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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第2章「学園入学編」
22/111

第22話「リダンと侯爵令嬢」

 前哨戦は終わり、今は全員が教室に戻ってきたところだ。現在の時刻は17時30分。ほとんど予定通りの時間に終わったようだ。


「みんな、前哨戦お疲れ様ー。選手だった人もそうじゃなかった人も色々と勉強になったんじゃないかな」


 ミールはクラスメイトと一緒に教室に戻ってきて、全員が着席したのを確認して話し始める。


「それにしても、選手だったルフト君、ナディアちゃん、リダン君は三人とも大活躍だったねー。結果的にこのクラスは2勝。これは月末の特別演習も期待できそうだね。特別演習についてはまた明日説明するからね。今日は、この後懇親会だからみんなで楽しんじゃおう」


 懇親会というのは強制参加なのだろうか。もし自由参加なら、リダンは俺には関係ないとかいって欠席しそうだな。


「とりあえず連絡事項だけぱぱっと済ませちゃうね。懇親会は18時からエルトシャン様のお屋敷でやることになってるよ。今日の懇親会は無礼講。とにかくクラスも生徒も先生も関係なく、色んな人と親睦を深めてほしいな。エルトシャン様のお屋敷の人たちが腕によりをかけて作った料理がたくさん出てくるから楽しみにしててね」


 なるほど。初めての経験だが、打ち上げというやつだろうか。何かイベントがあった後にお疲れ様会的なやつをやると聞いたことがある。


「懇親会は18時から20時までは強制参加。その後は各々の自由にしていいからね。そのまま楽しむのも自由、帰るのも自由だよ。ただし、22時を過ぎたらみんな帰らないとダメだからねー?」


 どうやら2時間は強制参加らしい。リダンが懇親会に参加しても、部屋の隅で不愛想に一人で佇んでいる姿しか想像できないな。


「後、明日もちゃんと9時から学校だから、夜遅くまで騒ぎすぎちゃ駄目だよ?さて、連絡事項はこんなところかな。それじゃあ早速、懇親会の会場に向かおっか。私に着いてきてね」


 朝と同様にミールが教室を出て行って、クラスメイトはそれに続く。そしてリダンは一番後ろをついていく。


(懇親会、2時間は強制参加だってな)


(何が言いたい?)


(いや、リダンが隅の方で寂しそうにしている姿を想像しているだけだ)


(そのふざけた想像を今すぐやめろ。俺は馴れ合うのが嫌いなだけだ)


(冗談だって。この奇妙な共同生活が始まってからもう2週間だ。リダンのことも結構わかってきたものさ)


(それはそれで苛つくな。貴様に分かったような顔をされるのは)


(今はリダンと同じ顔だけどな)


(そういうところも苛つくんだ)


(そういえば、リダンは食べることは好きなのか?)


(なんだ急に)


(いや、リダンって結構適当に食事を取ってるじゃないか。懇親会ではうまい料理がいっぱいあるらしいし、興味ないのかって思っただけだ)


(どちらでもないな。食べる物にこだわりはない。まあ、うまい料理は嫌いではないがな)


(まあそんなもんか)


 それからは黙ってクラスメイトの後をついていく。クラスメイト達の会話はかなり盛り上がっているようだ。まあ、今日の前哨戦はいい試合も多かったからな。話題は尽きないだろう。

 さらに前に意識を向けると、先頭のほうでジークやイヴ、ルフト達と話をしているナディアが、チラチラとこちらを見ていた。アイゼンとの戦いが終わった後から言いたいことがありそうだったが、機会を伺っているのだろうか。よく見ると、イヴもたまにこちらを意識している。入学初日からそうだったが、浮いているリダンのことを気にかけているようだ。


 数分歩いて、立派な屋敷に到着した。立派とはいっても、大きさ自体はそれほどでもなかった。オレも見たことのある、ブラックヘローやリグレクトの屋敷よりは小さい。

 そのまま中に入ると、大きな広間へと通された。広間には豪華な装飾がいくつも施してあり、複数のテーブルと食事が並んでいる。まさにパーティ会場といった感じだ。クラスメイトの数人も部屋に入って驚いている。部屋の一番奥のほうにはロイヤ族の男が座っていた。ミールはその男に軽く会釈をして、クラスメイトを扉から少し避けたところに集合させる。


「どうやら私たちが一番乗りみたいだね。すぐに始めちゃいたいところだけど、他のクラスの人達がくるまではここで待機ねー」


 前哨戦の集合はうちのクラスが一番遅かったが、今回は一番早かったか。まあ、他のクラスは今回の前哨戦は負けているからな。少しばかりの反省会でもしているのかもしれない。

