの属性に寄っちゃったりとかねー。そこから先もマナ障壁を発動させる為のマナ操作を覚えさせたりとか色々と難しい工程が多くてねー。後、実際に完成してからも大変だったよ。できた!と思って動かしてみたらね、...」
「姉さん、ちょっと一気に喋り過ぎよ。また生徒を引かせて帰らせる気?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと夢中になって喋り過ぎちゃったね。リダン君、ついて来れてる?」
「問題ない、大体は理解できた。恐らくその後に続く話は、マナ障壁の出力に問題があった話だろう?」
「そうそう!いざマナ障壁を発動できる魔道具が完成しても、長時間の出力に耐えられなかったり、そもそも広範囲のマナ障壁を発動できなかったりしたんだよね。すごいねーリダン君。ついて来れてるだけじゃなくて、話の続きまでわかっちゃうなんて」
「あんた、強いだけじゃなくてそういうのも詳しいのね。姉さんの話についていける人、研究者の人以外で初めて見たわ」
「当然だ。魔道具も元をたどればマナに関する話だ。わからない道理はない」
まあオレもある意味では研究者と言えなくもないんだが。まあ今の話くらいなら研究者じゃないリダンでも十分に予測できただろう。
「過去の魔道具の話はとりあえず十分だ。今はどんな魔道具を作っている?」
「今はポータブルの開発が終わったばっかりだから、新しい物は作ってないんだよねー。構想段階のものはあるけど」
「それで構わない」
「えっとねー、次に作ろうとしてるのは魔法を発動する魔道具じゃないんだよね。今構想してるのは他人とマナに関する感覚を共有する魔道具だね」
「マナの感覚を共有だと?」
「そう、マナを制御するのって言っちゃえば感覚だよね?でも、その感覚を理解するのが苦手な人も世の中にはたくさんいる。そういう人たちがマナの感覚を理解することができる魔道具が作りたいなって思ってるんだよね」
なるほどな、確かに実現できれば面白い魔道具だ。この魔道具が完成すれば、間違いなく人類のマナに対する理解度の底が何段階も上がるだろう。だが、これを実現するのはそう簡単ではない。マナの感覚なんて理論にするには難しすぎる。あるいは、あいつの天啓を使えば何かわかるかもしれないが。
「だが、そんな魔道具が実際に作れるとは思えんな。何か仮説でもあるのか?」
「それがまだ全然ないんだよねー。一応、ナディアちゃんの天啓を調べたら何かヒントが得られるかもって思ってるんだけど。一昨日来てくれた時に協力は約束して貰えたしね」
どうやらミールもオレと似たような考えをしていたらしい。ナディアの天啓は他人の制御するマナを感じることができる天啓だ。今ミールが言ったような魔道具と性質は似ている。
「確かに、あの女の天啓ならば可能性は否定できないな」
「だよねー。いやー、すごいねリダン君。魔道具の知識はそんなにないのにすぐに理解しちゃうんだもん」
「煽てたところで研究に協力するとは限らないぞ」
「わかってるよ。たた純粋にすごいなーって思っただけだよ」
「まあ、貴様の魔道具の研究については大体わかった。とりあえず今日のところはオレは帰る」
「えー、もう帰っちゃうの?リダン君とは楽しく魔道具の話ができそうなのに」
「別に貴様との会話を楽しむつもりはオレにはない。研究に協力するとしても、それはあくまで取引だからに過ぎない」
「そっかー、残念だな。じゃあまた来てね」
「じゃあね」
ミールとミストがこちらに手を振っているのに対して、振り向きざまに軽く一瞥して返し、ミールの研究室を後にする。
さて、これからどうするか。他の研究室を回ってもいいが、実のところ、今まで見た3つの研究室に協力する形でいいと思っている。
それほど問題は感じられなかったし、そこそこに興味のあるテーマだ。特に、さっきミールから聞いた感覚を共有する魔道具というのは面白い。もしマナの感覚を共有できたならば、天啓による感覚を共有することも可能かもしれない。そうなれば天啓の解明をすることにも繋がる。
さっきミールに協力を約束しなかったのは、リダンとして行動した結果だ。別にあの場で協力を約束しても良かったが、リダンらしくするなら仕方なく協力する形が理想だろう。これはオレの勝手なリダン像な気もするが。
もう研究室を回るのも面倒だし、他の研究室には伝手なんかもないし研究探しはこれで終わりにするか。オレはそう決め、研究棟を後にすることにした。
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