第26話「レイと腹黒少女」
ナディアとジークのポータブルの登録が済んだ頃を見計らってナディアに声をかける。
「おい」
「あらリダン、何?」
「ポータブルを出せ。登録する」
「いいけど、その生意気な命令口調は何とかならないのかしら?」
ナディアから少しだけ負の感情が突き刺さる。どうやらリダン、いやオレの態度に不満があるようだ。昨日は結構いい感じになったと思っていたが、一時的なものだったみたいだな。今は肯定よりも否定の感情のほうが強い。なんなら肯定の感情はほとんどないな。
「雑魚にはこれで十分だ。不満があるなら強くなってから言え」
「相変わらず腹立たしいけど、そう言われると言い返せないのよね。...まあいいわ、はい」
ナディアはポータブルをオレに向ける。オレはそこにマナを流し、同様に自分のポータブルをナディアに向けた。ナディアもオレのポータブルにマナを流す。お互いのポータブルが光り、登録が完了した。
「用件は以上だ」
「ちょっと待って。明日からの予定を教えてほしいのだけど」
「後で伝える。そのために今貴様に声をかけてポータブルを登録した」
「今教えてくれてもいいじゃない」
「文句を言うな。オレにも都合がある」
「何よ、都合って」
「貴様に教える必要はない」
「またそれ?...はぁ、じゃあ後でちゃんと教えなさいよね」
「ああ、恐らく今晩連絡する」
オレが会話を終わらせて立ち去ろうとする。だが、横から第三者の声がかかった。
「リダン君、僕ともポータブルの登録をしてもらえるかな?」
声をかけてきたのは、さっきまでナディアと話をしていたジークだ。ジークから刺さってくる感情は、ほとんど変化はなく相変わらずだ。打算と憎悪、嫉妬辺りの感情が強く刺さってくる。以前はクラスに対して非協力的なリダンの態度から嫌っているのだと思っていたが、どうやらそう単純なものではないらしい。ただ、以前よりも誤差程度だが悪感情が和らいだ気がする。それにほんの少しだけ肯定の感情もあるな。
(どうする?オレとしては登録してもいいと思うが)
(必要ない。こいつは何かを企んでいる。あまり気を許すべきではない)
(そうか。オレとしてはここは応じた方がいいと思うけどな。何を考えているかわからない分、あまり波風立てないのが無難だ)
(...。貴様には何か考えがあるのか?)
(特に考えがあるってわけじゃない。だけど、ここで断ると後々困る可能性もあると思ってるだけだ)
(...なら好きにしろ。今後も雑魚共の対応はある程度レイの好きにするがいい。ただし、それによって俺に不都合があればその時は覚悟しておけ)
(ああ、せいぜい慎重に対応させてもらうさ)
「やっぱり、ダメかい?」
オレがリダンと話しながら考えていると、ジークが再び声をかけてくる。どうやら、リダンと話している間考え込んで黙っていたから、拒否されたと思ったようだ。
「いや、構わない」
「ありがとう!それじゃあさっそくお願いするよ」
ジークはポータブルをオレに差し出す。先ほどと同様に、オレもポータブルをジークに向けて、お互いにマナを流す。
「オレはもう行く」
「うん、ありがとう。困ったときは連絡するかもしれないけど、いいかな?」
「好きにしろ。応答するとは限らんがな」
オレはジークとナディアを置いてそのまま教室を出る。休憩は後50分ほどあるが、どうするか。図書館に行くか、ショッピングモールで昼食を買うか。...よし、ダッシュで昼食を買ってから図書館に行くか。そう決めてとりあえずショッピングモールに向かおうとした時、体が何者かの接近を警告する。そして、後ろから声をかけられた。
「おーい。リダンくーん!」
振り返ると、そこには手を振りながらこちらに駆けてくる少女がいた。クラスメイトのエリス・ミューラーだ。エリスとは今まで話したこともなかったが、雰囲気からしてあまり喜ばしい用件ではなさそうだな。オレは警戒しながら対応する。
「何だ」
「リダン君、さっきジーク君やナディアちゃんと連絡先を交換してたでしょ?あたしともポータブルの登録をしてほしいなって思って」
急に接触してきてこの提案。クラスメイトとして考えれば特におかしな点はないが、声をかけられているのはリダンであり、相手の雰囲気も普通じゃない。どうしたものか。
(リダンはどう思う?)
