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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第2章「学園入学編」
23/111

第23話「レイとリダンと第2王女」

 イヴとの会話が終わってから20分ほどが経った頃、イヴとは別の人間がこちらに向かってきた。


「ねえ、あなたに話があるのだけど」


「今度は貴様か」


「さっきはイヴと話してたようね。あなたたちって仲良かったの?」


「貴様には関係ない」


「それはそうだけど、気になるじゃない。あなたみたいなのと仲良くする子がいるなんてびっくりだもの」


「貴様は俺をバカにするためにここまで来たのか?覚悟はできてるんだろうな」


「そんなことでわざわざあなたに話しかけに来ないわよ」


「じゃあ何の用だ」


「あなたに1つお願いがあるの」


「聞いてやる必要はないな」


「そうかもしれないけど!とにかく最後まで聞きなさいよね!」


「では勝手に話していろ」


「なんか気に食わないけど、そうさせてもらうわ。闘技場でも言ったけど、私は今日のアイゼンとの戦いで自分の未熟さを思い知ったわ。あなただけじゃなくて、アイゼンにすら手も足もでなかった。最後に一撃だけ当てられたけど、あれもほとんどマグレだもの」


「貴様の雑魚さ加減を披露しに来たのか?わざわざ貴様の口から聞かなくてもわかっているぞ」


「違うわよ!いや、違わないかもしれないけど!本題はここからだから!...。それでね、このままじゃダメだと思ったの。普通にこれからマナの制御について勉強していっても、あなたどころかアイゼンにすら勝てない。私とあなたたちの間にはそれくらいの差がある。...だから、だからね...」


 ナディアは次の言葉を言い淀んでいる。恐らく、次に続く言葉がナディアのお願いなのだろう。


「私に、マナの制御を教えてほしいの。ダメ、かしら?」


 ナディアは上目遣いで、少しだけ泣きそうになりながらお願いしてきた。普段のナディアの態度からは想像もできないほど弱々しい態度でお願いしてくる。これを意図的にやっているのであればとんだ悪女かもしれない。普通の男ならば即オッケーしていたかもしれないレベルだ。

 だが相手は泣く子も黙る、怖い怖いリダン様だ。なんと答えるのか想像できない。まあ普段のリダンなら有無を言わせず断りそうな話ではあるが、果たしてどうなるか。ちなみに、今オレに所有権があれば即オッケーしている。それは決してナディアの態度にやられたという理由ではなく、オレの目的が果たしやすくなるからだ。


「貴様は1つ勘違いしている」


「勘違い?」


 ナディアは不安そうに聞き返す。返事が返ってくると思ったらよくわからない返答が帰ってきたから当然だろう。


「貴様が雑魚だったのはあの男との試合だけではない。その前の暑苦しい男との試合も、白黒の女との試合も、ロイヤ族の女との試合も、全てにおいて貴様は雑魚だった。貴様とあいつらのマナの量の差は大きい。にも関わらず貴様はあいつらにギリギリで勝った程度だ。貴様は雑魚すぎる」


 リダンの見立ては事実だ。リダンには正確な値はわからないだろうが、観客席から遠目に判断した感じ、レオンハルトのマナは基準値の約34倍、メリアは基準値の約40倍、そしてミストは基準値の約48倍だ。本来は基準値の約59倍のマナを持っているナディアが苦戦するような相手ではない。


「うっ。確かにそうだけど...。そんな言い方しなくてもいいじゃない」


「特にあの白黒の女との戦いは酷かったな。あの女と貴様のマナの差は、俺と貴様のマナの差に近い。それなのにあれだけ無様な戦いをするとはな」


「...もうわかったわよ。お願いを聞いてくれる気がないならそんな風に言うことないじゃない...。ただ一言、嫌だって言えばそれでいいじゃない...。あなたに頼もうと思った私がバカだったわ。もう行くから」