 それから更に数分後、部屋の扉が開き、一人の大人と十五人の生徒が入ってきた。


「おーすげぇ!部屋は広いし豪華だし、うまそうな料理がいっぱいあるぜ!」


「アス、はしゃぎすぎ。恥ずかしいだろ」


「いいじゃんか。こんなの地元じゃ絶対見られないぜ、ラス」


 部屋に入ってきたのはキスキルレッドだった。今日の前哨戦ではキスキルレッドの中堅を担当していたアース・ドメインがはしゃいで、先鋒を担当していたラース・ドメインがそれを注意している。キスキルレッドの生徒はその様子を見て笑っていた。


 それからすぐ、また扉が開いて別の集団が入ってくる。


「ほう、ここが会場か。中々楽しい時間になりそうだな」


「すごく、きれい。それに、美味しそう」


「ほら、さっさと入りなさい。エルトシャン様も見てるのよ」


 続いて部屋に入ってきたのは当然、残ったトリスカーナイエローの生徒たちだ。アニマ族が五人、フィル族が五人、ロイヤ族が五人、そしてロイヤ族の教師一人で計16人の人間たちが部屋に入ってくる。

 全員が揃ったのを確認して、ミールが動き出した。


「全員そろったみたいだねー」


「そうだな」


「エルトシャン様ー。全員揃いましたー」


 そう言われると、奥に座っていた男は手を上げて立ち上がり、こちらに向かって歩いて来る。あの男がエルトシャン・レイドか。見た目的には30代後半から40代前半といった感じだ。とても500歳を超えているとは思えないな。

 エルトシャンはオレ達の前まで来ると立ち止まり、話し始めた。


「生徒のみな、私は学園長のエルトシャン・レイドだ。この場にいる数人とは面識があるが、ほとんどの生徒とは初めましてになるな」


 リダンが正面を向いているため周りの様子を見ることはできないが、大体の生徒が緊張しているようだ。四英雄という肩書はそれほどすごいのだろうか。最近知ったオレからしたらあまりピンと来ない。


「今日の前哨戦、しっかりと見させてもらった。どの試合も素晴らしい戦いだったよ。この前哨戦は毎年やっているが、今年の入学者は例年よりも実力者が多いようだ。キミたちはこれからの1年間、この学園で色々なことを知り、色々な経験をすることになるだろう。この場所でしっかりとその才能を伸ばし、未来に活かしてほしい」


 エルトシャンの話し方はとても落ち着いていて、何というか貫禄がある。どこがとは言いにくいが。これが500年以上生きた人間の為せる業なのだろうか。


「今日はこの学園に入学したキミたちを歓迎したくてこのような場を設けさせてもらった。大いに食べ、大いに話し、大いに楽しんで、互いの親睦を深めてほしい。私からは以上だ」


 それだけ言って、エルトシャンは部屋から出て行った。てっきりこの懇親会にエルトシャンも参加するのかと思っていたがそうではないらしい。まあ周りの様子を考えると、エルトシャンがいると緊張して楽しめない奴もいそうだしな。そのあたりに気を遣ったのかもしれない。


「では、これより親睦会を始める。エルトシャン様の仰っていた通り、大いに楽しんで同級生との親睦を深めてほしい。ルールやマナーなども特にない。自由にやってくれ。それではスタートだ」


 開始の合図と同時に、最初に動き出したのはキスキルレッドのアースだった。アースは一目散に料理に向かって駆けていく。そんな様子を、ラースが頭を抱えながら追いかけていた。キスキルレッドの生徒たちはそれを見てまた笑っている。

 生徒たちは少しずつ散らばっていき、それぞれが目当ての料理の場所へと向かっていく。シュトラールブルーのクラスメイト達も同様だ。

 ナディアがこちらに向かって来ようとしていたが、ルフトと共にトリスカーナイエローのレオンハルトやメリア、ミストたちに捕まっていた。五人でアイゼン被害者の会でもするのだろうか。

 アイゼンの下には多くの生徒が集まっている。大体10人くらいだろうか。半分くらいはキスキルレッドの生徒みたいだが、トリスカーナイエローやシュトラールブルーの生徒も混じっている。ほとんどは知らない顔だったが、三人だけ知っている顔もあった。クラスメイトのダルクとエリスと、あとあれは誰だったか。名前は忘れたが、もう一人もクラスメイトだ。この機会にお近づきになりたいとかそういうのだろうか。

 そんな中リダンはというと、ひっそりと部屋の隅の方へと移動していた。周りの人間はおろか、料理にすら興味がないといった様子だ。


(食べないのか?)


