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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第3章「王女編」
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第29話「レイと英雄」

 解散が告げられ、クラスメイトは各々の好きなように動き始めた。教室に残って雑談をする者もいれば、すぐに教室を出て行く者もいる。オレはミールからの呼び出しに応じ、席を立ってミールの下へ向かう。


「用とは何だ」


「エルトシャン様がリダン君と話したいらしくてね、30分くらいで終わるみたいだからこの後時間をもらえないかな?」


 エルトシャンか。何の話かは分からないが、こちらも聞いてみたいことがあるからいい機会かもしれないな。


(行っていいよな?)


(好きにするがいい)


「いいだろう」


 一応リダンに確認してからミールの話を承諾する。


「よかったー。それじゃあついてきてね」


 ミールが教室を出て行き、オレもそれについていく。しばらくはそのまま歩いていたが、教室を出て少ししたところでミールが少しずつ歩く速度を落とし、オレとミールが横に並ぶ形になった。


「リダン君、昨日のアイゼン君との戦いすごかったねー。マナの量もすごいけど、制御も上手なんてびっくりだよ」


 ミールからは以前と同じ、恐怖の感情と少しの肯定の感情が伝わってくる。最近、この肯定の感情が分かった気がする。これは、リダンに肯定的な意味で興味を持っている人間から向けられる感情だ。まだ確証はないが、今まで似た感覚を受けた時のことや、今日レイアという女から受けた感情からそう感じた。


「褒めても何もでんぞ」


「別に何かしてほしくて褒めたわけじゃないよ。ただ、純粋にすごいなーって思ったんだ。まあ、リダン君が協力してくれたら研究がすごく進みそうだなーとは思ってるけどね」


 研究か。確かミールは魔道具に関する研究をしているんだったか。単純に興味もあるし聞きたい事もあるから、おかしくない範囲で踏み込んでみるか。


「貴様は魔道具の研究をしているのだったな」


「そうだよー。もしかして、リダン君は魔道具の研究に興味あるの!?」


 ミールが今まで見た中で一番テンションを上げて聞いてくる。どうやら相当研究に熱を上げているようだ。


(リダンは魔道具に興味あるのか?魔道具じゃなくても、マナの研究全般でもいいけど)


(ないな。俺にとってマナとは手段にすぎない。マナ自体に興味はない)


(そうか、結構面白いんだけどな。マナについて色々調べるのは)


 オレはあの施設で自由を奪われたことが煩わしかっただけで、マナの研究自体は結構楽しんでやっていた。当たり前すぎて気付かなかったが、これもオレの好きなことの1つだな。なんなら、1番好きな物を聞かれたらマナの研究と答えるかもしれない。結局オレもあの施設で育った人間ということか。


「興味はないな。俺にとってマナとは手段に過ぎないものだ」


 オレ自身は魔道具の研究にも興味はあるが、今はリダンとしての解答をしておく。


「そっかー、残念だなー」


「まあ、魔道具が奥深いものであることは認めるがな」


 だが、ここは多少好印象を与えるように動いていこう。この後の聞きたい事にも繋がるしな。


「そうそう、そうなんだよ。少しでも理解してくれるなら嬉しいなー」


「ところで、丁度いい機会だから貴様に聞きたいことがあるんだが」


「何々?何でも聞いて?」


「魔道具の作り方について知りたい」


「それくらいならお安い御用だよ。まず、作りたい属性の魔石を用意して、その魔石に流れるマナを解析するんだ。流れるマナの量や濃さだったり、特殊な性質を持っていないかだったり、あとはマナの流れに淀みがないかだったりね。次に、魔道具にどんな機能を持たせるのか決めるよ。ここの工程は何を作るかによってかなり変わってくるんだけど、単純に魔法を発動する魔道具を作りたいなら、その魔法を発動するときに必要なマナの制御を魔石に覚えさせてあげるんだ。まあ、実際にはそれだけでも結構ややこしいんだけど。そして最後に魔道具をどんな形状にするか決めて、それを実際に形にすれば完成って感じだね。ちなみに無属性の魔石は存在しないんだけど、炎と水、風と地みたいに相反する属性の魔石を使うことによって無属性の魔道具も作れるよ。後はねー...」


「ここまでで十分だ」


 ミールは放っておくといつまでも話し続けてしまいそうだ。別の機会ならば聞いてもいいが、今はこのままだとオレが知りたかったことを聞けない。ここまでの内容はオレも元々知っていることだし、重要なのはこの先だ。


