第18話「アイゼンVSトリスカーナイエロー」
試合開始の笛が鳴り、マナ障壁が展開される。それとほぼ同時に、レオンハルトが身体強化をして踏み出す。アイゼンに近づく間に武器の具現化を済ませ、そのままアイゼンに向けて爪を横に振り抜く。先ほどまで初手は様子見していたレオンハルトだが、今回は奇襲に出た。
アイゼンはレオンハルトの奇襲が分かっていたかのようにすぐさま身体強化を済ませ、素早く後ろに下がりながら右手に長剣、左手に盾を具現化し、爪による攻撃を盾で受ける。そのまま勢いのまま攻撃してきたレオンハルトの右腕を払いのけ、長剣で右上から右下へと斬りつける。
レオンハルトは崩した体勢からさらに体を低くすることでそれを掠る程度で避け、体勢を立て直そうとする。
アイゼンはその隙を逃すまいと魔法を発動する。アイゼンの瞳が金色に光り、レオンハルトの目の前で閃光が破裂した。アイゼンが発動した魔法は光の第2位魔法『ライトバースト』だ。相手の目の前で閃光を破裂させ、視界を奪う。
レオンハルトは崩れた体勢を立て直そうとした矢先に視界を一瞬奪われ、転がるようにしてアイゼンから距離を取ろうとする。
アイゼンはそんなレオンハルトを追いかけ、長剣を下から上に振り上げてレオンハルトの胴のあたりを斬りつけた。その直後マナ障壁が消滅し、試合終了が告げられる。
「試合終了!レオンハルト・コーデックの負傷により、この試合、キスキルレッド大将アイゼン・キスキルの勝ちとする!」
試合時間は1分もなかっただろう。一瞬、とはいかないが、そう言ってしまいそうなくらい早い決着だった。アイゼン・キスキル。思っていたよりもかなり実力がありそうだ。
キスキルレッドからはアイゼンを称賛する声が、トリスカーナイエローからはレオンハルトを労う声が聞こえてくる。
(あのアイゼンって奴は想像以上に強いかもしれないな)
(まだなんとも言えんな。確かに他の雑魚共とは違うようだが、相手の男が雑魚すぎてまだ判断はできない)
(そう言いながら、少し期待してるのが伝わってくるぞ)
(俺をからかうな、黙れ)
確かにまだアイゼンの評価を下すのは早い。1分にも満たない時間の戦いを見ただけに過ぎないからな。これから出てくるトリスカーナイエローの中堅、大将との試合で実力は見えてくるだろう。
「いや参った。アイゼン殿の実力は噂以上だな。完敗だよ」
「いえ、レオンハルト君も十分強かったですよ。最初の奇襲なんて見事なものでした。今回こういう結果になったのは、あなたが消耗していたのが大きいでしょう。ラースとアースはいい働きをしてくれました」
「強い上に器まで大きいとはな。恐れ入った」
「またやりましょう」
「ああ、月末の本戦では全力でリベンジさせてもらう」
「トリスカーナイエローの中堅、メリア・モノクロームは控室から会場に来るように。アイゼン君はその場でしばらく待機していてくれ」
放送からしばらくして、一人の女がトリスカーナイエロー側の入場口から現れた。なんというか、特徴的な髪色をしているな。髪の右半分が黒、左半分が白になっている。あと、かなり背が小さい。140cmあるか微妙なところだ。もしかしたら、フィル族なのかもしれないな。
フィル族はアニマ族とは反対に体が小さい。その代わりに五感がかなり鋭くて色々と器用らしい。もしかしたらマナの制御も上手いのかもしれない。マナの制御は五感の鋭さとは直接の関係はないが、器用さが要求されるからな。まあいくら器用でも、マナを感じるセンスがないとどうにもならないが。
「初めまして、メリアさん。お手柔らかにお願いします。良い試合にしましょう」
「ん、よろしく」
「ではこれより、トリスカーナイエロー中堅メリア・モノクローム対キスキルレッド大将アイゼン・キスキルの試合を始める。両者位置に着いてくれ」
開始の笛が鳴り響き、いつも通りマナ障壁が展開される。さて、今回はどんな展開になるのか。できればアイゼンの実力をしっかりと見たい。
両者少しだけ様子見をしていたが、メリアと呼ばれていた女が動き出し、魔法を発動する。メリアの瞳が黄色に光り、アイゼンの上空に大きな岩が5つ出現した。その岩はそのまま高速でアイゼンの下へと落ちていく。これは地属性の第2位魔法『ロックフォーリング』だ。この魔法で降ってくる岩の大きさや数、速度は使用者の技量によって変わる。見たところメリアはかなりマナの制御が上手い。
アイゼンはそれに対して、光の第1位魔法『シャイン』を発動した。光の弾を5つ生成して自分の真上にある岩にぶつける。アイゼンの真上の岩だけが粉々に砕け散り、それ以外の岩はそのまま落下した。
