第15話「モルモットと第2王女」
「おい」
「...」
「聞こえていないのか?貴様に話しかけている」
「...。...何よ。嫌味でもいいに来たわけ?」
「生憎と、そんなことで弱者に話しかけるほどオレは暇じゃない」
「じゃあ何よ」
「貴様は明日の前哨戦には出ないのか?」
「あなたには関係ないでしょ」
「まあ前哨戦には興味はないがな。ただ、オレは明日の前哨戦に出ることになっている。弱者どもに足を引っ張られるのは御免だからな。貴様なら少しはマシだろう」
「あなたからしたら、私も他のクラスメイトもみんな、あなたの言う雑魚なんじゃないの?」
「まあオレにとっては貴様もあいつらもどちらも同じような弱者だ。だが、貴様は雑魚の割には中々やるからな」
「私を散々馬鹿にしてきたくせに、何なのよあなたは。自分に都合のいい時だけ、思ってもないくせに私を褒めないで」
「オレは貴様を馬鹿にしたつもりはないぞ。最初から言っていただろう、雑魚にしては中々の魔法だったと」
「...」
その瞬間ナディアははっとして沈黙する。恐らく、リダンと初めて会った日のことを思い出しているのだろう。
「...でも、あなたには手も足も出なかったわ。...圧倒的な力の差で負けた」
「それは当然だろう。ただでさえ、オレと貴様ではマナの量に圧倒的な差がある。それに加えて、マナの制御もオレの方が上だ。貴様のような雑魚が勝てる理由は1つもない」
「...じゃあ、もし私のほうがマナの制御が上手だったら?私はあなたに勝てる?」
ナディアは縋るようにオレを見る。ナディアから『少しだけ』感情が突き刺さってくる。自分を潰した憎い相手だろうとも、自分が一番になるためならばそんな感情さえも捨てる。そんな眼だ。
「無理だな。少しマナの制御が上手くなったところで埋まるようなマナの差ではない。オレよりも圧倒的にマナの制御が上手くなれば可能性はあるかもしれんが。だがそもそもの話、貴様程度がオレよりも上手くマナを制御するなど不可能だ」
「...」
ちなみにこれは本当のことだ。魔法とはマナの量とその制御の腕で全てが決まる。特にマナの量によって出る差は顕著で、マナの量が違えば魔法の威力に大きな差がでる。だが、マナの制御が上手ければ、マナの劣る者でも、マナの勝る者に勝つことはできる。
実際、オレがナディアの体でリダンと戦えば、この前のような一方的な展開になんてさせない。かなりいい勝負ができる自信がある。なんなら勝ち筋もいくらか考えられる。
もし普通にやって勝てなかったとしても、オレには施設の人間にすら隠してきた『とっておき』もいくつかあるしな。
とにかく、マナの量に差があっても、マナの制御を練習すればその差は埋まる。もっとも、マナを制御することも才能が必要だから、努力だけでどうにかなる話でもないのだが。
ナディアはしばらくうつむいて沈黙した後、覚悟を決めたように顔を上げた。
「なら、私はあなたよりもずっとずっとマナを上手に制御できるようになるわ。そしてあなたに勝って、あなたに私の素晴らしさを教えてあげる。あなたに私の事すごいって言わせてあげる」
「貴様は話を聞いていたのか?貴様には無理だと言っているだろう」
「いいえ、できるわ!今はあなたの方がマナの制御が上手みたいだけど、才能は私の方があるのよ。私は今まで誰にも教わらずに魔法を使ってきたんだから。そんな私がちゃんと勉強してマナを制御すればあなたなんかよりもずっとずっと上手にマナを制御できるようになるわ」
「馬鹿か貴様は。俺だって魔法の使い方を誰かに教わったことはない。貴様のほうが才能があるというのは貴様の残念な妄想だ」
「うっ!で、でも、私には天啓があるわ!絶対にあなたよりも上手く制御できるようになって見せるわ!」
「ならば勝手にしろ。貴様が本当にオレを超えるというのならその時は本気で相手をしてやる。まあ、貴様のような弱者には無理だろうがな」
「無理じゃないわ!絶対にその生意気な腹立たしい顔を歪ませてあげるわ!...ふぅ、ふぅ。」
「そうか。ならば期待せずに待っているとしよう。なんなら、早く上達できるように、マナの制御を教えてやろうか?」
「余計なお世話よ!あなたの手なんて絶対に借りないわ!」
ナディアは先ほどまでの様子からは想像もできないような大声で叫ぶ。
