第20話「シュトラールブルーVSキスキルレッド」
しばらくして、再びナディアとルフトが控室に集まった。第3試合の開始まではまだ10分ほどある。
「すまなかった。さっきの戦い、俺は貢献することができなかった」
そう言ってルフトが頭を下げる。どうやら、さっきのトリスカーナイエローとの戦いで1勝もできなかったことを気にしているようだ。
「そんなことないわ。あなたはレオンハルトを大きく削ってくれたもの。それに、マナの量では負けているんだし、むしろ頑張った方よ」
「そう言ってもらえると助かるが、全然駄目だ。あの試合は勝てない試合ではなかった」
「目標が高いのね。関心するわ」
「そうだな。俺の目指す場所はまだまだ先だ」
「それでも、私はさっきのあなたの試合を評価してあげるわ。そこの人も褒めていたし、多少は満足してもいいんじゃない?」
「リダンが?」
リダンの名前が出たことで、ルフトはこちらを向いた。ルフトからは大きな負の感情が刺さってくる。リダン曰くその多くは嫉妬らしい。まあ身近にこんな規格外な奴がいたら嫉妬するのも無理はない。
だが、ルフトの様子を見ると、意外にも喜んでいるようにも見える。もちろん顔や態度に出しているわけじゃないが、驚きの他に嬉しそうな感情がある気がする。これはリダンに直接向けられた感情じゃないし、体で感じることもできないからただの憶測だが。
ナディアもそうだったが、嫌いな相手だとしても実力のある人間から多少なりとも認められるのは嬉しいものなのかもしれない。
とはいえ、ルフトから刺さってくる感情は全く緩和されてないし、オレの気のせいかもしれない。
それにしても、この三人は気まずいだけだと思っていたが、意外と悪くない雰囲気だ。だが、そんな空気をリダンが一刀両断した。
「俺は褒めたつもりはない」
「褒めてたじゃない。思っていたよりもやるって」
「それは褒めていない。勘違いするな」
ルフトはこのやり取りを見て若干だが動揺しているように見える。本当に若干だが。お堅い奴だと思っていたが意外と面白い奴なのかもしれない。
「ナディア王女、こいつの言うことにいちいち反応していたらきりがない」
「それもそうね」
「それよりも、次のキスキルレッド戦は絶対に勝って見せる。流石に今の俺の実力ではアイゼン皇子に勝つことは難しいかもしれないが、ラース・ドメインとアース・ドメインには勝つつもりだ」
「気合十分みたいね。私の素晴らしさはさっき十分に見せられたし、その二人は譲ってあげるわ」
「ああ。そうだ、遅くなったがさっきは素晴らしい活躍だった、ナディア王女。仲間として誇らしく思う」
「あなたは私の素晴らしさをちゃんと理解できたようね。もっと褒めてくれてもいいのよ」
ナディアとルフトはこの前哨戦を共に戦って少し仲良くなれたようだ。影からそう思っていると、何かを思い出したのか、ナディアが大声を上げる。
「あ!そういえば!あなた、さっきの試合ちゃんと見てたでしょうね?」
ナディアはリダンを指さしてそう叫ぶ。
「見ているわけがないだろう。貴様ら雑魚の試合に興味はないと言ったはずだが?」
「やっぱり見てなかったのね!そんなこと言いながら本当は見てるんじゃないかってちょっとは期待してたのに!」
「知るか。勝手に期待するな」
「...ふぅ...ふぅ。...まあいいわ!次はあのアイゼン・キスキルに勝ってくるから、ちゃんと見てなさいよね!」
「俺もあの男の戦いには興味がある。ついでに貴様が無様に負ける姿なら見てやろう」
「何言ってるのよ!負けないから!...ふぅ...ふぅ」
ナディアはまた息を切らしながらリダンに対して捲し立てる。この光景も慣れてきたな。まあ、リダンは意識的か無意識的か知らないがナディアを逆撫でするようなことを進んで言うからな。今後もこんな光景を見ることは多いかもしれない。
「時間になったため、これより前哨戦第3試合、シュトラールブルー対キスキルレッドの試合を始める。双方の先鋒、ルフト・ブラックヘロー及びラース・ドメインは控室から会場に来るように」
「では行ってくる」
ルフトは部屋を出て行った。ナディアはそれを見送り、リダンは部屋の隅で本を開く。その後はまたナディアが突っかかってくるかと思ったが、叫び疲れたのか、突っかかっても無駄だと思ったのか、静かに魔道具の画面を見ていた。
またしばらくリダンの授業を受けていたが、放送が流れたタイミングで意識を魔道具へと持っていく。
「試合終了!ラース・ドメインの負傷により、この試合、シュトラールブルー先鋒、ルフト・ブラックヘローの勝ちとする!」
(ルフト、勝ったみたいだな)
(そのようだな)
(そういえば、リダンはあいつの事どう思ってるんだ?)
