第13話「リダンVS第2王女」
戦いの初撃はナディアが放った水属性の第1位魔法、『アクア』だった。この魔法は闇の第1位魔法『ダークネス』の水バージョンといった感じで、水球を発生させる魔法だ。
ただ、これをただの水球と侮ってはいけない。『ダークネス』と同じように、この水球はマナの塊だ。込めたマナの量によって威力が変わる。今回ナディアが発動した『アクア』にはそこそこのマナが込められている。当たったら軽く怪我はするだろう。
『アクア』が発動し、ナディアの目が青く光る。人間が魔法を発動する際、その属性を象徴する色に目が光る。水なら青、炎なら赤、闇なら紫といった具合だ。つまり、目を見れば相手がどの属性の魔法を発動しようとしているかわかる。まあ、今回はナディアの属性が水であることは知っていたから、その点でのアドバンテージはないが。
発生した水球はリダンの頭を目掛けて飛んでくる。リダンはそれを首だけを動かして避ける。
「流石にこれには当たらないようね」
「貴様は俺を舐めているのか?本気で来い。来ないならばさっさと終わらせるぞ」
ナディアの目が青く光り、『アクア』を連続で発動する。今回生成された水球は7つ。それらをリダンに向けて放ってくる。先ほどよりも濃いマナが込められた水球だ。
リダンは長剣を具現化し、それらを全て切り伏せた。そのままゆっくりと歩いてナディアに近づいていく。
「この程度か?貴様の本気は」
「まだまだ序の口よ。今のを防いだからって調子に乗らないことね」
その言葉の通り、ナディアの顔にはまだ焦りは見られない。今のが防がれるのも想定内といったところだろう。まあ、長剣一本で全て切り伏せられるとは思ってなかったかもしれないが。
ナディアは近づいてくるリダンから距離を取りながら次の魔法を発動するためにマナを操作する。ナディアが次に発動したのは『アイスランス』。氷で槍のように鋭い塊を作り、相手に発射する水の第3位魔法だ。普通に発動しても、さっきのアクアより威力が出る。しかも、ナディアが発動したのはただのアイスランスではない。作られた氷の槍はリダンの身長くらいの大きさで、更にそれが3つある。
ナディアはそれをリダンに向けて同時に発射した。ナディアにとってこの攻撃は結構自信があったんじゃないだろうか。
しかし、リダンはその攻撃にも顔色一つ変えることなく対応した。ナディアに近づく足を止めずに、先ほど水球を消したのと同じように氷の槍を長剣で切り伏せる。まるで、自分にとってはさっきの水球と今の氷の槍は同じレベルの攻撃であるかと言うように。
「なっ!」
「どうした、もう終わりか?」
「な、なかなかやるじゃない。私も本気を出せそうだわ」
「初めからそうしろと言っているだろう。それとも、負けた時の言い訳が欲しいのか?」
「そんなわけないじゃない!それはこっちのセリフよ。あなたこそ負けた時に本気を出してなかったなんて言い訳するんじゃないわよ!」
ナディアは動揺しつつも次の魔法の準備をする。ナディアの目が今までよりも強く光った。どうやら、今までよりも強力な魔法を発動しようとしているようだ。マナの流れからして水の高位魔法を発動しようとしているのかもしれない。
ナディアが魔法を発動するためにマナを操作している間もリダンはゆっくりとナディアに近づいていく。リダンにはまだまだ余裕がありそうだ。
そのタイミングで、外野からの叫ぶ声が聞こえた。
「ディア、ここでその魔法を打つつもりかい?大事になるよ!」
「止めないでください、お兄様!」
ジークから魔法を止めるように言われるが、ナディアには止めるつもりはないらしい。
その後すぐにナディアの魔法の構築が完了する。オレの大方の予想通り、ナディアは水の第8位魔法『タイダルウェイブ』を発動した。
『タイダルウェイブ』は水のない場所から大洪水を発生させる、結構危険な魔法だ。力のないものがこれに巻き込まれたら最悪命を落とすかもしれない。
リダンはこの攻撃にも動揺した気配はない。リダンは持っていた長剣を大きく振りかぶり、発生した大洪水を一刀両断した。すると、荒れ狂っていた水は勢いをなくし、そのまま消滅してしまう。
「そんな...。私の最高の魔法を、剣だけで...。」
ナディアがその場に崩れ落ちる。流石に今のを見て力の差を思い知ったのだろうか。まあ、水を両断するなんて離れ業を披露されたらそうなるのも無理はないが。
ちなみに、水を両断するなんてできるのかと思うかもしれないが、この水はナディアがマナから生成した水だ。つまり、より強いマナによって対抗することができる。そういう理屈だ。
「これで終わりか?雑魚の割に、思ったよりは頑張ったな」
「わ、わた、私は...。」
リダンは再びゆっくりとナディアに近づいていく。誰の目にも勝負あったかに思えたが、ナディアが立ち上がる。その眼の闘志はまだ失われていなかった。それはとても不安定な闘志だったが。
「ま、まだよ。まだ負けてない!私は素晴らしいの!才能があるの!こんなところで負けるはずがない!」
そう言い、ナディアは手に武器を具現化する。ナディアが具現化した武器はナディアの身の丈よりも大きな斧だった。リダン相手に近接戦をするつもりか?
