第17話「トリスカーナイエローVSキスキルレッド」
観客席に着いてしばらく待っていると、左右の入場口から一人ずつフィールドにやってきた。
片方は髪が緑色で少し背の低い大人しそうな少年、もう片方は身長が2m以上あるいかつい男だ。遠目だから正確には判断できないが、2m20cmくらいある気がする。
あの男はアニマ族なのだろう。アニマ族とは、ロイヤ族と同様に連合国に属する種族の1つで、オレ達のような普通の人間よりも基本的に体格が良く、身体能力に長けているらしい。男の平均身長は2mくらい、女は180cmくらいらしい。
ちなみに、連合国に属するのはロイヤ族、アニマ族、そしてフィル族の3種族で、それぞれにオレ達とは違った特徴を持っている。オレ達のような普通の人間はこれらの種族と区別する時はヒューマ族と呼ばれるらしい。これらはここ数日のリダン大先生の授業で知った。
「これより前哨戦第1試合、トリスカーナイエロー対キスキルレッドの試合を始める。トリスカーナイエロー先鋒、レオンハルト・コーデック、キスキルレッド先鋒、ラース・ドメイン、両者位置に着いてくれ」
どこからか先ほど指揮を執っていた教師の声が聞こえる。何やら魔道具で遠くから声を届けているらしい。
前に出た二人の選手は軽く礼をし、位置についた。そして数秒後、マナ障壁がフィールドを覆い、笛の音が会場に鳴り響く。それと同時に、選手二人の体の周りをマナが覆う。どうやらフィールドにあった魔道具によって二人にマナ障壁が張られたようだ。ミールが言っていた怪我を負う心配がないという言葉はこういう意味だったか。
試合は始まったが、選手は両方とも動こうとしない。お互いに様子を伺っているようだ。
「来ないのか?では遠慮無くこちらから行かせてもらうぞ!」
大きな声と共に動き出したのはレオンハルトと呼ばれていた男だった。声と共に身体強化を発動し、自分の右手の先に大きな爪を具現化させると、相手のラースと呼ばれていた男に向かっていく。ほんの数秒で40mの距離を詰め、ラースの手前で爪を振り上げ、そのままラースに向けて振り下ろす。
「っ!」
ラースはそれをギリギリのところで避け、魔法を発動する準備をする。ラースの瞳が緑色に光り、ラースとレオンハルトの間に強風が吹く。ラースが今発動したのは風の第1位魔法『ウィンド』。狙った場所に風を吹かせる魔法で、色々と便利だが水属性の『アクア』や闇属性の『ダークネス』ほどの破壊力は出しにくい。
ラースが発動したウィンドでレオンハルトが軽く吹き飛ばされる。距離が出来た隙にラースは身体強化をし、更に距離を取るために後ろに下がる。
「やるな!だが、まだまだ行くぞ!」
レオンハルトは後ろに下がったラースを逃がさないように魔法を発動する。今度はレオンハルトの瞳が赤く光り、火球が現れラースの方へと発射された。レオンハルトが発動したのは炎属性の第1位魔法『ファイア』だ。
ラースはそれを横に飛んで避け、そのまま距離を取りつつ槍を具現化させた。
(なあ、この勝負どっちが勝つと思う?)
(また賭けをする気か?)
(いや、そうじゃない。単純に、リダンにはどう見えているのか気になっただけだ)
(貴様に教える必要はないが、俺も雑魚共の戦いを見ているだけでは退屈だからな。貴様の暇つぶしに付き合ってやる。あの暑苦しい男が勝つだろうな)
(ちなみになんでだ?)
(単純にマナの量があの男の方が多い。それに加えて、あの小さい方はマナの制御が遅い。身体強化をしてから具現化までに時間がかかっていた。慣れている奴ならほとんど同時にそのくらいはできる。更に1番決定的なのは、身体能力の差だ。あの初撃の速度は中々のものだった。やはり雑魚でも1つくらいは秀でたものはあるものだ)
(なるほどな。このままだとじりじりとレオンハルトの方に戦況は傾いていきそうだ)
(そういうことだ)
オレはマナの扱いに関しては自信があるが、戦闘に関しては自分なりに理論を考えられても、実際には素人だからな。戦いにおいてもマナというのは最重要になる要素だから、ある程度の実力はわかるが、リダンに聞くことで理解を深められる。
オレとリダンの予測通り、ラースは少しずつダメージを負っていた。槍の間合いを活かしつつ、魔法を要所で使ってなんとか戦えてはいるが、数分で決着するだろう。
しばらく二人が攻防を繰り返した後、レオンハルトの魔法でラースが少しだけ体勢を崩した。その隙を逃さずにレオンハルトはラースの懐に潜り込む。ラースは当然、レオンハルトからの攻撃を避けようとする。ラースがレオンハルトの爪の間合いをギリギリ外して避けたと思ったとき、レオンハルトの爪が少しだけ伸び、ラースの体に爪が直撃した。その直後、フィールドに貼られていたマナ障壁が消滅する。
「試合終了!ラース・ドメインの負傷により、この試合、トリスカーナイエロー先鋒レオンハルト・コーデックの勝ちとする!」
「どうして...。」
ラースは起きた出来事を認識できていないようだ。まあ、少し考えればすぐにわかることなのだが、負けた直後だから動揺してあまり頭が回っていないのかもしれない。
レオンハルトは避けられる直前に、具現化した爪を少しだけ大きくした。具現化した武器はマナで作られているため、当然マナを制御することでその形を変化させることができる。だがこれは結構高度な技術で、できる人間もそう多くないだろうし、できたとしても少し変化させるのが限界だろう。実際、レオンハルトはほんの少し大きくしただけだ。