「待て、何を勘違いしている」


「私の戦いがひどかったのはもうわかったから!」


「そうではない。俺は貴様の頼みを受けないとは言っていない」


「えっ?」


「俺が言いたかったのは、マナの差は制御の腕で埋まるということだ。事実として、貴様はマナの劣っているあいつらに苦戦した。貴様はマナの量に身を任せるばかりで、その制御が雑魚であることをもっと自覚しろ。だが貴様には確かに才能がある。だからその才能で強くなれ。そして俺を楽しませろ」


「それって、私にマナの制御を教えてくれるってこと?」


「そう言っている」


「...そう。その、ありがと」


「勘違いするなよ。俺は俺の為に貴様を鍛えるだけだ」


「あなたって本当に捻くれてるわね。この私が感謝してあげてるんだから、素直に受け取っておきなさいよ」


「知るか。貴様の感謝に価値はない」


「何よ!ていうか、さっきあの三人との試合のこと指摘してたってことは、本当は私の試合ちゃんと見てたんじゃない!」


「見てたわけではない。偶然目に入っただけだ」


「やっぱり素直じゃないわね!」


 ナディアはリダンが試合を見ていたことを知って少し嬉しそうだ。ちなみに、リダンは本当に試合を見ていたわけではない。あの時間は確かにオレに授業をしていた。ただ、その間も魔道具の画面には会場の様子が映っていた。試合の内容を少し知っていたのは本当に偶然目に入ったからというだけだ。その事実を話したところで誰も幸せにならなそうだから、黙っておくことにしよう。


「それじゃ、明日からよろしくね。私の為に、毎日精一杯働きなさいよね」


「待て、貴様に教えるのは2日に1度だ。俺は毎日貴様に構っているほど暇ではない。初日は明後日の土曜だからな」


 2日に1度。そして初日は明後日。つまり、リダンは自分に所有権がある日に限って教えてやるつもりらしい。オレとしてはどちらでも構わないが、一応進言しておくか。


(オレはどちらでも構わないぞ)


(貴様に任せて、間違ったことを教えたらこいつにバカにされるだろう)


(間違ったことなんて教えないんだけどな)


(多少はやるようだが、俺はまだ貴様の能力を信用していない)


 どうやら能力面でもまだ信用してもらえてないらしい。まあオレがリダンに見せたのは、まだ具現化と身体強化だけだしな。一応、アレはリダンと同等のレベルでやって見せたから多少はやるという評価なのだろう。


「何よケチね。まあいいわ、今はそれで満足してあげる」


「容赦はしないからな。文句は言うなよ」


「言わないわよ。私は絶対にあなたに勝って、私のことすごいって認めさせるんだから。弱音なんて吐かないわ」


「ふん。どうだかな」


 確かに、ナディアはすぐに文句を言ってきそうだ。なんなら初日からそうなる気がする。


「話は終わりか?ではもう失せろ」


「言われなくても、もう行くわよ!」


 ナディアは背を向けて歩き出す。だが何を思ったのかすぐに立ち止まり、再びこちらを向いて戻ってきた。


「そういえばあなたに言いたいこと、もう1つあったわ」


「何だ」


「あなたのことを『悪魔の子』だなんて言ったこと、撤回するわ。あなたは捻くれてて嫌なことばかり言うし、生意気だし腹立たしいけど、そんなに悪い人じゃないもの。それに、あなたのおかげで大切なことに気付けた気がするしね。嫌なこと言って悪かったわね」


 リダンは何も答えない。表情に出しているかわからないが、恐らく面食らっているのだろう。たった今ナディアから向けられた感情はリダンに対する肯定的な感情だ。それもイヴから受け取るものとも違う。恐怖も、怒りも、憎悪も、打算も何もない。完全に混じり気のない肯定の感情。その感情は本当に小さな感情だったかもしれないが、リダンという存在を認めるかのような感情だった。その証拠にリダンの体はほんの少しの温かさだけに包まれている。


「それだけだから。じゃあまた明日ね、『リダン』」


 去り際にリダンの名を呼び、ナディアは今度こそ去っていった。


(なんというか、いきなりすぎて驚いたな)


(まあ肯定の感情だけというのは俺も初めてだな)


(嫌われ者だもんな)


(もう付き合わんぞ)


(悪い悪い。それにしても、リダンがあの女の頼みを快く承諾したのは意外だったな)


(貴様の言っていたことが少し理解できたからな)


(何のことだ?)