「そう?まだまだ話したい事いっぱいあるんだけどなー。そうだ、作り方が知りたいなら研究室に来ない?実物を使って色々教えてあげるよー」


「今は必要ない。それよりも聞きたいことがあるんだが、魔道具は魔石からしか作れないのか?」


「変わったことを聞くね、リダン君。魔石以外から魔道具を作ったなんて話、聞いたこともないよ」


「そうか」


「まあ、確かに魔石以外の材料で魔道具を作れたら可能性も広がりそうだし、いい発想だね」


「他の材料を試しに使おうとした事例はないのか?」


「まあなくはないんだけど、どれも上手くいかなくてすぐ止めちゃったみたい。エルトシャン様も魔石以外から魔道具は作れないから無駄なことはするなって言ってたし」


 エルトシャンが他の材料を使うことを止めたのか。これは少し怪しいな。まだ断定はできないが、エルトシャンが心臓を使って魔道具を作る方法を意図的に広めないようにしている可能性がある。


「参考になった。感謝する」


「ううん、いつでも聞いてね。研究室にもいつでも来ていいからね」


 オレはその言葉への返事は濁しておいた。リダンなら行くとは言わないだろうが、何か用事が出来るかもしれないし、オレ自身は行ってみたい気持ちもあるからな。

 それにしても、欲しい情報は手に入ったが少し踏み込み過ぎただろうか。少しリダンにしてはしゃべり過ぎたかもしれない。


 話しているうちに結構歩いていたようで、エルトシャンの屋敷が見えてきた。


「エルトシャン様のお屋敷が見えてきたね。いやー、話してるとあっという間だね」


「エルトシャンの話の内容は何だ?」


「教えてあげたいんだけど、私も聞いてないんだよね。学園を作った頃から、エルトシャン様って優秀な子には個人的に声をかけてるみたいだし、たぶんそれじゃないかな?」


「面倒な話じゃないといいがな」


 どうにも話の内容がはっきりしないな。そこまで警戒する必要はないと思うが、エルトシャンという人物はどうにも胡散臭い。

 屋敷の入口では使用人が待機しており、オレ達が近づくとそのまま案内してくれることになった。


「じゃあ私はここまでだね。またね、リダン君」


 どうやらミールは中まではついてこないらしい。オレは心の中でだけミールに返事をして、そのまま使用人に導かれるままにエルトシャンの屋敷に入る。

 屋敷に入った時、オレは少しだけ違和感を感じた。昨日来た時は人が多くて気付かなかったが、屋敷の床から少しだけマナを感じる。何か仕掛けをしてあるのかと思ったがその様子はない。

 もう少し注意深く観察してみると、床からマナが発生しているわけではないことに気付いた。どうやら、床のその向こうに少しだけマナの反応がある感じだ。この屋敷には地下があり、地下にマナを発する何かがあるらしい。何か極秘の研究でもしているのだろうか。その割には感じられるマナが少量な気がするが。

 屋敷の広間を抜け、そのままエルトシャンのいる部屋まで案内される。使用人が扉をノックして部屋の中に声をかける。


「リダン様がいらっしゃいました」


「そのまま入ってもらってくれ」


 使用人が扉を開け、部屋の中がオレの視界に映る。オレは部屋にあった『あるモノ』に驚きを隠せなかった。動揺をできるだけ抑え込みながら部屋を見回す。部屋にはいくつかの装飾や骨董品、書物があり、部屋の奥の方で机に向かって何かを書いているエルトシャンの姿があった。