(どうも思っていない。ただ身近にいた雑魚というだけだ)
(あっちはリダンのこと意識してるみたいだけどな。あの嫉妬心は相当根深いだろ。何か理由があるのか?)
(知らん。あいつが勝手に妬んでいるだけだ。勝手に恐怖してくる他の雑魚どもと一緒だ)
(そうなのか。何か因縁でもあるのかと思ってたんだけどな。リダンは何も思ってないのか)
(...そうだな。あいつ個人に関してはどうでもいいが、あいつが父を支えている点に関しては評価している)
(少し意外だな。父親のことを気にかけていたのか)
(気にかけているわけではない。今の俺にとってあいつはどうでもいい存在だ)
(今のってどういうことだ?)
(もういいだろう。この話はこれで終わりだ。続きをやる)
リダンは強引に話を打ち切った。リダンにとって触れられたくない部分なのだろうか。そうなると余計に気になるところだが、オレだって詮索されるのは嫌だしな。今は引いておこう。
それから更にしばらくして、また放送が流れる。
「試合終了!アース・ドメインの負傷により、この試合、シュトラールブルー先鋒、ルフト・ブラックヘローの勝ちとする!」
どうやらルフトがまた勝ったようだ。これで、ルフトは宣言通りにラースとアースの二人を倒したことになる。正直、ルフトがここまでやれるとは思ってなかったな。
その後すぐにルフト対アイゼンの戦いが始まったが、それはものの数分で終わる。まあ、前の二人を相手にして消耗しているし、ルフトとアイゼンでは相手にならないだろう。
「シュトラールブルー中堅、ナディア・シュトラールは控室から会場に来るように。アイゼン君はその場でしばらく待機していてくれ」
「それじゃあ行ってくるわ。絶対に勝ってくるから」
リダンはそれを無視して魔道具の画面の前まで移動する。しばらくするとナディアが画面に映った。
「ではこれより、シュトラールブルー中堅ナディア・シュトラール対キスキルレッド大将アイゼン・キスキルの試合を始める。両者位置に着いてくれ」
これから、ナディアとアイゼンの戦いが始まる。十中八九ナディアは負けるだろうが、今までの戦いで一番レベルの高い戦いになるだろう。ナディアのマナの量とマナを感じるセンスは本物だからな。マナの制御に関しては今は未熟すぎるが。
「アイゼン・キスキル。あなたに勝って私の素晴らしさを証明するわ。悪いけど私が先に進むための踏み台になってもらうから」
「それは楽しみですね。実力の近い方との手合わせはとても心が躍ります。お互いに全力を出し切り、いい試合にしましょう」
試合開始の笛が鳴り、マナ障壁が展開される。
先に動いたのはナディアだった。リダンと戦った時と同じように、最初は水の第1位魔法『アクア』を発動する。ただあの時と違うのは、生成した水球の数が10個ということだ。ナディアはその水球を、間隔を空けずに連続で発射する。少なくとも、あの時のように相手を舐めてかかってるわけじゃなさそうだ。
アイゼンは身体強化をして、それを焦ることなく冷静に1つずつ避ける。全てを避け終わった後、アイゼンはいつも通りに右手に長剣、左手に盾を具現化した。そしてそのまま高速でナディアへと向かっていく。
ナディアはアイゼンの接近を確認して、身体強化をしながら後ろに下がる。そしてそのまま瞳を青色に光らせ、魔法を発動した。ナディアの手元から、水で作られた小さな竜が4体現れ、ナディアの周囲を漂い始める。ナディアが今発動したのは、水の第5位魔法『アクアビット』。自動で動く使い魔を水で作る魔法だ。
