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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第3章「王女編」
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第32話「レイと第3王子」

「あれ?リダン君にダルク君じゃないか。もしかしてレナス先生に用事があったのかい?」


 そこにいたのはクラスメイトでシュトラール王国王子のジーク・シュトラール。どうやら何かのデータを取っていたようだが、何故ここにいるのだろうか。


「そういえば、皆さんは全員シュトラール王国の出身。つまり、同じクラスメイトでしたね」


「はい、そうなんです。それで、何故二人がここに?」


「ダルク君は、学園に入学する以前から良く私の手伝いをしてくれているんですよ。リダン君は所属する研究室を探しているようで、今日は見学に来てくれました」


「そうだったんですね」


「ジーク王子はどうしてここに?」


今度はダルクがジークに尋ねる。当然の疑問だろう


「僕は少し前から、レナス先生にマナ含有量について相談しているんだ。僕は王族の中じゃ飛びぬけてマナが少ないからね。周りの人達は優しいからそれでもいいって言ってくれるんだけど、やっぱり僕自身が納得できないんだ」


「そうなんだ。ボクも微力ながら協力させてもらうよ」


「ありがとう。心強いよ」


 なるほど、ジークはマナ含有量が少ないことを気にしていたのか。まあ、マナが少ないと出来ることも少なくなるからな。増やせるなら増やしたいと思うのが普通だろう。


「さて、早速ですがリダン君に私の研究室を紹介しましょう。まず、知っているかもしれませんが、この研究室ではマナ含有量を増やす研究をしています。そして、その方法についてですが、特に決まりはありません。あらゆる可能性を考えて色々な方法でマナ含有量を増やす方法を検討しています。最近では摂取する食べ物や魔法の使用によるマナ含有量の変化を実験することが多いですね。ちなみに、今ジーク君が乗っているものは最新のマナ測定器で、ほとんど誤差なくマナの量を測ることができます。その他にも、最新の研究機材をこの研究室では扱っていますよ」


 レナスはオレに対して丁寧に説明してくれる。マナ含有量の研究と聞くと先生のことを思い出すが、少なくとも先生がやっていたような強引にマナ含有量を増やすような研究をしているわけではないらしい。


「レナス先生の研究は実際に結果が出ていて、マナ含有量が基準値から基準値の約3倍まで増えた例もあるんだ。レナス先生の研究はとても期待されているんだよ」


 ダルクがレナスの実績を補足で説明してくれる。マナ含有量というのは生まれた時から基本的には変化しないとされている。マナ含有量というのは体内に生成できるマナの限界値のことで、マナが入る器だと考えるとわかりやすいかもしれない。


「リダン君、何か質問はありますか?」


「特にないな」


「そうですか。では次に、研究室を案内しましょう」


 それからレナスは、研究室に置いてある装置だったり、過去の研究データなんかを見せてくれながら詳しく説明をしてくれた。レナスはどうしてもリダンに研究を手伝ってもらいたいようだ。


 一通り研究室の説明が終わり、レナスがこちらを向き直る。


「どうですか?研究に協力してくれる気になりましたか?」


「悪いが、この場で決めるつもりは無い。とりあえず、貴様の研究については理解したから今日はもう帰らせてもらう」


「残念です。ですが、また来てくださいね」


「約束はできないな」


「お二人はどうしますか?もう20時になりますし、いい時間だと思いますが」


「僕も帰ろうと思います。今日はありがとうございました」


「いえ、こちらも貴重なデータを取らせてもらってありがとうございます。ジーク君のマナ含有量、絶対に増やしてみせますよ」


「よろしくお願いします」


「ダルク君はどうしますか?」


「ボクはもう少し残っても良いですか?少し聞きたいこともあるので」


「わかりました。では、ジーク君、リダン君、さようなら」


「失礼します」


 オレはそのまま部屋を出て、ジークは一礼して部屋を出た。レナスの研究室をジークと共に出た後は、ジークを置いて先に帰る理由も特にないため、自然と二人で並んで歩く形になった。まあ、一応は感情が痛いという先に帰る理由はあるが、ここで露骨に避けるような態度を取って関係に亀裂が走るデメリットと比べると些細な事だろう。


「リダン君は今日はそのまま寮に帰るのかい?」


「そのつもりだ」


「じゃあ、一緒に帰ってもいいかな?」


「好きにしろ」


「ありがとう。丁度、リダン君とは1対1で話をしたいと思ってたんだ」


「面倒な話なら付き合わんぞ」


「どうだろう。もしかしたらリダン君にとっては煩わしい話かもしれないね。でも、少し聞いてほしい」


「聞くかどうかは内容次第だが、話したいなら勝手に話すがいい」


「そうさせてもらうよ。リダン君、僕はこの前からディアのことでお礼を言いたかったんだ。ディアを導いてくれてありがとう」


「導く?オレはあの女にそんなことをした覚えはないが」


「ううん。キミのおかげでディアは確かに変わったよ。それもとても良い方にね」


「仮にそれが事実だとして、感謝される覚えはないな。オレはオレのやりたいようにやっているだけだ」


「そうだとしても、ありがとう。ディアのことは昔からずっと心配だったんだけど、キミがいればもう大丈夫そうだ」


 本当に感謝しているのならその悪感情をもう少し抑えてほしいものだがな。今日の昼のエリスもそうだったが、表面上の感情と内心の感情があまりにも一致しないと気味が悪い。

 このジークという男は腹の底では何を思っているのか、どこまで本当のことを言っているのか。一応は少しだけ感謝の感情も伝わってくるからナディアを心配していたというところは全てが嘘ではないのかもしれない。