 使用人はオレに部屋に入るように促す。オレが部屋に入ったのを確認して、使用人が扉を閉めた。


「すまないね、リダン君。わざわざ来てもらって」


「問題ない。それで話とはなんだ」


「そう急かさないでほしいな。できればキミとはゆっくり話がしたいと思っているんだ」


 エルトシャンからは前に見た時ほどの威厳は感じられない。公の場と私的な場で結構雰囲気が変わるタイプのようだ。


「貴様次第だな。くだらない話なら付き合うつもりはない」


「そう言わずにさ。とりあえず座らないかい?」


 エルトシャンは部屋の中央辺りにあるソファーに座るように促す。オレがそこに座ると、エルトシャンも移動してきて、机を挟んだ向かい側のソファーに腰かけた。


「さっさと話を始めろ」


「そうだね、早速本題に入るよ。リダン君、キミはマナは好きかい?」


「好きでも嫌いでもないな」


「そっか。じゃあ次に、そこの魔道具を見て何か気になることはあるかい?」


 エルトシャンは部屋に置いてある魔道具を指差す。魔道具からはかなり強力なマナが感じられる。


「特にはないな。強力な魔道具だというくらいだ」


「なるほど。じゃあもう1つ聞かせてほしい。キミは転生というものを信じるかい?」


 オレは内心でこの言葉に動揺する。さっきほどではないが、エルトシャンから転生という言葉がでるというのは予想外だ。オレが転生魔法を使ったことを知っているのか。知っているのであれば施設の人間である可能性もある。とにかく、警戒度を引き上げる必要があるな。


「馬鹿馬鹿しい話だな」


「そうだね、普通に考えたらあり得ない話だ。だけど、キミが生まれた時は一部で噂が立ったことがあるんだ。キミが、『マナの悪魔』と呼ばれたヴィルス・エリアルードの生まれ変わりなんじゃないかってね」


「オレはオレだ。その悪魔とやらの生まれ変わりなどではない」


「そうだね。僕も気になってキミの様子を見に行ったことがあるんだけど、キミのマナはヴィルスとは違ったし、雰囲気も全然別人だった。とは言っても、今日まではもしかしてと思う部分もあったんだ。ヴィルスという男は規格外だったからね。生まれ変わっていても不思議じゃない」


「何が言いたい?」


「今日はとりあえず確認かな。直接話してみないと分からないこともあるからね。キミがもしも本当にヴィルスの生まれ変わりならば放っておくことはできないし、そうじゃなくてもヴィルスのように良からぬことを企んでいるのであれば阻止しなければならない」


「貴様もオレをマナと属性で判断するということか」


「気に障ったなら謝るよ。でも、ヴィルスがこの大陸の人間に刻んだ傷はそれだけ深いということさ。特に、僕のように長く生きている人間からしたらね」


「まあいい。それで、話は終わりか?」


「今のも本題だけど、話はもう1つあるよ。僕はね、キミの才能をマナ科学の発展に使ってくれないかなって考えているんだ。知ってるかもしれないけど、この学園ではマナ含有量や魔法、魔道具に天啓などマナに関して様々な研究をしている。だから、キミにはその研究を手伝ってほしい」


 オレとしては研究に興味があるし受けてもいいが、リダンとして答えるならここは一旦断るべきだ。


「オレにメリットがないな。マナ科学の発展など、オレにはどうでもいい」


「もちろん報酬は用意するつもりだよ。財産でも土地でも、地位でもなんでも好きな物を要求してくれていい。私に用意できる物ならなんでも用意するつもりだよ」


「そんなものに興味はないな」


「本当に何もないかい?キミにだって欲しいものの1つや2つあるだろう」


 欲しいものか。まあ、あるにはあるがエルトシャンに頼んで手に入るものでもない。リダンはどうだろうな。


(リダンは何かあるか?欲しいもの)


(...。特にないな。強いて言えば強者との戦いだろうか)


(ほんとに戦闘狂だな、お前)


 さて、どうするか。リダンにとっての頼みを受ける建前もできたし、オレとしては受けても構わない。手伝うタイミングに条件を付ければオレに所有権があるタイミングに合わせられるし、そこまで問題はないだろう。問題があるとすれば、このエルトシャンという男が全く信用できないという点だけだ。だがそれも、そこまで気にする必要はないかもしれない。確証はないが、エルトシャンからは敵意や悪意は感じられない。オレの想定が外れて最悪な事態になったとしても力でねじ伏せるという手段もあるしな。まあそれは本当に本当の最終手段だが。


「貴様は、オレが本気で戦える強者を用意できるか?」


「強者か、それは難しいね。恐らく、キミが望んでいるのはキスキルレッドのアイゼン君と同等以上の実力者ということだろう?そんな人間はこの大陸にはほとんどいない。私に用意できるとしたら私自身くらいなものだ」


(だそうだが、どうだ?)