ちなみに、基本は自動で動くが自分の意思で動かすことも可能だ。まあそうなると他の魔法を使った方がいいという話になるからあまりしないが。
ナディアが作った4体の竜はアイゼンの前後左右を囲むように移動し、口から水球を放って攻撃し始めた。
アイゼンは左側からの攻撃を盾で防ぎ、右側からの攻撃を長剣で斬り伏せ、後ろからの攻撃を体勢を低くして避け、正面の攻撃に対して光の第1位魔法シャインを放った。一発目の水球を全て対処した後は、正面を飛んでいる竜に近づき、長剣で斬りつけた。そのまま正面にいた竜は光る粒子を放ちながら消滅する。
現在のナディアとアイゼンの距離は15mほど。最初と比べると大分近づいた。アイゼンが本気で踏み込めば1、2秒ほどでナディアを射程距離に捉えるだろう。
ナディアはアイゼンを近づけまいと、更に瞳を光らせて魔法を発動する。アイゼンの周囲を囲むように、先端がとがった、円錐状の氷の柱が出現する。これは水の第4位魔法『アイスピラー』だな。アイゼンの身動きを封じて遠距離から魔法で削っていくつもりだろう。
アイゼンはそれが分かっていたのか、ナディアが魔法を発動するのと同時に、瞳を金色に強く光らせていた。アイゼンが発動した魔法は光の第6位魔法『ライトレイ』。それもただのライトレイではなかった。明らかにさっきの試合で見せたものよりも太い光の柱が現れ、アイゼンの下に落ちる。一見すると自分を攻撃しているように見えるが、流石にそんなバカなことはしないだろう。自分には当たらないように魔法を放っているはずだ。
光の柱が消えるとアイゼンのみが立っており、そこにあったはずの氷の柱や3体の竜は消えていた。
「なかなかやるじゃない。褒めてあげるわ」
「ありがとうございます。ナディア王女は少し動揺しているようですね」
「そんなことはないわ。まだまだ余裕よ」
「それは良かったです。楽しくなるのはここからですからね。では、ここからは攻めさせてもらいますよ」
アイゼンは強く踏み込み、ナディアに向かって加速する。ナディアはアクアを放ちながら当然距離を取ろうとするが、その距離はどんどん縮まっていく。
次第にアイゼンの長剣が届く範囲になり、ナディアは大斧を具現化させる。そして、先手を取るために斧を横に薙ぎ払った。
アイゼンはそれを飛んで避け、ナディアの後ろをとって長剣で斬り付ける。ナディアはそれにギリギリ反応して斧で受けるが、体勢を崩してそのまま少し後ろに飛ばされた。
アイゼンはすかさずナディアに対して3発のシャインを発射する。ナディアは1つを斧で、1つをマナ障壁を展開して防ぐが、残りを1つを防ぐことができずにまともに食らってしまった。ナディアを守っていた魔道具によるマナ障壁が少し離散して粒子が舞う。
「っ!」
ナディアの口から焦りと悔しさの声が漏れる。ナディアの頭にもそろそろ浮かんでいる頃だろう。敗北の二文字が。もう、自分が相手よりも劣っていると分かっているはずだ。以前のナディアならば盲目的に自分の力を信じ、それを理解できなかったかもしれない。だが、リダンに徹底的に潰された経験が、その事実を認めさせる。
ナディアは水の第3位魔法『アイスランス』を発動し、5つの氷の槍を作りアイゼンに向けて多方向から発射する。更にその氷の槍と一緒に自分も斧で攻める。
アイゼンは光の第4位魔法『ホーリーランス』でアイスランスを迎え撃ち、ナディアの斧を盾で受けた。そしてそのまま斧ごとナディアの体をはじき、体勢を崩したナディアに対して長剣を右上から右下に動かし斬り付ける。