メリアはそれを見て更にロックフォーリングを発動する。今回も岩の数は5つ。さっきと同じ出力で発動したようだ。
アイゼンもさっきと同様の対処をするが、アイゼンの周りには壊さなかった4つの岩が積み重なっていく。アイゼンは2回のロックフォーリングによって8つの岩に囲まれる形となった。
「なるほど。攻めながら地の利を得る戦術ですか。流石ですね」
「まだ、終わりじゃない」
メリアの瞳が先ほどまでよりも強く光る。その直後、フィールド全体が揺れ始めた。もちろん、観客席はマナ障壁によって守られているため、こっちまで揺れが届いているわけではない。
メリアが発動したのは地の第6位魔法『アースクエイク』だ。地面を大きく揺らすだけの魔法だが、その威力はかなり脅威だ。特に、今のように周りに障害物がある場合には効果が高い。
アイゼンの周りに積み重なっていた大岩は崩れ落ち、アイゼンを押し潰す。潰される直前、アイゼンの瞳は金色に光っていた。
アイゼンが岩に潰されて1秒ほど、会場に静寂が訪れる。だがその静寂は、岩の中から放たれた一際眩しい閃光によって破られる。アイゼンを押しつぶした岩たちはその閃光によって砕け散りながら吹き飛ばされる。
アイゼンが潰される前から準備していた魔法は光の第4位魔法『ライトシールド』だ。自分の周りに通常よりも強力なマナ障壁を展開して身を守り、その後障壁を高速で拡大して岩を吹き飛ばした。
「お見事でした。対応が一瞬でも遅れていたら私はここで負けてましたね」
「その割には、余裕そう」
アイゼンは囲みを脱出するとすぐさまシャインを発動し、自分の周囲に10個の光の弾を生成する。そしてそれを一斉にメリアへと発射した。
それに対して、メリアはアースウォールを発動して光の弾を受ける。やはり、先ほどから見事なマナ制御だ。特に魔法に発動速度に関してはリダンに近いかもしれない。
それから数分間は二人の魔法の打ち合いが繰り広げられた。だが、どちらも1回すら被弾することはない。
「遠距離の魔法では簡単に倒せそうにないですね」
「私、魔法は得意だから。負けない」
「では接近戦を仕掛けるとしましょう」
アイゼンは先ほどの試合と同様に、身体強化をしながら右手に長剣、左手に盾を具現化する。その直後に強く踏み込み、メリアとの距離を一気に詰める。メリアもそれを予見していたようで、大盾を具現化して身体強化まで済ませている。この大盾、メリアの身長より大きい。
アイゼンはメリアの大盾を見て一度止まる。現在の二人の距離は3mくらいだ。アイゼンの踏み込みからの一閃がギリギリ届かないくらいの間合い。
アイゼンはその間合いで魔法を発動する。メリアの周囲360度に光の槍が出現した。これは先ほどのライトシールドと同様、光の第4位魔法『ホーリーランス』だ。
メリアはそれに対し、120度くらいを大盾で、それ以外をアースウォールによって防ごうとする。
アイゼンはそれを読んでいたのだろうか。アイゼンはメリアがアースウォールを発動する瞬間にメリアの後ろに回り込んでメリアを長剣で薙ぎ払う。
メリアは大盾のせいで視界が悪かったのか、それに反応することはできなかった。あるいは単純にアイゼンの速さに追いつかなかったのかもしれない。その一撃の直後、マナ障壁が解かれた。
「試合終了!メリア・モノクロームの負傷により、この試合、キスキルレッド大将アイゼン・キスキルの勝ちとする!」
「すごい」
「メリアさんもお見事でした。とても良い試合でした」
「ん、私も楽しかった」
「トリスカーナイエローの大将、ミスト・アーケディアは控室から会場に来るように。アイゼン君はその場でしばらく待機していてくれ」
(アイゼンをどう見る?)
(身体能力は高いな。それにマナの制御も上手い。ただ、マナの量が雑魚だな。恐らくは、あの生意気な女よりも少し多い程度だろう。少なくとも俺に勝っている点はない)
(リダンのお眼鏡にはかなわなかったか?)
(いや、確かに俺よりは雑魚だが中々楽しませてくれそうだ。今までの2試合からして、奴の最も厄介な武器は、あの対応力だ。相手の行動に対する対処が異常に速い。単純に反応がいいのか、読みが鋭いのかは分からないがな)
(なるほどな。まあ退屈しないで済みそうで良かったじゃないか)
(ああ)
(ところで、さっきアイゼンがリダンに勝っている点はないって言ってたけど、見た感じ人望では圧倒的に負けてるよな?)