(俺ならば無視するだけだ。だが、さっき言った通り、レイの好きにするといい)
なら、とりあえず様子を伺うか。断るのは簡単だが、ジークの時と同様に余計な波風は立てたくない。
「急だな。貴様とは話したこともないと思うが」
「確かにまだ話したことはないけど、あたしは最初からリダン君のことが気になってたんだよね」
「オレを知っていたのか?」
「噂程度だけどね。最初の自己紹介の時にも言ったけど、あたしは強い人が好き。この前のナディアちゃんとの戦いとか、昨日の前哨戦でのアイゼン君との戦いとか、リダン君カッコよかったから。仲良くなりたいなって思ったの」
「...」
オレは目の前にいるエリスをどう対応しようか迷っている。ただのクラスメイトから同じ提案をされたなら、多少は警戒しながらも快く承諾しただろう。だが、エリスはただのクラスメイトでは済まされない。エリスがリダンに向けてくる感情は異常と言っていい。
ジークやルフトが向けてくる感情もかなり強烈なものだが、エリスが向けてくる感情はその上を行く。以前に訓練場で感じた強い感情はどうやらこの目の前の女のものだったようだ。
エリスからは、恐怖、怒り、憎悪、打算などオレがリダンの中に入ってから受けたことのある負の感情の全てを強く感じる。それだけでも恐ろしいものだが、エリスはリダンの天啓無しではそれを一切感じさせない態度で接してきている。いったいなにが目的なのか現状では想像できないな。
(リダン、この女知り合いか?)
(知らん)
(そうか。ついでに聞くが、ジークともこの学園が初対面だよな?)
(あいつのことも知らんな)
(どうやったら初対面でこんなに嫌われるんだよ。無自覚で何かやったんじゃないだろうな)
(否定はできんが、それでも俺の知ったことではない)
「やっぱり、突然言われても迷惑だった?」
悩むところだが、やはり様子を伺うのが無難か。相手の目的が分かるまではあまり刺激しないほうがいい。
「いや、ポータブルの登録は別に構わない」
「そっか!よかったー!」
「さっさと済ませるぞ」
お互いのポータブルにマナを流し、登録を完了する。
「用件はそれだけか?ならオレはもう行く」
「あ、待って待って!これからどこ行くの?」
「貴様には関係ない」
「いーじゃん、教えてくれたって。リダン君のこともっと知りたいの」
「...」
この女、想像以上に対応が面倒だな。本当に好意的に接してきているのなら気前のいい対応をしてもいいが、実際には相手の感情は真逆だ。力で黙らせることは簡単だが、それでは問題がありすぎる。しばらくは突き放し過ぎず、なおかつ近づけ過ぎずの距離を保つのがベストか。
「昼食を買ってから図書館に行く」
「じゃああたしもついていっていい?」
「...好きにしろ」
オレが早歩きでショッピングモールに向かうと、エリスもついてくる。
「図書館に行くって言ってたけど、リダン君って以外と読書好きなの?」
(どうなんだ?)
(特に好きというわけではないが、本を読むことは多いな。というか、真面目に答える必要はないだろう。適当に答えておけ)
(まあ、そうだな)
「本は割と読む」
「そうなんだー。ちなみにどんなの読むの?」
「歴史書とかマナに関する文献とかだな」
「うわっ、結構真面目な感じなんだねー。娯楽目的では読まないの?小説とかさ」
小説か。久々に何か読んでみるのもいいかもな。オレは明確に好きだと言えるものは少ないが、先生がたまに持ってきてくれていた小説は結構好きだったかもしれない。
「たまに読むな」
「なるほどなるほどー。リダン君は結構読書好きっと。ちなみに、今日のお目当ては?」
「ちょっとした調べものだ」
「へー、ちなみにどんな?よければ手伝ってもいいよ?」
「些細なことだ。貴様の手を借りるつもりはない」
「そっか、残念。気が変わったらいつでも言ってね!」
かなり積極的に距離を詰めに来るな。単純にリダンに取り入りたいということならば話は簡単だが、刺さってくる感情的にそれだけでは済まなそうなのが本当に厄介だ。いっそのことこちらから踏み込んでもいいが、相手の情報が少ないうちはリスクが大きい気がする。リダンが他人に興味を持って質問するというのも違和感があるしな。
「リダン君って普段は何してるの?読書以外でさ」
「魔物狩りだな」
「魔物狩りかぁ。昨日も活き活きしてたけど、戦うのが好きなの?」
「否定はしない」
「魔物と戦ってるリダン君もカッコいいんだろうなぁ。今度ついていってもいい?」
「断る」
「そんなこと言わずにさ。ねっ?お願い!」
「貴様がついてきたところで邪魔なだけだ」
「そんなことないって。一人よりも二人のほうが話もできて楽しいと思うよ。しかも、こんな美少女を連れ歩けるなんてお得だと思わない?」
「思わんな」
「ちぇー、冷たいなぁ。連れてってくれないなら、勝手についていっちゃおっかなー」
「貴様がついてこれるとは思えんがな。そもそも、勝手についてきて怪我をしても知らんぞ」
「もしかして、怪我させるのが心配だから連れてってくれないの?」
「違う、勝手な解釈をするな」
「じゃあなんで?」
「他人につきまとわれるのが煩わしいだけだ」
「うわぁ、ちょっとグサっとくるなぁ。まあいいや、今は諦めるよ」
今は諦めるということは、また今後この話をするということだろうか。今後もこのエリスという女には頭を悩ませることになるかもしれないな。
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