(とぼけるな。貴様が昨日、あの女に近づいた目的のことだ)


(一応、どういう解釈をしたのか聞かせてもらっていいか?)


(いいだろう。貴様の目的はあの女を強くすることだ。貴様は俺が戦闘狂だと言っていたが、否定はしない。俺は強い奴と本気で戦うことを望んでいる。そして貴様は言っていたな、あの女にやったことが結果的に俺の為になると。あの女が強くなれば本気で戦える。つまり、あの女を強くすることは俺の為になる。貴様が何故あの女を強くしたいのかはわからんがな)


(大体そういうことだ。あの女はリダンに対して最初から恐怖を感じていなかった。そして、リダンに潰された後もそれが変わることはなかった。だからこそ、少し煽ってやればリダンに向かって来て、強くなれると考えた。何故恐怖を感じていないのかは不明だがな。あのアイゼンという男ですら、リダンに負けた後は少しの恐怖を感じていたというのにだ。単純にバカなんだろうか)


(とんでもなくバカなんだろう。多少はマシになったが、俺との実力差もまだ明確にわかってないだろうしな。まあ貴様には少しだけ感謝してやる。貴様のおかげで、今日のような心躍る勝負がまた出来そうだ。結局あの男も、オレが完全に本気を出す前に潰れてしまったしな。あの女にはそれ以上を期待したいものだ)


(まあリダンが指導を引き受けた理由は理解した。いいんじゃないか?意外と教える立場というのはリダンに合ってるかもしれないぞ。オレにしてくれてる授業も結構わかりやすいしな)


(気味が悪いな、貴様が俺を素直に褒めるなど。何を考えている?)


(何も考えてないって。あの女も言っていたが、もう少し素直に受け取ったらどうなんだ?)


(人間には必ず裏がある。言葉をそのまま簡単に受け取るのは愚か者のすることだ)


(まあその考えには同意だけどな。オレの事はもう少し信用してくれよ。今回は役に立っただろ?)


(調子に乗るな)


 リダンからの信用を得るにはまだまだ時間がかかりそうだ。まあいいか、少なくとも今回はかなり上手く事を運べたしな。リダンからの信頼度は少しだが上がっているはずだ。たぶん。


(そうだ、賭けのことを覚えているか?)


(頼みを1つ聞くというやつか?)


(それだ。賭けはオレの勝ちってことでいいよな?)


(貴様はちゃんと起きていたのか?どう見ても俺は苦戦していなかっただろう)


(そりゃ本気を出してからはそうだったかもしれないけど、序盤の相手を舐めてた時は苦戦していただろう)


(あんな全く本気を出してない時のことは苦戦とは言わない。そもそも、俺はあれでもまだ本気を出してはいない。あんな奴に苦戦するわけもない)


(それは屁理屈ってやつじゃないか?)


(貴様の方こそ屁理屈だろう)


(だが、本気を出してなかった時に限って言えば、互角の戦いをしていたのは確かだろう?天下のリダン大先生は戦いで言い訳をするのか?)


(...。いいだろう。今回は貴様の勝ちということにしてやる。さっさと頼みを言え、聞いてやるとは限らんがな。それとその呼び方はやめろ)


(そうだな。それじゃあ、これからはオレのことは貴様じゃなくて名前で呼んでくれ)


(なんだ。雑魚は願いも矮小だな)


(いいんだよ。そもそも、退屈凌ぎの賭けなんだからこのくらいが丁度いいだろ?)


(まあいいだろう。それで、貴様の名前はなんだったか?)


(まさか覚えてないのか?)


(...冗談だ。貴様を信用するわけでないが、貴様の存在くらいは認めてやろう。レイ)


(ああ、これからもよろしくな、リダン)

第2章はこれで終わりになります。続きの第3章前半は1ヵ月以内には投稿する予定です。


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