ナディアは更に全身をマナでまとい身体強化の魔法を発動する。それに合わせてリダンも身体強化を発動した。
「いくら意気込んだところで、貴様のような雑魚では俺には勝てない」
ナディアがリダンに飛び掛かり、振り上げた大斧を振り下ろす。リダンはそれを長剣で受けた。
見た目からするとリダンのほうが力負けしてもおかしくなかったが、はじかれたのはナディアのほうだった。
そのままリダンは吹っ飛ばされたナディアに素早く接近し、首筋に長剣を当てる。
「これで終わりだな。まだやるか?」
「...。」
ナディアはそれに答えることができなかった。その眼には絶望が見える。どうやら相当ショックを受けている様子だ。まあ、無理もない。ナディアの実力ならば今まで周りにナディア以上の人間はいなかっただろう。だからこそ、自分に才能があると疑わなかったし、自分よりもすごい者がいるなんて考えたこともなかったはずだ。それに、王族であることも相まって、周りには自分を肯定してくれる人間しかいなかったのかもしれない。
だが、リダンには手も足も出なかった。リダンの圧倒的な強さによって、今までの自分を否定された。この現実を受け入れるには時間がかかるかもしれない。
「ディアっ!」
「おに、お兄様...。私...私は...。」
ジークがナディアに駆け寄る。その後ろからはクラスメイト達が近づいてきていた。彼らから刺さってくる感情は明らかに先ほどよりも痛い。やはり、リダンの実力を自分の目で見た者はその恐怖を濃くする。それはイヴとの一件でもわかっていたことだ。
だが、そんな雰囲気を気にしてか、リダンとナディアに声をかけるものがいた。
「お疲れ様でした。お二人とも素晴らしい技量でした」
イヴは二人に労いと称賛の言葉をかける。だが、イヴの気遣いに対してリダンもナディアも反応すらすることはなかった。あるいはこの戦いが始まる前のナディアであれば、この称賛に気を良くしただろうが。
ちなみに、イヴから伝わってくる感情は前と同じだ。恐怖から伝わってくる痛みと、少しの温かさが肌に伝わってくる。
クラスメイト達はイヴの行動に驚いていた。誰も声をかけるとは思わなかったのだろう。
だが、そんなイヴの言葉に続く者がいた。
「そうだね。特にリダン君。噂では聞いていたけど、リダン君の実力は僕の想像を遥かに超えていたよ」
ジークもイヴと同様に、リダンの実力を評価する。だが、ジークからはイヴと同じような温かい感覚は伝わってこない。代わりに別の感情が2つ刺さってくる。
この感情には覚えがある。1つは、以前にイヴやディクトから感じたものに近い。つまりは、リダンを利用しようと考えている人間から刺さってくる感情だ。
もう1つは、以前にルフトから刺さってきた感情に近い。嫉妬か、憎悪か、そんなところだろう。
このジークという男、表面上はリダンに対して友好的だが、腹の底ではかなりリダンを嫌っているようだ。
ついでに言えば、その感情を刺してくるのはジークだけではなかった。他のクラスメイトの中にも同じような感情を向けてくる人間がいた。刺さってくる感情が多いため、誰の感情かまでは今はわからない。
それと、明らかに他の人間よりも強い感情が2つある。どちらも不快な刺さり方だ。1つは何となく誰かわかる。おそらくはルフトだ。屋敷にいた時に感じた感覚を強くしたような刺さり方だ。
もう1つは誰のものかわからないが、誰にしろあまり嬉しいことではないな。
「呑気なものだな。たった今、貴様の妹を潰した奴にかける言葉とは思えない」
「でも本心だよ。それに、ディアが負けたのは真剣勝負の結果だ。キミが悪い訳じゃない」
「それが分かっているのなら、雑魚の中ではマシなほうだな」
ジークにそう対応し、今度はナディアの方を向いて言葉を続ける。
「それと貴様、身の程が分かったなら二度と俺のことをあの忌々しい名で呼ぶなよ」
リダンはナディアに対してそう言い放つ。ナディアは先ほどと同様に、リダンに対して返事をすることはなかった。今のナディアからは何の感情も刺さってこない。
リダンはそのままこの場を去ろうとしたが、後ろから声がかかる。
「待ってほしい。リダン君、やっぱり僕はクラスメイト同士協力しあうべきだと思う。だから、今度の前哨戦と月末の本戦、出場してもらえないかな?」
「貴様正気か?」
「僕は本気だよ」
「俺の答えは最初から変わらない。俺は前哨戦にも本戦にも興味はない。誰が出場しようとどうでもいいことだ」
「...。」
「貴様らが望むのなら出場してやってもいい。だが、どうなろうと文句は言うなよ?」
「ありがとう!」
「話はそれだけか?ならば俺はもう行く。それと一応言っておくが、後から俺を降ろしても別に構わないぞ。貴様がどう思おうが、他の奴らが俺を認めるとは思えないしな」
リダンは今度こそ、その場を去っていく。
(なあ、興味がないってのは本心なのか?オレの見立てでは、リダンは結構な戦闘狂だと思ってるんだけどな。実は強者と戦える模擬戦には興味があるんじゃないか?)