(今はいい。周りの人間の視線が煩わしいからな。ある程度雑魚どもが散ってから食べる)


(まあその方がいいかもな)


 アイゼンの影響?で今日暴れたことによる恐怖は緩和されたとは言え、刺さってくる感情が痛いことに変わりはないからな。

 さっきはあまり気にしなかったが、トリスカーナイエローの生徒は結構リダンを恐れている様子だ。なんなら憎悪の感情も結構混じっていた。理由はなんとなくわかるが、オレの想像通りならこれに関してはリダンは完全にとばっちりだな。

 逆にキスキルレッドの人間は一番リダンに対する感情が薄い。まあ単純に、3つの国の中で一番噂が浸透してないのかもしれないな。


 親睦会が始まってから10分くらいが経った頃だろうか。リダンの下に一人の女子生徒が近づいてきた。


「こんばんは、リダン様」


 近づいてきたのはイヴだ。イヴはさっきまでカノンやクラスメイト数人と話していたはず。リダンを心配して話を切り上げてきたのだろうか。イヴからの感情は相変わらずだな。恐怖からくる痛みと、少しの温かさ。

 そういえば、イヴから伝わってくる温かさの正体はなんなのだろうか。以前は期待からくるものだと思っていたが、そうじゃない気がする。大体、以前ならともかく今はリダンに期待していることなどないだろう。最初は期待だったかもしれないが、あの夜から違う感情になっている気がする。敬意とか感謝とか心配とかその辺だろうか。心配という感情が肯定的な感情かは微妙な所だが。感謝が一番可能性が高そうだ。次点で敬意あたりだろうか。


「何か用か?」


「少し、リダン様とお話を楽しみたいと思いまして。迷惑でしたか?」


「好きにしろ」


「それと、こちらも」


 イヴがリダンに差し出したのは料理がきれいに盛られた皿だった。イヴなりに気を利かしてくれたのだろう。だが、リダンは受け取ろうとしない。


「もしかして、余計なお世話でしたか?あまり食べられていないようでしたので持ってきたのですが」


「いや、もらってやる」


「ありがとうございます。リダン様の好みがわからなかったので、私が好きなものを取ったのですが、苦手な物が入ってたらすみません」


「問題ない」


「それならよかったです」


 リダンはイヴが持ってきた料理に手をつける。一応は食べに行く予定だったみたいだし、意外とありがたく思っているかもしれない。すぐに受け取らなかったのも、プライドが邪魔をしたと思えば頷ける。リダンは素直じゃないからな。


「それで?」


「それで、とは?」


 リダンが要件を聞こうと問いかけると、イヴは何のことか分からないのか首をかしげる。


「貴様は俺に話があったのだろう?」


「ああ、すみません。リダン様とお話したいと思って声をおかけしたのですが、肝心のお話の内容を考えていませんでした」


「貴様はバカなのか?」


「ふふっ、そうかもしれません」


「まあいい。これを食べ終わるまでは貴様に付き合ってやる」


「ありがとうございます。では、そうですね。リダン様、学園はどうですか?」


「どうもこうもないな。雑魚ばかりでつまらん。わかっていたことだがな」


「リダン様から見たらそうなのかもしれませんね。でも、今日は少しだけ楽しそうでしたよ」


「俺が楽しそうだっただと?何をどう考えたらそう見えたのか理解できんな」


「そうですか?アイゼン様と戦っている時のリダン様、お顔が笑っているように見えたのですが、私の見間違いだったのでしょうか?」


 そうだったのか。当然だがオレからもリダンの表情は見えないからわからなかったな。リダンが楽しんでいたのは確かだと思うが。


「知らんな。まあ、あの男が雑魚の中では中々やる奴だったのは確かだが」


「やっぱり楽しんでいたんですよ。それにしても、戦ってる時のリダン様って不思議です」


「不思議だと?」


「正直、リダン様は怖いです。それは普段のお姿も戦っている時も同じです。でも、何故でしょう。戦っている時のリダン様にはその恐怖すら忘れて惹きつけられるんです。なんと言えばよいのでしょうか、美しいというかカッコいいというか芸術的というか、とにかくそんな感じです」


「理解できんな。普段はそんなにも怯えている奴が良く言えたものだ」


「私自身よくわかってません。...。リダン様、私がリダン様に怯えていること、やっぱりわかりますか?」


「貴様はわかりにくい方だがな。俺に怯えているやつはよくわかる。そういう点でも貴様のことは理解できん。怯えているくせに俺に接触してくるところがな。もう貴様に協力することはないぞ」


「その節は、今でも申し訳ないことをしたと思っています。ですが今は、ただリダン様と仲良くなりたいだけです」


「やはり理解できんな」


「ですが本心です。私の心の底からの」


「信用するわけではないが、今はそういうことにしてやる。もう話は終わりだ」


 気が付くと、リダンの手にある皿は空になっていた。元々量もそんなに多くなかったしな。


「わかりました。お話に付き合っていただいてありがとうございました」


 リダンは立ち上がり、扉の近くにある皿を片付けるコーナーへと移動する。皿を片付けたあとは、また元の場所に戻ってくる。戻ってきた時にはイヴはいなくなっていた。

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