「勝手な期待はするなよ。何度も言うように、オレが貴様ら雑魚の為に行動することはない」


「イヴさんから聞いていたけど、リダン君はやっぱりそういう言い方をするんだね」


「あの女が何を言ったのかは知らないが、勝手な勘違いはしてくれるなよ?」


「勘違いならそれでもいいんだけどね。イヴさんが言ってたんだよ、リダン君は本当はすごく優しいところもあるのに、それを隠そうとするって」


「...もう勝手に言っていろ」


「まあ、リダン君が本当はどんな人なのかはこれから判断することにするよ。やっぱり優しいところもあるのか、それとも僕の勘違いなのか、ね」


 ジークはこちらを試すような目を向ける。同じような受け答えが面倒になったオレはその視線を無視することにした。


「とにかく、これからもディアのことをよろしくね。ディアの為じゃないとしても、色々と面倒を見てくれるつもりなんだよね?」


「あいつから聞いたのか?」


「そうだね。昨日の夜色々と話してくれたよ。悔しそうな、それでいて嬉しそうな、複雑そうな表情だったけどね」


「まあ、オレ自身が楽しむためにあいつを少し鍛えてやるつもりだ」


 別に隠すことでもないし、今後ナディアとの接触の機会が増えていくことを考えると、いずれは知られることだから別に認めても問題ないだろう。


 ここで一度会話は途切れ、数秒の沈黙が訪れる。だが、ジークが新しい話題ですぐに沈黙を破った。


「そういえば、リダン君はマナの研究をするんだってね。僕としては是非ともマナ含有量の研究を手伝ってほしいんだけど、ダメかな?」


「まだ決めるつもりはない」


「そっか。リダン君にも事情があるだろうし、仕方ないね」


 そんなに大した事情があるわけではないのだが、そういうことにしておこう。それよりも、個人的に気になっていたことを聞いてみるか。すこしリダンの行動からは、ずれるかもしれないが。


「貴様はマナ含有量を増やしたいのか?」


「そうだね。僕は王族として国民のみんなを守っていかないといけない。その努力を欠かすつもりはないけど、やっぱりマナがないと守る力を得ることもできないからね」


「マナが増えた程度で大した効果は期待できないだろう。今日聞いた限り、せいぜいが今の貴様のマナ含有量から倍に増える程度だ」


 今日レナスの研究室で聞いた内容からすれば、現状の研究でマナ含有量を増やせる量は大した量ではない。今のジークのマナが大体基準値の4倍ほどだから、効率的に伸ばすことが出来たとして基準値の8倍から10倍程度が限界だろう。


「そうかもしれないね。でも、これから画期的な方法でマナ含有量を増やす方法が見つかるかもしれない。希望を捨てるのはまだ早いと思っているよ」


「そんな方法があるとしても、貴様のような雑魚の体がそれに耐えられるとは思えんがな」


 そう。仮にもっとマナ含有量を増やす手段があったとしても、それは体に害のある手段である可能性が高い。高い効果には副作用がつきものだと、オレはオレ自身の体で身を以て知っている。まあ、ジークが過酷な実験によって壊れてしまったとしても大して興味はないが、過去の自分を見ているようでいい気はしないだろう。


「僕はそれでもいいよ。このまま何も得られずに生きていくくらいなら、死んだってかまわない」


 その瞳には強い覚悟が感じられた。どうやら、ジークは自分のマナ含有量に強いコンプレックスを抱えている様子だ。


「まあ貴様がどうなったところでオレには関係ない。研究に関わることがあれば、容赦なくやってやろう」


「ははっ、ありがとう。でも、進んで死にたいわけじゃないから、その時はお手柔らかに頼むよ」


 ジークと話していて、初めて笑ったところを見た気がする。いや、ジークの顔には常に笑顔が張り付いているのだが、そうではなく声に出すような笑いが初めてだった。向けてくる感情は変わっていないから、これはただの愛想笑いで表面上だけのものだと思うが、ほんの少しだけ打ち解けられたのかもしれない。


 その後はジークが色々と話を振り、オレがリダンのようにぶっきらぼうに返事をする流れが続き、いつの間にか寮まで帰ってきていた。


「それじゃあリダン君。またね」


 オレは別れの言葉の代わりにジークを一瞥してから自分の部屋へと向かっていく。少し歩いて部屋までたどり着き、扉を開けて中に入った。

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