(雑魚どもと戦ったところで意味がないだろう。まあ、俺と対応に張り合えるやつがいるというのなら興味も湧くがな)
(なるほどな。確かにそれもそうか。でも、リダンと張り合える奴なんてそんな簡単に見つかるとは思えないけどな。なんなら世界中を探しても見つかるか怪しいところだ)
(あんな雑魚どもの相手をするなら、魔物を狩るほうがマシだ)
(それにしても、あんな陰湿な対処をするとは意外だったな)
(俺がいつ陰湿なことをした?雑魚相手に俺がそんなことをするはずがないだろう)
(とぼけるなって。今回の勝負、わざと闇魔法を使わなかっただろ?力の差を見せつけたかったのか?)
(...。以前にも似たようなことがあった。その時は身の程を教えてやろうと徹底的に潰してやったが、後で随分と文句を言われたものだ)
(だから今回は穏便に身の程を教えてやったって?あの女のプライドはボロボロだろうな)
(そんなことは俺が気にすることではない。そもそも貴様も別に気にしていないだろう)
(まあそうだけどな。けどリダンはこれで良かったのか?このままだと学園でも嫌われ者コースまっしぐらだぞ)
確かにオレ個人としてはあのナディアという女が傷つこうがあまり興味はない。だが、リダンが敵を作るとオレまで被害を被ることになるからな。それに、リダンだって別に進んで嫌われたいわけじゃないだろう。
(俺が何をしようと、雑魚どもは勝手に俺に怯え、勝手に俺を嫌う。そもそも、俺は他人にどう思われようとも興味はない)
(オレにはそうは見えないけどな。確かに他人からの悪感情に慣れてるんだと思うが、多かれ少なかれ傷つくものだ)
(貴様、何が言いたいんだ?)
(せっかく新しい環境にやってきたんだ。少しは他人と仲良くすることを覚えて楽しくやっていけたほうが、リダンにとってもいいんじゃないかと思っただけだ)
(勝手に俺の感情を決めつけてわかった気になるなよ。俺は雑魚どもと馴れ合うつもりはない)
(そうか、悪かったな。リダンがそう言うならオレはもう何も言わない)
リダンは他人から距離を取り、突き放す。今まで生きてきた経験から、他人を信用することができないのだろう。それはオレだって似たようなものだ。だが、信用できなくとも築ける関係はある。それをリダンの周りで築くことがリダンの為になり、それが回り回ってオレの為になる、はずだ。
リダンは訓練場を出て、寮とは逆方向に歩き出す。訓練場の隣には、他クラスの訓練場があり、中からは音が聞こえる。
(他のクラスもやってるみたいだな。ところで、今日はこの後どうするんだ?)
(貴様は元々の目的を忘れたのか?)
(元々の目的?)
(貴様を俺の体からたたき出すことだ。学園にきた一番の目的だろう)
(たたき出すとは物騒だけど、まあそうだったな。この二重人格をなんとかするのが目的だったか。正直慣れてきたせいで違和感がなくなってたから忘れてた)
忘れてたというのは流石に嘘だが、オレはしばらくはこのままでいいと思っているからな。意識から抜けていたのは確かだ。
(貴様程度の脳ではその程度が限界か)
(おいおい、今は脳を共有してるからリダンと同じのはずなんだがな)
(うるさいぞ)
リダンはその後図書館へと向かったが、入ることはできなかった。どうやら、2日後の前哨戦が終わるまでは学生は図書館を利用することができないらしい。
仕方なくそのまま寮に帰ったリダンはオレに常識を叩き込むために授業をしてくれた。
だが、オレはそんなありがたい授業を聞きながら別の事を考えている。それは、今後の身の振り方だ。いつも同じようなことを考えている気がするが、リダンの中にいるオレにとっては重要なことだから仕方ない。
リダンが入学初日からやってくれたから、クラスメイトからはかなりの悪印象を持たれてしまった。今後はオレがそれを緩和していく必要がある。一応はいくつかの道筋は用意しているが、どこまで上手くいくか。
とりあえず、ナディアに対するフォローは必要だろう。潰した本人からの言葉にどれくらい耳を傾けてくれるのかは怪しいが、オレに所有権がある明日のうちに接触しておきたいところだ。
それにオレの想定通りに事を運ぶことが出来たなら、リダンに対する周りの恐怖心を緩和するのにナディアが役に立つかもしれない。
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