ちなみに、マナによって具現化した武器のほうが実物の武器よりも圧倒的に便利だ。さっきの、武器の形状を変化させる戦術もそうだし、具現化した武器には重さがない。更に言うと、マナに対してはマナによる攻撃しか効果がないため、実物の武器を使う場合にも結局マナを纏わせて戦うことになる。
だから、実物の武器を戦いに使う人間は少ないらしい。仮にいたとしたら、具現化が苦手な人間か、実物の武器によほどの思い入れがある変人のどちらかだろう。
「キスキルレッドの中堅、アース・ドメインは控室から会場に来るように。レオンハルト君はその場でしばらく待機していてくれ」
ラースが入ってきた入場口から重い足取りで出て行き、1分ほどが経った後、ラースと似た顔の茶髪の男が入場口から入ってきた。
「ではこれより、トリスカーナイエロー先鋒レオンハルト・コーデック対キスキルレッド中堅アース・ドメインの試合を始める。両者位置に着いてくれ」
「ラスは負けちまったみたいだが、俺は簡単にはいかないぜ?」
「確か先ほどのラース殿とアース殿は双子だったか。ラース殿との戦いは良い試合だった。アース殿とも良い試合が出来ることを期待している」
二人が位置に着いたタイミングで何やら会話が始まった。さっきのラースと今でてきたアースという男は双子ということだが、ラースと違ってこのアースは結構好戦的なようだ。
数秒後、先ほどと同じように笛が鳴り響きマナ障壁が展開される。
「俺は先手を取らせてもらうぜ!」
アースは試合が開始するとほぼ同時に魔法を発動する。アースの目が黄色に光り、アースとレオンハルトの間の地面から岩の壁が複数現れた。アースが発動したのは地属性の第3位魔法『アースウォール』だ。地面から岩を出すシンプルだが強力な魔法だ。地形というのは戦況を変える重要な要素だからな。それを操れれば戦いを自分に有利に進められる。
アースによって出現した岩の壁はじりじりと移動し、レオンハルトを壁際まで追い込もうとする。
「やるな!アース殿。これは並みの戦士では対応が難しいだろう」
レオンハルトはファイアを2つ発動し、自分の正面の壁に向かってそれを発射する。壁の一部が砕け散り、その場所からレオンハルトは岩の壁による囲みを脱出する。
「流石!この程度じゃ隙も見せないか」
「今度はこちらから攻めさせてもらうぞ!」
その後はお互いに身体強化をして武器を具現化し、距離を取りながら魔法の打ち合いが始まった。ちなみに、アースが具現化した武器はラースと同じ槍だ。
(しばらくは膠着状態になりそうだな。今度はどっちが勝つと思う?)
(今回もあのうるさい男だな)
(やっぱりあっちか。というか、今回はどっちもそこそこうるさいから、うるさい男だけだとどっちかわからないぞ)
(伝わっているのだから別にいいだろう。貴様はいちいち文句を言うな)
それから25分ほどが経ち、決着の時がやってきた。アースは少しずつ削られていき、動きが鈍った所にレオンハルトの魔法が直撃して決着となった。ラースよりは大分粘った方だが、やはりマナの量と身体能力の差によってじりじりと差が開いていったのだろう。
「負けちまったなー。ラスの仇を取ってやるつもりだったんだけどな」
「アース殿もかなり強かったぞ。一歩間違えば負けていたのは私のほうだった」
「ラスとの戦いで消耗してたあんたに負けたんだから、完敗だよ。でも、次は勝つからな!」
「キスキルレッドの大将、アイゼン・キスキルは控室から会場に来るように。レオンハルト君は先ほどと同様にその場でしばらく待機していてくれ」
さっきと同じような放送が流れ、しばらくして白髪の落ち着いた雰囲気の男がキスキルレッド側の入場口から入ってきた。
「アイゼンー!アースとラースの仇を取ってくれー!」
「アイゼン様頑張ってー!」
なにやら少し離れた所で観戦していたキスキルレッドの人間が騒がしい。アイゼンの入場に興奮している様子だ。アイゼンという男はクラスで随分と人気者らしい。
そんな風に分析していると、キスキルレッドのメンバーが盛り上がっている更にその向こう側から、先ほどの応援と同じか更に大きな声を出す男がいた。
「レオン!三人抜きで勝っちまえ!」
トリスカーナイエローの人間も、キスキルレッドに負けないように応援を送っているみたいだ。さっきまでも両クラス共に応援はしていたようだが、今はより一層気合が入っている。レオンハルトもアイゼンもそれぞれの国の重要人物らしいからな。熱が入る理由も納得だ。オレにはよくわからないが。
アイゼンはクラスメイトの方を向いて軽く手を上げて微笑んだ。その後すぐにレオンハルトの方へ向き直る。一方のレオンハルトは応援を気にすることなく、アイゼンの方を直視している。
「あんたがキスキル帝国の第1皇子、アイゼン・キスキル殿か。噂はうちの国にも届いているぞ。戦うことができて光栄だ」
「レオンハルト君の話も帝国で良く聞いていますよ。お互いに全力を出して、悔いのない良い試合にしましょう」
「ではこれより、トリスカーナイエロー先鋒レオンハルト・コーデック対キスキルレッド大将アイゼン・キスキルの試合を始める。位置に着いてくれ」
これからアイゼン・キスキルの試合が始まる。噂では相当の実力者らしいがどの程度なのか。少しだけ楽しみだ。
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