とりあえずは上手くいったようだ。ナディアとのわだかまりは多少解消できたし、もう1つの目的も果たすことができた。こっちのほうが上手くいくかはナディアの今後次第ではあるが。
オレがリダンに対する恐怖心を緩和するために立てた作戦は、リダンと並び立てる人間を作り出すという作戦だ。リダンが恐れられる最も大きな要因は、その圧倒的で得体の知れない力にある。だが、リダンと互角に戦えるような相手が現れれば、リダンという得体の知れない者への恐怖も弱まるはずだ。しかも、それがナディアのように周囲から受け入れられやすい王族ならば効果は高いはず。
オレは初めて見た時からナディアには違和感を感じていた。そして昨日、その違和感の正体に気付いた。ナディアはリダンの正体を知った時もリダンに対して恐怖心を抱くことはなかった。ナディアから刺さってきたのは、リダンに馬鹿にされた時に生じた怒りという感情だけ。そして、リダンに負けた時でさえ、それは変わらなかった。むしろ、さっき怒りの感情が少し薄らいだくらいだ。
恐怖心を持っていないということは、リダンに向かってくることが出来るということだ。つまり、リダンと並び立てる可能性があるということ。
そして、オレがこの作戦にナディアを使おうと考えた理由はもう1つある。それはナディアの持つ天啓だ。ナディアは触れた物に流れるマナを鮮明に感じることができる天啓を持っていると言っていた。これはおそらく、『接触マナ感知』という天啓。効果はナディアが説明した通りだ。
マナというのは通常、『視る』ことも『触れる』こともできない。だから、マナを制御するというのはとてつもなく難しいしセンスがいる。だからこそ、触れた物限定とはいえ、マナを感じることができるというのはとてつもない才能だ。オレはそれと似たようなことを身を以て知っている。
これら2つの理由から、オレはナディアを利用することに決めた。ナディアとのわだかまりも解けたし、かなり上出来だ。
今回の作戦が上手くいったことを噛みしめていると、急に大量の感情が刺さってきた。途中から大きくなったナディアの声が聞こえていたのか、クラスメイト達がこちらに近づいてきている。
「二人とも!喧嘩はやめるんだ」
ジークが少し強めに静止してくる。まあ、ナディアがかなり大声で叫んでいたし、傍から見たら喧嘩だったかもな。少なくとも仲良く話をしていたわけではないし。
「貴様には関係ない。そもそも弱者と喧嘩などしない」
オレは一応否定しておく。まあ、勘違いされるならそれはそれでどっちでもいい。もう要件は済んでいるからな。
「そうなのかい?それならいいのだけど」
「そのようですね、二人でお話していただけのようです。その証拠に、以前のような険悪な雰囲気は感じられません」
意外にも、ジークとイヴがすんなりと信じてくれた。だが、直後に見たナディアの表情を見るに、意外でもなかったかもしれない。
「お兄様、ご心配をおかけしてごめんなさい。私はもう平気です」
「そうみたいだね。ディアが元気になって良かったよ」
「それで、お兄様。お願いがあります。私を、明日の前哨戦に出してもらえないでしょうか?」
「もちろんだよ。みんなもいいかな?」
「私はさんせー!強い人が出るのが一番だと思うし!」
「私もいいと思います」
「ボクも賛成だよ。元々僕には少し荷が重かったしね」
「俺も賛成だ」
「じゃ、じゃあ私、も賛成です」
エリス、イヴ、ダルク、ルフト、カノンが次々と賛成し、他のクラスメイトにも反対意見の者はいなかった。
「メンバーは決まったのか?」
「うん。やっぱり昨日決めた通り、リダン君、ルフト君、ダルク君の3人を代表者にするつもりだったんだ。でも、ディアが参加することになったから、ルフトかダルク君のどちらかには今回は辞退してもらうことになってしまうね」
「それならボクが抜けるよ。さっきも言った通り、ボクには荷が重かったからね」
「じゃあ、メンバーはルフト君、ディア、リダン君の三人だね」
「作戦は決まったのか?オレは貴様らの作戦通りに動くつもりはないが、あるなら聞くだけ聞いてやろう」
「それはまだだね。そもそも、個人の勝ち抜け戦だからあまり立てられる作戦はないんだけど。先鋒、中堅、大将の順番くらいかな。けどそれも強さ順でいいんじゃないかと思ってる。先鋒がルフト君、中堅がディア、そして大将がリダン君だ」