(黙れ。消すぞ)
リダンと話していると会場に髪をポニーテールにしたロイヤ族の女が姿を現した。くじ引きの時に見た女だ。先ほどから盛り上がっていた応援も最終戦前の今、最高潮に達している。
「全く、嫌な流れね。正直勝てる気もしないし棄権したいくらいだわ」
「そう言わずに、楽しみましょう」
「あまり楽しめる気はしないけどね」
「そうでしょうか。全力でぶつかり合えば自ずと楽しくなるものですよ」
「そもそも、全力って疲れるから嫌なのよね。気楽にやりたいものよ」
「そうですか。ではお手柔らかにお願いします。こちらは全力でやらせてもらいますけどね」
「ではこれより、トリスカーナイエロー大将ミスト・アーケディア対キスキルレッド大将アイゼン・キスキルの試合を始める。両者位置に着いてくれ」
笛が鳴りマナ障壁が展開されると、ミストと呼ばれていた女が即座に身体強化と共に武器を具現化した。ミストが具現化したのは弓と矢。どうやら遠距離で戦うタイプらしい。
更にミストの瞳が緑色に光り、複数の風の刃がアイゼンに向かっていく。ミストが発動したのは風の第2位魔法『ウィンドカッター』。その名前通り、風の刃で相手を攻撃する魔法だ。
ミストはウィンドカッターと共にいくつもの矢を高速で放つ。どうやら猛攻撃による短期決戦が狙いのようだ。
アイゼンは動揺することもなく、身体強化と武器の具現化をしてミストへと向かっていく。矢を剣ではじき、盾とシャインでウィンドカッターを受けながらどんどんミストとの距離を詰めていく。
ミストは遠距離からの攻撃を続けながら、アイゼンから距離をとる。だが、ゆっくりと確実に距離は詰まっていく。
数分が経過し、二人の距離が5mくらいになったタイミングでミストの瞳が緑色に強く光り始めた。どうやら逃げ切れないと判断してここで勝負を決めるつもりらしい。
その直後、フィールドに大嵐が巻き起こる。ミストが発動したのは風の第6位魔法『タイフーン』。正確に、濃度の濃いマナを注ぎ込むことでその威力は高くなる。ミストが発動したタイフーンは普通よりも少し強い程度だ。
アイゼンはこれもわかっていたかのように対応する。アイゼンの瞳が金色に強く光り、上空に穴が開く。その場所から光の柱が発生して大嵐に直撃した。この一撃は光の第6位魔法『ライトレイ』。威力と速度に長けた強力な一撃だ。
光の柱と大嵐が相殺し合い、フィールドには爆風が巻き起こる。その隙にアイゼンはミストに対して大量のシャインを発射する。ミストはそれを避けようと試みるが、当然全てを避けることはできず、4発ほど食らってしまう。その瞬間、試合終了の合図があった。
「試合終了!ミスト・アーケディアの負傷により、この試合、キスキルレッド大将アイゼン・キスキルの勝ちとする!またこの結果より、前哨戦第1試合、トリスカーナイエロー対キスキルレッドはキスキルレッドの勝利とする!」
「まあこうなるよね。やっぱり勝てる気がしないわ」
「ミストさんはとても手強かったですよ。全力で来られたらどうなるかわかりません」
「それは嫌味かしら?今のが全力よ」
「そんなつもりはなかったんですが、怒らせたのならすみません。ともあれ、私はとても楽しめました。素敵な試合をありがとうございます」
「では、少し早いですが午前の部はこれにて終了になります。午後の部は13時からです。13時前には選手の人は控室に、それ以外の生徒は観客席に待機するようにお願いします」
現在の時刻は11時半前。アイゼンが圧倒的すぎて少し早く終わってしまったようだ。キスキルレッドとトリスカーナイエローの生徒たちはまだ熱が冷めない様子だ。近くにいるシュトラールブルーのクラスメイトにも今までの戦いに興奮している奴が何人かいる。
それにしても、リダンほどじゃないにしろアイゼンもかなり圧倒的な力を持っている。にも関わらず、あれだけ人気があるのは人徳の為せる業だろうか。オレの見立ては甘かったかもしれないな。
放送が終わってすぐに、ミールが観戦席に戻ってきた。
「みんなお疲れさま。すごい試合だったねー。それでこれからだけど、とりあえずさっきの放送の通り13時までは自由にしてていいよ。ただ、選手のルフト君、ナディアちゃん、リダン君は少しだけ時間をもらえるかな。控室の場所を教えておくから」
それからリダン達三人は控室まで案内されてから解散となった。
(賭けはオレの勝ちみたいだな)
(そのようだ。あの女があいつに勝てるとは思えん)
(休憩時間はどうする?)
(一度寮に戻って貴様の授業の準備をする)
(もう観戦はいいのか?さっき説明された感じだと、控室でも魔道具を使って観戦できるみたいだが)
(雑魚どもの戦いを見る必要はない)
(そうか)
昨日、ナディアが試合を見ておけと言っていたがその願いは叶わないらしい。
リダンはアイゼンの実力を見て、柄にもなくテンションを上げている。オレはやり過ぎないように祈るとするか。
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