ナディアは咄嗟にマナ障壁で防ごうとするが、アイゼンはマナ障壁ごとナディアを斬り飛ばした。二人のマナの量はほとんど同じ。なんならアイゼンのほうが少し多い。更に言えばナディアの腕ではまともなマナ障壁も作れないだろうし、流石に防げるはずもない。
ナディアはアイゼンの剣を受けたが、まだ試合終了の合図はない。どうやら、咄嗟に作ったマナ障壁が勢いを少しだけ殺していたようだ。
「ま、まだ、まだまだこれからよ」
「素晴らしいです。技量もそうですが、最後まで全力で向かって来てくれるその姿勢。この学園の方はみなさん私を楽しませてくれます」
「その余裕そうな顔。絶対に歪ませてあげるから」
ナディアは会話の隙をついてアイゼンから大きく距離を取り、今までで一番強く瞳を光らせる。もちろん、ここでナディアが発動したのは水の第8位魔法『タイダルウェイブ』。発動まで5秒ほどかかっていたが、アイゼンはそれを止めることはなかった。
アイゼンに向かって、ナディアの作り出した大洪水が襲い掛かる。アイゼンは瞳を光らせて魔法を発動する。ここでアイゼンが発動したのは光の第4位魔法『ライトシールド』だ。先ほど攻撃しなかったのは受けて立ってやるということだったのかもしれない。
アイゼンが大波にのまれ、会場にはしばらく静寂が訪れる。やがてナディアの発生させた大洪水は消え、フィールドにアイゼンの姿が確認できた。
アイゼンは攻撃を受ける前と変わらない姿で立っている。一瞬そう思ったが、アイゼンの右足から少しだけ光の粒子が飛んでいた。
「...。お見事です。『視えていても』今の攻撃を完全に防ぐことはできませんでした」
「...。その余裕そうな顔で言われても嬉しくないわ」
アイゼンは止めをさすためにナディアに近づく。ナディアは距離を取ろうとするが、もうあまり力が残っていないのか、ほとんど動けていない。そのままアイゼンの斬撃をナディアが食らい、試合終了の合図があった。
「試合終了!ナディア・シュトラールの負傷により、この試合、キスキルレッド大将アイゼン・キスキルの勝ちとする!」
「今日の試合で一番楽しい勝負でした。素敵な時間をありがとうございました」
「...。次は勝つわ」
「楽しい勝負は大歓迎です」
「シュトラールブルーの大将、リダン・ブラックヘローは控室から会場に来るように。アイゼン君はその場でしばらく待機していてくれ」
(出番だな)
(ああ、あの男を潰すのは中々楽しそうだ)
リダンは意気揚々と控室を出て会場へと向かう。オレが今まで見た中で一番テンションが上がっている。やっぱ戦闘狂だなこいつ。
会場に続く通路を歩いていると、反対側からナディアが歩いてきた。リダンは当然のように無視して進もうとしたが、ナディアが話しかけてきた。
「...見てた?今の試合」
「ああ」
「なんで、本当に、負けた試合だけ、見てる、のよ」
「知らん。そもそも負けたのは貴様が雑魚だからだ」
「またそうやってバカにして!」
ナディアは今にも泣きだしそうだ。アイゼンに負けたことが本当に悔しいのだろう。いや、アイゼンに負けたことだけじゃない。リダンに負けたことも含めて自分の無力を痛感しているのかもしれない。だが、リダンに負けた時のような絶望した様子はない。
「...私、改めて自分の実力が足りてないことが分かったわ」
リダンはそれに対して反応することはなかった。ナディアはリダンからの返答がないことが分かると、話を切り上げる。
「それじゃあね。一応味方だし、あなたのこと応援してあげるわ」
ナディアは少しだけ駆け足でその場を去っていった。
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