「順番はそれでいいと思う。だが、相手が分かれば多少は作戦が立てられるんじゃないか?俺は帝国のクラス、キスキルレッドからはアイゼン・キスキル皇子が、連合国のクラス、トリスカーナイエローからはレオンハルト・コーデック、メリア・モノクローム、ミスト・アーケディアの三人が出てくる可能性が高いと考えている」
ジークの作戦はないという言葉に対して、ルフトがそう提案する。オレは大陸の歴史や地理には詳しくなったが、今の人物となるとさっぱりだ。
「そうだね。ありがとう、ルフト君。確かに相手を予測することでいくつか対策は立てられる。キスキルレッドからアイゼン君が出てくるのはほぼ確定だろうね。彼はディアと同じかそれ以上のマナを持っていると聞いたことがある。それ以外にも色々とすごい噂もあるし、彼の対策は必須になるね。それと、メルタニス侯爵家のレイア・メルタニスさんもアイゼン君には及ばないまでもかなりのマナを持っていると聞いたことがある。彼女も出てくる可能性が高い。キスキルレッドで一番警戒するべきなのはこの二人だね。次点では、アース・ドメイン君とラース・ドメイン君かな。平民の双子だけど、かなり多いマナを持っているらしい。トリスカーナイエローからはその三人が出てくるってことで間違いないと思う。三人とも各種族のリーダーの家系だし、とても優秀だって話だ」
帝国のキスキルレッドからはアイゼン・キスキルにレイア・メルタニス、それにアース・ドメインとラース・ドメイン。連合国のトリスカーナイエローからはレオンハルト・コーデック、メリア・モノクローム、ミスト・アーケディアか。
「それぞれの属性だけでも把握しておきたいな。ジーク王子、何か知らないか?」
「アイゼン君は光、レオンハルト君は炎、メリアさんは地、ミストさんは風らしいよ。他の三人は残念ながらわからないな。ごめんよ」
「いや、とてもありがたい」
正直、これ以上聞いていてもオレにはあまりわからないな。そもそも、明日戦うのはリダンだし、リダンならば対策など必要ないだろう。一応、角が立たないように話を聞くことにしたが、もういいか。まだ常識の勉強も終わり切ってないしな。
「これ以上の情報はオレには必要ない。もう行っていいか?」
「十分だよ。ありがとう。明日はよろしくね」
オレは返事をせずにジークとクラスメイト達から背を向ける。そのまま歩き、訓練場から出たところで後ろから追いかけてくる足音が聞こえた。
「何だ?」
「あなたに1つ言っておきたいことがあったの」
「聞いてやる」
「明日の前哨戦。私の素晴らしさをあなたに理解させるための第1歩にするわ。他クラスの全員、圧倒的な力で負かしてあげる。だからちゃんと見てなさいよね」
「興味ないな。だが、貴様が無様に負ける姿だけは見ておいてやろう」
「なによそれ!絶対負けないから!」
少しからかってやると、ナディアは叫びながら訓練場に戻っていった。オレはそのまま歩き出し、寮へと向かう。
明日は前哨戦、そして所有権はリダンにある。正直、嫌な予感しかしないな。
(なあリダン。オレはリダンの行動に基本的には何も言うつもりはない。ないんだが、明日は何も問題は起こさないよな?)
(俺を問題児扱いするな。それよりも貴様、厄介な事をしてくれたな)
(何のことだ?)
(あの女のことだ。せっかくあの腹立たしい女を潰してやったのに、貴様が余計なことをするからあの女がまた調子に乗るだろう)
(まあいいじゃないか。もう前みたいにリダンに対してひどい態度を取ることもないだろ。それに、今日やったことが後々いい方向に進むかもしれないだろ?その時は感謝してほしいくらいだ)
(貴様に感謝することなど絶対にないがな)
(それはわからないだろ?もしかしたらあるかもしれないじゃないか)
少なくともオレの頭の中にはそういう未来がある。
(それより、今日も授業よろしく頼むな)
(全く世話の焼ける雑魚だな)
その後オレは寮の部屋で夜までリダンの授業を受けた。明日の前哨戦に不安はあるが、まあなんとかなるだろう。
2章前半はこれで終了になります。続きの2章後半は多分3週間後に投稿する予定です。
もし面白いと思って頂けたなら、『ブックマークに追加』という黄色いボタンからブックマークをしてもらえると、とても励みになります。良ければよろしくお願いします。