(まあ悪くはない。だが、俺はマナの研究などする気はないぞ)


(そこはオレがやるから問題ない)


(ならば好きにしろ)


「そうか。ならば貴様がオレと戦うこと。それと、オレの質問にいくつか答えてもらう。とりあえずはこの条件で受けてやってもいい。手伝うタイミングはオレの都合に合わせてもらうがな」


「本当かい?助かるよ。戦うのはいつがいいのかな?今すぐというのは流石に難しいけど」


(いつがいいんだ?)


(しばらくはいい。あの女のこともあるからな)


「しばらく後で構わない。時が来たら伝える」


「そうかい。できれば、ある程度余裕を持って伝えてくれると助かるよ。僕もこれで結構忙しい身でね」


「それと質問についてだが、魔物に関して気になることがある」


「何かな?」


「先日、リグレクト領で不可解なゲートが3つ出現した。そして、その周辺には頭を3つ持った犬型の魔物が確認できた。あの犬も雑魚には違いないが、中々にオレを楽しませてくれたからな。似たような情報があれば教えろ」


「リグレクト侯爵からその報告は受けているよ。だけど、キミが望んでいるような他の魔物の情報は無いね」


「そうか。ならばいい」


「あの一件のことも感謝しているよ。私のところにも要請が来ていたけどすぐには動けなかったからね」


「感謝の必要はない。オレはオレの為に行動しただけだ」


「リグレクト侯爵にもそう言ってたみたいだね。でも、本当に感謝してるんだよ。キミがしてくれたように、僕の手が届かない所で起こった事件を解決してくれるのは本当に助かるんだ。僕も大陸の人々の為に尽力しているつもりだけど、こういった事件は絶えなくてね。直近の十数年だけでも、大陸の辺境の村が魔物に壊滅させられたり、フィフスの残党による殺人があったり、貴族の汚職事件が発覚したり、盗賊まがいの人間が略奪を繰り返したりと本当に色々あるんだ。それ以外にもたくさんの事件があって、頭を悩ませられることが多いよ」


 エルトシャンは色々と苦労しているようだ。まあ、国ごとに統治されているとは言え、この広い大陸を1番の権力者としてまとめるというのは本当に大変なことだろう。


「貴様の苦労話に興味はないが、強者の情報があればオレが潰してきてやろう」


「ありがとう。その時はお願いするかもしれない」


「少し気になったんだが、この学園では魔物に関する研究はしていないのか?」


「魔物に関する研究は大陸中で禁止しているよ」


「何故だ?敵を知った方が対処も容易だろう」


「もっともな疑問だね。でも、魔物については知るべきじゃないこともたくさんあるんだ」


「そうか」


 意外にも、魔物に関して隠し事をしていることを認めたな。オレが腑に落ちていない部分がこの隠し事なのかは分からないが、何か企みがあって隠しているわけではないらしい。もちろん、これが本当に隠したいことを隠すためのブラフという可能性もあるが。


「他に聞きたいことはあるかな?キミの為なら何でも答えるつもりだよ」


「いや、今はこれで十分だ。研究の協力に関してはこちらで勝手にやる形でいいな?」


「ああ、それで構わないよ」


「ではオレは帰る」


「ああ、待ってほしい。最後に、ポータブルの登録をお願いするよ。今後もキミに連絡することは多そうだからね」


 オレはエルトシャンにポータブルを向ける。エルトシャンもオレの意図を即座に理解して、エルトシャンのポータブルをこちらに向けてきた。お互いにマナを流し、登録が完了する。


「それじゃあリダン君。これからよろしく頼むよ」


 オレはエルトシャンの部屋を後にする。部屋を出ると、部屋の前で待っていた使用人が出口まで送ってくれた。


(予定を変更して研究棟に行くが、いいよな?そっちで何かわかる可能性もあるし)


(好きにしろ。どんな形であれ情報が入るのであれば俺は構わない)


(じゃあ、しばらくはオレに所有権がある時は研究棟と図書館の両方に行かせてもらう)


(ところでレイ、奴の部屋に入った時に動揺していたな?何かあったのか?)


(なんでもない。少し懐かしいモノを感じただけだ)


(懐かしいモノだと?)


(気にするな。別に大したことじゃない)


 エルトシャンには色々と気になるところがある。話した感じでは悪意のようなものは感じなかったが、まだまだ信用するわけにはいかない。エルトシャンの部屋にアレがあった理由も不明だし、転生の話を持ち出してきたのも気になるところだ。単なる偶然ならそれでいいが、やはり警戒は必要だろう。

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